第84話 バケモン同士
秘奥義! 2本投稿ッ!!!!
「エミィ、外に出るぞ。最終調整だ」
「うむ。流石に余も本気じゃからな。付き合おう」
月光に煌めく海の前。俺はエメリアを連れて外に出ると、お互いに距離を取って集中する。
周囲に人は居ない。
聞こえるのは波の音と、潮風の流れだけ。
極限まで意識を集中させると、俺とエメリアは同時に魔力を放出した。
「展開、装填」
俺の詠唱......いや、イメージが口に出ると、俺の背後には無数の魔力の粒から形成された氷の槍が生成され、どんどんとその数が増していく。
たった数秒。それだけで約3000もの槍が生成されると、全ての矛先がエメリアに向いた。
「龍鱗!」
「貫け」
エメリアは薄く伸ばしたドラゴンの鱗で盾を作ると、俺の放つ氷の槍を見事に防いだ。
「回転」
現在進行形で作られる槍の穂先が、ネジのように螺旋の切れ込みが入り、貫通力を高める為に回転を始めた。
そしてドリルのような槍が鱗の盾に衝突すると、その回転力を活かして小さな穴を空けた。
「炸裂」
バァァァァァァンッ!!!!!!
「んなっ!?」
盾を貫通してエメリアの傍に転がった槍は、俺の合図で破裂した。例え威力は弱くとも、盾を構える人間にダメージを与える俺の新しい戦い方だ。
「大丈夫か? 怪我してないか?」
「ぺっ! ぺっ! 砂が口に入ったわい!」
大丈夫そうだな。
目立った外傷も無いし、無事と言えるだろう。
......この場合、無事じゃない方が良いのだがな。
「やっぱり威力が弱いか。難しい問題だ」
「......じゃが盾は破れた。黒龍の鱗を真正面から貫くなど、常軌を逸しているぞ」
称賛してくれるエメリアの頭を撫で、俺は穴の空いた鱗の盾を手に取った。
重い黒曜石のような見た目をしているが、その実はかなり軽く、靱やかだ。
軽度の身体強化状態で折り曲げようとしてみるが、ググッと曲がるだけで折れはしない。
父さんから貰った剣を振り下ろしてみるが......傷ひとつつかない。
「こんな鱗を全身に纏ってるとか、ドラゴンってバケモンじゃん......」
「今更気付いたのか? じゃがガイアはその鱗の隙間を縫えるし、突き破ることも出来る。お主はもう、ドラゴンよりバケモンじゃよ」
砂の上に鱗を敷いて座ると、俺は大きく息を吐いた。
「はぁ......過去の記憶さえ無ければ、俺はただの一般人だったのにな......転生なんてするもんじゃねぇ。本当に」
「それは違うぞ。今のガイアが居なければ、余は今もあの洞窟で独りのままじゃ」
「そうか? あの洞窟はスタシアさんが通ると思うが」
「お主が杖を壊したから、スタシアと歩くことなったのじゃろ? 杖があれば、荒野から街へ転移するじゃろ。お主は己が因果の結末を考えよ」
己の因果......俺が原因で起こったこと、か。
精霊樹の森の誕生に魔王の強化。
擬似日本食の普及もさせたし、疫病予防の方法をゼルキアに広めさせたりもした。
そして勇者と戦闘し、俺とミリア、ゼルキアの転生。
アルスト家に生まれてからは農作業と家事の手伝い。
手が空いたら魔力操作を練習し、魔法も覚えた。
妹のサティスが生まれてからは外で遊ぶようになったし、家族の愛を知った。
学園ではユーリ達と出会い、少しの間共に暮らした。
知らないこと、知りたくないことを沢山知ったし、ツバキさんに想いをぶつけられたりと色々あった。
「......悪い結果にはなってない。これは歳不相応な思考だからとかじゃなくて、単純に俺の行いは皆を幸せにした......と思う」
「じゃな。ガーランドでも沢山の人々を守り、山賊に囚われた女達も救った。そろそろお主に幸せになって欲しいという時に、邪魔をするかのように魔海がある」
俺の膝の上に座ってきたエメリアは、心底悲しそうに呟いた。
俺だって同じ気持ちだよ。
ようやく中央大陸に、家に帰れると思ったのに、魔王の『人と和平を結びたい』という意思からリヴァイアサンとヒュドラの討伐が依頼されるし。
...... 勇者を殺した罪、なんだろうか。
「戦おう。俺達に出来るのは、ただ前に進むことだけ。足元がぬかるんでいようと、炎の海だろうと、止まれば死ぬ」
「全く、全てが終わったらのんびり暮らす。それでよいな?」
「フラグ立てんなバッキャロー。だが......分かった。新しい家族で、静かな所で平穏に暮らそう。みんな仲良く幸せに。これで生きよう」
「うむ! 楽しみにしておるぞ!」
「あぁ。俺も楽しみだ」
そんな未来が来るのなら。
◇ ◇
時間が経ち、太陽が完全に顔を出した頃。
未だに俺とエメリアは砂浜に立ち、模擬戦を繰り返していた。
陽が出る前は魔法で戦い、陽が出てからは武器を持って打ち合う。
大鎌と直剣のぶつかり合う音が、次第にリズムを刻んでいた。
「──エミィ? どうして石突きで弾くとリズムを取ってしまうんだ?」
「分からないのじゃ。気付いたらカンカカーンと刻んでしまう」
「そっか。どんな角度から打ち込んでも全く同じリズムを取るから、余裕ぶっこいてんのかと思ってた」
「はっは! 余がお主相手に遊べる訳無かろうに」
互いに洗練された身体強化で打ち合うと、衝撃で砂が飛び散って窪みが出来る。
やがて踏み込みにより砂が押し固められると、波に乗って入ってきた海水により窪みいっぱいに水が溜まる。
そうして出来た窪みの数は15個。
綺麗なビーチに似つかわしくない穴ぼこのビーチに、1人の男が物凄い形相で俺達に向かって走ってきた。
「おい......2人とも」
「「あっ」」
「何しとんじゃボケェェェェェ!!!!!!!」
般若の顔で俺とエメリアに拳骨を食らわせたのユーディルゲルだ。普段の優しさは何処へ。怒りに支配されている。
「すぐに直せ。さもなくば死ね。いいな?」
「「はい......ごめんなさい」」
「模擬戦をするのはいいが、周りを見ろ。ではな」
怒りがスーッと抜けたユーディルゲルを見送り、俺とエメリアは協力して砂浜を戻すことにシフトした。
「エミィは波を止めてくれ。砂浜は俺が直す」
「分かったのじゃ。何秒ほど止めるのかの?」
「2秒で十分」
「了解じゃ」
エメリアは燃えるような黒い魔力を手のひらに出すと、このビーチ一帯に魔力の線を伸ばした。
チラッと俺の方を見るので頷き返すと、一瞬にして波の前に黒い壁が出現した。
「均せ」
一瞬にして窪みを土の魔法で埋めると、0.1秒のタイムラグを生まずに暴風を発生させて砂を巻き上げ、自然な形に砂浜を均した。
そしてピッタリ2秒が経つと、黒い壁が消えた。
「完!」
「璧!」
「「じゃぁぁぁぁあ!!!!!」」
完璧な連携だ。
あんなにも汚い穴ぼこだった砂浜が、俺達が来る前と同じくらい美しい白いビーチに直っている。
「いや〜、流石エミィだ。波を止めれるとは凄いぜ」
「それを思い付くお主も流石じゃの。有言実行じゃった」
最近は俺の魔力を飲んでいるせいか、エメリアの魔力が少しだけ強かった。
まだまだ副作用の可能性を捨てきれないので健康が怖いが、今のところエメリアも順調に成長しているな。
「さ、朝ご飯にしよう。いっぱい食べるぞ〜!」
「余もお腹ぺこぺこじゃ〜! いっぱい食べるぞ〜!」
今日は文字通り、最後の晩餐になるかもしれないんだ。朝からいっぱい食べていっぱい動いて、明日に備えるんだ。
◆ ◆ ◆
『この魔力......やはり』
『どうしたんですか?』
『黒龍だ。それも龍帝と龍神の子』
『なん......ですって?』
穏やかな波が中央大陸と極西大陸を分断する魔海。
その深海にある、リヴァイアサンの領域内にて、2頭の魔物が極西大陸の方を向いていた。
『まさか我らの領域に来るとはな、化け物』
『......戦わずに済む方法は』
『ある訳が無い。彼の化け物は古龍の巣を一晩で滅ぼしたのだぞ。血に飢え、力を持て余した者だ。我らと戦うのは必然だろう』
『そんな......ではせめて、卵だけは』
『あぁ。我らの命が尽きようと、子には元気に生きて欲しいからな。頼んだぞ、ヒュドラ』
『はい、リヴァイアサン。共に歩みましょう』
次回『海龍vs黒龍』お楽しみに!




