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第81話 山賊物語

正義


「この先から街道に出る。すると後は、伯爵領を超えて2日後には辺境の地『テリジン』に着くぞ」


「おっけ〜。あ、チェックメイト」


「すご〜い! 王様つよ〜い!」



 ミヅキさん達エルフと別れ、馬車に乗るメンバーを変えて魔海へと進んでいる。


 道中に狩った魔物の肉をお礼に渡し、再度ラフラの木を守るように忠告した俺は、馬車の中でレヴィと模擬戦争(シム・ベルム)で遊んでいる。


 もうそろそろ、戦闘に思考を切り替えたいんだ。



「それにしても......よかったのか? エメリア嬢と進展したのだろう? 向こうに置いてきてしまっても」


「まぁな。でもここで一緒に居る時間を増やすと、いざと言う時にエメリアが俺を庇いかねない。それでアイツが死ぬのは......絶対に嫌だからな」



 愛する人が目の前で死ぬのは、もう嫌だ。

 勇者との戦闘は、いつまでも俺の心で燻っている。

 かけがえの無い存在がこの手から消える感覚は、精神に深い傷を与える。



「王様〜? 大丈夫〜?」



 少し感傷的になっていると、ピタッと冷たい感覚が俺の手を包み込んだ。



「大丈夫だよ。レヴィは戦闘する時、絶対に前に出るなよ」


「うん、分かってる〜。レヴィ死にたくないも〜ん」


「それでいい。アンさんと一緒に待っていてくれ」



 俺がレヴィの頭を撫でると、突然ガタンッ! と大きく馬車が揺れ、止まった。


 この性能の馬車が揺れるとは、ただ事では無い。

 俺はいち早く模擬戦争(シム・ベルム)を影に仕舞い、大きめの布を取り出してレヴィに包まるように伝えた。



「ユディ、何が起きた?」


「山賊だ。この辺りで有名な『餓狼の牙』だろう」


「了解。俺が潜入するから、後は任せる」


「......頼んだ」



 俺は素早く服を着替え、猫耳カチューシャをして髪色と髪の長さを変えると、バンッ! と乱暴に馬車が開けられた。



「お、良いのあんじゃ〜ん! こいつ貰ってくぞ〜」


「待て! その子は私の娘......ぐっ!」


「男はすっこんでな。おら、行くぞ」



 ユーディルゲルの迫真の演技によって、俺は娘として山賊の男に攫われた。



「きゃ〜! 誰か助けて〜!」


「うるせぇ! 死にたくなかったら黙ってろ!」


「ひぃ!」



 男は短剣で俺の喉元に刃に当てるので、精一杯の悲鳴を上げつつエメリア達の乗っていた馬車を見てみると、3人は既に森の中に隠れていた。


 きっとスタシアさんの魔術で転移したのだろう。

 その判断速度と精確な転移、とても素晴らしい。



「チッ、あっちは空かよ。おい、行くぞ!」



 男は俺の手足を縄で縛ると、大きな木箱の中に閉じ込め、馬に乗って俺を運び出した。

 俺が手を縛られている時、悲しげなエメリアの視線が深く刺さったが、隣に居たスタシアさんに宥められて落ち着いていた。


 ごめんな、エミィ。ありがとう。



「おい、この女どうするよ。売るか? 使うか?」



 魔法で探知しながら揺られていると、遂にアジトに到着したようだ。

 全く、あの馬車とは大違いの揺れの大きさについつい縄をちぎりかけたぜ。



「少し放置して、身代金を要求しましょう。あの男は金を持ってそうでしたし、きっと高く付きます。それと、待っている間は自由に使っても良いかと。ただ、傷をつければ売値が落ちるので、見た目はそのままで」


「だな。ったく、流石は餓狼の頭脳だぜ。俺、リーダーなのに使うことしか頭に無かったからな。ハッハッハ!」



 声から察するに、2人とも20代前半か。

 魔力の粒をぶつけた感じ、ここは山にある洞窟の中で、山賊の人数は35。強い奴は......居ないな。


 暴れて全滅させることも出来るが、それは悪手だ。


 何故ならこの洞窟内に、俺の他に捕まっている人が居るからだ。感覚的にこの人達は檻の中に入れられているな。


 全員が女性であり、どれも良いスタイルの人だ。

 今回俺が運ばれたのは、顔が良かったからだろうな。



「取り敢えず開けるか......うわ! こいつ漏らしてる!」


「ギル? 貴方が乱暴に運ぶからですよ?」


「はぁ? 俺は丁寧に運んだっつの。チッ、3番にぶち込んどくか」



 俺が漏らしたのは大量の魔力だ。

 ここで俺から離れた位置に魔力を置いておけば、檻に入れられようが遠隔で精密な魔法が使えるからな。


 こんな男達に脱がされる前に、汚れたフリをしておかないと。



「......ごめんね。ごめんね」



 檻の同居人の美人さんは、他の人とは違って精神が生きており、涙を零しながら俺に謝ってきた。

 他の檻の人は......皆、虚ろな目をしている。


 山賊共よ。女の心を殺した罪、肉体の死を以て償わせるからな。



「大丈夫です。私はガイアと言うのですが、あなたは?」


「リアーナ・テリジン。2日前に捕まったの」


「テリジン?」



 聞いたことのある単語だ。それも、新鮮な記憶。

 この青みがかった金髪に、聡明さを感じさせる澄んだ深い青の瞳。苗字を持つことから、それなりの貴族であるこもは分かる。



「......辺境伯の妻よ」


「あぁ! 通りで聞いたことが「うるせぇ!」......」



 こっちが『うるせぇ!』って言いたい。

 こちとら重要な人と話しとるんじゃ。お前みたいな人間のクズに遮られるのは不快でしかない。



「......すみません、騒いじゃいました」


「いいの。私の身分が身分だけに、仕方ないわ」



 寛容な人だな。まぁ、その寛容さが山賊にあるかと言ったら、間違いなく無いんだけどさ。

 だってほら、俺達の檻の方に1人の山賊が歩いてるもん。


 しかも珍しいことにこの山賊、女だ。



「ギル〜? 傷をつけちゃいけないって話だし、私が食べちゃってもいいかしらぁ?」


「あ? ん〜......まぁいいぞ。丁重にな」


「やったぁ。前から食べてみたかったのよねぇ......可愛い女の子♡」



 わぁ。



「よいしょ、っと。どうせだし、コイツの前でやろうかしら」


「待って! お願いします! どうかその子には手を出さないで!!」


「うるさいわねぇ。アンタみたいな使用済みの女は要らないのよ。いい加減にしないとその喉、掻っ切るわよ?」


「くっ......」



 リアーナさん、多分大丈夫だぞ。

 俺の正体を知ったらコイツ、絶望すると思うから。


 いやぁ、まさかソッチの人とは思わなかったな。

 捕まっている人に男が居ないのも、そもそも男を捕らえる理由が無いからだとは、中々気付けないぜ。



「まずは服を脱がせて......ん?」



 やん! スカートだからパンツ一丁になっちゃった!



「ちょ、ちょっと失礼するわね............えっ」



 オイ。なに人のパンツの中見て『えっ』だよ。失礼すぎるだろうが。なんだ? 予想よりも大きかったか? ん?



「俺、元から男だけど。こんな縄もさ、ほら。簡単にちぎれてしまう」


「ガイアさん......嘘」



 ブチブチと手足の縄を引きちぎり、脱がされたスカートを影に仕舞いながら元の服を着た。



「さてさて、山賊の皆さ〜ん! こんな物語をご存知でしょうか?」


「なっ!? オイ! 全員やれぇ!!!!」



 35......いや、34人の山賊達が襲いかかってくるが、俺が大量に漏らした魔力で作られた透明な壁を、誰一人として越えられる者は居なかった。



「むか〜しむかし、ある所に。35人のクズが集まる洞窟がありました」



 リアーナさんの縄を切り、解放する。



「クズ共は馬車を襲い、女子供を攫っては性欲の捌け口にしたり、売り捌いたりと、クズと呼ぶことすら憚られる存在となりました」



 俺の居た檻だけなく、隣の檻の格子を魔法で切る。

 あまりの速度で切ったためか、切れた格子がそのままの形で保っている。



「何人もの女性は精神が破壊され、社会復帰は難しいと思われました。どれもこれも、クズ以下のゴミのせいです」



 洞窟の入口も魔力の壁で塞ぐと、段々と山賊達は悟り始めた。



「そこにある日、1人の男の子が女の子のフリをし、山賊に攫われました。その男の子は最強の魔王、ゼルキアの親友を名乗る少年です」



 全ての女性を救い出すと、リアーナさんが皆のケアをする為に一人一人抱きしめて回った。



「男の子には力がありました。人を傷つける、暴力という名の力が。ですが男の子は、誰かを守る為にその力を使いました」



 全員に着る物を渡し、串焼きと果物を近くに置いた。



「山賊は全員殺されると、男の子にこう言われたのです」




「死んで当然。と」




 俺が両手を叩くようにしてぶつけると、魔力の壁と壁が一気に狭まり、中に居た山賊は漏れなく液状になった。



「出ましょう。外に馬車を待機させてます」


「......は、はい」



 最大限優しく見えるよう、笑顔でリアーナさんに伝えたが、そのリアーナさんの綺麗な瞳は純粋な恐怖の色で染まっていた。




◇ ◇




「帰った。山賊は山に還ったぞ」


「よくやった。だが......1人だけか」



 ユーディルゲル達の居る馬車に戻ると、目の輝きからすぐに精神の状態が判別された。


 リアーナさんの背負うエルフの子も、俺が魔法で包んで連れて来た獣人の子達も皆、精神が破壊されている。



「この子達は任せた。んじゃ、俺はあっちの馬車に移るわ」


「ありがとう。それと......すまなかった」


「ありがとうございました」



 手をふら〜っと振った俺は馬車に女の子達を入れると、エメリア達の乗る馬車に乗り込んだ。



「ガイア! お主、自ら捕まるとは何事じゃ!」


「......ごめん。ちょっと......膝貸してくれ」



 あの子達の虚ろな目を忘れたい。

 そう思った俺は、強引にエメリアの膝を奪い取ると、うつ伏せの状態で視界を塞いだ。



「......お主は頑張った。余が認めるからの」


「......うん」



 優しく頭を撫でられる感覚に意識を落とすと、馬車が動き出した。



 少し、休憩しよう。俺は頑張った。

さり気なく太ももhshsしてるガイア君でした。

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