表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/123

第79話 和解

クリ.....スマス.....イヴ!?



「待って。今の私に敵意は無いわ。お願いだから暴れるのは辞めて」


「誰も暴れるなんて言ってない。今はアイツも居ないことだし、落ち着いて話が出来るだろ?」



 一瞬にしてぶつかり合う魔力だったが、双方の敵意が消えたことで被害を生まずに済んだ。

 お互いに両手を上げて無害であることをアピールしながらソファに腰をかけた。



「改めて、ガイアだ。正当防衛とはいえ、あの時は勇者を殺して申し訳なかった。家族の命を奪われたせいで、我も忘れていた」


「いえ。私の方こそ、魔王と同じ魔力だからと追って悪かったわ。その......貴方の大切な家族を殺めてしまったもの」



 おや? 敵意が無い時点で薄々察してはいたが、もしかしてこの人、普通に話せる人なのでは?

 当時は精霊樹の森を襲う悪魔のように見えていたが、俺達がちゃんと話しかけていれば、あの時は......いや、夢物語は辞めよう。


 とにかく、ちゃんと面と向かって話せるのなら好都合だ。



「なるほどの。前世でガイアを襲ったという、勇者一味であったか。話を聞く限りでは、両方に非があるように思えるがの」


「ああ。俺が言語を知らなかったせいでもあるし、向こうが本当に俺達が悪なのか見定めなかったせいでもある。が、今はもう過ぎた話だ。これからの話をしよう」



 確かに心に傷を負ったが、ミリアもゼルキアも転生してるからな。あの時の思いとしては、安倍くんの墓を建てたいぐらいか。


 俺達にとっては悲惨な事件だったが、人類にとっては名誉あるもの。4人の命と無数の命、秤にかければどちらが重いかなどすぐに分かる。


 今世では友達になれたら嬉しい。そう思う。



「ほ、本当に水に流してくれるの?」


「はい。全員生まれ変わってるんで。誰も勇者達に恨みはありませんよ。今はもう、普通の人間として生きてますから」



 これにて和解だ。

 ミヅキ以外は老衰で死んでいるだろうし、存命している勇者パーティはミヅキさん1人だろう。

 他の3人に関しては、放っておくのが吉だと信じてる。


 そうして2人の蟠りのようなものが消えると、ユーディルゲルが話し合いを始めてくれた。



「では滞在日数と目的を話そう。私達は現在、人間との和平交渉の為に魔海へ向かっている」


「......正気?」


「無論。そして滞在日数だが、2日を予定している」



 あれ? 1日じゃないの?

 そう思っていると、すぐに本人が理由を語った。



「ここの村民に人間が悪ではないと広めたい。ガイアも女装を辞め、説得に参加して欲しい」


「了解」


「ちょっと待って。ここの村民は別に、人間を悪だと思ってないわよ?」


「「「「「え?」」」」」



 ちょっとちょっと〜、ユーディルゲルさ〜ん? アンタの持ってる情報、古いんじゃないの〜?



「......では1日で。森の中の集落故、情報に齟齬が生じていたようだ」


「仕方ないわよ。それじゃあ、寝泊まりする場所はこの家を使って。未使用の部屋が幾つかあるから、数人なら余裕よ」


「感謝する」



 まだ明るい時間帯だが、ここに滞在する選択を取ったのはユーディルゲルの優しさだろうな。

 今世では馬車慣れしていない俺と、そもそも馬車に乗る必要の無いエメリアの為に、細かく休憩を挟んでくれているのだろう。


 だがユーディルゲル、お前は1つミスをしている。


 馬車が良すぎた。俺もエメリアも、馬車が快適すぎて寧ろ止まって欲しくないくらいだぞ。



「ま、好意には甘えるか」


「どうしたのじゃ?」


「何でも。それよりミヅキさん、話があるので少しだけいいですか? この森の話です」


「分かったわ」



 またまた若いエルフさんが皆を連れて行くと、俺はミヅキさんを連れて家を出て、1本の大きな木の前で止まった。



「この木は何か、分かりますか?」


「私の家にも使われている木よね。物凄く質の良い」


「......他には?」


「分からないわ」



 なるほど。幾らエルフと言えど、森の声を聞くのは容易ではないか。とすると、ラフラの木が絶滅しかけてることに気付く訳が無いよな。



「この木の名前はラフラです。甘く瑞々しい実を付ける、貴重な木です。それが現在この村では、長年に渡る大量伐採のせいで絶滅の危機にあります」


「え? どういうこと?」


「そのままの意味です。もうこの木を切らず、使わず、植林してください。ラフラは俺の命の恩人なんです」



 精霊樹の森が出来た時、ラフラの実を食べて俺は生き延びれた。あの時にラフラの木が無ければと思うと、少しだけ怖い。


 俺は頭を下げ、森の声が聞こえることと今出来ることを説明し、ミヅキに理解してもらった。



「......早急に伝えるわ。この木の木材はとても使いやすいから、皆こぞって切っているの。森の現状を伝えて、種の生存に全力を尽くすわ」


「お願いします。では、俺は少し散歩してから戻ります」


「ええ......あの」



 エルフを信用して、ラフラが生き残ることを信じる。

 そうして森を見て回ろうと思っていたら、ミヅキに止められた。



「はい?」


「その格好で『俺』は辞めた方が良いと思うわ」


「......確かに。では元の格好に戻して来ます」



 これにて一件落着だな。

 宿も提供してくれたし、食料は魔物の肉が大量に。

 水も新鮮な湧き水があるし、ここは穏やかに暮らすのに丁度いい。


 男爵の息子であることを忘れられたら、精霊樹の森で余生を過ごしたいな。




「ふっふんふ〜ん♪ ふんふんふ〜〜〜んふぁ〜〜♪」




 久しぶりの森の散歩にテンションが上がり、鼻歌交じりに木を触って挨拶して回っていると、集落からかなり離れた場所に来てしまった。



「う〜ん、迷子☆ にしても服を戻せてよかった〜。スカートで森を散歩とか、絶対に汚すわ〜」



 日が暮れる前になったら空中から集落を探そう。

 それに最悪、木に聞いて回ったら帰れるだろう。

 今はただ、この綺麗な森に触れていたい。



『......だぁれ?』



 暫くルンルン気分で森を歩いていると、透き通るような青い髪をした、ふわふわした雰囲気の女の子が現れた。



「ここら辺じゃ見ない顔だな。新入りか?」


『あなたこそ、新入りじゃないの〜?』



 こいつ、返しよる!?

 まさか俺のネタに着いてくるとはな。流石は新入りと言ったところか。見所がある。



「初めまして、お嬢さん。俺はガイアだ」


『わたしは〜、わたし〜』


「だろうな。君、精霊でしょ? 精霊は本来、名前を持たない」


『そうだよ〜。よく知ってるね〜?』


「そりゃあ、俺の妻は元精霊女王の娘だったからな。色々と聞いたよ」



 大きく出っ張った木の根に腰をかけると、精霊は俺の前に立った。

 髪も瞳も服も真っ青な姿から、この精霊が水の精霊と言われても俺は信じるぞ。というか多分、本当に水の精霊なんじゃないかな。


 ミリアが言っていたぞ。

『精霊は髪と目の色で大体分かる』ってな。



『もしかして〜、森の王様〜?』


「そう呼ばれていた時期もあったな。俺は有名人か?」



 俺がそう答えた瞬間、精霊ちゃんは目をキラキラと輝かせ、俺の膝に乗ってきた。



『ほ、ほんもの!? 初めて見た!』


「どうも。そんなにはしゃがれるとは思ってなかったな。大スターか? 俺は」


『かっこいい! 王女様とは、どうやって出会ったの!?』


「森でバッタリ。最初はお互いに探り合ってたよ」


『いつから恋心に〜?』


「覚えてない。ただ、いつも近くに居たせいで、偶に居なくなると凄く寂しく思うんだ。その時にはもう、恋に落ちてると思ったかな」


『すご〜い! ねぇねぇ、王様なら子どもは〜? ハイエルフが生まれると思うの〜!』


「子どもは......居ない。行為は怖かったからしてないが、魔力を練り合わせたりはしたな。だがどれも失敗に終わったから、俺とミリアに子どもは居ないよ」



 何だこの状況。

 知的好奇心に溢れているし、自分の持っている認識と相手の事実を見比べられることから、相当に賢いことは想定出来る。


 でも何というか......子どもっぽくて可愛いな。



『じゃあ〜、わたしと子ども、作る〜?』


「え、嫌だ。初めてはミリアに捧げるからシンプルに無理。急に迫ってくるとか気持ち悪いから辞めてくんない?」



 猫耳カチューシャを着けている且つ、そういう雰囲気なら流されかけたかもしれないが、完全にいつものガイア君モードじゃ微塵も振り向くことは無いぞ。


 俺が愛しているのはミリアただ1人だ。



『きゅ、急に冷た〜い。わたしみたいだね!』


「確かに冷たいな。氷の精霊か?」


『そうなの! 冬に生まれちゃったんだけど〜、もう雪が溶けて死にかけてるの〜』


「そうか。来世では森の精霊になれたらいいな」


『た、助けてくれないの〜!?』


「そりゃあ、自然の摂理を破壊するのは良くないしな。生まれたからには死ぬもんだ。甘んじて受け入れろ」


『そんな〜』



 まさか氷の精霊とはな。確か精霊って、自身の司る性質から魔力を吸収し、その属性の魔力を支配するんだよな。


 だから雪から生まれたこの精霊は、冬の間は雪や凍った川から魔力を得られたが、冬が明けた今、死に直面していると。


 可哀想に。積雪地帯に生まれれば良かったのにな。



『お、王様。助けてください』


「いいぞ。素直に言う子には手助けしてやる。だがお前を助けたところで何になる? ただ冷たいだけの精霊なんて、冷蔵庫にしかならないぞ」



 助けることに損得勘定を持ち込まない主義の俺だが、今回ばかりは訳が違う。

 知らない森の知らない精霊だし、助けたことによって何かが失われる可能性もある。


 その可能性を考えると、どうしても助けるに見合うか考えてしまう。



『わたしが近くに居ると〜、氷の魔法が強くなるよ!』


「今も十分強いんだが」


『もっとも〜っと、強くなるよ〜?』


「他には?」


『美味しいお水を出せたり〜、ギュッてしたら冷たい!』


「他には?」


『えっと〜、えっと〜......無い、です』


「残念、不採用だ。またの参加をお待ちしております」


『そんな〜』



 この子を助けたところで、どうしようもない。

 旅に連れて行くにしても、リヴァイアサン達と戦うのに邪魔でしかならないし、サポート面もエメリアで十分。


 生活の補助をするにしても、最強のメイドであるアンさんが居るので必要ない。



 故に、助けたところで彼女が孤独になる。

 ならば、敢えて助けずに命尽きるのも1つの救済だろう。



 ......でもなぁ。




「最後に聞こう。旅に必要なものは?」


『旅〜? ん〜〜〜〜〜、ハプニング?』


「大正解。ではハプニングとは何だ?」


『思いがけないこと?』


「正解。では、俺のハプニングは?」


『......わたしと出会ったこと?』


「正解。最終問題だ。俺が君を助けることを条件に、様々な命令を出すだろう。言ってしまえば奴隷になる。それでも俺に助けを乞うか?」


『うん。わたしは〜、生きてるならそれでいいから〜』



 この子を連れ帰って、アンさんの弟子にしよう。

 好奇心と向上心があるなら、経験豊富なアンさんの下に着くことで、様々な刺激を貰えるだろう。


 俺のような戦闘特化人間ではなく、ちゃんと生きてきた人の元で生きてもらおう。



「魔力のパスを繋ぐ。受け取りすぎて死ぬなよ」


『だいじょ〜ぶ! 精霊だから〜』





「行くぞ、レヴィ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ