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第77話 小さな火種



「さて、冬も明けたことだし、行きますか!」



 2月に入り、雪が溶けて春の息吹が世界を彩り始めると、俺は全員を集めてレガリア王国に帰る話を進めた。



「遂にじゃな。ということは、例の2体を倒す術が整ったとのか?」


「いや? それは現地に行かなきゃ分からん」


「本当に何の対策も無しに魔海に向かうのですか?」


「勿論。旅はハプニングを楽しむ。そうだろ?」


「ガイアさんって、やっぱり無計画の権化よね」


「良いじゃん。お陰で退屈しない。一家に一人、ガイア君だ」



「「それはダメ!」」



 おっと、考え無しに口を走らせていたら2人にブレーキをかけられた。エメリアとアンさんの想いから察するに、流石に一家に一人はダメだよな。


 でも、一家に一人居た方が、争いが起きないと思うんだがなぁ?


 どうなんだろうか。



「ユディ? どしたん? 静かすぎるぞ」



 珍しく顔を伏せたまま何も言わないユーディルゲルに声をかけると、重々しい態度で目を開いた。



「初めに謝っておく。すまない。私のせいで、魔王幹部が戦場に来ることになった」


「そうか。別に邪魔しないなら見てもらってて結構だ。ただ、戦場に1歩でも入ったら、餌や盾として使うことは言っておけよ?」


「無論だ。だが最悪、戦闘後にアイツらがガイアに手を出す可能性がある。気を付けてくれ」


「おっけおっけ。まぁ、手を出すことはないだろ」



 リヴァイアサンとヒュドラがあれだけ恐れられているなら、その2体を倒してしまえば俺を恐れて近付かない。

 目の前で自分が手も足も出ない相手を倒した後に突っかかるなんて、そんな馬鹿な奴は居ないだろう。


 もし居ても、然るべき対応を取るだけだがな。



 ユーディルゲルの手配により、質の高い馬が引く幌馬車を用意してもらい、俺達は街を出る。

 お世話になった串焼き屋や武器道具屋、美容室の人達に挨拶を済ませたが、短い期間と言えど寂しくなる。


 最後にと貰った串焼きは、少しずつ食べよう。



「──来た。南西」


「余が払おう」


「数匹は夕飯の材料だ」


「任せるのじゃ」



 エメリアに膝枕してもらっていたが、少し離れた場所を通る魔物の群れを感知し、俺は目を覚ました。



「それは?」



 馬車を出たエメリアの手には、1本の大きな黒い鎌が握られていた。

 石突きの先は槍のように鋭く、背丈に合わない長い柄に大きな刃は、とても幻想的な雰囲気を漂わせている。



「余の武器じゃ。鱗を変形させておる」


「へぇ、鱗か......そっか」


「な、何じゃ今の間は! 怖いこと考えたであろう!」


「考えてないよ。行ってらっしゃい」



 別に、鱗を全部武器に変えたらどうなるんだろうとか、鱗の部品を作った道具に多機能性を与えれるんじゃないかとか、そんなこと考えてないし!


 そういや、今のエメリアの服も鱗だっけ。万能だな。



「私も膝枕致しましょうか?」


「お願いします」



 アンさんの誘いに即答し、柔らかくてスベスベなお膝に頭を置いた俺は、眠るように瞼を閉じた。

 優しく頭を撫でられる感覚と共に魔力を放出し、エメリアの傍まで感覚を移す。


 少し覗いて見れば、エメリアは魔物の逃げ道を制限してから食糧となる個体を倒そうとしてるな。

 これでは逃げられる可能性も高いし、手助けしよう。



「2頭」


「2頭、ですか?」


「はい。牛と巨大な鳥です」



 口に出して2頭の魔物を補足した俺は、伸ばした魔力を糸状に変形させ、空を飛ぶ魔物と大地を駆ける魔物の足と首を引っ掛け、エメリアの傍に引き摺り落とした。



『ありがとう。さり気ない手助けをするとは良い旦那になるぞ?』


「別にさり気なくないけど」


「ご主人様?」


「えぁぃ? 大丈夫です。寝言です。多分」



 良い旦那という部分は否定せず、俺は2頭の首を落としてから魔力を戻した。

 それにしても2種類の魔物の群れがぶつかるとは、中々無い現場に居合わせたものだ。


 魔物は賢い種族が多いからな。お互いにぶつからないよう、自身の発する魔力で周囲を探知しているんだ。



「よっ、と。ただいま帰ったのじゃ!」



 鎌をフックの様に変形させて牛と鳥の魔物を引き摺ってきたエメリアは、汚れ一つなく綺麗な姿で帰ってきた。



「お帰りなさいませ」


「おかえり。影に入れるからそこに置いてくれ」


「了解じゃ」



 手早く食糧を影に収納すると、馬車に乗り込んだエメリアが俺の上で寝そべってきた。

 膝枕をしているアンさんに負担が掛からないよう、俺の魔力をクッション材にして膝枕を続行した。



「御者さん。出してください」


「畏まりました」



 ゴトゴトとユーディルゲルとスタシアさんの乗った方の馬車から動き出し、それに続くように俺達の馬車も動き出した。


 エメリアが抱きついて離れない。どうしたんだろうか。寂しくなっちゃったのか?


 いつもならくだらないことを喋りあっているが、偶には静かな旅も良いものだ。

 そう思って優しくエメリアの頭を撫でると、ビクッと反応した後、顔を俺の胸に擦り付けてきた。



 可愛い反応をしてくれるな。撫で回してやろう。



「あ、そうだ。アンs......」



 そう言えばと思い、瞼を開けたら目の前にアンさんの顔があった。


 上下逆さまでも分かる整った顔立ちに宝石の様な黄金の瞳。さらりと垂れる金色の髪は滝のようだ。

 バッチリと目が合った瞬間に紅くなる頬がとても可愛らしい。


 きっと、沢山の人に愛されたんだろう。それも、無くし方の存在しない愛を。



「ご、ごめんなさい! ちょっとお顔を見ていただけで......!」


「大丈夫ですよ。俺もじっくりアンさんの顔を見ましたし」



 顔を背けたアンさんの耳も、真っ赤に染まっている。

 ミリアやエメリア、ツバキさんとは違う、奥手な人なのかな。反応が女の子というか、可愛らしいんだ。


 これから死ぬかもしれない戦闘が待っているが、大丈夫なのだろうか。



「何じゃ? また2人でイチャイチャしおって。余も混ぜろ」


「それは俺の上で寝る奴が言えない言葉なんだがな」


「別にいいじゃろ? 余のガイアなんじゃし」


「お前の俺じゃない、俺のお前だ。俺はミリアのものだからな」


「......最後のが無ければ良かったのにな」



 段々と速くなる馬車に揺られ、エメリアがより強く俺を抱きしめてくる。嬉しい反面、少し怖く思ったことがある。


 もし、上に乗っているのががミリアやツバキさんなら、揺れた衝撃を吸収する柔らかい存在について聞いてくる、とな。


 幸いにもエメリアの衝撃吸収材は大きくない。というか無い。それ故──



「ガイアよ。何を考えておるか余には分かるぞ?」


「......大きくなるといいな」


「お主......では揉め! 揉んで大きくするのじゃ!」


「アンさんにやってもらえよ。スタイルも半端なく良いし、秘訣を教えてもらえるかもしれんぞ?」


「そ、そんな、私なんか......」



 何て言ったら良いんだろうな。

 アンさんはこう、『エロい!』ではなく、『美しい!』と言いたくなるスタイルなんだ。


 普段はメイド服で分かりづらいスタイルだが、私服に着替えた瞬間にソレは爆発するだろうな。



「ガイア! ここで野宿だぞ!」


「はいはい。じゃあ女子供は馬車で待ってろ。用意してくる」


「お主も子どもじゃろう!? ここに残るのじゃ!!」


「大人ですぅ。生きた年月はエミィより長いですぅ。お子ちゃまはここで待ってるんですぅ」


「むきー!!! お主、寝る前に必ず────きゅぅ」



 騒がしいエメリアの額に唇を触れさせると、糸の切れた人形の様に静かになった。やはり大人らしい納め方というものが大事だな。



「さてさて、新たな魔法でも試しますかな」




◇ ◆ ◇




「本当に良かったのですか? ご主人様と寝なくても」



 月が天高く輝く森の、焚き火の小さな音が聞こえる簡易テントにて。エメリアはアンと共に寝袋に入っていた。



「......今はちと、喜びたいのじゃ」


「喜ぶ、ですか?」


「うむ。今日、初めてガイアから口付けを貰ったからの。今までは余が状況を作れば、『まぁしてやらんこともないか』程度にはしてくれたのじゃが、今日はガイアからじゃった」



 このキャンプ地を作る前、馬車が止まった時のこと。

 エメリアを黙らせる為とはいえ、ガイアは初めて自分からキスをした。

 それが例え、額へのキスだとしても、初めてだった。



「確かに、ご主人様はこれまでエメリア様を受け入れる形で接していましたね」


「余も、少しずつ認めてもらっているのじゃろうか。人の姿をした化け物と言えど、この気持ちを」



 エメリアの胸の奥でポカポカと光る、想いの火種。その小さな灯火に薪をくべてくれたのは、他でもないガイアであった。


 

年、明けましたねぇ.....

ガイア君、出ましたねぇ.....

向かうは魔海。立ちはだかるはリヴァイアサン&ヒュドラ。さぁ、どんな魔物なのでしょう。楽しみですね!


それでは次回『おどれよエルフ』お楽しみに!

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