第76話 エピローグ・忠犬セナ
精神病んでてお休みしてました。
あとまたサブタイトルが変わりました。
なんというか、その.....ごめんなさい!!!
「ねぇ、これくらいの身長で黒い髪の男の子を見なかった? どんなことでもいいの。何か知ってたら教えて」
「すまない、僕は見てない」
「そっか......」
レガリア王国の北東に位置するティモー帝国に訪れていたセナとヒビキは、10ヶ月以上に渡ってガイアの捜索を続けている。
人族語を完璧に覚えたセナは冒険者登録を済ませ、今では立派な《鉄級》クラスだ。
「少し休憩しよう。ガイア様はきっと無事の筈だ」
「どうして? どうしてそう言えるの?」
とぼとぼとギルドから出て来たセナに、ヒビキは屋台のハムサンドを渡した。
ガイアに生きていて欲しいと強く願いあまり、『もしも』の時を考えてしまい、深く心を痛めつけるセナ。
そんなセナを元気づけようとするも、無事失敗に終わった。
「さぁな。だが、あれ程のお方が死ぬとは思えん」
「......ガイア、どこか抜けてるもん。危ないよ」
「だがそういう時はミリア様が......そういうことか」
ガイアの穴を埋める存在が居ない限り、絶対に無事とは限らない。
実際にはエメリアという、ミリアに次ぐ最高峰のガイアを支える存在が居るのだが、2人は知る由もない。
「行こ。次はイリス神国かな。神国に居なかったら、魔海を渡って魔王領を探す」
「正気か? リヴァイアサンとヒュドラの巣だぞ!?」
スタシアと同じ反応をするヒビキだが、セナの瞳に灯る炎を見た瞬間、彼女の強い覚悟を知った。
もうすぐ捜索開始から1年が経つが、未だ燃え続ける心の炎に関心し、ヒビキの意識も変わった。
「それにね、あの2体を倒せたら、きっとガイアは褒めてくれる。セナはそれが目的でもあるの」
「......死んだら無意味だぞ」
「大丈夫だも〜ん。セナにはご主人様が居るもん!」
「そのご主人様を捜しているんだがな」
慣れた会話を交えながら、2人は街を出る。
通常の人間ならば、雪が降り、土が凍る気温の中で歩くのは至難の業だが、聖獣と天鬼の2人ならば余裕だ。
人智を超えた肉体は、人智を超えるリヴァイアサンとヒュドラを打ち倒せるのか。神のみぞ知る。
「まぁね、倒さなくても避ければいいから」
「俺は元よりそのつもりだ。無駄死にはしたくない」
ヒビキはセナの影に入り、セナは狼に姿を変え、積もり始める雪道を駆けて行く。今の2人は、移動がセナを担当し、生活をヒビキが助けることで支え合っている。
しかし、2人とも心に穴が空いたように生きている。
お互いの主であるガイアが居ないと、セナとヒビキの関係に亀裂が入るのも時間の問題だろう。
◇ ◇
「入国審査だ〜! どうする?」
「受けろ。ガイア様に殺されるぞ」
「は〜い」
要塞と見紛う街の外壁の前に広がる森にて、2人は人間の姿に戻った。身分証明証にもなる冒険者カードを手に、入国審査に挑んだ。
「ちわちわわ〜! 入国審査を受けに来ました!」
「それは王国のギルドカードか......しかも獣人だと?」
「なに? 私のどこがおかしいのかな? ん? 普通だよね? あ、他の獣人さんより可愛いのかな? ご主人様もそう言ってたしぃ......ねぇ?」
まるで野良犬を見るような目をする審査官に圧をかけ、飽くまで平等に接するように対応を促した。
ヒビキは黙ってセナの後ろに陣取り、悪質な審査をするようならすぐにでも刀に手をかける準備をしていた。
「も、勿論。入国は許可する」
「入国″は″?」
「......制限などない。好きにしろ」
「うん、おっけー! じゃなかった。分かった〜!」
殺意マシマシ一触即発の危機を回避した審査官は、過去に経験がないほどの脂汗をかき、2人が視界から消えた瞬間に尻もちを着いた。
「............な、なんだった......アレ」
嵐よりも酷い、天災の一端としか思えないセナの圧力を味わい、審査官の男は獣人だからと舐めた態度を取らないよう肝に銘じた。
これ以降、イリス神国に獣人の来訪者が増えたのだが、それはまた別のお話。
「ヒビキー! あっちにおっきな教会がある〜!」
「はしゃぐな。それに教会など......フハッ、凄まじい」
指で示された方向を見てみれば、レガリア王国にもティモー帝国にも無い、まるで城のような大聖堂が建っていた。
屋根に翼のある十字架が刺さっており、積もった雪が白く伸びる様は天使の羽の様だ。
「あそこならガイアのこと知ってるかも!」
「どうだかな。だが、行ってみる価値はある」
いつものようにセナを先頭にして街を歩いていると、外を歩いている人や、店を構える人からセナに対する侮辱の目線が感じられる。
普段のセナなら睨み返すように気付く筈だが、今回に至っては魔海越えも検討している為、一人一人に構っていられない。
人間一人よりもガイアの方が何百、何万倍も大切だ。
こんな所で時間を食ってる暇は無い。
「こんにちは〜!」
「はい......あら、いらっしゃい。どうしたの?」
「これくらいの身長で〜、セナと同じ眼をしてるガイアのこと、知らない?」
「ガイア?......まさか」
大聖堂の扉を叩くと、30代前後のシスターが出た。
慣れた聞き方でガイアの特徴を伝えると、シスターは数瞬だけ思案した後、2人を中へと招き入れた。
外壁同様に内壁も白いレンガと石で造られた大聖堂は、街に点在する教会と比べるとその大きさは歴然。
教会を子とするなら、大聖堂は親と言ったところ。
その大きさに見合う様々な部屋の用途と滞在人数は、一つの村と言っても過言ではない。
キョロキョロと周りを気にするセナに対し、すれ違うシスターは皆、笑顔で出迎えてくれた。
獣人であっても受け入れる。魔人であっても受け入れる。エルフであっても受け入れる。例え魔物の子であっても、我々と同じ思考、行動を取るならば、それは認め合うべき仲間である。
イリス教の教えでもあり、神の意向だ。
「ラック教皇、お時間宜しいでしょうか」
「勿論。入りたまえ」
「失礼します」
他の部屋と同じドアの前で止まったシスターは、速やかに許可を取ると2人を入れた。
金と白のローブに身を包んだ老人は、2人を笑顔で出迎える。
「初めまして。私はラックと言う。ここの教皇だ」
「セナだよ!」
「ヒビキだ」
「うむ。では早速、要件を聞くとしよう」
そうしてセナに語られた内容を聞いたラックとシスターは、揃って目を大きく見開き、ラックはとある本を取りに行くよう、シスターに伝えた。
「こちらです」
「ありがとう」
部屋に戻ってきたシスターがラックに本を渡すと、爽やかな笑みで礼を述べてページを開く。
「......やはり。セナ、そしてヒビキよ。これを読んでどう思う?」
「「どう?............えっ?」」
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空に浮かぶ不思議な模様。それは悪魔の悪戯か。
命尽きるは20の命。決して覆ることはない。
神の子もまた神。運命を変える力もない。
神の子は稀に人。歪な生に歯車は狂う。
女神イリスの最愛の人。神から送る人への愛。
空色の輝きを以て20の命は救われる。
払いたるは一人の生。帰りたるは20の魂。
精霊よ。獣人よ。魔人よ。エルフよ。ドラゴンよ。
女神の寵愛を受けし人の子を愛し、添い遂げよ。
女神の愛もまた、人の愛なり。
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間違いなく、ガイアのことだ。
次のページには挿絵があり、何と一人の少年が束になった糸を使い、20人の子ども達を持ち上げている姿が描かれていた。
「......ご主人様だ。これ、絶対にご主人様だよね」
「......あぁ。だが、何故このように本になっている?」
「これは女神イリス様からの神託です。この本は代々、神託の内容を文字にし、絵に記したものです」
過去のページを開いてみると飢饉に苦しむ街の様子や、迫り来る災害に備えるように記されたページもあった。
だがガイアのページだけ、やけに語られている。
本当に女神が愛していることが伝わるが、この場に居る者にとっては、何故女神がガイアを愛しているのかが分からない。
ただ女神に愛された少年としか記されていないのだ。
「お爺ちゃん、この精霊とか獣人はセナにも分かるんだけど、エルフとドラゴンは分かんないよ」
「エルフとは種族の名「そうじゃないの」......む?」
「ご主人様はね、ミリアっていう精霊のお嫁さんがいるし、ツバキっていう......お嫁さん? みたいな人は居るの。でもね、エルフとは殆ど関係ないし、魔人もドラゴンも見たことないはずだよ」
「確かに、ガイア様の周りはミリア様かツバキ嬢、他にはアヤメしか居ないな。この中にエルフも魔人もドラゴンも居ない」
「......ほう。詳しく聞こう」
それから3時間。議論に議論を重ねた結果、神託に記された魔人・エルフ・ドラゴンの存在は、『未来に出会うガイアを想う人』ということになった。
これは当たっている。そう思われたが......?
「でも、ご主人様って運命変えちゃうんだよね。だったらこの3人、出会わないかもしれないね」
どうやら議論は再開されるようだ。
久しぶりの更新になってしまい、すみませんでした!
精神が回復に向かったので、1日1本、もしくは2日に1本くはい出せたらなと思います!
ではでは、このお話含め第3章が「面白かったよ!」という方、よければブックマークや『★★★★★』評価を押してくれると、今後更に面白くなります!
それではまた次回!




