第75話 エピローグ・神界の動向
エピローグ(1/2)です!
「チッ、女神になってまでアイツを見るとか正気か?」
「当たり前です。私の全ては兄様の物。例え下界のシミュレーションに落とされたとしても、兄様は兄様です」
神界の中心部、その更に中央にそびえ立つ白銀の城に、イリスとフラカンは来ていた。
目的はただ一つ。イリスの女神化だ。
天使から女神に至る時、自信が統轄する世界を決め、最高神『ユピテル』に許可を取る必要がある。
その為、ユピテルの棲む城まで訪れないといけない。
「お前よぉ、いくら何でもガイアのことが好きすぎやしないか? その『好き』は何なんだ?」
「愛です」
「どっちだ?」
「......それは分かりません」
深く溜め息をついたフラカンは、頭をガシガシと書いてイリスに向き直ると、一つの質問を投げかけた。
「ガイアに言えないことは無いか? 何でもいい。これだけはガイアにバレたら死ぬと思うことは何だ?」
「えっと......その......ました」
「何だって?」
「致しました! 兄様の隣に寝て、兄様を想いながら致しましたよ! 悪いですか!」
「......最悪じゃねぇか」
兄を完全に性対象として見ているイリスに衝撃を受けたフラカンだが、そう言えばと、あることを思い出した。
「神なら近親婚もよくあるし、いいんじゃないか? まぁ、ガイアは人間だったが」
「......やっぱり、これは恋心......なのでしょうか」
「当たり前だろ。ガイアを兄ではなく男して見てる時点で、それは恋だ。ったく、まさかイリスがガイアを、とはなぁ」
普段から仲の良い姪と甥だと思っていたフラカンだが、本当に予想外の結果になった為、頭を抱えている。
もし、このことを2人の父であるカオスが知ったらどう思うか。そう考えると、イリスのガイアに対する想いを伝えない方がいいんじゃないか。
だがそれではイリスの想いが報われない。
絶対に帰って来れないガイアに想いを寄せるイリスと、そんなイリスの気持ちに微塵も気付いていないガイア。
「よし、俺はこの件にもう関与しない。お前が女神になったからには、フェリクスの全管理をお前に任せる。あの世界を生かすも殺すも、イリス。お前に決めさせる」
「はい。例え兄様と結ばれなかったとしても、この想いだけは兄様に伝えます」
「好きにしろ......ったく」
そうして最高神ユピテルに認めてもらい、無事に天使から女神へと存在を昇華させたイリスは、両親に報告した後、直ぐにフェリクスの管理世界へと入った。
女神となった、イリスの仕事は3つだ。
1つ、世界を調整する新たな世界。管理世界を創造し、自らの仕事を円滑に進めること。
2つ。シミュレーション内、及び下界の人間の祈りを聞き、制裁や天啓など、その世界が滅びぬように手を加えること。
3つ。世界が寿命を迎える時、女神は下界に降りて人間の心を救済し、速やかに魂をエネルギーへ変えること。
イリスの狙いは、ガイアの死をフェリクスの寿命と設定し、死んだ直後のガイアの魂と会話をして想いを伝えることだ。
返事を聞くのも一度きり。
その時のガイアが『嫌だ』と答えればそれで全ては終わり、受け入れればイリスが神界一短い近親婚の歴史を作る。
公私混同が許される女神だからこそ出来る、世界の調律。下界の人間にとってはたまったものじゃない。
「えへへへへ、これで兄様と......ふふふ」
「チッ、様子を見に来たが、その様子なら問題無さそうだな」
「はい! 改めて、ありがとうございます! フラカン様」
「知るかよ。ただ、まぁ......頑張れよ」
「勿論です!」
管理世界を訪れたフラカンは、イリスの未来を案じながらも、全てはアイツの自由と言い聞かせて立ち去った。
そして始まるのはイリスの最初の仕事だ。
「ダンジョンの概念を作りましょう。レガリアのテンプレートをそのまま移植して、宝箱の中身をレガリアと地球の物にしましょうか」
事前にフラカンから貰っておいた概念テンプレートを持ってきたイリスは、板状のソレに変更点を書き加え、球体として見えているフェリクスに挿入した。
現在のフェリクスは、最初にガイアが生まれ落ちる100万年前。
人類どころか魔物も進化していない世界に、突如としてダンジョンの概念が生まれた。
「あ、そうだ! 兄様がモテモテになっても困りますし、フェリクスでは一夫一婦制にするようにしましょう! こうすれば......ダメですね。これでは兄様の赤ちゃんが1人しか見れない可能性があります」
ガイアと結ばれたい。だが容易に下界に降りることが出来ない女神にとっては、下界に居るガイアの恋愛は手を出せない。
ならばとガイアには自由になって欲しいが、もし私欲で一夫一婦制にすれば、世界を覗いた時にガイアの幸せに包まれた生活が見れない可能性が現れた。
そこで考え抜いた案が、これだ。
「兄様の産まれた国のみ、一夫一婦制にしましょうか。国外ならハーレムでも許しましょう。ですがその分、全員を幸せにしないと制裁を与えます」
因果を弄ったフェリクスに、『レガリアの一夫一婦制』が追記された。
過去、ここまで私欲に塗れた世界の調整は行われなかった。それもそうだ。女神になってまで、下界の人間を想う女神が今までに居なかったから。
仮に誰か他の女神が真似たとして、それはフェリクスのように上手くは動かないだろう。
フラカンとイリス。最高の創造神と最高の女神だからこそ成せる、異形の偉業なのだから。
◇ ◇
「あれ? 輪廻の輪が乱れてますね。なにがあったのどしょう?」
暫くシミュレーションを見守っていたイリスは、大量に映し出される生命の輪廻の輪に、小さな歪みが生まれていることに気付く。
過去のログを遡ってみると、なんとガイアの創り出した転生魔法に、魔王と次期精霊女王とディザスターベアーが巻き添えを食らっていた。
「兄様......! んもう! フェリクスで転生するなら先に言ってくださいよ〜! このイリス、何度だって兄様を転生させてあげますのに!」
今を生きる兄が世界の流れを狂わせたことに喜んだイリスは、輪廻の輪の歪みを直すべく、レガリアからとある物を持ち込んだ。
「兄様の奥様の記憶と、最後に遊んだレガリアのプイレデータからご親友を送ります。出会えるか分かりませんが、出会えた時は楽しんで下さい」
ガイアの妻。つまり、ミリアに夢としてレガリアの記憶を見せ、親友であったユーディルゲルをフェリクスに送り込んだ。
「あ、もう1回巻き戻しましょう。そして......魔王は日本の方にしますか。時代の急進を止める役割も、進み過ぎた技術は身を滅ぼすことを知っている、日本の方が適任です」
本来は気付くはずの無い『転生』の概念。
それを深く理解し、客観的に捉えられる日本人ならば、魔王として人類に立ちはだかる壁として丁度いい。
有り得ないような確率で魔王とガイアが出会うが、その時はその時。楽観的に考えていたイリスには、この案が名案だと感じたのだった。
そして翌日、因果律と歴史の改変を終えたイリスが現在進行形の世界を確認した所、ガイアと魔王、次期精霊女王が共に居ることに気付く。
「......ですよね。何回巻き戻しても兄様と魔王、そして次期精霊女王は出会う因果にあるんですね」
シミュレーションではない、本当の世界。
それでも女神の権限で何度もシミュレーションしたが、どの世界線もガイアとゼルキア、そしてミリアは出会う運命にあった。
更に、ディザスターベアーである安倍くんも、必ずガイアと共に生きる運命だ。
「仕方ありませんね。ディザスターベアーの因子は兄様の妹に送って、あとの2人は各自転生してもらいましょう。同じ国で産まれるかも分かりませんが、多分兄様なら巡り会うことでしょう」
それから訪れた歴史の変化点は、ガイアの転移だ。
「流石兄様。本来なら転移に巻き込まれて亡くなるクラスメイトの全員を救い出すとは。ですが、肝心な兄様が魔王領に......」
大切な兄の旅路を見送るイリスだったが、転移事件の主犯であるスタシアと仲間になることや、転移という光より速い速度で動くガイアを掴む、最強の黒龍を娶る姿を見て、全幅の信頼を置くようになっていた。
しかし、そんなガイアに悲劇が訪れる。
「リヴァイアサンにヒュドラ!? どうして!?」
流石のガイアでも勝てないであろう2つの存在。
それが今、帰路を塞ぐ形で立っているのだ。
信じられない。信じたくないと思うイリスは、必死に因果の分かれ道を辿る。
「......ダメ、見えない。あまりにもイレギュラーが続き過ぎて分岐点と未来が見えない......!」
本来有り得ないはずの魔王との邂逅が、ガイアの因果律をこれでもかと狂い始める。そのせいでガイアの未来が文字化けし、イリスでも読めなくなっていた。
「お願い兄様......死なないで!」
次回はエピローグ(2/2)です!
ゆずあめの肺気胸が再発した恐れがあるので、検査とか諸々で更新が遅れるかもです! 何とか毎日更新を続けたいのですが、申し訳ないです.....。




