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第74話 1年の始まり

更新ペースがまちまちのまち針になってきました。



 ユーディルゲルから依頼を受け、3日もした頃には全員が揃って生活していた。朝は雪を魔法で溶かし、昼は復興と魔物狩りを手伝い、夜はのんびりダラダラする。


 そんな1日の流れが出来てくると、もう年末だ。

 本来ならミリアと一緒にアルスト領に帰ろうと思ったが、残念ながら俺は魔王領に居る。


 年末年始くらい、最愛の人と一緒に居たいよ。本当に。



「あぁぁぁぁ......やっぱ冬はコタツだよなぁ......」


「ガイア〜、みかんを取ってくれんか〜?」


「やだ。自分で取りなさい」


「そう言いつつも取ってくれる優しさ、大好きじゃぞ」


「いやこれ俺のだから」


「ケチんぼ!」



 始めは居間に置かれたコタツに入っていると、エメリアが俺の膝に乗ってくつろぎ始めたんだ。

 それからは、2人でぬくぬくと温まりながらみかんを食べるこの時間が大好きなんだよな。


 仕方ない、みかんくらい剥いてやるか。



「はい、あ〜ん」


「あ〜ん......むぅ。ツンデレじゃのぅ」


「ほらもう1個。あ〜ん」


「あ〜ん......ん〜」


「こら。指を舐め回すな」



 唾液塗れの舌でたっぷりと弄ばれた指は、かつてないほどにベタベタの状態で帰ってきた。

 拭くものが近くに無いし、持って来てくれる人も今は居ない。どうしようもないし、そのままでいっか。



「お、おおお、お主! 何故そのまま食べるのじゃ!? よ、余の唾液が......!」


「ん〜? 別にいいじゃん。嫁だ嫁だと言い張るなら、もっと凄いことを覚悟してるんだろ?」


「じゃ、じゃが......それとこれは違うのじゃ!」



 めんどくさっ! でも慌てふためく姿が可愛い。

 何だろうなぁ、エメリアは恋人と言うより、妹というか娘というか、ちょっかいかけたくなる存在なんだよな。


 恋愛感情ではない、子犬を相手にしてるようなものを感じる。

 愛くるしい、という感情かな。



「本当に2人は仲良いわね。お互いに疲れないの?」


「疲れませんよ。一緒に居て楽しいですし」


「じゃな。疲れないギリギリを攻めておるのじゃ」


「逆に疲れそうね。あ、私も入るわ」



 コタツの2辺が埋まってしまった。

 さぁ、残りの2辺は誰が取るのやら。楽しみだ。



「緑茶を持ってきました」



 っとと、そんなことを考えている間にアンさんの登場だ。スタシアさんが来ることを想定して4つのお茶を持ってくるあたり、メイド力は999といったところか。


 俺はアンさんにコタツに入るよう、床をぽんぽんと叩いてみると、なんとアンさんは俺の隣に入って来た。



「仲良いわね」


「ちゃうんす。これは想定外なんす」


「だ、ダメでしょうか......?」


「いえいえ全く問題ないですはい。どうぞどうぞ!」



 申し訳なさそうにするアンさんを宥め、俺はみかんを剥いてあげた。ちょっと魔力の液体を操り、2秒でツルんと皮を剥いてやったんだ。


 凄いじゃろ? 褒めてくれてもええんやで?



「わぁ! 美味しそうですね!」


「ッスー......そうっすね。絶対美味しいっすよ」



 お礼を言ってみかんを受け取ったアンさんは、実をちぎって1つずつ食べ始めた。綺麗な所作でもみかんが相手だからか、美しいというよりは可愛いと言いたい。


 だってほら、膝の上を見てみろよ。

 まだかまだかと口を開けて待つ、鯉のようなエメリアの姿をよォ!



「おらよ!」


「むごっ! むごごごごご!!!............死ぬわ!!!」


「そうかそうか美味しかったか。良かったな〜!」


「丸ごとひとつは危険じゃろうが!!」


「剥いて欲しいなら大人しく待ってろ。動かれると擽ったいんだよ」



「全く、朝から騒がしいなぁ、2人とも」



 ぷくーっと頬を膨らませるエメリアに説教をしていると、更なるコタツの魔力に支配された者が訪れた。

 プラチナブロンドの髪を纏め上げ、恐らくアーティファクトであろう和服に身を包んでいるのは──!



「ゆ、ユーディルゲル......?」


「何だ? 別人に見えるか?」


「いや......似合いすぎてて怖いわ」



 出来ることなら、腰には刀を提げて欲しかった。

 長剣はダメだ。和服の良さを洋風の剣が打ち消しているからな。


 ただ、ユーディルゲル自体の体格が和服と合うので、剣さえ目に入らなければとんでもない和服美男だ。


 剣を傍に置いたユーディルゲルは、何も言わずに俺の反対側からコタツに足を突っ込んだ。

 もうコイツはダメだ。取り憑かれてる。



「エミィ、暇だ。何かしようぜ」



 暫く無言のままコタツに生活エネルギーを吸い取られていると、遂に俺の遊びたいゲージがマックスになってしまった。


 もう我慢の限界なので、黙々とみかんを食べるエメリアを抱きしめ、耳元で囁いてみた。



「何も無いのじゃ。みかんはもういいのか?」


「いい。それより暇で死にそうだ。ダラダラするにしても、俺の求めるダラダラはコタツに入ることじゃないんだよ。どっか遊びに行こうぜ」


「まぁよいが......どこに行くのじゃ?」


「う〜ん、適当。アンさんとスタシアさんも来ます?」


「行きます」


「私は遠慮するわ。外に出たくないもの」



 即答したアンさんは直ぐにコタツから足を引き抜き、外に出る支度を始めた。

 俺とエメリアもやる気が無かったが、隣でキビキビと動かれては俺達も動かざるを得ない。



「分かりました。じゃ、ちょっと行ってきますね」


「行ってらっしゃい。雪道には気を付けてね」


「転けたら笑ってやる。怪我をするなよ」


「はいは〜い」




 直ぐにコタツから出た俺達は、目的も無くブラブラと街を歩く。復興が進んで屋台が増えた街だが、ダンジョンの経済効果が減ったせいか皆テンションが低い。


 経済の花を摘むか、命の種を捨てるか。


 2つを天秤にかけた際、どちらを選ぶか分かっているだろうに。どうしようも無い結果を、最小の被害という結末で終えたのだから、喜んでくれればいいのにな。



「路地裏に入るのか? 何も無いと思うがの」


「実は、路地裏は子どもが多いんだよ。今の俺とエメリアなら一緒に遊んでくれるだろうし、アンさんがお姉さんとして保護者になれる。皆で遊ぶなら丁度いい。だろ?」



 笑顔で頷く2人を連れて進むと、建材だった木材が積まれた、雪の無い開けた場所に出た。


 子どもの気配は一切無く、感覚を研ぎ澄ませば数人の気配を感じる。どうやら俺は、悪い遊びをしている子どもの溜まり場に来たらしい。



「■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■?」


「通訳エミィちゃん」


「よぉよぉ、ガキがこんな所で何してんだぁ?」


「ガキがガキとは笑い物だな。人生楽しんでるか?」



 5人の青年が現れ、俺達を囲んだ。

 手には刃こぼれした長剣と、現役の短剣。悪い遊びというよりは、割と本格的な犯罪かもしれないな。



「楽しいぜぇ? 最っ高だよ!」


「それは『今』楽しいのであって、『人生』が楽しい訳じゃないだろう? 君達は今後一生、その遊びをして死ぬつもりなのか?」



 リーダー格である、金髪の青年に語りかけた。

 今更何かを言ったところで変わりやしないが、続けるというのなら生涯を持って続けて欲しい。


 善行であろうと悪行であろうと、命を懸けて歩み続ける者は頂点に立つからな。



「どうするのじゃ?」


「気絶で留める。全部俺一人でやるから、2人は下がってろ」


「余は戦えるぞ?」


「好きな人を守りたいのは、男の(さが)だろ?」


「ぽっ......」


「『ぽっ』じゃねぇよ。一人じゃなきゃダメなんだよ」



 頬を紅く染めたエメリアは、アンさんと共に数歩下がり、囲いから出た。


 近距離で1対5なんて、いつぶりだろうか。

 昔は騎士を相手に戦っていたから、素人相手は本当に久しぶりだ。




「さぁ、来な。路地裏生活を終わるせてやるよ」




◇ ◇




「はい終わり。ツバキさんレベルの技量も無けりゃエミィ以下の筋力ときた。俺に勝てる筈が無いだろうが」



 一瞬だった。

 リーダー格が長剣を持って突っ込んできた瞬間、剣を叩き落として隣の男から短剣を奪い、柄の部分で鳩尾に一撃を入れていく。


 身体強化も使わずに終わるとは、実に悲しい。



「お疲れ様でした。お怪我はありませんか?」


「無傷です。それよりも、コイツらは傭兵ギルドにぶち込んでおきましょう。まともな訓練を積ませ、魔物を狩らせる代わりに衣食住の提供をする。両者の得になることをしましょう」



 クールなアンさんに武器を集めさせ、エメリアに2人、俺が3人のヤンチャ集団を担ぎ上げた。

 大通りに出ると、道行く人に視線を貰う。

 最近仲良くなった串焼き屋のオッチャンが笑っているが、先日現れた強盗犯を捕まえた時もこんな感じだったからかな。


 悪い子にはお仕置をする。

 良い子には沢山褒めてあげる。


 この2つが無いと、真っ直ぐに進めないからな。




「で、何故私に持って来たん......ですか?」


「レディーナさんなら適任でしょう? 知ってますからね? あなたが新入りの傭兵に隙を見ては生きる知識を与えていることを」


「何故それをッ!?」


「さぁ? 何故でしょうねぇ?」



 髪色を銀に変えた俺は、真っ先に傭兵ギルドのサブマスターにヤンチャ集団を渡した。

 例え断られても、ギルド登録だけはさせるつもりだ。

 コイツらは身分が無いようだから、せめて身元を明かせる人物になれば、生活も変わるだろう。


 半ば運頼みだが、大丈夫だ。根拠は無い。



「はぁ......分かりましたよ。ただ、厳しく育てるぞ......ますよ?」


「敬語じゃなくていいですよ。それと、厳しくした方が良いと判断するなら、そうしてください。手を離した方が立派に育つこともあるので、気を付けて」


「分かった。経過は必要か?」


「要りませんよ。その方が楽でしょう?」


「ああ。助かる」



 こうしてレディーナさんにヤンチャ集団を預けた俺達は、適当に雑談をしながら領主邸に帰った。


 途中、アンさんがニコニコしていた理由は分からないが、何か良いことがあったのだろう。綺麗な笑顔だった。




 そして夜、誰も起きていない深夜に、俺は領主邸の屋根に乗って星を観ていた。


 水も凍る冷たい空気の中、澄んだ夜空に星が散る。

 この星々に願い事をするならば、俺の願いはたった一つ。



「ミリア。待っていてくれ」




 凍てついた心の中で、愛の炎は燃えている。

第3章、完。

次回からは第4章『魔海と精霊』が始まりまth.


あ、完とか言ってますけどエピローグあります!

神界のお話と、あの子のお話があります!

楽しんで頂けたらなと思います。


よければ『☆☆☆☆☆』評価・ブックマーク等、よろしくお願いします! では、また次回!

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