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第72話 魔王会議

ダラダラした〜い!



 極西大陸の中心。魔王が直々に支配する魔王都の一角にある魔王城。歴代魔王の黒い魔力で塗られた城は、見慣れた者であっても畏怖して近寄らない。


 そんな魔王城の中で、5人の魔族による会話が行われていた。



「ヒュール、魔王様の具合はどうなんだ?」


「非常に宜しくない。あのズタボロのお体を見て、誰がどう『問題ない』と言うのだ」


「仕方ないよ〜。死ぬ気で再建してたもん。ね〜ね〜、ユー君は最近どうなの〜? 元気〜?」


「勿論。かつての戦友が訪れてな。私のガス抜きにも、新たな刺激を与えてくれてるよ」


「今日連れてたワンワンは〜?」


「今述べた彼に押し付けられた。『調教して街を守れ。傭兵がダメだ』と暗に言われてな。痒い所に手を伸ばしてくれたんだ」



 3人の女と2人の男が囲むテーブル上には、この世界に似つかわしくない1つの球体が浮かんでいる。

 魔力を消費することで浮かび上がる、ホログラムの球体。全体的に青く塗られた『それ』は、まるで地球の様な見た目をしている。



「ディル君がリクス球体を使うなんて珍しいですよね。何かあったんですか?」


「ナヴィちゃん鋭いね〜! で、どうなの〜?」


「なに、戦友の帰路を確認しているだけだ。幾らアイツでも、大陸を渡るのは困難だと思ってな」



 リクス球体と呼ばれるホログラムが示した場所は、レガリア王国。その王国から西に回転した先に、荒れた土気色の大地を越え、自然溢れる山々を進んだ先にガーランド領が映し出された。


 そしてガーランド領から更に西へ進み、魔王都を含む複数の街と山を超えた先にあるのは、魔海と呼ばれる海だ。



「リヴァイアサンとヒュドラが居るのに、海を越えれると?」


「......あぁ。リヴァイアサンの等級は幾つだ?」


「一等級だっけ〜? あれ? 特級〜?」


「一等級だ。出会って生きて帰った者が居るからな」


「そうか。ヒュールは喰われた者を治したのだったか」



 左眼にアメジストの義眼を着けたヒュールという男は、凡そ140年前にリヴァイアサンに喰われたという、一人の少女を救い出した。


 両足を食いちぎられた少女の足を、リヴァイアサンの胃の中から探し出し、持ち前の医術で治したのだ。



「俺の話はいい。それより、ヒュドラは特級だぞ。お前の戦友がどれ程強いのかは知らんが、まず間違いなく死ぬだろう」


「だね〜! ドラゴンを無傷で倒せたりしない限り、無理だよね〜!」


「シャルちゃん、それは絶対無理って言うんだよ?」


「あはは〜! そうとも言う〜!」


「例えゼルキア様であっても、ヒュドラを討伐するのは難しいだろう。つまり、極西大陸から西に渡るのは無謀だな」



 4人からの反対に、ユーディルゲルは頭を抱える素振りを見せた。が、しかし、その口元は笑みに溢れている。



「ドラゴンを無傷で......? ハハッ」



 小さく笑うユーディルゲルに、4人はギョッとした顔で話を中断した。


 ドラゴンの中でも最強を自称する者を嫁に迎え、領主邸でベッタリとくっ付いてる黒い髪の男女2人を思い浮かべた。



 どちらか片方が挑んだら厳しいだろうが、2人揃って戦えば?



「......やはりガイアは私の想像を超えてくる。規格外こそ想定内。昔から自分に言い聞かせていたというのに......全く」


「ユー君?」


「ユーディルゲル、先程からおかしいぞ」


「グリザネ、おかしいのは私ではない。戦友だ。

奴は最強のドラゴンを無傷で倒し、嫁にする男だ。

アイツなら、例えヒュドラであっても乗り越えて行くだろう」



「「「「......は?」」」」



 戦帝騎士でありつつも、魔王を倒したレガリア帝国の英雄。当時の皇女と駆け落ちしようとも、暗殺を恐れず国に仕えた最強の騎士。


 現在は少年に生まれ変わったが、その強さは以前より増している。剣も、魔法も、全ての技術が洗練されたガイアの存在は、今でもユーディルゲルの光として輝いている。



 そんな彼なら、彼らなら、ヒュドラを越えれる。



「ちょっと〜、盛りすぎ〜......というか嘘くさすぎ〜」


「確かに、おかしな点が多すぎて信じられませんね」


「嘘なら下手。事実なら狂人としか言えないな」


「ドラゴンが嫁とは下手すぎるぞ、ユーディルゲル。グリザネの言う狂人にも、ドラゴンを嫁を迎える者は居ないだろう」



 ガイアのあまりの異常性に虚偽だと言われる。

 ユーディルゲルは『事実だ』と言いたいが、そう言ってしまえば彼等がガイアに突撃しかねない。


 そうなると、ガイアの平穏な生活を破壊してしまう。

 友人の、親友の思いを尊重したいユーディルゲルは、真実を告げたい口を固く塞ぎ、笑顔で対応した。




「あ、あの......父様の代理で来ました、シアンです」




 幼い少女の声が部屋に響いた瞬間、5人は直ぐに椅子から離れ、跪いた。



「そんな! シアンに頭を下げないでください!」


「姫様に頭を下げない者は不敬に値します。お許しを」


「だ、大丈夫です! シアンは偉くもないですし、強くもありません......どうか頭を上げてください!」



 深い蒼の髪を靡かせ、紫紺の瞳を輝かせる少女。

 魔王の血を引く彼女だが、厳密に言えば直系の王族ではない。


 最強の魔王と言われるゼルキア。そのゼルキアに、子孫は居ない。


 爽やかかな笑みを絶たせない好青年のゼルキアは、周囲の者から好意を寄せられることもあった。しかし、ゼルキアからは関係を進めることは無かった。

 そのせいで、歴代魔王の純血は途絶え、分家である現在の魔王が国を統治、支配している。



「皆さんは、何のお話をされていたのですか?」


「ユーディルゲルの戦友について、ですね。まぁ、嘘が下手すぎてその存在すら怪しいですが」


「ヒュールの言う通りです。今日のユーディルゲルは様子がおかしい」


「まぁ〜、嘘でも楽しめたからアタシはおっけ〜!」


「そうなのですね! では、父様から伝えられた議題について話しましょうか。シアンには難しい問題ですので、皆さんの力を貸してください」



 頭を下げるシアンに、5人は素早く頷いた。

 あれだけ言われても不服な顔を一切しないユーディルゲルは、議題の難問さを予想しながら話を聞く姿勢を取った。


 そして告げられる内容は、驚くべきものだったのだ。



「人族と和平を結ぶ為、魔海に棲むリヴァイアサン、及びヒュドラの討伐です」


「「「「えっ......」」」」



 タイムリーな話題且つ、無理難題に困惑する4人の魔族に対し、ユーディルゲルは絶対的な自信を持って挙手をした。



「期限はいつまででしょうか?」


「2年です。父様の容態を鑑みるに、それが限界です」


「承知しました。上手く進めば、1年もかからずに終わるかと」



 暗に『倒すのは余裕』と申し出るユーディルゲルに、シアンは信頼を置き、頷いた。

 しかし、他の4人はそうじゃない。

 そもそもが『生きて帰れるか』どうかの次元の相手に、ユーディルゲルの意図が通用すると思っていない。



「ユー君、本当におかしいよ。考え直して?」


「そうですよ! 今日のディル君はおかしいです!」


「頭のネジが飛んでいる。愚か者め」


「ハッハッハ! 根拠は知らねェが、倒せる自信があるから言ってんだろう? なら俺達は見学しとくから、是非とも倒してくれよ。ナァ?」



「勿論。但し、戦闘中は不用意に近付くなよ。私の戦友は、立ち塞がる者なら味方であっても容赦なく斬り殺す。傍観者になるのは構わないが、邪魔をするなら私も彼に則り、お前達を斬る」



 冷たく言い放つユーディルゲルは、戦友帝騎士の例をとる。これはシアンを含む魔王の一族に知られている、最高位の敬礼だ。


 異文化を対等に受け入れる魔王に対し、ユーディルゲルは敬意を欠かさない。



「それでは私は帰ります。では」


「あ、待ってください!」


「はい。ご要件は?」



 立ち去ろうとするユーディルゲルを止めたシアンは、懐から1枚の紙を取り出した。



「パーティの招待状です。その......出来れば出て欲しいな、と......」



 頬を赤らめ、何としてでも出て欲しいという気持ちをギリギリの所で漏らしながら、シアンは招待状を渡した。



「明日ですか。承知しました」


「やったぁ! ありがとうございます!」


「楽しませて頂きます。姫君」



 そっと跪き、謝辞を述べたユーディルゲルは会議室を立ち去った。

 コツコツと足音を響かせながら廊下を歩いていると、1人の女の影が窺える。



「ガイアに連絡を。リヴァイアサンとヒュドラを討つ」


「っ!......正気なの?」


「人族との和平の為だ。私もガイアも、協力を惜しまない」


「分かったわ。ガイアさんにはそう伝えておくわね」


「頼む。私の帰りは1週間後になる。屋敷を任せるぞ」


「えぇ。じゃあね」



 羊のような角を生やした女は、右手に持つ小さな杖を介して魔術を使うと、その場から転移した。

 ユーディルゲルは正装を崩すと、魔王城に割り当てられた自らの部屋に戻った。



「マリー、手紙を。遺書を書く」


「はい!?」


「念の為だ。もし私が死んだら、ガーランド寮はスタシス領に譲ることにする。ただその旨を書くだけさ」


「......かしこまりました」



 別室から紙を取りに行くマリーを見送ったユーディルゲルは、窓の外に輝く紅い月を見上げた。



「ユーディルゲル・ガーランド。その名を遺すにはまだ早い。だが、いざとなれば死を選ぶことも覚悟の内だ。ガイア、お前を信じているぞ」



 祈るように紡がれる言葉は、小さく部屋に木霊する。

 人間でありながらも老いることがない体を持ったユーディルゲル。その人生の楽しみは、他でもない友人と遊ぶことだった。


 そんな友人の為に、彼は命を捨てることを厭わない。


 狂人とも言えるユーディルゲルの精神は、かつての戦友が魅せた、とある作戦によって作られたのだ。




「戦場を支配してくれ、戦帝騎士ガイア」


「☆☆☆☆☆」評価押してくれると嬉しいです!

次回もお楽しみに!

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