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第71話 傭兵ギルドの裏

ちょっぴり忙しくなってきましたが年末年始は時間があるので、2月までに100話いけたらいいなと思います!



「夜に帰れない可能性もあるから、その時は一人で寝てくれ」


「分かったのじゃ。忘れ物は無いか? ハンカチは持ったか?」


「持ってるって。行ってきます」


「行ってらっしゃいなのじゃ!」



 太陽が脳天から傾き出した頃。俺は正装に着替えてバッジを付け、髪を魔力で留めて見た目を整えた。

 そして洗髪料の銀粉を魔力を用いることで使用し、髪を銀色に染め上げた。


 今の俺は、世界で3番目に綺麗な銀髪だと自負している。



「傭兵ギルドは〜、ここの道を曲がって〜......あっ、すみません前見てませんでした」



 アンさんから頂いた手書きの地図を見ながら歩いていると、筋肉の塊のような人の背中にぶつかってしまった。


 謝るにしても、本当に前を見ていなかったので正直に言った。



「アァ? なんだ、ガキか。大丈夫か?」


「はい。ご心配してくださり、ありがとうございます。気を付けますね」



 ぶつかったのが馬の頭をした男の人で驚いたが、心はとても優し、い............待て、どうして言語が通じた?


 俺は少し警戒しながらギルドへと歩き出すと、男が後ろから肩を掴んできた。



「おい、お前、もしかして人間か!?」


「はい。そうですよ」


「どうしてここに居る!! 魔王領の魔力は人間にとって猛毒のはずだ!!!」


「そうなんですか? まぁ、確かに魔力が吸われる感覚がありますが、俺には影響無いので。それよりギルドに行っても?」


「あ、あぁ......大丈夫ならいいんだ」



 やはり毒だったか。

 気分的に常人には耐えられないと思っていたが、俺からすれば少し空気が変なだけだ。


 死の荒野ほどの違和感は無い為、楽に感じる。



「こんにちは。領主の代理で訪問しました」


「りょ、領主様の代理の方ですか!? そのような連絡は......ですがそのバッジは......」



 レガリア王国の冒険者ギルドより酒の匂いが強い。

 傭兵ギルドとは言ったものの、その実態は酒飲みの溜まり場なんじゃないか?



「すみません、人族語が通じる理由をご存知ありませんか?」



 受付嬢が確認を取りに行った為、俺は近くのテーブルで飲んだくれている傭兵に聞いてみた。



「■■■? ■■■■■■■■■!!!」


「日本語でおk......なんてな。お隣の貴女は?」



 今度はワイバーンのような鱗に覆われている女性に聞いてみると、蛇の様な舌をペロッと出し、答えてくれた。



「先代魔王、ゼルキア様はご存知かしら?」


「勿論」


「そのゼルキア様が人間だったから、人族語も話せる人が居るのよ。ところで坊や、お姉さんと飲まない?」


「ご教示感謝します。それでは」


「ちょっと〜!」



 なるほどな。確かにゼルキアは人間の姿をしていた。

 そのお陰で魔族が人族の言葉を話してくれるのは助かるが......傭兵が中心なのは何故だ?


 戦地には積極的に赴く魔王とのことだが、そのせいか?



「貴様か。領主の代理で来たと言う者は」


「はい。貴方が現地訪問の依頼者ですね?」



 桃色の長髪を靡かせ、腰に提げる長剣をカチャッと鳴らして女が現れた。足音が極めて小さく、それなりの武人であることが窺える。



「そうだ。レディーナという。よろしく」


「こちらこそ。ガイアと申します」



 差し出された手を取ると、バカみたいな力が加えられた。

 

 なんだコイツ。初対面の相手の手を握り潰すヤベー奴じゃねぇか。街の治安維持の為に粛清☆ しちゃうぞ?



 ......それはダメだな。俺も握り返すくらいに留めよう。



「えっ......ぐぁぁぁ!?」



 レディーナの握力を上回る力で握り返すと、メキメキと音を立てて手の形が変わっていく。

 俺が本当にただの子どもなら、さっきの時点で俺の手が辿る道を歩かせただけだ。やるからには、やられる覚悟があるのだろう?



「見た目で侮るなど戦士にあってはならない癖だ。それと、しょうもないことをする為に領主を呼び出したならお前、未来が無いと思えよ」



 あまりの激痛に声も出せずに蹲るレディーナに告げると、俺は影から薬草を取り出し、そのエキスを手に掛けてやった。


 すると、みるみるうちに変形した手が元の形に戻った。



「はぁ......はぁ......はぁ......!」


「殺気が無いからと相手が油断すると思うな。プロの暗殺者は皆、殺気どころか生気すら無いぞ」


「は......い」



 ユーディルゲルならどう対処するのだろうか。

 自分でその土地の最高責任者を呼び出し、怪我をさせようとする組織のナンバー2ともあれば、クビを切ってスラム墜ちか?


 それとも、奴隷になるか。



「今回のことは見逃さない。代理とは言え、領主に仇なす行為を取ったからな」


「オイオイ、それは流石にキチィんとちゃいますかぁ?」


「そうっすよぉ。レディーナだって、悪気があってやったんじゃないでしょ〜?」



 俺がレディーナの処分について考えていると、事の一部始終を見ていた他の傭兵が口を出してきた。

 仲間思いで良い奴じゃないか。

 ただ、こんな奴を仲間と思ってる時点で高が知れてるが。



「ア゛?」



 俺は全身から魔力を放出し、威圧した。


 近くで蹲るレディーナはガクガクと震えだし、目の前に立っている2人の男は目の焦点が合わなくなった。

 そしてテーブルで酒を飲んでいた傭兵もこちらを見ることなしに動きが止まっている。



「どうした? 次の言葉は無いのか?」


「ぁ......ぃゃ」


「小さい声だなぁ。さっきと同じ声量でいいんだぞ?」



 押せば倒れそうなくらいに固まった男に聞いても、掠れた声しか聞こえない。


 どうして先程のシーンを見て、相手の力量を把握出来ないんだ? 例えるなら、今まで倒せなかったボスを別のモンスターが何食わぬ顔で喰らい尽くしてるようなものだぞ?


 明らかに『危険人物』と分かるだろうに。



「まぁいいけどさ。君ら、あまり調子に乗っていると仕事が無くなると思った方がいいからな。ユーディルゲルには新たな魔物退治の方法を渡したから、酒ばっか飲んでると一文無しになるぞ」



 威圧を解いて忠告してあげた。

 これならば話を聞く身になるだろう。



「あの、それはどういう......?」


「言う訳無いでしょう? ただ、これ以上街の住民を襲う魔物を倒さないなら、ここは潰れると思った方がいい。そう言っただけです。では、俺はもう行くのでお好きにどうぞ」



 受付嬢に答え、遠くない未来に傭兵ギルドがあるかどうかを考えさせ、俺はギルドを出た。


 心做しか街の雰囲気が落ちてしまっているな。

 きっと、どこかの誰かが威圧した際に溢れ出た殺気と魔力にやられたのだろう。可哀想に。



「串焼き買お。お腹すいちゃった」



 あぁ、雪が降り始めた。

 こんな寒い日は外で温かい物を食べるに限る。

 出来れば肉まんとかあればいいが......無いんだよな。



「そこは要相談だな」




◇ ◆ ◇




「あの......今のは......」



 領主邸にて、エメリアとクッキーを焼いてお茶会をしていたアン、スタシア、エリーの3人は、ガイアの放った威圧に体をビクッと硬直させた。



「ガイアが遊んでおるの。どうせ子どもの見た目で侮った傭兵共が、お休を据えられておるのじゃろう」


「こ、ここまで届く威圧って、現地は大丈夫かしら?」


「大丈夫じゃなければ傭兵になる資格も無い。有事の際、敵が強大であった時に対処できなくてどうするのじゃ」


「......確かに」



 心配する3人を他所に、エメリアは歴とした態度で紅茶を口に含む。



「ガイアさんって、どれだけ強い方なんですか?」


「「化け物」じゃ」


「えぇ......?」



 エリーの何気無い質問に、2人は同時に答えた。

 どちらもガイアの戦闘を間近で見た者故、その剣術、魔術の練度を多少なりとも理解している。



「ガイアさん、初めて会った時は私のせいで右腕が無くなってたんだけど、幻肢痛の時以外は何食わぬ顔で過ごしているのよ? あの歳で」


「龍であっても臆すことなく立ち向かう姿は、まるで御伽噺の勇者じゃ。じゃが勇者のように龍を倒すでもなく、嫁にしてくれる優しい者じゃ」



 純粋にガイアの精神力を褒めるスタシアに対し、初めはその勇気を褒めたたえたエメリア。

 頬を紅潮させ、ウットリと目を蕩けさせる姿は、恋する乙女の最終形態だ。



「のぉ、龍と人間の間に子が成せると思うか?」



「......どうでしょうね。エルフよりは難しいんじゃない?」


「私も同じです。幾らご主人様でも、ドラゴンとは結び付きづらいかと」


「ご主人様!? え、えと......まぁ出来るんじゃないですか? 根拠は無いですけど」



 次の話題はドラゴンと人間の混血、ドラゴニュートに関する話だ。

 ドラゴニュートは、それこそ御伽噺に出てくる『龍の遣い』として登場するが、今のところ実際の目撃例は0だ。


 例え永き時を生きるドラゴンであっても、誰も見たことが無い。



「出来なかったらどうするの?」


「な〜に、出来るまで余の相手をしてもらうだけじゃ。朝から朝まで、因子をグッチャグチャに絡め合う。ふふふっ」



 今度は妖艶な笑みを浮かべて語るエメリアに、3人の頭の中ではガイアとエメリアの大変な姿が映し出される。



「......ちゃんと家でやりなさいよ?」


「無論じゃ。何ならミリアとも一緒にするのじゃ」


「わ、私は......ダメですよね......」


「ガイア次第じゃな。そのガイアは、ミリア次第じゃ」


「何だかとんでもねぇ話を聞いてる気分です! お嫁さんが沢山居る人って、実はそう居ない可能性がありますよね!!」



 エリーの発した言葉に、皆の思考が洗われた。

 体力的な問題からも、一夫多妻制が執られる土地に於いて、実際に複数人の妻を迎え入れる男は少ないという可能性。


 考えられないことは無い。



「他は知らぬ。余はガイアを愛し、ガイアに愛されたいだけじゃ。例え他の者が隣に居ようが、余の気持ちと覚悟は変わらぬ。体力がどうなど、ガイアには些事よ。ほう信じておる」



 エメリアの芯の通った主張に、彼女の愛の深さを知った3人。

 中でもアンは、自分の抱く想いを秤にかけ、どれだけガイアに見てもらおうか考える自分を、真正面から見つめ直す機会になった。



「私......ずっと傍で支えたいです。女としてはまだまだですけど、メイドとしては頑張ってきました。その経験を活かして、私はご主人様の傍で支えたいです」


「良いではないか。大切なのは自分の心を見失わないことじゃ。例えガイアが悪事に手を染めたとしても、加担せず、余達の想いを受け止めてもらう。その心を無くさないことじゃ」



 たわいも無い雑談中に起きたガイアの威圧は、エメリアとアンの愛の深さを見直すきっかけとなり、2人は更に自分の気持ちを深く理解した。


 好きが愛に変わる時、自分を見失わない決意をさせるのであった。


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