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第62話 ガーランドダンジョン

ロンにゃ!



「ユディ、雑魚は俺がやる。路地裏の細かい所は任せるぞ」


「了解」



 ガーランドの美しい街並みが大量の魔物に飲まれつつある北西広場。

 どうやら街の中にダンジョンの入り口があるらしく、次から次へと魔物が溢れ出ている。



「雪も降っていることだし、君達には氷の魔法......いや、魔術をプレゼントしよう」


「帝国最強の魔術師の技を再び見れるとは、嬉しいね」


「持ち上げるなバカタレ。ほれ、やるぞ」



 俺は魔力の小さな球体を無数に空に展開した。

 その球体は魔物の真上を追跡しており、地面に張り巡らされた極細の魔力から位置情報を取得している。


 上空の球体は分裂と追跡を繰り返し、上を見れば何十万もの魔力の塊が蠢いていた。



 ──貫け



 そう小さく呟くと、球体は氷の槍へと形を変え、下に居る魔物の脳天を貫いた。

 魔物に襲われかけていた住民の近くから順に、波を打つように槍が刺さる。



「ははっ......美しい。全部殺ってくれたね」


「勢い余って全部殺してしまった。死体の処理はどうする?」


「出来るのなら任せたい」


「魔物1体につき銅貨1枚。住民1人につき銀貨1枚だぞ」


「いいよ。ついでに滞在中は3食付けてあげよう」


「え、マジ? さっすがユーディルゲル戦帝騎士様! 太っ腹ァァ!!!」



 ユーディルゲルから言質を取った俺は急いでダンジョンの入り口を土で固めると、街中の死体を広場に集める。


 これでもかと魔力を操り、広場に立てた魔力の柱にブスブスと死体を突き刺していく。

 何十メートルにも伸びる死体の山は、この世の地獄のようだ。


 そうして魔物の死体を刺していく傍ら、住民のご遺体は広場の綺麗な草の上に寝させていく。



「終わりだ。計算してくれ」


「それなら私の魔術が使える。少し待ってくれ」



 ユーディルゲルは死体の山の前で剣を掲げると、剣先から白い糸が伸び、魔物の一体一体に付着していく。

 どうやら触れた物の数を魔術で測っているようだ。



「魔物が23万547体。住民が5人。合わせて金貨23枚と銀貨11枚だ。銀貨は1枚おまけしておくよ」


「毎度あり。住民は家族の元に返すから、魔物だけ処分するぞ」


「あぁ。頼む」



 俺は柱の魔力を変形させて魔物を全て凍らせると、広場にある花壇のレンガを1つ拝借し、魔力で強化した。

 魔力を練りに練り上げて強化したので、多分世界で1番硬いレンガブロックだな、これは。


 そうしてレンガに魔力の糸を括り付けると、左手で上空に投げ飛ばし、落下する力を使って魔物の死体を粉砕していく。


 バラバラになった破片を影に収納し、最終的に広場には魔物の死体が全て消えた。



「グロかったな。我ながら吐き気がしてきた」


「私も気分が悪いよ。まるで戦争の後のようだった」


「それよりもダンジョンだ。まだ出て来そうだし、対策は無いのか?」



 土の壁で塞いだとはいえ、もうそろそろ破壊される。

 また街に流れ込む前に解決策を出さないと、この街は終わる。



「攻略するしかないね。私は近隣の傭兵ギルドに依頼を出すから、ガイアは1人で遊んでていいよ」


「遊ぶって、お前なぁ......分かった。エメリア達も役に立つから、上手く動かしてくれ」


「勿論だ。だが......スタシアは使ってもいいものか」


「好きにしろ。俺は魔王領には無縁だからな。お前の方が知ってるだろ? 公爵様」


「分かったよ。それじゃあ、ダンジョンは頼んだ」


「はいはい」



 ユーディルゲルと別れた俺は、塞いでいたダンジョンの前に来た。


 大きな入り口と『入場料銅貨3枚』の看板を見て、この街がダンジョンも経済に組み込んでいる姿を意識した。



「ダンジョンを壊してはダメ、と。面倒だな」



 レガリア時代と同じ性質なら、俺でもダンジョンは攻略出来るだろう。

 最下層にあるダンジョンの心臓を破壊すれば、ダンジョンは小さい状態に生まれ変わる。


 ダンジョンとは、そうして拡大と縮小を繰り返す一種の生き物だ。



「仕方ない。小さくするけど許せ、ユディ」



 小さく謝罪の言葉を口にし、俺は塞いだ壁を消して入り口付近の魔物を殲滅した。

 魔王領は常に魔力が吸い取られる感覚があり、魔法の発動が少し遅い。


 死の荒野に比べるとまだマシだが、それでも違和感がある。




「久しぶりのソロだ。暴れ回るか」




 刀を右腰に提げ、直剣を左手に持った俺は、魔力の球体を背後に浮かべながらダンジョンへと入った。




◇ ◆ ◇




「ほい、ワンツー、ワンツー」


『ガグラァァァ!!!』


「ワンツー、ワンツー!」



 何事も無くダンジョンを攻略しているガイアは、地上から5階層目にあるボスフロアに来ていた。


 道中の4階層までは広さ何十キロメートルとある広大な空間だったにも関わらず、ボスフロアは通路と扉、そしてボスの待ち構える戦闘エリアがあるだけだった。


 ダンジョンはその体内で死んだ魔物を糧に魔力を生成し、また魔物を生み出す生き物。

 魔物や人間が死んだ際、その者の魔力を吸収する性質があるので、魔物や人間が命を落とすほど、ダンジョンは成長する。


 そうして過剰に魔力を吸収したダンジョンは、その魔力を使って魔物を大量に生み出し、溢れ返る。


 そして街に流れ込み、スタンピードと言われる。



「なぁカンガルー君。安全面から考えて、普通はダンジョンを経済に組み込まないよな?」


『ガァァァァァァア!!!!!!』


「だよな。まぁ、今まで大丈夫だったならいいと思うが、タイミングが悪すぎるよな。どうして俺達が来たタイミングで溢れ返るのかなぁ」



 3メートルほどはある巨体のカンガルー。

 その名も『タイタンナックル』


 魔王領の一部の砂漠に生息する巨大な魔物で、中央大陸には存在しない、希少かつ危険な魔物。

 大きく発達した両腕は、まるで岩石のようだ。



「はい、カンガルー君の番は終わりな。次は俺だ」



 そんなタイタンナックルのパンチを全て紙一重で避けて遊んでいたガイアは、全身に最高濃度の魔力で身体強化を施した。


 剣を影に仕舞い、握り締めた左手の拳からは空色の魔力が溢れ出ている。



「喰らえ! ガイアパーーーンチ!!!!」



 振りかぶった拳を見つめていたタイタンナックルは、音速を超えて繰り出された()()を捉えることが出来ず、体がくの字に折れ曲がり、塵となって消えた。



「フッ、またつまらぬ物を殴ってしまった......」



 ゴゴゴゴと大きな音を立てるダンジョン。

 ガイアの視線の先には、先程までは無かった次の階層への階段と、石で出来た宝箱が出現していた。



「凄いな。まるでゲームのダンジョンだ。それじゃあ早速、ごまだれ〜」



 宝箱の蓋をスライドして開けると、中には3センチ四方の銀色の立方体が入っていた。



「何だこれ......あ、アレか! 繰り返し使える氷か!」



 箱の中身はなんと、地球で一時期流行った、冷凍庫に入れて冷やし、コップに入れた後も残り続けるステンレスで出来た、繰り返し使える氷だった。



「......あぁ、そういうことか。理事長が使ってたマイク、ダンジョンで手に入る物だったのか」



 この世界にはまだ、ステンレスの製造技術は無い。

 それなのに存在するということは、ダンジョンの宝箱は地球のアイテムと繋がっているということだ。



「しかも1個だけとか、渋すぎるだろ。3つで1セットとかにしてくれないと、入れる意味も無いっての」



 文句を言いつつ影に仕舞ったガイアは、剣を取り直して次の階層へと歩き始めた。




◇ ◆ ◇




「ほい、10層ボス撃破。触手型の植物モンスターとか、女騎士が居る時だけ現れろよ」



 10層のボスは巨大な食人植物だった。

 雄蕊の触手で武器を取ろうとしてきたり、根っこで足を絡めたりとシンプルに強い魔物だったが、基本的に身体強化で事なきを得た。


 気になる宝箱を開けてみると、中にはガラス瓶が。



「空色の液体......見覚えがあるな」



 小さな瓶に入った液体。凄く見覚えがある。

 これは......ツバキさんが持ってきた、エリクサーだったか。



「まぁ、薬草あるし要らないや。でも記念に貰っとこ」



 初めてのダンジョン攻略だからな。

 1周目で出たアイテムは、例え使わなくとも思い出として保存しておこう。



「さて、進むか。出来れば屋敷の掃除用に万能メイドロボットとか入ってて欲しいな」



 そうすれば魔力供給だけで家事も掃除もしてくれるし、好きなだけミリアとダラダライフを送ることが出来る。


 ......はぁ、エメリアは何て説明すればいいんだ。



「浮気者って言われるよな。あっちが勝手に嫁だ嫁だと言っているだけなのに。はぁ......どうしてあんなこと言ったんだろう。アホらしい」



 半ば誘導されていたし、外に出る為に仕方が無いとはいえ、自分から『嫁に来るのはどうだ?』なんて言ったのは間違いだったと思う。


 まぁ、そう言ってしまったお陰でエメリアも楽しそうだし、俺も助かっているが......ミリアへの罪悪感が積もるばかりだ。


 今はただ、ミリアに謝罪がしたい。

 目先のことに囚われて、ミリアが傷つくようなことをしてしまったと。そう謝りたい。



『あら、いいオトコ♡ お姉さんといいことしな〜い?』


「なんだ、ただの痴女か」



 11階層を歩いていると、やたらとボインボインな『ないすばで〜』をした女が現れた。



『何か悩んでるんでしょ? 話、聞くわよ?』


「実は目の前に痴女が現れてな。ウズウズしているんだ」


『あらぁ♡ もう我慢出来ないの〜?』



 胸を見せ付けるように寄せてくる女。

 俺はそんな女の目を見て、口角を上げた。



「あぁ。殺したくて我慢出来ない」


『グッ......なん、で......魅了が......』



 通常の身体強化で蹴り飛ばすと、女......サキュバスの内蔵を破壊し、吹き飛んだ。



「俺を魅了するなら、絹のように白い髪にルビーより美しい赤い目をして、時々毒舌だけど甘える時は子猫のように甘えて、無詠唱の魔法にも理解がないと無理だぞ」


『そん、な......』



 一頻り苦しんだサキュバスは、ダンジョンの養分になった。


 全く、サキュバスなら夢の中でイイコトしろよ。

 夢だから何でも出来るのであって、現実でそんなことをしても俺みたいな人間は絶対に引っかからないぞ。


 もう少しやり方を工夫すれば、もっと強い魔物に変わるのに。勿体ない。




「っとと、もう15層か。ここまでサキュバスが何十人も出てくるだけだったな。つまらん」



 ずっと『あはぁん』とか『いやぁん』とかうるさいだけだった。

 そんな気持ち悪くて甘ったるい声より、ミリアの『えへへ』の方が30億倍は興奮出来る。


 サキュバスはもう少し、ミリアを見習いなさい。



「扉、オープン!」



 ボス部屋の扉を開けると、中は畳が敷かれた広大な和室となっていた。

 扉から少し進むと、もう戻れませんよと言わんばかりに扉が閉まる。



『五月雨や、(かわず)鳴く声(わらべ)()(蒸し)茹だる日の、明け暮れるとき』



 女性の綺麗な和歌を詠む声が聞こえると、小さく鈴の音が聞こえた。

 これは......なんだ? 体の感覚が薄れてくる。



『鈴鳴りの、音を聞く者手の中に。堕ちる悪夢に誘われむ』



 バタリ、と。

 体を畳に打ち付ける音が聞こえると、俺の意識は落ちてしまった。






「......痛てぇ」




 目が覚めると、俺はフカフカのベッドに寝ていた。

 真っ白な天井を見つめ、左側に顔を向けると緑のカーテン。


 あぁ、ここ、病室か。



「樹......樹! 目が覚めたのね!?」


「......ミリ、ア?」


「そうよ! 貴方の彼女のミリアよ!」



 上手く声が出せない。どれくらい寝ていたのだろう。

 体を起こすことも、足を動かすことも出来ない。

 ただ目の前にあるのは、絹のように白い髪に、ルビーよりも美しい赤い瞳をした、最愛の彼女が俺の右手を握っている。



「何が......あった?」


「樹がトラックに撥ねられたの。美香や友也が言うには、前を歩いていた私を追いかけようとして横断歩道を渡ったら、信号無視のトラックに撥ねられたって......」


「......そう、か」


「意識が戻って良かった......もう、2年も目を覚まさなかったのよ?」



 そんなに寝ていたのか。

 はぁ。温かい。ミリアにこうして手を握られていると、心がポカポカと温かくなる。



 ──ろ



「何か......言っ、たか?」


「え? ううん何も言ってない。体を強く打ったから、幻聴が聞こえてるのかも」



 ──きろ



「聞こ......える。誰、の......声?」



 ──覚ませ



 覚ませ? きろ? 何だ、この声は。

 やめてくれよ、気持ち悪い。昔の俺みたいな声で喋りかけんなよ!!



「樹?」


 ──違う


「......違う」


「え?」


 ──目を覚ませ


「樹......違う」


 ──起きろ


 何故だ? 俺は河合樹だ。何が違う?


 ──起きて



「俺、は......」


「樹? 大丈夫!?」



 痛い、痛い痛い痛い! 頭が痛い!!!

 うるさい、うるさい!! 何が違う! 何がおかしい!!


 俺は、俺は──!




 ──いき......て......がい、あ......




「俺は......ガイアだ!」




 安部くんの声が聞こえた瞬間、記憶が戻った。

 それと同時に、目の前の景色がガラスのように罅が入り、砕け散る。





「......クソが。気持ち悪い夢見させやがって」




 バチッと目を覚まし、俺は起き上がった。

 すると俺の目の前に立つ、鈴の付いた錫杖を持った僧侶のような女が目を見開き、驚愕で顔色を染めた。



『何故......!?』


「黙れ。お前が悪夢を見せるなら、俺は地獄を見せてやる」



 左手を前に出すと、女の周囲を無数の氷の槍が取り囲む。


 ──貫け


 俺の声に反応した槍が、これでもかと女の体を串刺しにする。



『グハァ!!......こんな、はずでは......』



 全ての槍が女を刺すと、女は塵となって消えた。





「はぁ......少し、休憩だ」


次回『火中のカチューシャ』お楽しみにっ!

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