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第60話 黒龍少女は無双する

今回のタイトル、新しい小説でしょうか。いいえ、ケフ○アです。



「──という訳で、はい。黒龍さんです」


「ガイアの嫁になったのじゃ!」



「......はい? 気でも狂いましたか?」



 暗い森の小さなキャンプ地。

 炎を囲んで座るスタシアさんの対面に座る俺。そして俺の隣にベッタリと張り付く黒い髪の女の子。


 月に照らされる艶のある黒髪は、あの巣で見た黒龍の鱗そっくりであり、前髪にある一房の白い髪は、黒龍のお腹側の白い鱗に酷似している。


 そう、この子はあの黒龍だ。

 俺の人生最大級の言葉選びのミスにより、嫁じゃ嫁じゃと言いまくる女の子になってしまった。



「エミィのせいで人生狂い始めた」


「ふっふっふー。余の生涯も狂い始めておるぞ?」


「俺のミスで......もう、王国に居れない......」



 名前はエメリアにした。

 由来は女性を意味する『Female』から。愛称はエミィだ。

 人間、歳を取ると幼児退行すると言うが、エミィもその例なのかな。貫禄とか一切感じないし、あどけなさと素直な気持ちを隠さない心が、とても綺麗なんだ。


 怒られる。絶対ミリアに怒られる。もうやだ泣きたい。



「エメリアは本当に黒龍なの? 角も尻尾も翼も無いけど。嘘なんじゃない?」


「む? 余の擬態が精密すぎるあまり、人間と間違われるか。余は誇らしいが......ガイアはどうじゃ?」


「知らん。もう寝る」


「あ......」



 落ち葉と魔力を編み込んだ簡易寝袋に入った俺は、エミィの言葉に答えず離れた。

 擬態とか、感想とか、もういいんだよ。

 俺はミリアが居るのに、あんなことを言ってしまったとこを悔やんで仕方がない。


 名前くらいならいいさ。でも本当に共に生きるとなれば......俺はミリアを裏切ったことになる。



「ミリア......ごめん」



 誰にも聞こえないくらい小さな声で謝罪した。

 過去数百年に渡り、1番の謝罪だ。

 自分の情けなさに涙が出そうだ。本当に情けない。


 誠実になれず、体も満足に動かせず、情けない。


 死にたい。そう思いながら瞼を閉じると、俺は深い眠りへと意識を落とした。




◇ ◇




「ん......」


「よしよし。大丈夫じゃからな。お主のことは余が守ってやる故、安心せい」



 目が覚めると、視界が真っ暗に染まっていた。

 これは隣に誰かが居ると思い、()()で押しのけてみると──



「ふにゃ! ち、乳が好きなのか?」


「ん?」



 俺は頑張って柔らかい感覚を押して視界を確保すると、顔を真っ赤にしたエメリアの胸を鷲掴みにしている光景が広がっていた。



「......ぐっ、痛い! うぅぅぅ......!」



 俺は両腕を動かした感覚があったが、実際には右腕が存在しない。

 そのせいで体と脳にズレが生じ、幻肢痛という強烈な痛みとなって体を蝕む。


 寝起きから脂汗をかきながら悶え苦しみ、精神も少しずつ弱り始めている。



「落ち着くのじゃ。お主は強い」



 エメリアは俺を強く抱き締め、頭を撫でてくれた。

 そっと、ゆっくりと。赤子をあやすように撫でられていると、段々と痛みが引いていく。



「あり......がとう」


「どういたしまして、じゃな。お主の話は昨夜、聞かせてもらった。朝に言う話でもないが、言わせて欲しい。申し訳なかった」



 俺の寝袋から起き上がったエメリアは正座し、俺に向けて頭を下げた。



「余の裁量でガイアを測り、傍に居ようとしたこと。非常に反省しておる。そしてあのようなことを言わせた余の卑しさ。蔑んでもらっても構わぬ」


「エメリア......」



 流石に寝転がったまま聞く話では無いので、俺も寝袋を出て、同じように正座する。



「スタシアからお主の話を聞いた。幾多の転生を繰り返し、それでも尚一人の女性を愛し続けたと。そんなお主の生き様に水を差したこと、余の生涯を以てしても償えぬ」



 自害する、とか言わないよな?

 例え言ってもさせないからな。絶対に。



「それでも聞いて欲しい。余はガイアを慕っておる。それ程の強さを持って尚、龍である余の命を奪わなかったこと。そして余の話を親身になって聞いてくれたその心。余はガイアの虜になった。初めてじゃった。余の話をまともに聞いてくれた者は。許して欲しいとは言わぬ。じゃが、聞いて欲しい。余は、ガイアを愛しておる」



 ......俺より誠実だな。俺とはまるで違う。

 澄んだ心で真実を受け止め、成すべきことを成すその姿は龍と言える。


 でも俺は──



「頼む、卑下をするな。ガイアよ、これはスタシアも心配しておった。お主は時折、酷く自分の心を傷つける節があると」


「......事実だから、仕方ないだろ」



 ヒビキにも言われた気がする。自己卑下が過ぎると。

 そう思っていると、エメリアは顔を上げ、横に捨てた俺の視線を両手で戻した。




「ダメじゃ。絶対にダメじゃ!!!!! 強き者に有って良いのは無限の向上心であり、自身の積み上げた物に唾を吐く嘲弄心ではない!!!!!!!!」




 大きく声を上げたエメリア。

 その剣幕と相まって、周囲の木に止まって囀る鳥達が一斉に飛び立った。



「よいか! 余は強い! 龍の階級なぞ秤にかけられんほど強い黒龍じゃ!! そしてお主は、そんな余よりも圧倒的に強い!!! じゃが、余とは比べ物にならないほど脆い! その自覚をせえ!!!」


「......知ってるさ」


「なら何故、周りの者に助けを求めぬ? 何故じゃ? 答えてみぃ!!!」


「それくらい、俺でも出来るから」


「火起こしも食材の準備も料理も拠点作りも、か? 利き腕を失い、満足に剣も触れぬと聞いた。そんな人間が満足に生活出来るはずがなかろう!!!」


「......でも」


「でも、なんじゃ? 五体満足のスタシアを頼らず、何でも一人でこなすことがお主の美学か?」


「違う」


「なんじゃ? 一人で成すことに生き甲斐を感じておるのか? お主が国へ戻った時、嫁が悲しむぞ? 『あぁ私は要らないんだ。全部自分でやるんだ』とな!」


「違う!!!」


「なら言うてみぃ! 何故お主は......独りになろうとする......?」



 俺の胸倉を掴む手を辿り、エメリアの顔を見る。

 するとその目から、彼女には似つかわしくない透明な雫が零れ落ちていた。



「俺は......分からないんだ......今まで頼られることはあっても、頼ったことは数回しかない。それに、全部自分で出来ないと死ぬ世界に居たから......だから......」



 続く言葉は言わなかった。否、言えなかった。

 気が付くと俺の唇をエメリアの唇で塞がれており、満足に口が動かせなかった。



「大丈夫じゃ。それが言えたなら、お主もまだまだ成長出来る。この旅の間だけでよい。余やスタシアを頼り、生きてみよ。(きた)るミリアに再開する時、甘えられる人物になろう?」


「......うん」



 崩れ落ちるように力を抜くと、エメリアはそっと俺を抱きしめ、頭を撫でる。

 甘えるって、どうやるのかな。

 あれだけ長い時間一緒にいても、俺はミリアに甘えられなかった。


 でも、それが悪い経験とはもう思わない。


 これからは沢山甘えたい。沢山沢山甘えさせてもらって、今度は俺がミリアを甘やかせたい。

 そんな人間に俺は......なりたい。



「偉い、偉いぞ。これまでよう頑張った。永きを生きる余が言おう。お主は偉い。じゃから、そろそろ甘えるのじゃ。お主はもう、孤独ではない。独りになろうとするでない」



 エメリアの着ている黒のワンピースを涙で濡らしながら、俺は再び眠ってしまった。


 その眠りは旅が始まって以来、初めての熟睡だった。

 自分を追う者も、辿る者も、襲う者も居ない。極めて平和な暖かい眠り。


 頭に乗せられた小さな温もりが、更に俺の心をポカポカと温めてくれる。




◇ ◆ ◇




「可愛い寝顔じゃな」


「何があったのか、聞かないことにしておくわね」


「うむ。これでガイアも一皮剥けるじゃろうから、スタシアも遠慮する必要は無いぞ?」


「遠慮するわよ。逆にエメリアは遠慮が無さすぎるわ。出会って1日も経っていないガイアを相手に、そこまで言うなんて」


「なに、余も人の理から外れた者故な。スタシアと比にならん時を生きておる。アレじゃ。『しんぱしー』というヤツじゃ」


「ふ〜ん。ま、どうでもいいけど」




◇ ◆ ◇




 目が覚めた。

 脳がゆっくりと覚醒して、自身の身体状況と周囲の体温を鋭く感じさせる。



「起きたかの? もう昼を過ぎたぞ?」


「......すっげぇ寝てた。起きるのダルい」


「仕方無いの。ほれ、手伝ってやるのじゃ」



 エメリアに体を起こさせてもらい、俺は空を見た。

 青々とした広い天井は際限が無く、ボーッと眺めているだけで様々な思考が生まれる。


 ミリアのこと。ゼルキアのこと。サティスのこと。そして、友達のこと。


 不思議と自分のことは考えられなかった。

 何故か今は、そんな自分が正しいと思える。



「龍は空を制する者と言われるが、例え龍であっても空を制することは出来ぬ。際限なく広がる空間を手にするなど、神でもなければ不可能なことじゃ」


「......だな」



 肌寒い。

 レガリア王国はもう、冬になっていることだろう。

 今頃11月か12月か? 雪も降る地域だし、ミリア達は風邪を引かないといいな。



「あら、起きたのね。お寝坊さん」



 澄んだ空気を吸っていると、スタシアさんが上から覗き込んできた。

 色々と見えそうで危ない景色だが、どうせお互いに深く思わない。



「......おはようございます」


「おはよう。今日はどうするの?」


「そうですね......のんびりキャンプでもしますか。街までも近いみたいですし、少しゆっくりしましょう」



 エメリアの肩に手を置いて立ち上がった俺は、今まで抱いていた小さな焦りを捨てて、影から薪の山を出現させた。



「む? 行かぬのか?」


「あのガイアさんが......ゆっくり!?」



 ガッカリするエメリアと驚愕するスタシアさん。

 スタシアさんからすれば、確かに驚くだろう。

 あれだけ早く帰ることに拘っていた俺が、急に『ゆっくりしましょう』なんて、想像もつかないはずだ。



「エミィ、北の川で魚を採ろう。スタシアさんは火の管理と野草の採取をお願いします」


「分かったのじゃ!」


「わ、分かったわ。本当にゆっくりするのね」


「勿論です。ここまで動きっぱなしでしたからね。休憩です」



 俺の予想じゃあ、ミリア達は王国で情報の収集と学園生活を送り、セナとヒビキ、ついでにツバキさん辺りが俺の捜索に出ているはずだ。


 あれから半年以上も経っているのだから、そろそろ肉体と精神の疲労がくる。

 捜索組も一区切りを付けるはずだし、俺も休憩だ。




◇ ◇




「そう、気配を殺して魚の前に糸を垂らすんだ」


「......こうかの?」


「もっと抑えろ。心を無にしようとするな。それすらも邪念となって気配を放つ」


「......」



 丸太を椅子にして2人で座り、釣りをする。

 長い枝を俺の魔力で強化し、草の繊維を強化して編んだ糸を付け、針は木の棘を用いた簡易的な釣り竿を使っている。


 餌はそこら辺の朽木に居る幼虫だ。

 興味本位で生で食べてみたところ、かなり美味しかった。



「啄いているのじゃ」


「針を飲むまで待て......今だ」


「ほいっ!」



 エメリアは竿をぐっと引き上げると、ビチビチと跳ねる大きめの魚が釣れた。



「やったのじゃ! かなり大きいのではないか?」


「大きいな。おめでとう」


「次はガイアの番なのじゃ。魅せておくれよ?」


「いいぞ。竿を貸してくれ」


「うむ!」


「ありがとう」



 1本しかない竿を貸してもらうと、エメリアはおもむろに俺の膝にちょこんと座った。

 あまり俺と背丈が変わらないから、少し大きく感じる。


 というかこれ、仲良しの兄妹にしか見えないだろ。



「うむ、これでは兄妹のように見られるの。反対に向くのじゃ」



 同じことを思ったエメリアは、俺と顔を合わせるように体の向きを変えた。

 バッチリと大きな瞳で俺と目を合わせると、次第に顔を赤くして俺の肩に顎を置いた。



「お、おぅ......恥ずかしいのじゃ」


「急に危ない光景になったぞ」


「じゃな。余に興奮するか?」


「ん〜......あんまり、かな。心は喜んでるかもしれないが、体がそれに追い付いてない」


「......そうか」


「それより体勢を戻せ。見るんだろ? 俺の釣りを」


「そうじゃな。そうさせてもらうのじゃ」



 流れるように嘘をついてしまった。

 今の俺、シンプルに理性が本能とアルマゲドンをしてカタストロフを迎えるところだったぜ。


 普通に考えて美少女が膝の上に乗っているんだし、意識が向かない訳が無い。



「よっこい......せっ!」



 頑張ってエメリアから意識を逸らして竿を持ち上げると、草の糸の先に連なる魔力の糸に、5匹あまりの魚が食い付いていた。



「あ! 魔力を使うとはずるいのじゃ!」


「別にいいだろ? ちゃんと釣ったんだし」


「う〜! 流石に糸に出来るほどは操れないのじゃ......」


「練習するしかないな。教えてやるから、暫く大人しくしてろ」



 昔のサティスを思い出しながら、俺はエメリアに魔力操作の練習法を教えた。



 夢中になって練習していたエメリアは、俺が1週間分の魚を釣り上げる頃にはすぅすぅと寝息を立てていた。

 サティスみたいで、本当に可愛い。




「さて、日も暮れるしそろそろ帰ろう。明日は次の街に行かないと」


新キャラのエメリアちゃんさんです。

初めてガイアを捕まえることに成功した、ヤベー奴です。

良い子ですので、仲良くしてやってください。では!



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