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第6話 初めての魔法



「魔法の使い方は簡単。起こしたい現象をイメージして、それに繋がるように魔力を変形させるの」


「はい、先生!」


「ん、なに?」


「魔力の変形とはなんでしょう! 理解してません!」



「はぁ......そう言えばそこから説明しないとなのね......」



 精霊に魔法の使い方を押してもらうことになったのだが、そもそもの前提条件を理解していなかった。


 先生(精霊)が言うには、まず『魔力を感じること』から始めろとのこと。精霊は本能的に出来る魔力の感知を、俺は意識して認識しないとダメらしい。


 いや〜、すみませんね、そもそもの魔力が垂れ流しで。抑え方が分からんのですよ。



「君、ここまで森を育てたのに自分の魔力を制御出来てないって、異端もいいとこだよね。人間で言うなら、膀胱から垂れ流しなのよ?」


「......それって、恥ずかしいこと?」


「さぁ? そもそも魔力が溢れ出す生物なんて私は知らないし、稀有な存在だとは思うわ」



 お漏らしに関しては置いておこう。

 今は魔力の存在を感じることについて、きちんと意識して取り組もうじゃないか。



「魔力って、どう感じるんだ?」


「ん〜、呼吸を深く意識した時に、血の巡りとは違う体液の流れを感じるんじゃないの?」


「偉く他人事のように話すんだな」


「だって他人事だもの。私に血という概念は無いし」


「そうか......ごめん」


「何を謝ってるの?」


「いや、ちゃんと俺に合わせて教えてくれたのに、その気遣いに気付けなくて。だから、ごめん」



 好意で教えてくれているのに、その裏にある優しさに気付けない俺はバカだ。貰えて当然の物じゃないのだから、感謝の気持ちを忘れてはいけないんだ。



「ふふっ、面白いね。これが人間の優しさかな? 仲間の精霊は皆『人間は餌』って言うけど、君は違うね」


「え、餌?」


「そう。餌。ご飯。人間はそこらの魔物より魔力の成長が盛んだから、人間から得られる魔力量は魔物の比じゃないの」


「......俺、食われるのか?」



 やはり、言葉が通じるのは危険だ。

 精霊が人間を食料だと思うように、一度は仲間だと認識させた後にバクっと食べられるのかもしれない。


 或いは、体からチューチュー魔力を啜り取られるのかもしれない。



「嘘に決まってるでしょ?」


「嘘かよ。本気でビビったんだが」


「まぁ、君と同じように、私も異端者。普通は精霊も人間も、群れて生きるものなの。なのに私も君も、1人で森暮らし......って、この話はいいわ。早く魔力を感じなさい」


「気になるなぁ」




 俺は悶々とした気持ちになりながら、精霊の言う魔力を感じる為、目を閉じて呼吸に意識を向けた。



 ドクン、ドクン......



 人間として、生物として至極当然の動きである心臓の脈動を感じ取っていると、その中に妙な雑音を感じた......のだが、その雑音に気付いたのは、実に1週間も後の事だった。


 1週間も経てば大事な所を隠す程度の衣服を身に着け、拠点予定地には木製小屋の骨組みが完成している。


 そして俺の漏れ出た魔力の水溜まりは大きくなり、今では貯水槽の様な、プールと言える程に大きくなった。



 ドクン、ドクン、チュドクン......



 数回に1度のペースで、血の巡る音にノイズの様な音が走る。これがきっと、魔力の流れなのだろう。

 ではこの音の正体を探るべく、更に深く、呼吸の中に意識を溶け込ませる。



「ふぅ......あった」


「あ、見付けた?」


「あぁ。感覚で話すから伝わらないと思うが、満杯のプールの上からホースで放水しているな。しかも、このプールには穴が空いている」


「全く意味が分からない。もっと分かりやすく伝えて」


「穴の空いたコップに、持続的に水を流し込んでいる」


「ふむ......」



 目を開けると、精霊が顎に手を当てて考え込んでいる。

 俺はそんな精霊の姿に、少し興味が湧いた。


 この(精霊)は何がが好きなんだろう。

 この(精霊)にはどんな服が似合うのだろう。

 この(精霊)の興味は、どこから湧くのだろう。


 そんな単純な興味を持った俺は、出来ればもう少しだけでも長く居たいと思った。


 この先長い人生、楽しいと思えることはどんどんとやっていきたいからな。



「どうしたの?」


「ううん、何でもない。それで、俺はこの水を変形させるイメージを持てばいいんだな?」


「う〜ん......多分ダメね」


「どうして?」


「君のイメージは柔らかすぎるから。自由が効きすぎるのよ」



 あぁ、ハンドルが緩すぎる自転車みたいなものか。

 少し曲げようとすると直角にハンドルを切ってしまうように、微調整が難しいと、精霊は言いたいのだろう。



「最初は簡単な魔法でイメージしましょ」


「例えば何だ?」


「水、又は火ね。魔力を体の外に追い出し、強くイメージして具現化させるの」



 そう言って人差し指の先から小さな炎を作った精霊は、その火を俺の魔力溜まりに投げ捨て、消火した。



「君は水の傾向が強いから、氷なんかも作れるかも」


「ちょっとやってみる」


「無理しないでね。氷はそこそこ難しいから」



 ここで一発で氷を作れたら、もしかしたら精霊の興味を惹けるんじゃないか? そしたら素質やら何やらを認めてもらって、更に色んな魔法を教えてくれるのではないか?


 よし、頑張れ俺!



「くっ......はぁぁぁあ!! いでよ、氷ッ!!!」



 ポスっ! チョロロ......



「ぷっ! ふふふふふふ! 見事に失敗したわね!」


「......何がダメだったんだろう。ちょっと考える」


「勉強熱心なのは良いことね。待つわ」



 まず、今のは魔法と言えるのか、ということから精査しよう。その前提問題をクリアしないと、上手く魔法を使うことは出来ないも思うからな。


 では、今の水は魔法ですか? Yes or Noで答えると?


 答えはYes。魔法だ。何故魔法と言うか、それは本来ここには無い、真水を作り出すことには成功したからだ。


 この森には今のところ、川が無い。つまり、純粋な水は果実からしか得られない。それが今しがた、俺の魔力を使うことによって作られてしまったのだ。


 ただ、失敗ではある。だって氷で出てきてないから。


 次の問題点はここ。『どうして氷で出てこなかったのか』これについて考えよう。


 俺の考えでは、3つほど原因が考えられる。


 1つは単なるイメージ力不足。

 俺が氷を何なのか、きちんと把握していないが故に発生した問題という考えだ。


 2つ目はプロセスの間違い。

 こちらは、以前に精霊が魔法を見せた時のように、何かしらの呪文らしき言葉を唱えないといけない、という考えだ。


 そして3つ目。熟練度不足。

 俺の魔法への理解が足りないだけでなく、そもそもの試行回数の少なさが与えた結果だという考え。



「イメージを試すか」


「うんうん、見せて見せて」



 俺は右手を前に出し、手のひらを上に向けた。


 そして体内に感じる魔力の一部分を手の上に出してみる。するとここで、俺の手には空色の液体が浮いているのが見えた。


 第1ステップ、魔力の感知、及び取り出しの成功だ。


 次にこの魔力には水に変化するよう、イメージする。

 水とはまず、液体だ。そして液体の中でも、水分子がふよふよと動き回っている状態のことを水としよう。


 これが俺の頭で分かる、水だ。



「......いいね。その調子」



 そして氷とは、水の中を動き回る水分子が、ピタッと停止している状態だと認識している。

 なので、この中の魔力を完全に停止するイメージを水へと送る。


 すると驚くことに、手のひらの水は完全な氷となった。



「どう?」


「大成功ね! 本当に魔法を初めて使ったとは思えないくらい、精密な氷になってるいわよ!」


「やったぁ......あ〜疲れた」



 頭の中で固めていたイメージを崩すと、手のひらの氷は瞬く間に空色の魔力へと変わり、土に吸収された。



「やっぱり化学の知識が魔法には強いな」


「カガク? 何それ。学問の名前?」


「そうだよ。俺は魔法の無い世界から生まれ変わった、転生者だから」


「てん......せいしゃ......」



 俺の何気ないカミングアウトに、精霊はボーッと意識を飛ばし、しばらく帰ってこなかった。


 理解するまでに時間がかかる、俺にとっての魔法と同じようなものだと思った俺は、近くで魔法の練習を見守っていた安部くんをモフり始めた。


 そうして精霊の意識が帰ってきたのは、5分後のことだった。



「君、勇者なの?」


「何それ。痛々しい職業?」


「違うわよ。魔王討伐の為に異世界から召喚された、強い人のことよ」


「じゃあ残念ながら違うな。俺は気付いたらこの森が出来る前の、だだっ広い草原で目が覚めたから。誰かと話したのは精霊が最初だぞ」


「え?......でも確かにそうね。2代目の勇者召喚は、今の勇者が亡くなったら行うって言ってたし......」



 俺が勇者? ンなことある訳が無い。今の俺は他者に手を差し伸べられるほどの余裕が無いし、力もない。

 強いて言うなら、空色の魔力が溢れ出すくらいしか出来ない、魔力噴水のお飾りさんにしかならない。


 そうだな......俺はこの体質? 力? を使って、異世界で小便小僧をやるのが向いているかもしれない。



 なんてな。



「じゃあ、俺も立派なはみ出し者だ。暫くは森から出る気も無いし、精霊も一緒に居てくれよ」


「それもそうね。枠から外れた者同士、仲良くしましょ」


「あぁ。これからもよろしく」


「えぇ。よろしく」



 こうして俺は、生活が豊かになるまでの間、話し相手と魔法の先生となる精霊を捕まえることに成功した。


 精霊も精霊で、同種族の枠に入れないみたいだし、暫くは共に生活して、仲良くなれるだろう。




 そんな、自由気ままなサバイバルライフを送っていると、200年の時が経った。

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