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空色魔力の転生者 ─泡沫の命と魔法の世界─  作者: ゆずあめ
第2章 エデリア王立学園
52/123

第52話 恐怖

次回予告が.....当たったッ!?



「おはようございます。試験の結果を聞きに来ました」


「おはようございます、ガイアさん。あの試験の結果ですが、両者の意見を踏まえ、《鋼鉄級(メタル)

ではなく《鉄級(アイアン)》に昇格となりました。ですので、ギルドカードをお出しください」



 ツバキさんを振り切ってギルドに来た俺は、灰色のギルドカードを懐から取り出し、受付嬢さんに手渡した。

 軽く裏表のチェックを終えた俺のカードは、薄い鉄板のような物に情報が刻み込まれた物に取り替えられた。


 名前の横に《鉄級》と書かれており、これが新しい俺の身分証明書となるようだ。



「昇格おめでとうございます。10歳の方で《鉄級(アイアン)》になられた方は本当に少ないですよ!」


「本来はもう一個上のはずなんですけどね......はぁ。では、討伐依頼を受けさせてください。今のランクで1番、金になる依頼を」



 今はどうしても金が欲しい。

 その気になれば金貨を崩せばいいが、屋敷のメイドに長期間に渡って払えるかと言えば、直ぐに金が尽きるのが現状だ。


 出来る限り早く冒険者ランクを上げて、小さくてもいいからコツコツと継続的にお金を稼ぎたい。



「ん。それならコレ。オーク討伐がいい」


「ツバキさん!? い、いらっしゃいませ!」


「......来たんですか」


「ん。ミリアに聞いたら、今日一日はガイアを貸すって。落とせるものなら落としてみろ、って言われた」



 ミリアに直接聞いたのか。凄まじい根性だな。

 それに、ミリアからの信頼が厚くてさらに惚れる。

 何があっても落とせないという、彼女の深い愛を感じるよ。



「じゃあオーク討伐でお願いします」


「すみません。オークは《鋼鉄級(メタル)》以上でないと「私も行く」......分かりました」


「権力乱用では?」


「ううん。上のランクの人が下のランクの人を連れて行くことはよくある」


「それ、下のランクの人が死にませんか?」


「死ぬ。だから、ギルドは見つけたら怒る」



 この人、今目の前で、受付嬢に向かって『私も行く』って、上のランクだから連れて行くと言ったよな?


 確かに、ツバキさんのランクなら誰よりも信頼出来る相手だとは思うが、その行為自体が良くないと解説するのはどうなのだろうか。


 受付嬢さんも一瞬だけ困っていたし、あまり褒められたことではないよな。



「今回に限っては、ありがとうございます。ですが、次からは辞めてください。もしやったら、怒りますからね」


「ん。もうやらない。ガイアに怒られたくない」



「「「「「え????」」」」」



 ギルドではなく俺に怒られたくないと言った瞬間、周りの受付嬢だけでなく、俺を異常な者として見ていた者達が揃って声を上げた。


 そりゃそうよな。あのツバキさんが、ただの子どもに『怒られたくない』とか、有り得ないもんな。



「で、では、受付完了です......」


「ありがとうございます。行きますよ、ツバキさん」


「うん! ガイアの剣、横で見る」




 ◇ ◆ ◇




 ここはヒビキと出会った森の最深部。

 辺りには濃霧が常に発生しており、並の冒険者じゃ足を踏み入れたが最後、迷った果てに餓死か魔物に食われるのを待つと言われる場所。


 通称『魔の森』


 ギルドでは冒険者ランク《純銀級(シルバー)》以上、つまりはその街でトップクラスに強い者のみだけ、入ることを許されている森。


 ただ、そう言われているのは深い場所のみであり、俺のような《鉄級(アイアン)》は、浅い場所なら簡単に入れてしまう。


 そして知らず知らずのうちに奥に進み、迷うそうだ。


 それ故だろう。《鉄級(アイアン)》の死亡率がトップだと言われるのは。



 そんな魔の森で1人の男の子が、狐の獣人を連れて散歩していた。



 そう、散歩だ。



「あ、見てください! 剣みたいな形のキノコですよ!」


「それはツルギサキ。研磨剤になる」


「こっちには壺みたいな草が!」


「ん。ツボミクイ。小さな魔物を食べる草」



 暗い森の中で幼い少年のように目を輝かせるガイア。

 そしてそんなガイアの疑問に答える、知識が豊富なツバキ。


 傍から見れば姉弟のように見える2人だが、その足跡は真っ赤に染まっていた。



「ガイア、そろそろ剣を使って」


「嫌ですよ。魔法の方が速いですし、安全です」


「むぅ。ここまで全部魔法で倒してる。しかも無詠唱で」


「ツバキさんの知り合いなら、無詠唱くらい出来る人もいるでしょ?」


「いる......けど」



 未だに無詠唱で魔法を発動させる方法は不明だ。

 だがツバキの周りには、ガイアを含め4人ほど、無詠唱で魔法を使う者が居る。


 ガイア、ミリア、ゼルキア。この3人ともう1人。


 ツバキと同じ《幻級(オリハルコン)》の、『ミュウ』だ。


 彼女は天性の魔法の才があり、その2つ名は『万象』

 魔力さえあれば、彼女に使えない魔法は無いと言われる。


 そんなミュウもまた、無詠唱魔法の使い手だった。



「ツバキさん。俺は金を稼ぎに来たんです。剣術を見せる為に来たんじゃありません」


「分かってる。じゃあこうする。今から私は帰る。ガイア、帰り道分からないでしょ?」


「分かりますよ」


「うん、でしょ......え?」


「この森なら、木が答えてくれますからね。帰り道ならいくらでも聞けます」


「......ズルい」



 ガイアの剣を振る姿を見たかったツバキは、悔しそうに歯を食いしばりながらスカートの裾を握り締めた。



「......はぁ、分かりましたよ。そんなに力強く握っちゃ、服がダメになります。次は剣で戦うので、手を離してください」


「......うん」


「では行きましょう。そんな膨れっ面じゃなくて、笑顔でね」



 ニコッと笑ったガイアは、自らの影に仕舞っていた刀を提げ、ツバキの手を取って歩き出した。


 自分の1番見たいガイアの姿が見れると分かった上に、手を繋がれたツバキは、刀血と畏れられる冒険者ではなく、1人の少女としての笑顔で、ガイアに手を引かれた。




 ◇ ◆ ◇




「さて、なんか大きなオークですね。行きますよ」



 鯉口を切った俺は、道中に見たオークの2倍はありそうな豚の頭をした、灰色の肌の巨人を見付けた。

 背丈は5メートルはある。かなり巨大な魔物だ。



「......マズイ、オークキングかも」


「何ですかそれ?」


「オークの親玉。強い魔物は知性がある。だから、魔物を纏める存在もいる。その1つが、オークキング」



 ツバキさんはスカートからナイフを取り出し、万が一に備え、少し離れた位置に移動してくれた。

 そして俺は、少しヤバめの敵に喧嘩を売ったかと思い、1歩足を引くと──




『ブモォォォォォォォォォォオオッッ!!!!!!』




 轟音。鳴き声を超えた、破壊の音を浴びた。


 そんな音を至近距離で捉えた俺の耳から、痛みと共に液体が流れ落ちる感覚がした。



「......鼓膜破れた」



 薬草もあるし魔法も使えるので、治すことも出来るが......敢えて治さないことにした。


 だって音が聞こえないこの世界は、戦う俺に安らぎを与えてくれるから。



「すぅぅぅぅ......ッ」



 全身に施した身体強化は俺の筋肉を何十倍にも力を与え、抜刀の構えから放つ瞬速の居合切りは、コンマ1秒にも満たない時間で、オークキングの両足と両腕、そして腹をぶった斬った。


 2振り。左上から右上に、返す刃で右上から左下へ。


 このたった2振りで、オークキングの命は風前の灯となった。



 何が起きたかも理解出来ずに転がるオークキングの上半身に近付き、刀を振り下ろして首を斬る。



「来世では、幸せに」



 そうして、戦闘は10秒も経たずに終わりを迎えた。

 刀に付着した血を振り払い、静かに納刀した俺は、影から取り出した魔力漬けの薬草を絞り、そのエキスを耳に差した。


 すると瞬く間に鼓膜が修復され、俺の聴覚が快復した。



「何が......起きたの?」


「もう大丈夫ですよ」


「イヤ! 触らないで!!!!」



 え?



 そんな、間抜けな声を出しかけた俺だが、直ぐに理由を理解した。


 俺が怖いのだろう。オークキングの強さは分からないが、あれだけの巨体だ。きっと、凄まじいパワーとスピード、そしてテクニックを以て殺しにくる。


 そんな魔物を相手に、10秒以内で仕留めた少年。


 ......恐怖以外の、何物でもない。



「さようなら。可愛い狐さん。どうか幸せに」



 ツバキさんに別れの言葉を告げた俺は、ヒビキにオークキングの死体を影に入れてもらい、その場を立ち去ろうとした。



「待っ────」



 続く言葉を聞く前に、俺は森の更に奥へと駆け出した。



 光る小さな雫の軌跡を残して。




 ◇ ◇




 あれからペースを落とし、もう陽の光が全く入らない程深く暗い森の中で、俺は小さく座っていた。



『がいあ......だいじょうぶ』


「来るな。戻ってろ」


『......クゥン』



 心配して顔を出すセナを引っ込め、後悔の念に押しつぶされる。


 何も上手く進まない。愚かな自分に反吐が出る。そしてそんな、自分を貶す俺に対しても、ドス黒い塊が胃の中で暴れている。



 吐き出したい。けど吐き出せない。



 それは形を持たない物であるから、吐いたとしてもそれは朝食だ。

 暗く、冷たく、熱く、痛い。この不快な塊を取り出そうとすれば、自然と刀に手が伸びる。


 鞘から刃を抜き、自分の腹に向ける。そして──



『お止め下さい!!!!』



 ヒビキが俺の手を掴み、刀を取り上げた。



『切腹などして、それがガイア様の得になる訳がございません!!!』


「......切腹なんかしない。ただ、腹の中の物を出──」


『自分が何をやろうとしたか、よく見てください!!』



 凄まじい剣幕で俺の刀を捨てたヒビキに言われ、俺は自分の姿を見つめ直す。


 すると、腹に剣先が当たったのか、僅かに血が滲むシャツに、道中でツバキさんと食べたサンドイッチだった物が散らばっていた。


 俺は......何をやっているんだろう。



『俺はこんなことをさせる為に刀を渡していません。本当に実行に移すようなら......俺は、ガイア様を殺します』


「......好きにしろ」



 刀を拾った俺は、刃を握り締めた。

 手の皮膚が切れて血が流れ出るにも関わらず、強く握る。

 痛みが手を伝い、全身に駆け巡る。

 反射的に離そうとする手を、強すぎる自制心で押さえ込み、握り続ける。


 この行為に意味があると思えない。思えないのに......



「ガイ......ア?」



 虚ろな目で刀を握り続けていると、近くから聞き覚えのある声が聞こえた。


 あぁ、幻聴か。

 もう人としての終わりが近いのかもな。

 あの人がここに居るはずがない。


 俺を恐れ、逃げ出した人が帰ってきたことなんて......どの時代にも居なかった。

 仮に見付けたとしても、皆冷たく、動かなくなっていた。



 君もそうだろ? 俺を恐れ、離れたのは。



 どんな時も、どんなことをしても、俺を受け入れてくれたのは......ミリアだけなんだよ。




「ガイア!!!」




 熱く煮え滾るような想いの込められた声が、下を向いていた俺の顔を上に向けた。


 その瞬間に飛び込んで来たのは、この暗い場所でも銀色に輝く、美しい髪を持った女の子だ。

 血の滲んだ刀を弾き飛ばした少女は、俺より大きな体であることを活かし、俺の体を包み込んだ。


 その体は酷く冷たく......温かい。



「ごめんなさい......ごめんなさい......ごめんなさい」



 紡がれる音は淡い青。瞳に映る景色は深海の如く。

 雪のように白い(きぬ)は、黒く染まる俺の心を優しく冷やしてくれる。


 一度離れた雪の狐は、藍の心で現れた。



「どうか......許してください」



 唇に触れる柔らかい感触。そこには冷たい心も冷えた言葉も無く、ただ温かい想いが詰まっていた。

 春の暖かさを思わせる銀色の景色と柔らかな熱は、瞬く間に俺の心を溶かしていった。



「ツバキ......さん?」


「ごめんなさい」


「......何を謝ってるんですか」


「ガイアを恐れた。貴方の強さを理解出来なかった私は、貴方を避けた。こんなにもポカポカするのに、私は......」



 これ以上聞きたくないと思った俺は、血塗れの手でツバキさんを抱き締めた。



「もう、いいです......伝わりましたから」


「でも!」


「ダメです。これ以上は受け取れません。ツバキさんの想いを全て受け取ることは、ミリアを裏切ることに値しますから。ただ......」


「ただ?」


「俺から少し、渡します」



 ツバキさんに甘えるように、俺は小さく抱きついた。

 ミリアとは違い、それなりに大きな袋に想いを込めて、ぎゅっと抱きしめる。


 ミリアと同じものではないが、ほど近い想いを。



「ふふふ、ミリアに勝てる部分、見付けた」


「怒られますよ?」


「いい。ガイアの心のお家はミリア。でも、ガイアの心のお風呂は私になるから」


「物は言いよう、ですね」



 冷たい。けれど温かいツバキさんに包まれた俺は、体が未発達なせいもあるのか、気付かないうちに意識を落としてしまっていた。



 次に目を覚ましたのは、王都にある宿屋のベッドの上だった。



 掛けられた布団をどかし、左右に朧気な視線を向ける。


 するとそこには、薄着のツバキさんと可愛い寝巻き姿のミリアが俺の傍で眠っていた!




「な、何? この状況」

なんか、途中で変な人の紹介入りましたね。ダレダロウナー。


次回『森暮らし』お楽しみに!

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