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空色魔力の転生者 ─泡沫の命と魔法の世界─  作者: ゆずあめ
第2章 エデリア王立学園
51/123

第51話 ありがとうなの!

リアタイで追ってる方、多分「タイトル変わってね?」と思うかもしれないですが、しっくりくるまで試行錯誤する予定です。ごめんなさい。




「ん......ふわぁぁあ。ん? あぁ、セナ」



 目が覚めると、セナを枕に寝ていたことに気付いた。

 昨日は夕食も食べずに寝ていたせいか、窓を開ければ仄暗い空が広がっていた。



『がいあ、おはよう』


「おはよう。散歩に行かないか?」


『うん! いく!』



 俺は制服から外出用の服に着替え、いつもの小型犬サイズに姿を変えたセナと一緒に寮を出た。

 まだ暗いせいで少し肌寒いが、静かな時間にピッタリな冷たさだ。



「ヒビキ」


『はっ』


「子爵領のその後は?」


『特に問題も起きず、平穏の日々でございます』


「そうか......なら、警戒の任務を終える。俺の護衛兼弟子に戻れ」


『はっ』



 そろそろダリアも手紙を出した頃だろう。

 あの領主夫妻にダリアの現状を知ってもらい、その後の生活はダリアに任せるとしよう。


 俺の人助けのミッションも、これでクリアだな。 



「〜♪」


『がいあ、くちぶえじょうず』


「だろ? 指笛に歯笛も出来るぞ」


『ホント!?』


「あぁ。元は作戦の合図に習得したんだが、思いのほか楽しくてな。気付いたら上手くなってた」



 今まで自分に出来ないようなことが出来た時って、嬉しいんだよな。

 自分の成長を実感できるし、気付いたらハマっている。


 

 俺の技術の根幹は、全て『楽しいか否か』だからな。



「さて、近所迷惑にもなるし辞めとこ。そうだセナ、競走でもしようぜ」


『うん! おっきくなっていい?』


「勿論。人も居ないし、元の大きさで走ろう」



 出会った頃は体高1.5メートル程だったセナは、今は1.8メートル程にまで成長している。


 やはり、まだ子どもだったようだ。

 これからもどんどん大きくなっていくのが楽しみだ。



「それじゃあ、よ〜い......ドン!!」



 ズバッ! と、風を切る音を立てながら走り出した俺達は、学園の真ん中を通る大きな道を2人占めにした。


 そして広大な敷地を一周すると、セナが走り足りない様子で顔を舐めてきたので、もう一周もう一周と、日が昇るまで走り続けた。



『へぇ、へぇ......もっと!』


「疲れてんじゃねぇか。競走はもう終わりだ」


『え〜!』


「ほら、小さくなって頭の上に乗れ。水飲んで休んでろ」


『う〜!......はい』



 可愛く唸るセナを頭に乗せ、魔法で口の前に水を出した。

 ペロペロと水を飲む音を聞きながら、今度は逆向きで散歩を再開した。



「時計回りが全てじゃない。逆に進むこともまた、新たな発見に繋がる」


『そうなんだ〜』


「ま、俺は突っ走るから中々出来ないけどな」



 段々と暖かくなる空気を吸い込んで歩いていると、金髪縦ロールを揺らしながら走っている女子生徒の姿が目に入った。


 間違いなくセレスだな。


 と、あれ? もう1人女の子姿が見える。あれは──



「おはよう、セレスとダリア」


「おはようございます、ですわ! ガイアさん」


「お、おはようなの! ガイアくん!」



 深く、それはもう深く頭を下げて挨拶するダリア。

 そんな姿を隣で見たセレスは、ギョッとした顔で俺を見てきた。



「な、何があったんですの?」


「ガイアくんは恩人なの! 救世主様なの!」


「「はい?」」



 何を言ってるんだこの子は。

 熟れたバナナが遂に腐り始めたか?

 ......それは言い過ぎた。すまないダリア。許してくれ。



「あ〜、まぁ、元気そうでよかったよ。アヤメとはどうなんだ?」


「アヤメちゃんはすっごく優しいの! ダリアとも遊んでくれるし、お勉強も教えてくれたの!」


「そうか。それはよかった」


「あとねあとねっ、アヤメちゃん、ずっとガイアくんの話をしてるの!」


「......そうか」



 反応に困る。

 でもまぁ、あれから前に進めたのならよかった。

 ガーネット領の話については、多分領主から手紙か何かをヒビキが届けたのだろう。


 多少のお願いは聞いてやれと言ったし、そのお陰かな?



「口を開けば『主に撫でてもらった』『主に褒められた』って、1日に500回くらいは言ってるの!」


「だ、ダリアさん? ガイアさんが困っていますわよ?」


「あっ......ご、ごめんなさい」



 気が付けば俺の目の前にダリアの顔があり、セレスに注意されると直ぐに離れた。


 ダリア、人との距離感が壊れちゃったな。



「それで、ガイアさんも朝の鍛錬でして?」


「ううん、それは終わった。今は散歩してて、この後ギルドに行こうかな〜って」


「「ギルド!!」」


「うん。2人も冒険者じゃないのか?」



 そんなに驚くことなのだろうか。

 確かゼルキアも冒険者になっているし、ミリアだって冒険者だ。

 他にも結構な人数が冒険者だと思うが......



「ワタクシは親の許可が降りなくて、冒険者ではありませんの」


「ダリアもなの......危険だからって、許してくれないの」


「その点ガイアさんは、ご両親に何も言われなかったのでして?」


「......言われたような、言われなかったような......記憶が曖昧だな。ただ、家に金貨を5枚くらい入れたら何も言わずにいてくれたよ」



「「金貨5枚!?!?」」



 実は、家族には指名手配犯を捕まえたことは言っていない。

 それ故に、俺が急に金貨を持ってきたことに父さん達は驚いたことだろう。今思えば、説明すれば良かったと思う。


 夏休みに入ったら、帰省でもするか。



「とにかく、結果を出せば大人は認める。周囲に認められたいのなら、それ相応の結果を出せばいい。まぁ、最悪死ぬけどな」


「ん。でもガイアは特別。この前の件だって、普通の人なら死んでる」



 ......え?



「「え?」」



 気付いたら後ろにツバキさんが居たんだけど。

 ちくしょう、油断していて接近に気付かなかった。

 色々と仕出かした後だから、油断すれば死ぬ状況にあるというのに、俺は甘えてしまった。



「おはようございます、ツバキさん」


「おはよう、ガイア」


「今日は装備を着けていないんですね。オフですか?」


「ん。2日分の依頼を終わらせたから、遊びに来た」



 いつものライトアーマーではなく、ツバキさんの可愛さを引き出す白いシャツに白ワンピースを着ており、あどけなさと大人の色気を感じる。


 急なツバキさん登場に固まったセレスとダリア。

 その2人の目を見たツバキさんは、後ろから俺に抱きつき、俺の頭の上に顎を置いた。



「......この2人は?」


「友達ですよ」



 以前より確実にスキンシップが増えている。

 やはりあの時に知った気持ちは、今も変わらないようだ。 



「ねぇガイア、今日暇? 暇だよね? 学園は休みだって、リリィ言ってたよ?」


「暇じゃないって言ったら?」


「ガイアを動かす全ての事象を叩き斬る」



 カッコイイなぁオイ。

 俺にはそんな技術も権力も無いから、いつか言ってみたいよ。



「あ、あの......おふ、お2人の関係は......?」



 何とか思考を再開させたセレスが、ガクガクと震えながら聞いてきた。

 この質問にツバキさんが答えてはダメだ。

 何があろうと彼女の都合のいい答えをしてしまう。


 そう思った俺は、クルっと体を回してツバキさんの口を手で塞ぎ、事故を未然に防ぎながら答えた。



「友達だよ。ちょっと前に知り合って、仲良くなった」


「もがぁ! むががが......!」


「......凄く反論したがってますが......」


「そう見える? 俺には『その通り!』って言ってると思うんだけど」



 うぅ、やっぱり力が強いな、ツバキさん。

 俺の生身の腕がが悲鳴を上げ始めているぞ。

 流石に身体強化を使わないと、この人には敵わない。



「《幻級(オリハルコン)》と友達......ガイアくん、凄いの!」



 ん? その言い方は少し気に食わないな。

 友達が《幻級(オリハルコン)》なら、どうして俺が凄いと言われる必要がある?


 どうやらツバキさんも同じことを思ったのか、狐耳をピクピクと動かして聞いていた。



「ダリア、違うぞ。俺が凄いんじゃなくてツバキさんが凄いんだ。才能という舞台に努力で積み上げた結果が今のツバキさんだ。そこで俺を出すようじゃあ、残念ながらダリアに人を見る目は無い」



 勿論、ダリアが『《幻級(オリハルコン)》と出会えるなんて凄い!』と言いたい可能性もある。

 だがそれは、今のダリアにも当て嵌ることだ。

 丁度ダリアの目の前に、《幻級(オリハルコン)》が居るのだから。



「ガイアさん、言い過ぎですわよ?」


「それなら謝る。申し訳ない。ただ、友人の努力を俺が凄いと言われた気がしてな。気に食わなかった」


「ううん。今のはダリアが悪かったの。ごめんなさい」



 お互いに頭を下げると、俺の力が抜けた隙を突いてツバキさんが拘束から抜け出した。



「もう、ガイアは強引。女の子に手を上げるなんてひどい」


「ではあの質問、何と答える気だったんですか?」


「妻」


「ほら見ろ。叶わない願いだと思いますがねぇ?」


「大丈夫。王国を出れば一発」


「俺は男爵家の長男ですよ」


「む......それは困った」



 困るのは俺だ。

 仮にもし、天文学的な確率でミリアに許しを得たとしよう。それでも俺はミリアしか愛せないのは確実だ。


 どんな時も、俺の1番はミリアで在り続ける理由があるから。



「「......え? 妻?」」


「聞き間違えてるぞ。ツバキさんは『暇』と言ったんだ。暇な時に遊ぶ友達、という意味でな」


「「なるほど!」」


「え、違がががが!」



 何とか誤魔化せたな。よかったよかった。

 ......本当に誤魔化せたか?



「それじゃ、俺達は行くよ。トレーニング頑張れ」


「はい! ガイアさんも、お出かけなさるなら気を付けて」


「また明日、なの!」



 朝日が顔を出し切ったタイミングになったが、何とか2人と別れることが出来た。


 あとはツバキさんの相手を......ん?


 おかしい。さっき、ツバキさんは俺の頭に顎を置いていた。でも俺、それまでは頭の上にセナを......



『......ぃあ〜!』


「あ! ヒビキ、セナを回収して来い!」


『御意』



 こんっっの狐め! 俺の愛犬を森の奥に投げ飛ばしやがったな!!



「ガイア。私は子犬を森に返した。投げてない」


『きゅうにつれていかれた!』


「......嘘ではなさそうですね」


「ホント! ただ、ガイアの上に何かあるのが気に食わなかっただけ。それに、犬は野生に返すべき」


『セナ、いぬじゃない!』


「確かに。喋る犬は初めて見た」


『うぅ、もう!』



 俺の服の影から顔を出したセナは、まるで人の子どものように舌を出し、怒りながら影に戻ってしまった。


 どうやらこの2人は相性が悪そうだな。



「私の勝ち。ガイア、行こ?」


「残念ですけど俺はこれから依頼を受けます」


「なら私が直ぐに片付ける」


「無理ですよ。ずっと貼り出されている薬草採取なので。では」


「あ!」



 嘘をついた。今日の俺は薬草採取の日ではない。

 お金稼ぎの為に討伐依頼を受けるのと、昇格試験の結果を聞きに行くのだ。


 申し訳ないがツバキさんとはここでお別れ。

 次、暇な時に一緒に遊びたいな。4人で。



 そうして俺は、学園の敷地から全力の身体きょうかをつかい、冒険者ギルドの前まで飛んで来た。

次回予告なの! 次回『恐怖』お楽しみに! なの!


いやタイトルは本当にごめんなさいごめんなさいごめんなさい(伏線)

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