第51話 ありがとうなの!
リアタイで追ってる方、多分「タイトル変わってね?」と思うかもしれないですが、しっくりくるまで試行錯誤する予定です。ごめんなさい。
「ん......ふわぁぁあ。ん? あぁ、セナ」
目が覚めると、セナを枕に寝ていたことに気付いた。
昨日は夕食も食べずに寝ていたせいか、窓を開ければ仄暗い空が広がっていた。
『がいあ、おはよう』
「おはよう。散歩に行かないか?」
『うん! いく!』
俺は制服から外出用の服に着替え、いつもの小型犬サイズに姿を変えたセナと一緒に寮を出た。
まだ暗いせいで少し肌寒いが、静かな時間にピッタリな冷たさだ。
「ヒビキ」
『はっ』
「子爵領のその後は?」
『特に問題も起きず、平穏の日々でございます』
「そうか......なら、警戒の任務を終える。俺の護衛兼弟子に戻れ」
『はっ』
そろそろダリアも手紙を出した頃だろう。
あの領主夫妻にダリアの現状を知ってもらい、その後の生活はダリアに任せるとしよう。
俺の人助けのミッションも、これでクリアだな。
「〜♪」
『がいあ、くちぶえじょうず』
「だろ? 指笛に歯笛も出来るぞ」
『ホント!?』
「あぁ。元は作戦の合図に習得したんだが、思いのほか楽しくてな。気付いたら上手くなってた」
今まで自分に出来ないようなことが出来た時って、嬉しいんだよな。
自分の成長を実感できるし、気付いたらハマっている。
俺の技術の根幹は、全て『楽しいか否か』だからな。
「さて、近所迷惑にもなるし辞めとこ。そうだセナ、競走でもしようぜ」
『うん! おっきくなっていい?』
「勿論。人も居ないし、元の大きさで走ろう」
出会った頃は体高1.5メートル程だったセナは、今は1.8メートル程にまで成長している。
やはり、まだ子どもだったようだ。
これからもどんどん大きくなっていくのが楽しみだ。
「それじゃあ、よ〜い......ドン!!」
ズバッ! と、風を切る音を立てながら走り出した俺達は、学園の真ん中を通る大きな道を2人占めにした。
そして広大な敷地を一周すると、セナが走り足りない様子で顔を舐めてきたので、もう一周もう一周と、日が昇るまで走り続けた。
『へぇ、へぇ......もっと!』
「疲れてんじゃねぇか。競走はもう終わりだ」
『え〜!』
「ほら、小さくなって頭の上に乗れ。水飲んで休んでろ」
『う〜!......はい』
可愛く唸るセナを頭に乗せ、魔法で口の前に水を出した。
ペロペロと水を飲む音を聞きながら、今度は逆向きで散歩を再開した。
「時計回りが全てじゃない。逆に進むこともまた、新たな発見に繋がる」
『そうなんだ〜』
「ま、俺は突っ走るから中々出来ないけどな」
段々と暖かくなる空気を吸い込んで歩いていると、金髪縦ロールを揺らしながら走っている女子生徒の姿が目に入った。
間違いなくセレスだな。
と、あれ? もう1人女の子姿が見える。あれは──
「おはよう、セレスとダリア」
「おはようございます、ですわ! ガイアさん」
「お、おはようなの! ガイアくん!」
深く、それはもう深く頭を下げて挨拶するダリア。
そんな姿を隣で見たセレスは、ギョッとした顔で俺を見てきた。
「な、何があったんですの?」
「ガイアくんは恩人なの! 救世主様なの!」
「「はい?」」
何を言ってるんだこの子は。
熟れたバナナが遂に腐り始めたか?
......それは言い過ぎた。すまないダリア。許してくれ。
「あ〜、まぁ、元気そうでよかったよ。アヤメとはどうなんだ?」
「アヤメちゃんはすっごく優しいの! ダリアとも遊んでくれるし、お勉強も教えてくれたの!」
「そうか。それはよかった」
「あとねあとねっ、アヤメちゃん、ずっとガイアくんの話をしてるの!」
「......そうか」
反応に困る。
でもまぁ、あれから前に進めたのならよかった。
ガーネット領の話については、多分領主から手紙か何かをヒビキが届けたのだろう。
多少のお願いは聞いてやれと言ったし、そのお陰かな?
「口を開けば『主に撫でてもらった』『主に褒められた』って、1日に500回くらいは言ってるの!」
「だ、ダリアさん? ガイアさんが困っていますわよ?」
「あっ......ご、ごめんなさい」
気が付けば俺の目の前にダリアの顔があり、セレスに注意されると直ぐに離れた。
ダリア、人との距離感が壊れちゃったな。
「それで、ガイアさんも朝の鍛錬でして?」
「ううん、それは終わった。今は散歩してて、この後ギルドに行こうかな〜って」
「「ギルド!!」」
「うん。2人も冒険者じゃないのか?」
そんなに驚くことなのだろうか。
確かゼルキアも冒険者になっているし、ミリアだって冒険者だ。
他にも結構な人数が冒険者だと思うが......
「ワタクシは親の許可が降りなくて、冒険者ではありませんの」
「ダリアもなの......危険だからって、許してくれないの」
「その点ガイアさんは、ご両親に何も言われなかったのでして?」
「......言われたような、言われなかったような......記憶が曖昧だな。ただ、家に金貨を5枚くらい入れたら何も言わずにいてくれたよ」
「「金貨5枚!?!?」」
実は、家族には指名手配犯を捕まえたことは言っていない。
それ故に、俺が急に金貨を持ってきたことに父さん達は驚いたことだろう。今思えば、説明すれば良かったと思う。
夏休みに入ったら、帰省でもするか。
「とにかく、結果を出せば大人は認める。周囲に認められたいのなら、それ相応の結果を出せばいい。まぁ、最悪死ぬけどな」
「ん。でもガイアは特別。この前の件だって、普通の人なら死んでる」
......え?
「「え?」」
気付いたら後ろにツバキさんが居たんだけど。
ちくしょう、油断していて接近に気付かなかった。
色々と仕出かした後だから、油断すれば死ぬ状況にあるというのに、俺は甘えてしまった。
「おはようございます、ツバキさん」
「おはよう、ガイア」
「今日は装備を着けていないんですね。オフですか?」
「ん。2日分の依頼を終わらせたから、遊びに来た」
いつものライトアーマーではなく、ツバキさんの可愛さを引き出す白いシャツに白ワンピースを着ており、あどけなさと大人の色気を感じる。
急なツバキさん登場に固まったセレスとダリア。
その2人の目を見たツバキさんは、後ろから俺に抱きつき、俺の頭の上に顎を置いた。
「......この2人は?」
「友達ですよ」
以前より確実にスキンシップが増えている。
やはりあの時に知った気持ちは、今も変わらないようだ。
「ねぇガイア、今日暇? 暇だよね? 学園は休みだって、リリィ言ってたよ?」
「暇じゃないって言ったら?」
「ガイアを動かす全ての事象を叩き斬る」
カッコイイなぁオイ。
俺にはそんな技術も権力も無いから、いつか言ってみたいよ。
「あ、あの......おふ、お2人の関係は......?」
何とか思考を再開させたセレスが、ガクガクと震えながら聞いてきた。
この質問にツバキさんが答えてはダメだ。
何があろうと彼女の都合のいい答えをしてしまう。
そう思った俺は、クルっと体を回してツバキさんの口を手で塞ぎ、事故を未然に防ぎながら答えた。
「友達だよ。ちょっと前に知り合って、仲良くなった」
「もがぁ! むががが......!」
「......凄く反論したがってますが......」
「そう見える? 俺には『その通り!』って言ってると思うんだけど」
うぅ、やっぱり力が強いな、ツバキさん。
俺の生身の腕がが悲鳴を上げ始めているぞ。
流石に身体強化を使わないと、この人には敵わない。
「《幻級》と友達......ガイアくん、凄いの!」
ん? その言い方は少し気に食わないな。
友達が《幻級》なら、どうして俺が凄いと言われる必要がある?
どうやらツバキさんも同じことを思ったのか、狐耳をピクピクと動かして聞いていた。
「ダリア、違うぞ。俺が凄いんじゃなくてツバキさんが凄いんだ。才能という舞台に努力で積み上げた結果が今のツバキさんだ。そこで俺を出すようじゃあ、残念ながらダリアに人を見る目は無い」
勿論、ダリアが『《幻級》と出会えるなんて凄い!』と言いたい可能性もある。
だがそれは、今のダリアにも当て嵌ることだ。
丁度ダリアの目の前に、《幻級》が居るのだから。
「ガイアさん、言い過ぎですわよ?」
「それなら謝る。申し訳ない。ただ、友人の努力を俺が凄いと言われた気がしてな。気に食わなかった」
「ううん。今のはダリアが悪かったの。ごめんなさい」
お互いに頭を下げると、俺の力が抜けた隙を突いてツバキさんが拘束から抜け出した。
「もう、ガイアは強引。女の子に手を上げるなんてひどい」
「ではあの質問、何と答える気だったんですか?」
「妻」
「ほら見ろ。叶わない願いだと思いますがねぇ?」
「大丈夫。王国を出れば一発」
「俺は男爵家の長男ですよ」
「む......それは困った」
困るのは俺だ。
仮にもし、天文学的な確率でミリアに許しを得たとしよう。それでも俺はミリアしか愛せないのは確実だ。
どんな時も、俺の1番はミリアで在り続ける理由があるから。
「「......え? 妻?」」
「聞き間違えてるぞ。ツバキさんは『暇』と言ったんだ。暇な時に遊ぶ友達、という意味でな」
「「なるほど!」」
「え、違がががが!」
何とか誤魔化せたな。よかったよかった。
......本当に誤魔化せたか?
「それじゃ、俺達は行くよ。トレーニング頑張れ」
「はい! ガイアさんも、お出かけなさるなら気を付けて」
「また明日、なの!」
朝日が顔を出し切ったタイミングになったが、何とか2人と別れることが出来た。
あとはツバキさんの相手を......ん?
おかしい。さっき、ツバキさんは俺の頭に顎を置いていた。でも俺、それまでは頭の上にセナを......
『......ぃあ〜!』
「あ! ヒビキ、セナを回収して来い!」
『御意』
こんっっの狐め! 俺の愛犬を森の奥に投げ飛ばしやがったな!!
「ガイア。私は子犬を森に返した。投げてない」
『きゅうにつれていかれた!』
「......嘘ではなさそうですね」
「ホント! ただ、ガイアの上に何かあるのが気に食わなかっただけ。それに、犬は野生に返すべき」
『セナ、いぬじゃない!』
「確かに。喋る犬は初めて見た」
『うぅ、もう!』
俺の服の影から顔を出したセナは、まるで人の子どものように舌を出し、怒りながら影に戻ってしまった。
どうやらこの2人は相性が悪そうだな。
「私の勝ち。ガイア、行こ?」
「残念ですけど俺はこれから依頼を受けます」
「なら私が直ぐに片付ける」
「無理ですよ。ずっと貼り出されている薬草採取なので。では」
「あ!」
嘘をついた。今日の俺は薬草採取の日ではない。
お金稼ぎの為に討伐依頼を受けるのと、昇格試験の結果を聞きに行くのだ。
申し訳ないがツバキさんとはここでお別れ。
次、暇な時に一緒に遊びたいな。4人で。
そうして俺は、学園の敷地から全力の身体きょうかをつかい、冒険者ギルドの前まで飛んで来た。
次回予告なの! 次回『恐怖』お楽しみに! なの!
いやタイトルは本当にごめんなさいごめんなさいごめんなさい(伏線)




