第50話 歴史を歩む
ちょびっと書き方を変えました。読みやすければ嬉しいでth. あと次回予告はアテにn(ry
「それでは、試験を始めます。これまでに習った......と言っても1ヶ月くらいですが、ちゃんと授業を聞いていれば答えられます。では、始め!」
遂に来た、この時が。学力テストの時が!!!
教科は国語、算術、歴史、魔法の4つだ。
このうち国語と算術は完璧に出来る。
が、問題は歴史と魔法だ。この2つは俺の深層心理が『学ぶ価値も無い』と割り切ったせいで、初歩中の初歩しか頭に入っていない。
休み時間の合間を縫ってミリアに教えてもらい、寮でもユーリに付きっきりで教えてもらったが......結果はお察しだ。
さぁ、戦いの時だ。
レッツ、クエスチョンバトルッ!!!!
『問1. 現国王と前国王を述べよ』
はいはいはい。知ってますよ知ってます。現国王は『アルガス・デル・レガリア』だな。実際に会ったから記憶にある。
......Who is 前国王?
いや待て。言い方を変えよう。
ミリアのおじいちゃんは誰だ? そう考えろ。
う〜ん、前に聞いたことがある......気がする。
あぁ、思い出した。『ディガルタ・デル・レガリア』だ。
『問2. 15年前に没した勇者の名前を述べよ』
知らんがな。
『問3. 魔王が討伐された時、空が黄色に輝いた。これを何という?』
知らんがな。
俺の親友が散った時の光に、名前なんぞ付けなくていいっての。
とまぁ、こんな感じで歴史は人名ならある程度答えられたのだが、歴史上重要とされる現象の名前や魔法の名前など、俺が見てきたこと以外はボロボロだった。
まだ......まだある。魔法で点数を取れる......はずだ。
レッツ、クエスチョンバロゥル!!!!!
『問1. 希う、我が魔力を糧に彼の者を癒したまえ。この魔法の効果を述べよ』
何その詠唱、初めて聞いたんだが?
でも『癒したまえ』という言葉から察するに、回復系魔法だろう。
あれだ、ゲームで言う『ヒール』とか『キュア』的なアレ。
よし、『傷の修復』と。
『問2. 精霊が扱うとされる魔法は何といわれるか。2つ述べよ』
終わった......知らねぇよそんなもん。
使えるけど名前なんか聞いたこともない。
でもこれはミリアに関係のあることだし、白紙で出すのは憚られる。
ここは『精霊魔法』と『魔術』にしておこう。
魔術に関しては、ヒビキ先輩の教えだ。
精霊を魔物として見た時、精霊の使う魔法は魔術とされる。
『問3. あなたの魔力傾向を教えてください』
知らんがなァァァ!!!!!!!!!!
それは俺が知りてぇんだよハゲ!
周りには『水の傾向が強いね』とか言われるけど、『強いね』だと水かどうかも分かんねぇじゃねぇか!!
落ち着け、まだ分かるかもしれない。
まずは魔力を手に出して触ってみる......うん、水だ。
次にイメージで魔力を軽く光らせれば......うん、光だ。
では魔力を極小の粒にさせてみると......うん、霧だ。
な〜んにも分かんな〜い。
「はぁ......」
俺は思わず溜め息を吐きながら、解答欄に『不明』と書いておいた。
本当に分からないんだ。
水にしたって、小さい頃に畑の水やりで魔法の水を使ったが、普通なら自然の水と効果は変わらない。
なのに俺の出した水は、グングンと植物の成長を促す効果がある。
それに身体強化に関しても、ミリアが使う魔力量に比べて、俺は限りなく少ない魔力でミリアと同等に強化が出来る。
これが謎なんだ。俺の魔力傾向はなんだ?
予想を立てるなら......『成長』とか?
いや、違うな。それなら俺の筋肉は今頃ガッチガチになっているはずだから。
あ〜、分かんねぇ。分からない故に怖い。
「そこまで! ペンを置いてください!」
最後まで魔力傾向に悩まされていると、答えが出ないまま試験終了の時間を迎えた。
「ガイア、解けた?」
「少しは。ミリアはどうだ?」
「満点のはずよ。問題数も少ないし、簡単だったもの」
胸を張って言うミリアの姿が、とても眩しく感じた。
俺の頭の悪さ......といより知識欲の無さが原因で招いたミス達だ。ミリアを倣い、知的好奇心溢れる少年になりたいな。
「そうか......なぁ、俺の魔力傾向って何だ?」
「分からないわ。私は一応、『自然』と記入したけど、どうもそれだけじゃない気がするのよね」
「どういうことだ?」
「そのままよ。2つの傾向がある、と言いたいの。私達は生まれが特別でしょ? だから、2人分の傾向を兼ね備えていると思うの」
転生者だから、か。
仮に俺の前世の魔力傾向が『成長』だったとすると、今世の魔力傾向を『水』とし、その両方に特化した魔法が使える、と。
つまり、肥料混じりの水を出すということだな。
......将来は農夫か?
「では皆さん、明日はお休みです。明後日から実力テストがありますが、前々から言ってた通り合宿となっていますので、準備を怠らないようにしてくださいね!」
ん? 合宿?
「......合宿とは?」
「やっぱり聞いてなかったのね。2泊3日、寮の裏にある
森でサバイバルよ。私達なら余裕だわ」
「あぁ、あそこ? あの森ならしょっちゅう入ってるし、慣れてるな」
「......一応、立ち入り禁止区域よ?」
「そんな看板見たことない。それに狼の魔物が夜中に遠吠えして、うるさいんだよ。だから安眠の為にも入ってる」
ホント、影食みの練習で疲れた時に限ってアイツらは吠えやがる。酷い時はユーリも目を覚ますし、シンプルに害でしかない。
俺は寮生の為にも、狼を狩っているんだ。
「セナは何とも言わないの?」
『がいあのじゃま......ダメ』
「そういうことじゃないのだけれど......ふふっ、可愛いわね」
俺の影からチラッとセナの頭を出させると、ミリアは子犬を撫でるかのようにセナの頭を撫で始めた。
俺からすれば、セナを撫でるミリアが可愛い。
「ガイア君、算術で間違えちゃったよ〜」
暫くミリアを眺めていると、ユーリがしょんぼりとしながらやって来た。
すると、ユーリに続いてゼルキアも俺達の所へとやって来た。
「僕は歴史で間違えたけど、あとは満点かな」
「ユーリは地頭が良いし、経験だけだろ。ゼルキアはどこで間違えたんだ?」
「勇者の名前。昔話にも『勇者』としか描かれないから、単純に知らなかったよ」
「そこは俺も分からなかったな。ミリアは分かるか?」
全問正解の自信があるミリアだし、元王族ともなれば勇者の名前くらい知っているだろう。
「直近の勇者は『トモヤ』という名前ね」
「「へぇ〜」」
「トモ......ヤ?」
ミリアの言葉で、俺の脳裏に浮かぶのは1人の男。
ガタイのいい気さくな人間で、彼女の『美香』と仲睦まじい姿を見せる奴だ。
まさか......いや、そんなはずは無い。きっと同名の誰かだろう。
だけどもし、本人なら......俺は、友也を──
「「ガイア?」」
「ガイア君?」
「......何でもない」
「何でもない訳無いでしょ。顔色が悪すぎるもの」
「そうだよ! 大丈夫じゃない顔してるもん!」
「......別人であることを祈ってるよ。僕が送って行くから、2人は普段通りに帰ってね」
ゼルキアの配慮に助けられた。
鞄はユーリに預け、ゼルキアと一緒にゆっくりと歩いて寮へ向かった。
道中、何も聞かずに居てくれたゼルキアだったが、途中から俺の思考を悟ったのか、苦虫を噛み潰したように歯を食いしばった。
そして寮に着くと、俺の部屋の中までゼルキアは着いてきた。
ベッドに座った俺は、立ったままのゼルキアの言葉に耳を傾けた。
「トモヤ......君の友達、或いは家族と同じ名前だったんだね?」
「あぁ......明るくて、少しやんちゃな所もあるけど、昔から俺と遊んでくれた、俺の大切な親友だ......」
今思えば、煌びやかな装備に身を包んだとはいえ、あの勇者の持つ優しい雰囲気は友也にそっくりだった。
気軽に話しかけたくなるような、人を惹きつける魅力を持ったオーラ。俺はそれを、知っているはずなのに......どうして。
どうして。どうして。どうして。
「......ガイア。君には2つの選択肢がある。1つは真実を知り、全てを受け入れること。もう1つは、この件について知らずに生きると貫くこと」
知らずに生きたい。
俺が......親友を殺したなんて信じたくない。
日本という平和な世界で出来た、俺の数少ない心を開いている友達......そんな人を殺したなんて、知りたくない。
「知り......たい」
俺は昔、親を殺したことがある。
ミリアとの婚約を結んだ時に、当時公爵の父親が俺とミリアについてあることないこと話し、汚い金を稼いだからだ。
それに、アイツはミリアを売ろうとした。
俺からミリアを奪い取った後、金に変えるルートを構築している時に殺したんだ。
その時の俺は、荒れに荒れていた。
今まで大切に育ててくれた父親が、自分と最愛の人を金という汚い欲で塗りたくろうとしたことに対して、憎悪の炎に焼かれていたからな。
今の気分は......自分に対し、その火種が生まれた気分だ。
「慰めになるかは分からないけど、あの時は皆命懸けだった。僕なんかは彼の顔をまともに見ることなく死んだからね」
「......ありがとう」
「いいさ。僕は君の幸せを願っている。魔王という地位に居た僕と、友達になってくれた君だからね。僕は君達の為なら命を差し出せるくらい、恩を感じている。だから、つらくなったら迷わず相談してくれ。お願いだ」
俺は頷くことしか出来なかった。
あの日、ゼルキアと出会った運命に感謝しかない。
こんなにも温かい心を持った人間は、そう居ない。
「ありがとう......ありがとう......!」
「泣かないで。君の涙はミリアにしか見せちゃいけないよ」
俺は制服の袖で涙を拭うと、次の瞬間にはゼルキアは部屋に居なかった。
ゼルキアの代わりなのか、俺の影からセナが勝手に出て来てくれた。
『がいあ......セナがいるよ。なかないで』
「ありがとうセナ。ちょっと......大きくなってくれ」
『うん』
大型犬くらいのサイズになったセナは、その大きな体を枕にするように元の枕の上に寝転がった。
アニマルセラピー、試してみる価値はある。
古代ローマ時代からあると言われ、レガリア時代にも馬を用いたアニマルセラピーがあったが、俺は経験したことが無かった。
少し......セナに甘えよう。
「あり......がと」
『だいじょうぶ。セナがいるから』
「うん......」
温かい尻尾で胸を撫でられた俺は、過剰なストレスから逃げるように、深い睡眠へと意識を落とした。
モフい。




