第48話 ビー玉ころころ
ネタ考えてたら書くだけ書いて投稿忘れた柑橘類
「あ〜疲れた。本当に疲れた。もうヤダなぁ」
「ガイアさん、それなら今日の依頼は......」
「受けますよ。エマさんが来るまで、どうせ薬草採取なんて誰もしないし」
放課後の冒険者活動、王都を出るまでがしんどい。
最近は真面目に授業を受けていることもあり、体を動かすこの時間だけが楽しみになってきた。
「ガイアさんガイアさん。たまには趣向を変えて、討伐依頼なんか受けませんか? ガイアさんの依頼達成率なら《鋼鉄級》以上のランクに上げれますよ?」
「達成率なんか、それこそ薬草採取だけやってれば稼げるじゃないですか」
「いいえ。その薬草採取でも、納品した物がただの野草だったり、偶に毒草なんてこともあるので、ガイアさんの達成率は目を見張るものですよ?」
そんなことを言われてもなぁ。
まぁ、やってみてもいいかな?
「う〜ん、何か良い魔物は居ませんかね?」
「《鉄級》への昇格なら、ゴブリン20体の討伐で上がれますよ」
「《鋼鉄級》はどうなんですか?」
「そちらは討伐報告ではなく、試験となります。《純金級》以上の冒険者と対戦し、昇格するに相応しいと判断されなければなりません」
「......今から出来たりします?」
「そうですね......オーガの件もありますし、一度、上に聞いてみます。少々お待ちください」
そう言って受付嬢さんはササッと書類を書き、パタパタと小走りでカウンターから去って行った。
特にすることもないので極細の魔力であやとりをしながら、ギルド内に併設されている酒場に来た。
「マスター、ラフラジュースを」
「ガイアが来るとは珍しいな。にしてもこれまた珍しい物を好いてやがる」
「思い出の味なんですよ」
目の前のカウンターに出してくれたのは、精霊樹の森で俺が初めて食べた『ラフラの実』をすり潰して作ったジュースだ。
精霊樹の森で実るものよりは品質が低いが、それでも十分に美味しい。
「ガイア。あれからどうだ?」
ミリアと暮らしたサバイバル生活を思い返していると、聞き馴染みのある野太い声で話しかけられた。
「えっ、ガルさん?」
「あぁ。依頼で来ててな。それよりどうだ? 学園生活は」
「つまんないです。授業も非効率的なことばかりですし、男の友達は2人しか居ません。こうして冒険者をしてる方が、俺には合ってます」
ガルさんはマスターに俺と同じ物を頼むと、あまり見たことがない果汁だったらしく、ちびちびと飲み始めた。
そしてその甘みに気付くと、コップ1杯分のラフラジュースを飲み干した。
「うめぇなコレ。それにしてもお前は正直だな。嘘でも『楽しい』って言うと思ってたぜ」
「嘘は用法用量を守らないとただの劇薬ですからね。あ、これは森で見つけた木の実のジュースなんですよ。美味しいですよね」
「「どこの森で?」」
「え? 精霊樹の森ですよ」
「「は?」」
ガルさんだけでなく、マスターも会話に入ってきたが、俺の話のどこに驚く要素があったのだろう。
「いいかガイア。俺はラフラをエルフの商人から仕入れてるんだ。この実はエルフの森でしか自生してないからな」
「それに、精霊樹の森って言ったら......特別危険区域だぞ? いくらお前でも生きて帰って来れねぇ場所だ」
「いやいや、あの森に危険な要素なんてありませんよ? 普通の、豊かな森じゃないですか」
「「......はぁ?」」
ダメだこれ。話が合わない。もしかして100年で化け物が跋扈する危険な森に変わったのか?
俺の知る精霊樹の森は、鳥が話しかけてくるし、安部くんを通せば全ての動物と仲良くなれ、時には森の木々と会話が出来る場所だ。
そして何よりも、ミリアと出会った場所だ。
「お前さん。それ、精霊樹の森じゃねぇぞ。たまたまラフラの実があった森だ」
俺達の話を聞いていたのか、以前俺に『魔物に気を付けろ』と注意してくれたスキンヘッドのおっちゃんが俺の隣に座った。
「ダゴン! 久しぶりだな! 嫁さんはどうした?」
「ガルは相変わらず暑ちぃな。アイツはちっと、妊娠してな......大事を取って休業させてる」
おぉ、ガルさんとおっちゃんは知り合いだったのか。
というか奥さん妊娠したのか! おめでたいなぁ。
「それはおめでたいな! 俺が1杯奢ってやるよ!」
「おめでとうございます。俺からもどうぞ」
「流石にガキに奢ってもらうのはプライドが傷つく。気持ちだけ受け取っとくぜ」
カッコイイな、おっちゃん。まぁ俺もお金が欲しい状況だし、1杯分とはいえ助かる。ありがとうおっちゃん。
「にしてもお前ら、面白そうな話をしていたな」
「あぁ。ガイアが精霊樹の森に行ったことがあるって言ってな」
「勘違いだろうな。こんな子どもが行けるような場所じゃねぇし、そもそも距離の問題がある。確かここから......馬車で2ヶ月だったか?」
「それくらいだな」
「へぇ、そんなに遠いんですね」
俺の1つ目の故郷はそんなに遠かったのか。
精霊樹の森は俺の魔力で育っているから、全力で南に向けて魔力を飛ばしたら感知できるかもしれないな。
ちょっと、やってみるか。
「へぇ、ってお前......嘘だったのか」
「いえ。昔の話ですので、距離感が分からなくて」
「男爵の息子がそんな所に行くのか? 普通」
「知りません。それより......見付けた。精霊樹の森は、馬車で1ヶ月半ってところですね。ノンストップで行けば」
「どういうことだ? お前さん」
「ちょっと位置を探してました」
「何言ってんだか」
おっちゃんに呆れられたが、俺は本当に探した。
まず、冒険者ギルドの外に魔力の糸を出し、ギルドの屋根に簡単な発射台を作る。
そしてビー玉サイズの魔力を練り上げ、弱い風の魔法を使って飛ばす。この時、魔法と魔力の糸を繋げる。
あとは、糸を経由して魔法の出力をガンガン上げたら、軽く音速を超えて魔力のビー玉を飛ばすだけ。
そうして森に着いたビー玉魔力と感覚を繋げれば、ビー玉はもう1つの眼球となる。
「ふむ......森も荒れてませんし、魔物も普通ですね」
「ガイア、お前左目が......」
今の俺の左目は、空色の眼球になっている。
「おかしいな。死んだら戻せって言ったのに......ん?」
未だに森の木が手を取り合って壁を作ったままなのを見て回っていると、100年前には見なかった、黄緑色の髪に空色の瞳を持つ女性の姿が見えた。
スラッとした長身に、出るとこは出てる美人さんだ。
ただ、服が原始的すぎて、色々と見え──
って、マズイ! 位置的に服の下から全部見えちまう! 目から耳に感覚を切り替えろぉ!!!!
『あら? この魔力......もしや』
「お前、今度は耳が......」
「だ、大丈夫です。もう終わりましたから」
俺は直ぐに魔力を消し、残っていたラフラジュースを飲み干した。
危なかった。まだ今世では女性の裸は見ていない。初めてはミリアに取っておきたいんだ。感覚を切った俺、グッジョブ!
にしても森が生きているようで良かった。影も踏んで置いたし、これから垂れ流す魔力は全部森に置くってあげよう。
◇ ◇
「ガイアさん、昇格の件ですが......ガルさん!」
それからおっちゃんの子どもの名前とかガルさんの依頼の話をしていると、受付嬢さんが来てしまった。
楽しい時間も終わりだな。
「ん? なんだ?」
「丁度良かったです。ガイアさんの昇格試験、ガルさんが担当して頂けませんか?」
「昇格試験ってことは......お前、《鋼鉄級》になるのか!?」
「しかも彼は飛び級です。ガルさんと同じですよ」
「マジか!!!」
「ガルさん、飛び級してたんですね」
この人もずば抜けて高い戦闘センスを持っているからな。アヒル君の時、俺が唯一注意しないとダメだと判断した人物でもある。
ガルさんと戦えるなら、俺も楽しみだな。
「今日はめでたい話が多くなる......とは言わせねぇ。飛び級なら、それ相応に俺も手を抜けねぇからな。覚悟が決まったら行くぞ」
「もう出来てます」
「では......ご案内します」
そうして、俺の昇格試験の対戦相手はガルさんとなり、ギルドの裏手にある中規模な訓練場にて戦うこととなった。
いやぁ、広い。広いが......どうしてこうなった?
振り返れば、数十人単位で客席が埋まり始めている。
「人気者ですね、ガルさん」
「いや、どう見てもお前がエサだろ」
「そんなことないですよ。皆、ガルさんの鍛え上げられた肉体美を拝みたいんですよ、きっと」
「ハハッ、やれるもんならやってみろ」
ガルさんと軽口を叩いていると、受付嬢さんが小走りでやってきた。どうやら審判を請け負ってくれるようだ。
そして旗を持ち、受付嬢さんが告げる。
「これより、ガイアさんの昇格試験を始めます! 準備はいいですか?」
「おう」
「はい」
「では......始め!!!」
振り下ろされた旗と共に、昇格試験が始められた。
☆プチ色☆
今回の感覚共鳴は距離・出力が普段と全く違うので共鳴部分が光りまくってます。目からビーム。
次回『薬草概念』お楽しみに!




