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空色魔力の転生者 ─泡沫の命と魔法の世界─  作者: ゆずあめ
第2章 エデリア王立学園
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第46話 かわい子ちゃん

ふっていき〜♪ ふっていき〜♪ ふっていき こうしん〜♪



『ガイア様。作戦は無事に成功し、グラファの歪んだ恋心は見事に砕け散りました』


「そうか。特に暴力沙汰にはならなかったか?」


『はい、特には。ガイア様に教えられた、武器を破壊する攻撃で行動不能にしましたから』



「どこが『はい』なのかちっとも分かんねぇな」



 水曜日の午後。放課後に薬草採取に出掛けていると、ヒビキから任務完了の報告を受け取った。


 どうやら多少の問題はあったものの、天鬼を前に元《白金級(プラチナ)》の男は適わなかったようだ。当然だな。めちゃめちゃ強いらしいし。


 何せ、ヒビキは俺が鍛えているからな。最近はメキメキと技術を身に付けているぞ。



「にしても俺の影食み、体が入らないとはどういうことなんだ? こうやって薬草とか武器は入るのに、どうして俺の足は入らないんだよ」


『申し訳ありません。俺にも分かりません』


「まぁいいんだけどさ。よくあるアイテムボックス的な扱いが出来るから。ただ、俺も転移を経験してみたかった」



 どういう訳か、俺の影には体が入らない。


 腕や足先など、部分的には入ってくれるのだが、転移の条件である『全身まで入る』ということが出来ないんだ。


 俺は残念な気持ちを口にしながらも、便利な力を教えてくれたヒビキに感謝した。



「そろそろ帰るか。セナ、背中に乗せてくれ」


『いい......よ』



 王都から数キロほど先にある森で薬草採取をしていた俺は、大きくなれるセナの背中に乗せてもらい、モフモフを堪能しながらギルドに戻った。


 ちゃんとセナは子犬モードで頭に乗せているぞ。



「はい、今日の分の薬草です」


「いつもありがとうございます! ガイアさん。非常に助かってます!」


「こちらこそ。薬草採取をする人が少ないですし、美味しい思いをさせてもらってます」



 王都のギルドで薬草採取をする冒険者は、今のところ俺とミリアしか居ないらしい。それ故に、通常の 『薬草1束銅貨3枚』のところ、銅貨5枚にしてくれている。


 薬屋の人も困ってたし、俺達を手放したくないんだろうな。



「そう言えば新しい受付嬢が来るんですよ」


「そうなんですか。王都のギルドって人口に比例して冒険者も多いですし、過労で倒れないことを祈ってます」


「あはは、それがなんと、ガイアさんのお知り合いだそうですよ? 『エマ』って言うんですけど」


「あ〜、エマさんですか」



 懐かしいな。ワイバーンの一件から、エマさんと話した記憶が無い。いや、多少の挨拶をした記憶はあるが、最近起きたことのせいで忘れてきている。


 これが......老化!?



「それじゃ、会ったら挨拶しておきます。では」


「はい! ありがとうございました!」


「セナ、行くぞ」



 俺は近くの冒険者に抱っこされているセナを頭に乗せると、ギルドを出て夕陽を浴びた。


 子爵家の事はヒビキが対処してくれたが、まだグラファが暴れ出さない保証が無い。グラファには街の治安悪化という烙印が押されたが、今度は領主夫婦殺人犯になる可能性もある。


 ダリアに関してはアヤメとケアするとして、子爵家をどうするか。



「ヒビキ。悪いがあと1週間ほどマリエラさんの護衛を頼む。報酬として体術を教えてやる」


『はっ』


「シームさんの事も頼む」


『おまかせを』



 俺の伸びた影から返事をしたヒビキは、護衛兼連絡係としてマリエラさんの影と繋がってくれた。



『がいあ......おうち』


「はいはい、今日は何食べたい?」


『おさかな』


「じゃあ買って帰るか。セナ、狼なのに雑食だよな」


『たべないと......しぬもん』


「正論だな。口にしたものが毒になる可能性もあるから、一応注意して食べるんだぞ?」


『がいあ......毒、たべさせるの?』


「そんな訳無いだろ? 『気を付けろ』ってセナの身を案じただけだ。かわい子ちゃんめ」



 寮への帰り道、俺はセナをモフモフしながら歩いて帰った。道中、すれ違う人全員に見られた気がするが、気のせいだろう。


 顔面に子犬を貼り付けてるくらい、普通だろ。




「ただいマンモスのサーロインステーキ」



「おかえりガイア君。ミリアさんから手紙来てるよ?」


「ミリアから? 読んでみる」



 寮のリビングで俺の帰りを待っていたユーリは、机の上に置いてある一通の手紙を俺に差し出した。


 便箋に書いてある『ガイア宛』の文字を見れば、ミリアが書いた物だと直ぐに分かる。



「え〜っと? なになに......えっ──」



 書いてある文書を見て、俺は驚きのあまり固まった。



「何が書いてあったの?」


「......家......貰っちゃった」


「え?」


「なんか、俺が寝てる間にミリアが色々としてくれたらしく、かなり大きい豪邸を譲り受けた」


「え、えええええええええぇぇぇぇぇえ!!!!!」



 手紙には、『掃除する人手が足りない』『家具が最低限も無い』『庭が広い』『子どもは何人欲しい?』とか、そんなことが書かれてあった。


 最後には関しては置いておいて、掃除する人手と、清潔感を維持する人員が圧倒的に足りないのは何とかしたいな。


 いっそのこと、冒険者として働きまくってメイドでも雇うか?



「が、ガイア君、寮を出て行っちゃうの?」


「いや? 豪邸の維持が難しくてな。今豪邸に移っても寮生活より不便なだけだ。メリットに対してデメリットが多すぎる」



 ミリアとの暮らしを取るか、現状の良環境を続けるか。

 これには手紙の文末にも、『住むのは相当難しいから、お金を稼いでからにしましょう』と書かれていた。


 というか手紙の時のミリアって、俺の言葉を予想して書かれてあるから怖いんだよな。ある意味天才だよ。



「よかったぁ......ボク、1人で寝るのが怖いから、ガイア君が出て行かなくて嬉しいよ!」



 寂しがり屋だな、ユーリ。



「暫くは一緒だから安心してくれ。じゃ、ちょっとセナにご飯あげてくる」


「うん。行ってらっしゃい」



 手紙を懐に仕舞った俺は、頭に乗せていたセナと共に寮の外れにある森林へとやって来た。




「はい、焼き魚だ。美味しいか?」


『うま......うま』


「そっか」



 大型犬くらいのサイズに変わったセナは、俺の影から出した焼き魚をバクバクと食べ始めた。

 少し尻尾を振っては止まり、また振っては止まり......食事だけに集中させてあげないとな。


 ......でも触りたいんだよなぁ!



「温けぇ、温けぇよセナぁ!」


『じゃま』


「そんなこと言うなぁぁぁぁ!!!」


『ん〜! くすぐったいぃ!』


「おりゃおりゃおりゃりゃりゃりゃ〜〜〜!!!」



 長い銀毛の中に手を突っ込み、ブワッと逆撫でするとセナは擽ったそうに体を捻らせた。


 月に照らされる空色の毛先が何とも言えぬ幻想感を放っており、セナが......アセナが聖獣と言いたくなる気持ちがよく分かる。



 にしても可愛い。よく懐いているし、家族になってくれるかな?




『がいあ。さびしい?』


「全然。俺は独りじゃないから」


『でも、すごくさびしいにおいがした』


「......気のせいだろ」



 俺は、守るものばかり増やして、自分は強くなっているのだろうか。

 強者は必然的に、守るものがある。だがしかし、弱い者が守るものを増やしたって、強者になることは無い。


 このままダラダラと学園生活を送っても、俺は強くなれるのだろうか。強くなったとして、その先に何があるのだろうか。



 俺は、このまま進めば......独りになりそうだ。



『また、さびしいにおい、した』


「大丈夫だって。気にすんな」


『だいじょうぶじゃない。セナ、しんぱい』



 食事を終えたセナは、本来の大きな狼の姿に戻り、俺を包むようにして体を丸めた。



「......怖いんだ。時々、俺は自分が誰なのか分からなくなる」


『じぶん?』


「そう。俺はな、何千、何万も死んで生まれ変わってを繰り返している。輪廻転生......明るい響きで聞こえる事が多いが、今の俺には恐怖でしかない」



 どんなに醜い死に方をしようと、どれだけ美しく生きようと、その終わりを全て経験し、また生きる。


 やりたいこと、出来ないこと、成し遂げたこと、虐げられたこと......その全てが、記憶として俺の脳に刻まれている。


 少し、酷すぎやしないだろうか。沢山の不幸な記憶の中に、幸せな記憶はひと握りしかない。



「努力は報われる? そんな訳あるか。報われた者は努力をしていただけであって、努力をすれば報われる訳じゃない。勇者も、魔王も、何もかも、報われると思ったら大間違いだ」


『がいあ......』



 つらい。寒い。怖い。俺は今まで、どれだけの時間を使い、技術を磨いてきた? そんな技術も、才能を持った1人の人間に、たった数時間で追い越される気持ちは?


 ......最悪だ。生も死も、努力も才能も、全部嫌いだ。



「今の俺は、誰なんだろうな。ミリアがくれた名前を持つガイアなのかな。それとも、数万の軍勢を1人で殺した、英雄ガイアなのかな」



 もう分からない。考えれば考えるほど、過去の自分が鋭く、冷たく心を刺してくる。



『がいあ......だい、じょうぶ。セナ、まもるよ?』


「俺より弱いのに?」


『うん。よわいけど......おおきい。たてになる』


「そんな物になるな。心の傷に盾は効かない」


『みりあも、いる。いっしょに......まもるよ?』


「ミリアは......ミリアだってつらいんだ。俺が甘えて、ミリアに負担をかけたくない」



 彼女にはお世話になった。何年、何百年、何千年と、俺の心の光で在り続けた。彼女にはもう......自由になって欲しい。



『みりあ、がいあがすき。がいあのちからになりたい』


「知ってるが、あっちの言い分だけ聞いてもダメだぞ」


『でも、がいあはみりあに......たよりたい?』


「っ!!!」




 頼りたい? 俺が、ミリアに?



 ──そう、頼りになるのね。

 ──頼りがいがあるわ。

 ──頼りにしてるわね。

 ──もう少し......頼っていいかしら?



 いつも......頼られていた。ミリアを追いかけ、ミリアの前に走って行けるように、ずっと、ずっと走り続けた。


 俺が彼女の手を取り、一緒に走って行くのが合っているんだと、そう思っていた。何年も、何十年も、何百年も──




『がいあ。ひとりぼっち。となりにだれか、いる?』


「え?......隣は......居ない」


『だから、さびしい。セナ、しってるよ。にんげんはさびしいとしんじゃうって』


「......寂しい、か」


『でもだいじょうぶ。セナ、いるもん。がいあのとなりに、ちゃんといるもん』



 暖かい......セナの体に包まれ、身も心も、陽の光に当たったように暖かい。



「ありがとう、セナ。じゃあ、隣に居てくれるか?」


『うん。がいあとねるの』


「ユーリの迷惑にならないように、小さくなれよ?」


『うん!』



 優しい子だな。俺はどうして、この子を恐怖で手懐けたんだろう。馬鹿じゃないのかな。



『がいあ?』


「......いや、過去があってこその今か」


『おうちは〜?』


「帰るよ。ほれ、寝るまでは影に入ってろ」


『は〜い』



 俺はもう少し、自分を見つめ直すべきだな。まだ学園生活を送る時間もたっぷりあるし、色々なことに挑戦してみよう。


 あの時、出来なかったことを。

セナ回だとは誰が予想したか。私は予想していなかったです。(マジ)


次回はなんと、Eventのお話ですね! お楽しみに!


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