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空色魔力の転生者 ─泡沫の命と魔法の世界─  作者: ゆずあめ
第2章 エデリア王立学園
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第45話 演じた園児の暗示

遂にエキスパ全曲フルコンしたゆずあめ。



「すみません、領主様に会わせて下さい」


「ダメだ。事前に通達も無く領主様と合わせる事は出来ない」


「それじゃあ領主様に伝言をしたいので、聞いてくれますか? そうですか聞いてくれるんですかありがとうございます」


「お、おい!」



 昼前の領主邸。その玄関先......というより門の前で、俺は門番をしている軽装のお兄さんに伝言を残した。



「貴方の娘さんのダリア・ガーネットの虐め問題、及び子爵領に蔓延るエルフ優遇問題の解決法を見付けました。と、お願いします。では──」



 子どもの戯言と切って捨てるかどうか、その判断は是非とも領主であるシーム・ガーネットに決めていただきたい。


 俺はダリアは救うが、子爵家までは救わない。


 実際には救える状況にはあるが、俺の両手から零れ落ちそうな量の問題だからな。勝手に落ちる分には構わない。



「待て。話を通してみる」


「そうですか。ではここで待ってるので、どうぞ。後で身分証も見せますよ」


「助かる」



 お兄さんは領主邸に駆け込むと、直ぐに代わりの門番のおっちゃんがやって来た。おっちゃんは俺達の姿を見ると不思議そうに首を傾げ、門の前に立った。


 特に話しかけてくる素振りを見せないので、俺とミリアは門の前から少し離れた位置に移動した。



「ふわぁぁぁあ......眠くなってきた」


「帰ったら寝ましょ?......待って、帰ったら一緒に寝れないわ」


「帰る前に......寝たい」


「もう......街路樹との対話のせい?」


「多分、な......ちょっと肩貸してくれ......一気に疲れが」



 俺は無理をしていたらしい。やはり、今の俺では植物と直接対話するのは難しいようだ。


 ウトウトと意識を飛ばし始めた俺を支えるミリアは、魔法で足元の石材を変形させ、土を混ぜて即席のベンチを作ってくれた。



「......ぇあ?」



 後ろからおっちゃんの情けない声が聞こえた気がするが、俺はミリアの肩に頭を置いた。



「あの人が戻るまでは膝枕してあげる。あまり人も通らないし、いいわよ?」


「ありがとう......じゃあ」


「ええ。任せて」



 肩から膝にポジションを変えた俺は、久しぶりに疲労による深い睡眠に入った。




◇ ◆ ◇




「おい、領主様から許可が出......え?」


「私と彼の身分証よ。彼は私が運ぶから、案内してちょうだい」


「あ、あぁ。分かった」



 門番の青年が許可を取って戻ってくると、1番重要な人物と思しきガイアが、同行人であろうミリアに膝枕をされて熟睡していた。


 あまりの状況に魔法のベンチに気付かず、青年は2人を領主の元へと案内した。



「件の2人を連れて来ました」


「入れ」



 ミリアはガイアをおんぶしたまま、青年が開けてくれた扉を進んで部屋に入った。


 部屋は執務室となっており、ミリアが見たのは淡い赤髪の青年に見える、ダリアの父親の姿だった。瞳が赤紫色をしており、ダリアと同じ雰囲気を感じる。



「......え、あ、アミリア様!? わ、私はシーム・ガーネットと申します。アミリア様に置かれましては──」


「違うわ。私はミリア。アミリアはもう、王家を追放されて死んだんじゃないかしら」



 シームの言葉を遮ったミリアは、清々しい顔で言い切った。



「あ、あぁ......そういう事ですか。では、彼が噂の?」


「噂になっているのね。そう、ガイアよ。早速説明に入ろうかしら」


「それなら座って話しましょう」



 相談用のソファにガイアを寝かせたミリアは、身体強化を解かずにガイアの隣に座った。

 

 シームがすかさずもう1つソファを持って来させようとしたが、ミリアがそれを止め、シームは反対側のソファに腰掛けた。


 そしてミリアは、ガイアの伝えたい言葉を伝える。



「まず、ダリアが虐められているのは知っているかしら」


「......存じ上げません」


「でしょうね。私は彼女とは友人だけれど、彼女は私達を思って相談せずにいたもの。まぁ、そこをガイアが上手く聞き出したのだけれど......」


「彼が、ですか?」


「ええ。ガイアが言うには、あと数日遅れていたら死者が出ていたかもしれないそうよ。それと同時に、ダリアも死んでいた、とね」


「そんな......!」


「安心なさい。彼がダリアを救ったわ。完全には解決していないけれど、暫くは楽しく学園を過ごせるくらいには施してくれたわ。本当、危なかったわね」



 ミリアは知っている。精神が破壊された人間が暴走させた魔力の恐ろしさを。魔力を司る精霊だからこそ、人間の比にならないほど魔力を理解している。


 いや、この場合は“精霊だったからこそ”か。



「次に、エルフ優遇問題についてよ。これに関しても彼が殆ど調べ上げてくれたわ。犯人のグラファの目的についてなんだけど──」



 そうしてミリアはグラファの目的、そして1番安全かつリスキーな方法を伝えると、シームは妻を呼び出した。


 妻を狙う男に怒りを表にするシームは、震える手で紅茶を飲み干した。



「あら、あなた。どうしたの?」


「こちらの2人から、優遇問題の解決法を聞いてな。お前には酷な役を演じてもらうことになるのだが......「やるわよ」い、いいのか?」



 ダリアと同じ、熟れたバナナ......よりは少し明るい金髪のエルフは、夫シームの言葉に即答した。


 それから具体的な芝居の話を打ち合わせた3人は、ガイアの目的であった『ヒビキが護衛をする』旨の話を進めた。



「ヒビキ、出てこれるかしら」


『ガイア様は......お休みですか』


「ガイアの為に働いてちょうだい。話にあった通り、ダリアの母親......マリエラの護衛をして」


『御意に。ダリア嬢からの手紙に関しては?』


「予定が変わったわ。近日中に結構するから、彼女には近況報告の手紙を書かせるわ」


『把握しました。それでは、失礼します』



 ヒビキはガイアと手合わせをする時に着る和服姿で現れると、ミリアの指示を聞いて即座にマリエラの影に入り込んだ。



「す、凄いわね......彼は一体?」


「知らない方がいいわ。シーム子爵も含め、彼とガイアについての詮索はやめた方がいい。もし気になっても、行動に移せばガイアは直ぐに気付くわよ」


「気付かれたらどうなるんです?」


「さぁ? ガイアの気分次第じゃ、子爵家全員が土に還るんじゃないかしら。まぁ、彼は優しいからそんなことはしないと思うけど......蝿を飛ばすなら空を見ることね」



 卵を産み付けようとする前に空を見ろ。お前を狙う鳥は直ぐそこに居る。そんな意味を持つ、フェリクスの諺だ。


 事を成す前に周りを見ろ、という注意喚起だな。



「分かりました。では、上手く進んだ時の報酬ですが......」


「要らないわよ。私達はもう帰るのよ? 上手く進む姿も見れなければ、報酬を受け取りに行くのも面倒」


「そんな訳にはいきません。例え優遇問題が解決しなくとも、ダリアの命を救ってくれた事への報酬が必要です」



 ここだけは譲らない。そんな表情で見つめられたミリアは、ある名案を思い付いた。



「どうしても、と言うなら、王都に家をちょうだい。それ以内なら要らないわ」


「分かりました。ではガーネット家の別邸を差し上げます」


「......本当にいいの?」


「はい。大切な愛娘の命と、高々金貨800枚程度の豪邸。どちらが大切かなんて、口に出すまでもない」


「じゃあそれでいいわ。ダリアに関しては、これからも彼女の学園生活が楽しくなるようサポートするつもりよ」


「ご厚意に感謝します」


「ありがとうございます」



 王家ではないミリアに頭を下げるシームは、子爵ではなく、娘を想う父親の姿であった。

 妻のマリエラも深々と頭を下げ、ガイアとミリア、そして護衛のヒビキに謝礼を述べた。


 そしてここに来て、ミリアの隣で寝ていたガイアがモゾモゾと動き出した。



「ん......どこだ、ここ」


「領主邸よ。たった今、話が終わったところよ」


「マジか......本当に全部?」


「勿論。ガイアの妻なのよ? 貴方の代わりにお話しするくらい、出来て当然だわ」



 ふふん、と誇らしげに笑みを浮かべたミリアは、混乱しているフリをするガイアの頭を撫でた。



「大丈夫よ」


「ミリアがそう言うなら。じゃあ、話が終わったようなんで帰ります。思いっ切り寝ていてすみませんでした」


「いえいえ! 大切なダリアを救っていただいた上に、情報収集と問題解決案を出してくださった事に感謝しております」


「まぁ、それはダリアがここに帰った時にしてください。アイツの笑顔を見てから、ですよ」


「......はい」



 ガイアの言葉に尤もだと思ったシームは、人としてのガイアの在り方に驚き、純粋な気持ちで敬語を使ってしまった。



「では。失礼します」


「失礼するわね」


「「ありがとうございました!!」」




 そうして、ガイア立案の『グラファの心へし折り大作戦』が決行されたのは、3日後の水曜日となった。

眠りのガイア。



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