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空色魔力の転生者 ─泡沫の命と魔法の世界─  作者: ゆずあめ
第2章 エデリア王立学園
43/123

第43話 優遇調査・中編

不定期更新です(久しぶりの)



「お手!」


『ワン!』


「おすわり!」


『ワン!』


「ちんちん!」


『ワンワン!』


「よ〜し、良い子だ。お前、メスなのにちんちんなんかさせてごめんなぁ」



 ガーネット子爵領へ続く街道を走り、あと2時間も走れば到着するという所で夜が訪れた。流石に夜通し進むのもミリアに悪いので、俺達はキャンプすることにした。


 そして今、見張りの番を俺とアセナが担当している。



「お前にも名前をあげたいな。ガイアJrとかどうだ?」


『ア?』


「ごめん。ちゃんと考えるよ」



 そうして決まった名前は、『セナ』だ。


 別に思い付かなかった訳じゃない。ただ、パッと浮かんだのだセナだった。それにセナ自身も気に入ってくれたからな。



 もうすぐ夜が開ける。セナは肉食だ。だから魔物が来ても勝手に倒してくれると信じて、俺はミリアの眠るテントに入った。



「ミリア〜、そろそろ出発すぉわぁっ!」



 すやすやと寝息を立てるミリアに触れた瞬間、ミリアは凄まじい速度で絡み付いてきた。


 両腕は俺の首に回し、足で俺の背中とミリアの上半身をホールドしている。



「がいあぁ......シよ?」


「あ、朝から何言ってんだ! 目ェ覚ませ!」


「や〜だぁ。ガイアは私のだもん......」


「私のって......おい、ミリア。起きろ! 起〜き〜ろ!」



 まだ目を開いていないミリアの頬をペチペチと叩くと、重たそうに瞼を開けてくれた。



「ん......あれ? どうしたの?」


「ミリアに襲われた。無意識で」


「あら、なら続きを「しません」......もうっ」



 頬をぷく〜っと膨らませたミリアは、そっと俺を奪った。



「おはよう、ガイア」


「おはようミリア」



 うん、今日もミリアは可愛い!!




◇ ◇




「思ったより早く着いたな」


「そうね。朝ご飯はお店で頂きましょうか」



 道中、特に何も起きずに目的地であるガーネット子爵領に着いた。


 朝食は軽く川魚を魔力で釣って食べたのだが、2人でキャッキャウフフしながら走っていたらお腹が空いてきたんだ。


 セナが体の大きさを自由に変えられることから、遊び過ぎた。



「いらっしゃいませ〜! お2人様ですか?」


「「はい」」


「ではこちらへどうぞ〜!」



 近くにあった猫耳型の屋根の飲食店に入ると、猫獣人の女性店員さんが案内してくれた。


 チラッと店内を見てみると、店員さんの殆どが頭に動物の耳が生えている。可愛い。



「ご注文は何になさいますか〜?」


「私は〜......ガイアと同じでいいわ」


「それじゃあ焼き魚定食を2つ。あと、骨付き肉を生でください」


「分かりま......え? 生?」


「はい。生で。出来なければ大丈夫です」



 俺が注文を確定させると、お肉は聞いてきますとだけ言って、店員さんは厨房の方へと走って行った。



「セナ、悪いけど暫くは俺の影に居てくれ。もしかしたら生肉を貰えるかもしれないから、我慢してくれ」


『クゥン......だい......じょぶ......』


「「......え?」」



 げ、幻聴かな? 今、子犬の姿のセナが言葉を発したように聞こえたんだが、多分俺達は疲れてるんだろう。うん。


 もしかして、俺の魔力を飲みすぎて......とか?



「お待たせしました〜! 焼き魚定食と、骨付き肉の生です! お肉の料金は大銅貨1枚です!」



 ニコニコ笑顔で持ってきてくれた2つのお米、味噌汁、漬物に焼いた川魚3匹と、お盆に乗った15センチくらいの大きなお肉だ。



「ありがとうございます! お魚、3匹も焼いてくれるんですね!」


「はい! この辺りは川が多く、沢山獲れるんですよ〜!」


「それでは頂きます」


「ごゆっくり〜」



 命に感謝をして手を合わせ、定食と共に持ってきてくれた箸を手にし、俺とミリアは川魚の身を(ほぐ)した。


 ホクホクの白い身を口に運ぶと、小骨と共に噛み砕き、その旨味を堪能する。



「......ねぇ、ここに住まない?」


「住みたい。自然もいっぱいあるし、食べ物も美味しい」



 もう、色々とやるべき事をすっぽかして2人で生きていきたいな。学園なんて気にせず、ここで冒険者として細々と朽ち果てたい。


 ダメか? 10年前のように、2人でのんびり暮らすのは。



『力に伴う責任がありますよ』


「分かってるさ。俺は前払いで済ませる。先にやる事を全部終わらせてから、ミリアと幸せになる」


「ふふ、ありがとう。私も手伝うわよ」


『仲が良くて見ていて気持ちいいですね』



 俺は影から声を出すヒビキに微笑み、同じ影に向かって骨付き肉を入れた。するとセナが肉の部分に齧り付き、ブチッと肉を噛みちぎった。


 生でも分かる、美味しい肉だろう。高いんだぞ。



「骨も栄養あるから、美味しく食べるんだぞ」


『わか......った......』



 おぅ......いよいよセナが人語をメインに使い始めたぞ。

 今回の旅の男女比は2:2となり、バランスが良くなってしまったな。



「それにしても、特に領主への恨みつらみが聞こえたりはしないな」


「それはそうでしょ。ここはご飯を食べる場所であって、統治する人間に文句を言う場所じゃないもの」


「正論パンチが()みるねぇ。全くもってその通りだ」



 この後は冒険者ギルドや、そこら辺を歩く人に話を聞いてみようか。もしかしたら、エルフと獣人の優遇問題について知れるかもしれない。


 そんな予定を立てながら食べていると、あっという間に完食してしまった。



「「ご馳走様でした」」


「焼き魚定食2つと骨付き肉、合わせて大銅貨2枚です!」



 俺はスっと自分の服の影から大銅貨を2枚出し、支払いを済ませた。


 この店は王都でもあまり見ない、後払いシステムのようだ。



「ありがとうございました〜!」



 ミリアと手を繋いで店を出ると、外は完全に朝の空気になっていた。人々が外に出て、仕事を始めている。


 そして、公園では子どもの獣人とエルフ達が親と遊ぶ姿が目に入る。



「......エルフも落ちたものね」


「やっぱり、元はそこまで数が多くなかったんだな?」



 悲しい場面を見たように眉を顰めるミリアを見て、俺は思考を加速させて聞いてみた。



「えぇ。エルフは精霊と人間のハーフ。種族の壁を超えた、本来生まれないはずの存在だったわ」


「......獣人と同じように?」


「そうよ。精霊は妖精に格を落とし、更に人間に近しい存在になり、精霊の因子を人間と混ぜることでエルフを生み出したわ。これは獣人も同じ。獣の因子が人間と混ざると生まれるの」



 俺の大切な妹であるサティスも、昔に父さんが戦った時にディザスターベアーにつけられた傷が原因なんだっけ。


 レアケースではあるだろうが、今のミリアの話を聞けば納得出来るな。



「エルフはエルフでも、特に精霊の因子が強く出る者をハイエルフと呼んだわ。彼女達は取り分け魔力が強く、魔法の発動速度も速かった」


「ハイエルフは増えるのか?」


「ハイエルフ同士が交われば、ね......ハイエルフと人間、或いはハイエルフとエルフが交われば、9割以上の確率で普通のエルフが産まれるの」


「それは、人間の因子が強くなるから、か?」


「そうよ。でも、稀に先祖返りなのか、ハイエルフが産まれることもあるわ。丁度この、ガーネット子爵領の娘、ダリア・ガーネットもハイエルフね」


「ダリアが? そうなのか......」



 衝撃の事実だな。トイレから感じた妙な気配も、あの強力な魔力も、ダリアという、ハイエルフだから持つ力だったのか。



「あの子は雷の精霊、『トリトゥル』によく似ているわ。バナナの様な髪色に、雷のような赤紫の瞳。特徴的だから忘れない」


「やっぱりバナナだよな」


「えぇ、バナナよ」



 ダリアの髪は、本当にバナナと言うのがピッタリな程、黄色い上に髪の房が大きい。



「エルフはそもそも、妊娠しづらいわ。今でも精霊の因子が邪魔をして、上手く人間の因子と混ざらないの。でも──」


「でも?」



「人間の性欲とエルフの性欲の前に、因子の混じりにくさなんて関係なかった。だって、四六時中発情してるもの」



「まるで誰かさんみたいだな」


「当たり前よ。こんな魅力的な男に発情しない訳がないわ」



 ペロッと舌なめずりをするミリアの顔を直視していると、彼女の瞳から蠱惑的な雰囲気を感じた。



「話を戻すわね。エルフはその産まれにくいという特性上、自分達が特別な存在だという思いが強くなり、エルフそのものを特別視し始めたわ」


「実際、特別な存在ではあるしな」


「そうね。お陰で彼らは、規律や規範を大切にするようになったのだけれど......今ではアレよ」



 ミリアが指したのは、街中でキスをしまくっている女性のエルフだ。


 確かに、あの姿からどう規範にすればいいのか分からない上に、シンプルに見ていて不快だ。イチャつくにしても、限度があるってもんだ。全く。



「人は変わるわね。精霊のように、停滞した存在じゃないわ。良くも悪くも、変わる生き物ね」


「昔のミリアも、停滞を嫌って外に出たんだろ?」


「えぇ。そうして旅をしていたら、ガイアと出会った。私の在るべき場所であり、私の一生に必要な刺激を与えてくれる人物よ。貴方は」


「そりゃどうも。これからも刺激を与えられるよう頑張るよ」



 嬉しい。俺を知ろうとしてくれて、俺を知ってくれて。ありがとうミリア。



「今の私は人間。ガイアと一緒に生まれ変わった、正真正銘の人間。私は、いつまでも魅力的なガイアがずっと好き。だから......その......」



 どうしたんだろう。ミリアが口篭るなんて珍しい。ゆっくり聞いてあげなきゃな。


 そう思って手を取ろうとすると、ミリアの方から俺の両手を掴んできた。



「私のことも、ずっと好きで居てくれる?」


「当たり前だ。歳をとってお爺さんになっても、ミリアのことが大好きだ」


「えへへ......嬉しい」



 きゃ......きゃわわわわわ! なんだ今の仕草! 腕に抱きつくだとゥ!? そして言動は、え、えへへだと!? あのミリアが!?


 あ〜ダメだ。可愛い。可愛すぎる。オタク特有の可愛すぎるものを見て、『もう無理死ぬ......』状態だ!



『ミリア様も大概ですなぁ』


『いちゃ......いちゃ?』


『そうですぞ。このお2人のことは『バカップル』と言われるそうだ』


『ばか......っぷる』



 あの〜、ヒビキさん? ウチの子に変な教育しないでもらえます? セナは純粋なまま育って欲しいんですよ、えぇ。


 まぁ、そもそも成体か幼体かも分からないんだけど。




「それじゃ、本格的に調査といきますか!」


次回も楽しんでください! というか私が楽しみます!

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