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空色魔力の転生者 ─泡沫の命と魔法の世界─  作者: ゆずあめ
第2章 エデリア王立学園
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第42話 優遇調査・前編



「ふぅ。楽しかったわ!」


「ミリアが楽しんでくれて、俺も嬉しいよ。あと......荷物持ちになってくれてありがとう、ヒビキ」


『なんのなんの。俺の影は広いですからね! ガイア様に勝る、唯一の要素ですから。頼ってくださって嬉しいです』



 誇らしげに語るヒビキの影には、俺がミリアに選んだ服と、ミリアが俺に選んだ服が沢山入っている。


 これからガーネット子爵領へ向かうのに、大量の荷物を持って行けないところを助けてくれたヒビキには感謝だ。


 やはり、影食みは物資輸送の手段として素晴らしい。



「よし、お弁当も頂いたし......行くか、ガーネット子爵領に」


「冒険者タイムって訳ね。ここから結構遠いけど、目的は?」


「獣人とエルフで優遇されているのか調査する。あとは観光」


「ハネムーン?」


「まだ結婚まではしてないぞ、俺達」


「むぅ......残念ね。世の独身人間に私達の甘々結婚生活を見せつけてやろうと思ったのだけれど」


「鬼の所業じゃねぇか! ミリア、いつものブレーキはどこに置いてきたんだ!?」


「それなら女子寮に置いてきたわよ」


「ノォン......ノォォォン......」



 危なかった。もし結婚していたら、ガーネット子爵領の独り身さんが怨嗟の声を上げながら砂糖を吐き散らしながら死んでいたぜ。


 全く、バラの花には棘がある、とは言ったものだな。



「取り敢えず薬草採取の依頼だけ受けて、王都を出るぞ」


「ガイア、いつも薬草採取ばかり受けてない?」


「やる人が少ないからな。この前、薬屋の店主が困ってたんだよ。だから少しでも貢献したくてな」


「そういう理由なら分かったわ。私もやる」



 それに、どうしてかは知らないが俺の魔力で漬けた薬草は効果が元の何百倍にも跳ね上がる。それ故に緊急時の回復手段として持っておきたい。


 現に、俺の影には10枚1束の空色の薬草が3束入っている。




◇ ◇




「広いわね、この草原。走りたくなるわ!」


「走りながら言うセリフじゃないな!」


「だって楽しいんだもの! ふふふっ!!」



 王都を出て北に進むと、魔物がチラホラと歩いている広大な草原に出た。


 そこで俺達は身体強化を使い、2人で走り回っている。


 俺達からすればただ遊んでいるだけだが、周りから見れば凄まじい速度で子どもが走っている光景が広がっていることだろう。


 ミリアは純粋な魔力操作の技術力が高く、俺はそんなミリアに教えられた技術で強化している。



『影ですら追い付けぬ、と言いたい速度ですね』


「ははは! でもお前は影に入れるから、速度なんて関係ないだろ?」


『それはそうですが......しかし』



 俺の言いたいことは分かっても、納得出来ないんだろうな。



「はぁ〜、楽しかったわ! 少し汗をかいちゃったわね」


「北の森に川があるし、行ってみるか」


「分かるの?」


「あぁ。川のせせらぎが聞こえる」



 北東に広がる森。その中に通る、数本の川から発せられる小さなせせらぎを聞き取った俺は、ミリアの手を引いて歩き出す。



「え?......ちょっと待ってガイア。貴方どれだけ聴力を強化しているの!?」


「ん〜?......どれだけって言われてもなぁ」


「私も今、聴力を強化させたわ。でも、川の音が聞こえる程の強化をすると、あっちに居る魔物の吐息や、ガイアの心音まで聞こえるのよ!?」


「そうだな。でも、それが何か問題あるのか?」



 当然の事なのに、どうしてミリアは驚いているんだ?



「......鼓膜、破れない?」


「破れないように強化してるから大丈夫だよ。安心してくれ」


「もう......心配になるわ」


「心配してくれてありがとうな。ミリア」



 儚げな瞳で俺を見上げるミリアを抱きしめてあげると、ミリアもギュ〜っと抱きしめてくれた。


 ひとつ、気付いたことがある。それは俺とミリアで、聴力の強化方法が違うことだ。


 ミリアは魔力で鼓膜を強化し、空気の微弱な振動を直接鼓膜に伝えている。対して俺は、鼓膜を強化するのは同じだが、俺自身から極小の魔力の粒を空気中に放出し、その魔力の振動を鼓膜に伝えている。


 例えるなら、釣りで魚を獲るか、網で魚を掬うかの差だな。結果は同じだ。



 そして一緒に森に入ると、俺達は一直線に歩いた。



「川はこっちだな。足元に気を付けろよ」


「大丈夫、森は慣れてルゥッ!!」



 丁度足首の位置にあった木の根を注意したにも関わらず、ミリアは引っかかり、俺は直ぐに振り返って受け止めた。



「よく見ろ」


「ちゃんと見てるわ」



 真っ直ぐ俺の瞳を見るミリア。これはもしや──



「俺を見てるのか?」


「そうよ」


「ば、ばかちん。足元を見ろ!」


「ふふっ! 顔、赤いわよ。可愛い」



 いたずらっ子か!

 もう。お茶目というか、無邪気というか......可愛いなぁ。


 俺も何か、お返しにいたずらしてやろうか。



「水浴び、するんだろ? 警戒しておくから早く入りな」


「そう言って覗くのが定番なんでしょ?」


「覗かねぇ、っての」


「そうなの? じゃあガイアが入る時に、私は覗くわね」


「......何で俺の一個上を行く考えをするのかねぇ?」


「ガイアが甘いだけよ。そもそも私達は婚約者、それも200年以上も一緒に居たのよ? 今更お互いの裸に興奮なんか......するわね」


「だろ!? だから言ってんだよ!」



 興奮? しますとも。出会った時の俺は素っ裸だったか、ミリアは薄い布で体を隠していた。だから、今までにミリアの裸は数回しか見たことがない。



「あ、ガイア。見て。おへそがあるわよ」


「当たり前だろ!」


「精霊にはないのよ? これは人間の証だわ」


「そ、そうなのか......というかガッツリ裸じゃん......」



 もう頭がパンクしそうだ。ミリアってこんなに激しい会話をする奴だったか? もしかして、友達と話すうちに変わったのかな。


 今のミリアは、如何にも子どもらしくて大好きだ。



 そんな風に思いながら水浴びの音を聞いていると、森の奥からガサガサと草を掻き分ける音に気付いた。



『ガルルルルゥゥゥゥ』


「狼か。しかも1匹? 珍しいな」



 低い唸り声を発する、純白の毛に艶やかな毛並みの狼が俺の前に現れた。体も大きく、体高は1.5メートルはある。


 俺の今の身長は140センチ程度なので、自然と狼の顔を見上げる構図だ。



「帰りな。それ以上近付くと首を落とすぞ」


『ガルルゥゥ』


「相手が小さいのにも関わらず警戒するのは良い心がけだが、相手が悪すぎる。とっとと行けぇ!!」



 声に魔力を乗せて発すると、狼はビクッと震え、全身の毛が逆立った。


 猫みたいだな、コイツ。



『アセナとは珍しいですね。100年に一度、会えるかどうか分からない希少な魔物ですよ』


「へぇ〜、そうなのか。なら尚更帰りな。お家でパパやママが待ってるんじゃないか?」


『アセナに雄個体は居ません。母親の魔力から生まれます』


「えぇ? 魔物らしいっちゃらしいが......まぁいい。ほら、シッシ! あっち行け!」



 俺は手で遠くに行くように払って見せると、アセナと言われる白い狼はお座りしてしまった。


 まるで立ち去る気が無い。先程のような唸り声を上げることも無ければ、俺から距離を取ろうともしない。何が狙いだ?



『ガイア様......懐かれてますね』


「は? なんで?」


『分かりません。ですがあの尻尾の振り方から見て......懐かれているのは確かです』


「もう仲間は要らねぇってのによ......」



 ヒビキにアヤメにアセナ。3人も要らんわ。ヒビキはともかく、アヤメとアセナは俺に着いてこない方が幸せな一生を満喫できるだろう? なのにどうして俺に着いてくる。


 あぁ、そろそろミリアの水浴びが終わりそうだし、早くしないと。



『仲間にするなら、アセナにガイア様の魔力を飲ませてください。あの生き物は魔力との親和性が異常に高いので、その魔力を主と認めるとどこからでもやって来ますよ』


「詳しいんだな」


『......昔、俺にも居ましたから。人間に殺されましたが』


「毛皮狙いか。モッフモフだもんな、お前」



 試しに右手に魔力を出して見せると、アセナは犬のように鼻を動かしながら近付き、ペロペロと飲み始めた。



「可愛いな」


「あら、狼に浮気? 許さないわよ」


「嫉妬の方向が異次元な人が帰ってきちゃった」


「誰が嫉妬狂いの女よ」


「そこまで言ってねぇよ!」


「あらあら。なら私のことをどう思ってるのかしら」


「可愛いくて美しくもあり、強さと弱さを見せてくれる優しい女の子。少し、言葉に棘があるが、バラの花には棘があると言うからな。それもまた、ミリアの美しさの要素だ。結論、愛してる」



 素直な気持ちを口に出すと、先程まで騒がしかった森に静寂が訪れた。風で葉が擦れる音も、鳥のさえずりも、アセナが俺の魔力を飲む音も......全てが消えた。


 そんな、静かな世界を斬ったのはミリアだ。



「ガイア......ふふ、私以上に私を知る人にそこまで言われたら、何も反論出来ないわね」



 はにかみながら俺の後ろに立ち、背中に抱きついてきた。それと同時に、アセナがまた、俺の魔力を飲み始める。


 少しづつ音が戻る森は、まるで俺の話を聞いているようだった。



「それじゃあ、このワンコ......あぇ? なんか毛の色変わってね?」


「......空色、ね」



 ずっと俺の手を舐めているアセナの毛先が、ほんのりと俺の魔力と同じ色になっていた。


 これがヒビキの言う、異常なまでに高い魔力の親和性というヤツか。



『ワン!』


「犬じゃねぇか! おいヒビキ、コイツ本当に犬だぞ!?」


『ちょっと......アセナかどうか疑わしくなりましたね』


『ウェン!』


「小型犬の鳴き声だってこれ! 狼じゃないだろ、お前」



 狼らしくない鳴き声を上げるアセナを撫でてやると、気持ち良さそうに顔を擦り付けてきた。


 そして背中や頭を撫でようとすると、みるみるうちにアセナの体が小さくなり、本物の小型犬の大きさになってしまった。



「「『え............』」」


『ワン!』




 どういう訳か、アセナがペットになってしまった。

わんわんお。


もうそろ毎日更新が難しくなってきたので、不定期化します!


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