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空色魔力の転生者 ─泡沫の命と魔法の世界─  作者: ゆずあめ
第2章 エデリア王立学園
41/123

第41話 春の陽射しと貴方の香り

かつてないほど次回予告が当てにならない作品はコレです。

あ、お砂糖多めです!



「武器は持ったか?」


「持ってない」


「食料は持ったか?」


「お弁当を」


「お金は持ったか?」


「銀貨3枚」


「寮に外出届は出したか?」


「出した」


「よし、行くぞぉぉぉ!!!!」


「お〜!」



 朝日が顔を出す前の肌寒い朝。土曜日の清々しい休日の空気を吸い込んだ俺とミリアは、事前の準備確認を終わらせて校門前に集まった。



「にしても早いわね。もう少し後でも良かったんじゃないの?」


「え? 早く集まった方が、より長くミリアと居れるだろ?」


「......もう。大好きよ、ガイア」



 両手に持っている袋を地面に置いたミリアは、春にしては少し寒そうな水色のワンピースを揺らし、俺の胸に顔を埋めた。


 2人っきりだと異常なまでにデレるミリア。デレリアだな。



「行こうか。今日も可愛いよ、ミリア」


「うふふ、ガイアも素敵よ? 食べちゃいたいくらい」


「ありがとう」



 今、一瞬だけミリアの目が艶めかしかった。もし夜にこの目をされたら、本当に食べられていそうだ。




◇ ◇




「早朝から人気ね。セレスも言っていたけど、サンドイッチって美味しいの?」


「具材によるかな。お腹に溜めたいならハムと野菜のサンドを頼めばいいし、おやつならフルーツサンドが丁度いい。あ、もしサンドイッチを不味く作れるなら、それは最早才能と言えるレベルだから安心していい」


「そうなのね。ありがとう」



 まだ朝日が昇って直ぐだと言うのに行列が出来ているのは、勇者が開発者と言われる軽食、サンドイッチの屋台だ。


 日本ではサンドイッチ専門で扱う店は珍しいが、この世界ではかなりメジャーらしく、人気も高い。


 俺としては慣れ親しんだ味。ミリアは初めての外食ということで、まだ行列が短い時に並び始めた。



「いらっしゃい! オススメはこの......え、ガイア?」


「おぉ、ゼルキア。おはよう。アルバイトか?」


「そうだよ! 土日はここで働かせてもらってるんだ!」



 ミリアがメニューを悩んでいると、見かねた店員さんがアドバイスをくれたのだが、まさかの人物が店員だった。



「ミリア、決まったか?」


「えぇ。このミックスサンドにするわ」


「それじゃあ俺はハムエッグで。はい、銅貨6枚丁度だ」


「毎度あり! デート、楽しんでね!」


「「余計なお世話 だ/ね」」



 代金は俺が出し、ぜルキアに手渡されたサンドイッチをミリアが受け取り、俺達は近くの公園のベンチに座った。


 そして魔法で手を洗い、ミリアからハムエッグサンドを受け取ると、そのまま齧り付いた。



「美味しいな。というかゼルキアが接客とか、あの店の利益が跳ね上がるだろうな」


「......ふふ、美味しい。ゼルキアがやると何が良いの?」


「アイツは誰にも分け隔てなく話せる人間だから、新規の客にプラスしてリピーターを確保するのが上手いんだ。だから、一瞬だけじゃなく、継続的な利益の上昇が見込める」


「そうなのね。将来は商人にでもなるのかしら?」


「向いてるだろうな」



 明るく、優しく。人の顔を覚えるのが得意で、最期まで領民と友人を想って生きた人間なんだ。皆から好かれるだろう。


 俺はゼルキアの人を想う心を尊敬する。



「ほれ、ミリア。1口あげるぞ。あ〜ん」


「あら、いいの? それじゃあ......あ〜ん」


「美味しいか?」


「最高ね。私のもどうぞ。あ〜ん」


「ありがとう。あ〜ん......うん、美味しいな。野菜がシャキシャキしてる」


「ふふっ、口元にソースが付いてるわ。取ってあげる」



 そう言って俺の顔に付いたソースを指で取ったミリアは、そのまま可愛くパクッと指を舐めた。



「5倍くらい美味しいわね、これ」



 うわ! なんか今、凄く恋人っぽいことしてる! 

 ......いや、恋人なんだけど! 婚約者なんだけど!


 学園じゃ絶対に見せないミリアのこの笑顔。独り占めしちゃっていいんですか? 本当に? いいの?


 あ〜、幸せ。精霊樹の森に居た頃から変わらず、俺に見せてくれる笑顔はいつも明るい。そんな姿を隣で見れるなんて、幸せと言わずして何と言う?



 守らないと。ミリアの笑顔は、命を懸けて守らないと。



「結婚、したらさ......」


「うん」


「領主の仕事を辞めて、2人でどこか遠い所か......精霊樹の森で暮らさないか?」


「......友達に会えないわよ?」


「分かってる。誰かこれは仮の予定だ。どちらにもメリット・デメリットがあるのは分かっている。だから、この先ゆっくり、2人で決めないか?」



 友達。豊かな生活には欠かせない、自分と対等な立場の者。昔の俺達にとって、安部くんのような存在。


 ......ダメだ。まだ俺は引きずっている。決めたのに。後悔しないって決めたのに......!



「ガイア。暮らさなくても、精霊樹の森には行きましょう。あの子の......安部くんのお墓を建ててあげないと」


「......そう、だな」


「あの子は幸せだった。君と出会い、過ごした日々を宝物だと言っていたわ」


「安部くんは喋ら......そうか、ミリアは言葉が分かるのか」


「そうよ。安部くんはいつも、『ガイアにお礼が言いたい』と私に言っていたわ。私と出会う時、ガイアが自分を信じてくれたから今の生活があるんだって、いつも......」


「安部くん......」



 あの時の言葉は、今も鮮明に覚えている。


『いき......て......がい、あ......』


 あれはきっと、幻聴なんかじゃない。あの言葉は安部くんが本当に発した言葉だ。



「しんみりしちゃったわね。食べ終わったことだし、行きましょうか。それとも少し、ゆっくりしてからにするる?」


「......ゆっくりしたい」


「ふふっ、分かったわ。いつもはガイアがやってくれている膝枕。今日は私がするわね」



 ワンピース越しに膝をポンポンと叩くミリアにお誘いに乗り、俺は彼女の優しさに甘えた。


 暖かい。春の陽射しも、ミリアの優しさも。後悔の念で冷え切った俺の心を、ゆっくりと溶かしてくれる。



「少しづつ、少しづつ。()()が言っていたわ。強くなるのも、弱くなるのも少しづつだと。全ては積み重ねにあり、山を作るのは目に見えない(ちり)だと」



 え? 俺はそんなことをミリアに伝えた記憶が無い。精霊樹の森の時は、ただ森という自然の強さに順応する為、急激に力を付けてからゆっくりと慣らしていった。


 ............まさか──



「悪しき魔王を討った夫の言葉。忘れないわ」


「ミリア......記憶が?」


「分からないわ。でも、夢で見るの。今より大きくなった君が、私と同じ指輪を着け、沢山の人を守る為に戦う姿を。血と灰の臭いに包まれたあの場所でも、()()の優しい香りはよく分かった。()()に救われた人は、皆そう。冷えた心も、濁った瞳も、()()が少しづつ溶かし、光を差したわ」





 間違いない。レガリア時代の......一番最初の俺だ。





 忘れもしない。孤児として育てられた俺は、孤児院に給付している騎士団の存在を知り、幼くして人生の目標を騎士にしたんだ。


 伝染病に寄生虫。戦争に悪政と、あの世界は汚れに汚れていた。


 でも、そんな中で俺は1人の少女に恋をした。



 当時の......レガリア帝国の第3皇女。アミリアだ。



 彼女の姿は、他の皇族とは違った。髪は絹ように白く、瞳は鮮血のように赤い。高い身分であったのにも関わらず、全ての貴族、皇族から嫌われた孤独の少女。


 俺は彼女を見た時、その瞳から感じる優しさに惹かれ、守りたいと思った。


 命を懸けて守りたい。出来ることなら、彼女を笑顔にしてあげたい。彼女の精神が擦り切れて死ぬ前に、何としてでも彼女の傍に居たい。


 そう思った俺は、目標だった騎士団への入団を諦め、早急に力を付けるべく、魔王の統括する魔王領へ踏み入った。



 バカだった。相手の魔物には俺の刃は入らず、接敵して2秒後には左腕と左足を食われていた。



 命からがら前線から退いたら、救護班の所に彼女が居たんだ。


 皇族としての使命も与えられず、嫁ぐ先の貴族も居ない。そうなれば、アミリアを通して帝国の印象が悪くなるからと、魔王軍との戦闘の最前線に送れらた。


 俺の姿を見たアミリアは......泣いていたな。


 生きているのも不思議なぐらいの姿で、例え傷を塞いでも病原菌が入り込み、もう長くはないことが分かっていたから。


 それでも彼女は、懸命に治療してくれた。黄金の魔力を使い、俺の左腕の骨は木で作られ、その上に筋肉を作る形で治された。


 義手にしては動き過ぎる手だったな。


 その時だったか。俺が彼女にこう言ったのは。



『俺を生かしたということは、俺の人生を操ったということ。だから、責任を持って、最後まで俺の人生を見届けて欲しい』



 今では『は?』と言われるような言葉だが、当時の医務室では大ウケだったのだ。小さな8歳の男の子が、同い年の少女を口説く為の拙い台詞。


 周りの大人は、俺達を見守ってくれていた。


 そして俺の真意に気付いたアミリアは、小さな声で『ありがとう』と言って、俺と交際を始めたんだ。



「懐かしい......あの時の俺は、弱かった」


「そうね。会う度に怪我をしていたわね」


「......今も弱い」


「強いわよ。あの時のガイアは、何を差し置いても私との時間を取ったもの。それは今もそうでしょう?」


「まぁ......俺にはミリアしか居ないから」


「いいえ。私以外にも友達が居るじゃない。ガイアはそれを分かっていて、私を優先する。ガイアは、無意識に私を見ていることに気付いてないのよ。まるで本で見た、初恋をする男の子みたいだわ」



 微笑みながら俺の頭を撫でる細い手は、羞恥心で俺の顔を真っ赤にするには十分すぎる力を持っていた。



「もう、そういう可愛いところも好きよ。私以外には見せないでちょうだいね?」


「あ、当たり前だ......お前以外にこんな姿、見せたくないし......」


「ふふん♪ ならいいわっ」



 声を弾ませて喜ぶミリア。そんな彼女の姿を見ていると、いつの間にか俺の心は元に戻っていた。


 一瞬にして凍り付いてしまった心を、ミリアは少しづつ、溶かしてくれた。笑顔で優しく触れてくれるミリアが、堪らなく愛おしい。



「ミリア」



 俺は膝枕から起き上がると、ミリアの顔の傍に近寄った。



「愛してる」



 そっと差し出されたミリアと口付けを交わした。


 紅くなった彼女の頬を撫でてあげると、ギュッと全身で俺を抱き寄せてくる。本当に可愛い。食べてしまいたいくらいだ。


 でも、我慢だ。自制心を効かせないと。



「んぅ......続きは?」


「俺達にはまだ早い。成人してからだな」


「待ちきれないわね。早く大人になりたいわ」


「そう言ってるうちは子どもだな」



 俺の言葉に顔を真っ赤にしたミリアは、優しく俺の胸をポカポカと叩いた。



「ほら、行くぞ。午前中に行きたい店、あるんだろ?」


「むぅ......そうね。お洋服を見てみたいわ」


「了解だ。ほら、手」


「ありがとう」



 ミリアと手を繋いだ俺は、彼女と同じペースで歩き出した。




 あの時とは違う、平和な世界で。

レガリア帝国編はどこかでやりたいですね。

へっぽこガイアの冒険譚が見れますよ(*’ω’*)


次回『ガーネット子爵領』お楽しみに!



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