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空色魔力の転生者 ─泡沫の命と魔法の世界─  作者: ゆずあめ
第2章 エデリア王立学園
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第39話 黒き狐は犬を辞める

にゃん!(次回予告が外れた音)




「暗殺者の心得その1。確実に息の根を止めること」



 初夏の早朝。寮に住む人が誰も起きていない時間に、俺は日課のトレーニングと影食みの練習をしつつ、暗殺者時代の記憶を蘇らせた。



「暗殺者の心得その2。相手が権力を持つ者の場合、時間をかけてルートを開拓せよ。但し、暗殺は最短で決めること」


『何故、時間をかける必要があるのですか?』


「それは攻めるルート、逃げるルートの他に、暗殺対象の移動ルートの構築や暗殺後の世間の動きなどを読む為だ。膨大な時間をかけて準備を完了させ、実際に行動する時は5分も満たない時間しか使わない」


『そう聞くと、暗殺者の仕事は割に合わなさそうです。俺なら、真正面から斬りこみますね』


「フッ、割に合う、か......考えたことも無かったな」



 俺が暗殺者になった時は、国を変える為だった。


 国民に多額の税を納めさせ、外国への貿易に多大な利益をもたらした農民達に、まともな給付や給金もなく、農村が壊滅していくことに目を向けずに私服を肥やす王家。


 そんな国の上層部を入れ替える為に、悪政に手を染めた貴族の全員を殺したんだ。



「金銭目的の暗殺に価値は無い。命の代価は命でしかなり得ない。人間が動物の肉を食べて生きるように、殺すということは生きるという、イコールの関係になければダメなんだ」


『それは面白い考えです。俺達魔物も同じように、他の魔物を喰らっていますから』


「だろう。俺が過去にやったのは、王家の命を代価に、大量の国民の命を生かしただけだ。そこに一銭の動きも無かった」



 金の為に散る命。下卑た欲に塗れた凶器で殺されるなんて、普通の人間には与えてはならない死に方だ。


 だがしかし、相手が同等以上の悪事を働いていたなら......その限りではない。



「第1王子には痛い目を見てもらおう。次期国王にもなる人間が、下らない私欲で1人の子どもの暗殺依頼を出すなんて、どれ程バカなことをしたか思い知ってもらわねば」


『相手が悪かった、としか言えませんね』


「量産型ヒビキだな」


『それは言わないでください。俺が甘かっただけのことです』



 逆だと思うがな。ヒビキが甘いのではなく、俺が上だっただけだ。決してヒビキは弱くない。そこは履き違えてはならない。




◇ ◆ ◇




「──という詠唱で発動するのですが......ガイア君? 聞いていますか? 今先生が言ったこと、口に出してみてください」



 アリス先生の授業を聞いてウトウトしていたガイアは、教壇から飛んでくる視線に目を覚ますと、然も何も無かったかのように口を開いた。



開闢(かいびゃく)の炎よ、血肉を喰らう獣と化して、我が魔力を糧に顕現せよ」



 半分意識が飛んでたとはいえ、話はちゃんと聞いていた。



「正解です。ちゃんと起きて授業を聞いてください」


「はい。あと質問なんですけど、開闢なのに土じゃなくて火に関係しているのは何か理由がありますか?」



 さっきまで先生が教えてくれていたのは、古代に使われたという魔法の詠唱だ。なんでも、その時代の魔法は非常に強力だったそうな。


 強力な原理は分からないが、詠唱だけは判明しているらしい。



「詠唱については、まだ形しか分かっていません。答えられなくてごめんなさい」


「いえ、ありがとうございま......」


「......え? ガイア君?」


「ガイア?」



 先生に感謝の言葉を告げようとしたガイアは、一瞬にしてその場から消えていた。


 ガイアが開けた教室のドアは、尋常ではない力によって完全に破壊されており、教室内から見える廊下の一部分も抉れるように破壊されていた。



「行くわよぜルキア」


「だね」


「え? え? ちょ、ちょっと2人とも〜!」



 いち早く駆け出したミリアに続き、ぜルキアとユーリもA組の教室を出て、ガイアが向かったであろうC組の教室へと向かった。


 そして最初に到達したミリアが見た光景は、彼女からすれば安心する景色だった。



「ぁガッ......ぐっ、ぐるじい......」


「自分の持ってきた毒で苦しむなんて、無様だなぁ。ねぇ今どんな気持ち? ねぇねぇ今どんな気持ち? 最高だよねぇ!」



 全身を真っ黒に染めた高身長の男性に馬乗りになり、男が持っていたであろうナイフで首筋に傷をつけるガイア。


 ミリアとぜルキアは安心した様子で教室に入り、混乱しているC組の鎮静化に回った。



「ガイア......君?」


「ん? ユーリまで来たのか。お前とっては見ていて気持ちのいいものじゃない。ユーリはA組に状況を伝えて理事長を呼ぶんだ」


「う、うん!」



 素早く的確な指示を受け取ったユーリは、直ぐにA組の教室へと駆け出した。



「ヒビキ。アヤメを守れ。あと刀貸して」


『御意』


「ぜルキア! 落ち着いたらC組に説明してくれ!」


「分かった。ありがとう」




 ガイアの信頼とも言える、名指しの指示に心を弾ませたぜルキアは、男女構わず優しい口調でC組の生徒を廊下に並ばせ、運動場へ避難させた。




「みんな! 今ちょっとした事件をガイアが片付けているから、ここで待機していてね! 大丈夫! 小さな怪我をした人は居るかもしれないけど、死者はいないからね!」



「ほ、本当に大丈夫なの!?」



 ぜルキアの言葉を信じられない女子生徒の1人が声を大にして言うと、ぜルキアはその女子に近付き、跪いて片手を取った。


 そして優しい眼差しで目を合わせると、相手の子は頬を紅潮させ、目が泳いだ。



「勿論。大丈夫じゃなかったら、今頃君達全員が大怪我をしているはずだからね。この綺麗な手が在るのも、彼のお陰さ」


「そ、そうですか......」



 一連のやり取りを眺めていた生徒は、後者の方へ目を向けた。すると青い髪の女の子......っぽい男子生徒と、落ち着いた様子の理事長が運動場へ訪れた。



「お? 偉く落ち着いておるな。さしづめ、ガイアの采配じゃろう」


「ぜルキア君! ガイア君に言われた通り、理事長先生を呼んできたよ!」


「ありがとう。それでは先生、念の為に生徒の保護を」


「ほいほい、分かったのじゃ。ガイアには後で、たっぷりとツケを払わせてやろう。クックック......!」



 いたずらっ子のような笑みを浮かべる理事長の姿に、C組の生徒は安心した様子で事の収集を待った。




◇ ◆ ◇




「どうだ? 俺特製の解毒薬は美味しいだろ? まぁ、そこら辺の薬草を漬け込んだだけだが」



 俺はアヤメを狙った暗殺者の持つ毒ナイフを奪い取って遊んでいると、隣で見ていたアヤメの視線を感じ取った。



「もう......いいです」


「そうか? 俺としてはこの解毒薬と毒でもう少し遊びたかったが......アヤメが言うならやめとおこう。命拾いしたな、暗殺者クン?」


「ヒィッ!」



 刀で暗殺者の腕を撫でてやると、黒い衣服を裂き、刃の先が赤く染まった。



(あるじ)ぃ......もう......!」


「おわっ! とと。もうやめるから安心しろ」



 暗殺者への報復は終わりにして納刀しようとした瞬間、アヤメが横から抱きついて止めてきた。


 っていうか、誰が主じゃ!



「おい黒猫。私のガイアに引っ付くな」


「や〜だぁ!」


「やだじゃない。それ以上匂いを擦り付けるならその耳を引きちぎる」


「い〜や〜!!」



 あぁもう、アヤメが壊れたせいでミリアが激おこじゃないか。俺が鎮火させるのも難しいし、ここは一度、2人でバトルさせた方が早い......よな?


 うん、そうだよ。きっとその方が早い。多分。



「アヤメ。邪魔だから少し離れろ。ミリアはアヤメと一緒に教室から出てくれ。俺はコイツの素性を調べる」


「分かったわ。気を付けてね」


「主ぃ〜!!!」


「うっせ! お前の主になった覚えは無い!」



 身体強化をしたミリアに引き摺られるアヤメが助けを求めてきたが、本当に身に覚えが無いので反論してやった。


 そして2人が視界から消えると、俺はヒビキを呼び出した。



「コイツを影に入れられるか?」


『出来ません。俺と同じ魔力なら出来ますが、そんな都合の良い話は血縁者くらいにしか通じません』


「了解だ。ならコイツは一度......あなたに預けましょう。ツバキさん」



 俺が、開いた教室の窓に声をかけると、3階だと言うのにも関わらず、窓枠にスタっとツバキさんが着地した。



「本当に......アヤメを?」


「はい。後で時間は作るように言っておきますので、今はこの男に関して話しましょう」


「うん」



 普段は見せないような、慈愛に満ちた笑みを浮かべたツバキさんは、今後を楽しみにしながら俺の話を聞いてくれた。



「コードネーム『24』。暗殺組織『黒犬(こっけん)』のメンバー。得意戦術は周囲の景色に溶け込み、相手の隙を突く戦法。主な武器は毒ナイフ。サブで......何かの型がある格闘術か。身長は167センチ、体重は62キロ。魔力の色は青紫。傾向は多分....『毒』かな?」



 俺が淡々と馬乗りにしている男の情報を出していくと、先程まで大人しかった男が、急に息を荒くして焦り始めた。


 コイツ、俺がただ暗殺者を撃退しただけだと思っているな?



「甘いなぁ。情報屋に名を流す組織なんぞ痴れてるヤツしか居ねぇってのに......」



 本当に使える組織は名前が無い。何故なら、作る必要が無いから。


 ただメンバーが集まり、正当な理由で依頼を受ければ暗殺する。本来暗殺者の組織というのは、名前を持たない集団なんだよ。



「黒犬、ねぇ? ドーベルマンを期待していたのに、実際に出てきたのはチワワだった気分だ。まぁいいや。それでツバキさん、コイツどうします? 奴隷でも処刑でも、お好きなようにしてください」


「ん〜......奴隷は認められなさそうだから、犯罪者として出しておく。ギルド経由で出したら逃がされそうだから、直接持ってく」


「分かりました。では、どうぞ」



 俺はヒビキから渡された縄で男の手足を縛ってから、ツバキさんに引き渡した。



「ありがとう。本当に......ありがとう」



 ツバキさんは男を受け取る直前、俺に感謝を述べながら頭を胸に擦り付けてきた。


 温かいモフモフと確かな感謝を受け取った俺は、そっとツバキさんの頭を撫でてあげた。



「それでは、気を付けて」


「うん。またね」



 男の首根っこを掴んだツバキさんは、教室の窓から飛び去って行った。




「して、ガイア。話は済んだか?」




 散らかったC組の教室をヒビキと2人で片付けていると、トコトコと理事長が教室に入ってきた。


 あの可愛らしい顔は何処へ。冷たく笑う悪魔のような顔でこちらを見る理事長に、俺の背中に冷や汗が滝のように湧いてきた。



「......理事長これは違うんです不可抗力というか」


「不可抗力ぅ? 暗殺者が暗殺されるなど、あってもおかしくない状況じゃろう?」


「いやいや、学園の生徒なんだし守るのが普通でしょう?」



 俺が至極真っ当な言葉を告げると、理事長はこてんと首を傾げた。



「うむ? 妾の手元の資料には、『アヤメ』という名の生徒は在籍しておらぬ。して、近しい見た目の者も入学、在籍しておらぬぞ?」


「え?......まさか」



 アヤメ、もしかして俺を暗殺するためだけに忍び込んでいたのか?



「......いや、そう考えるのが普通か」



 そりゃあ、殺したら学園に居る意味なんて無いもんな。普通に冒険者やってた方が稼げるし、刺激がある。


 あぁ、なんか理事長がニッコニコになってやがる。



「では、お主には損害賠償を請求するとするかの。ドアが2つと廊下の床と壁、窓ガラスが5枚......ざっと金貨2枚かの」


「そうなんですか。では、はい。金貨3枚です」


「......ほぇ?」



 俺は懐から取り出した布袋から金貨を3枚、理事長の右手に収めた。



「1枚おまけするので、アヤメを入学したことにしてください。出来ますよね?」


「えっ......え?」


「で・き・ま・す・よ・ね?」



 理事長の目の前に顔を持ってきて、声に魔力を乗せながら発すると、理事長の瞳はブルブルと震え出した。



「ひゃ、ひゃい......」


「それじゃあお願いしますね。ヒビキ、戻れ」


『はっ』




 少し強引ではあるが、丸く収まったので良しとしよう。




「さぁ、友達になってくれる人に話しかけないと」

犬をやめて猫になったらしいですね。


次回 『なの!』 お楽しみに!


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