第38話 おフレンドの思し召し
ジワリティ、クオリティ。77〜
「ふぅ。やっぱり刀は丁度いい重さだな。洋剣も悪くないが、重心がバラバラだ」
ミリアとぜルキアにヒビキを紹介した翌朝。日課のトレーニングを終えた俺は学園の敷地を走ることにした。
「寮がいっぱいあるな〜。よくぜルキアと同じ寮になったもんだ」
安いシャツに刀を提げ、とてもじゃないが貴族とは思えない姿で学園を見て回っていると、俺と同じようにランニングしている生徒と目が合った。
「おはようございますですわ! ガイアさん!」
出会ったのは、こんな早朝にも関わらず煌びやかな金髪を縦ロールにしている、パルティ公爵家の令嬢だった。
「おはよう、セレス......さん?」
「セレスでいいですわよ! なんと言ってもワタクシ達、おフレンドですもの!」
「そうだな。あ〜、セレスもランニングか?」
「そうですわ! 毎日の剣術の授業で、流石に体力が足りないと思ったので、今日から始めましたの!」
「それは良い心掛けだな。体力が足りないと思うだけでなく、対策を立て、ちゃんと行動に移しているのは偉いよ。尊敬する」
「まぁ......!」
凄いよ、セレス。ただのお嬢様じゃなく、考えて行動が出来るタイプのお嬢様だ。
きっと人と関わり、関わられていく内に、自分の積み上げてきた信頼や実績に気付くことだろう。レガリア時代にも何人か、そういう尊敬出来る貴族が居た。
「嬉しいですわ。ワタクシ、誰かに褒められる経験があまり無くて......少し、照れてしまいますわね」
恥ずかしそうにモジモジとしながら呟くセレスに、俺は笑って答えた。
「安心しろ。努力している姿を見られたからには、セレスは絶対に褒められる。ミリアは言わなかったか? 才能より努力の方が美しい、とか」
「仰っていませんわ。ですが......そうですわね。寝る前のミリアさんは、いつも『ガイアは見えないところで努力してる。私も頑張る』と言っていましたわ」
「そっか......そっか」
嬉しい。俺は見えないように、ではなく『見せない』ように頑張る人間だけど、それを見たミリアに評価されるのは、凄く嬉しいと思える。
というか寝る前のミリアを見れるって羨ましいなオイ。時々、ぽや〜っとした雰囲気のミリアはめちゃくちゃに可愛いんだ。
あぁ、逢いたいな。また膝枕してあげたい。
「っとと、俺は行くわ。セレスは無理せず自分のペースで、ちゃんと休憩を挟みながらやるんだぞ」
「勿論ですわ! ありがとうございました!」
「こちらこそ。それじゃ、また学園で」
「はい!」
朝から疲れたら授業に響くからな。ちゃんと休憩を取り、1日の発破剤となる運動にしないと。
そして広大すぎる学園を1周しようとした時、俺の影からヌルッとヒビキが顔を出した。
『ガイア様。おはようございます』
「おはようヒビキ。動きは?」
『明日辺りかと。狙われるとすれば、アヤメ嬢とガイア様が隔離される、授業中に行われると思います』
「分かった。ところでその影に入る原理、教えてくれないか?」
『影食みについて、ですか。勿論お教えします』
有難い。ヒビキの影移動について理解すれば、擬似的な転移が出来るかもしれないからな。そうすれば戦闘時の移動や荷物の運搬に役立つ。
『俺の影食みは、150年前に助けた魔王幹部の1人。スタシス女公爵に頂いた魔術です』
「ふむ......魔術とは?」
『魔術とは、魔物が扱う技術の名です。魔力を直接操作し、人間の言う『魔法』を発動させるのです』
「なら俺も出来るぞ。ほら」
俺は右手の人差し指を上に向けると、上空に空色の蝶を200羽ほど出現させた。
1羽1羽の羽の動き、触覚の揺れ、空気の流れを作り出して作ったこの光景は、俺の魔力操作の技術が全て詰め込まれている。
『......ガイア様』
「ん〜? どした?」
『本当に人間ですか? 魔物しか出来ないと言われている魔術が扱える上に、その練度が魔物の比じゃない......』
「人間も魔物だぞ。それに、やり方を知っていれば誰だって出来る。ミリアも出来るし、元魔王のぜルキアなら余裕だろ」
『いえ。あの方でもこれ程の制御は出来ません。誇ってください』
誇れって言われてもなぁ。100年以上、毎日毎日続けている魔力操作だし、俺としてはまだ上手くなると思ってるから、誇る気が起きない。
自信は持つが、驕りたくない。
「それで、影食みとやらは?」
『はい。影食みは、影に魔力を投影し、自己の存在出来る空間を生成する魔術です。まずは、自分の影に魔力の膜を貼るイメージです』
「ほんほん。こんな感じ?」
朝焼けで伸びる影に魔力を流し、型抜きされた魔力の水溜まりが出来た。
『流石です。では次に、その影の下に部屋を作るイメージで、土の中を削るようにして魔力を出して下さい』
「......それさ、めちゃくちゃな量の魔力を使わないか?」
『勿論です。だから人間には扱えない、魔術という枠組みになっています。ですがガイア様なら......』
試しにググッと土を掘るイメージで魔力を変形させると、俺の体内から異常な程の量の魔力が流れ、1辺が1メートルの3次元空間が生まれた。
俺の額からは大粒の汗が吹き出し、その汗にも魔力が混じり、空色の液体となっていた。
『凄まじい......初めてでこの大きさとは......!』
「はぁ、はぁ、はぁ......もう無理疲れた死ぬぅ! もうやだぁぁぁあ!!!」
『はっはっは! 初めは誰しも疲れるものでしょう。俺の時はあまりの消費量に、1週間ほど気を失いましたから』
「マジかよヒビキさん......」
『一応、元々俺は、オーガの中では魔力量が多い部類でしたよ......』
まぁそうよな。こういう、空間に関する魔法って大体は魔力の消費量がバカな気がするもん。魔力量の力技も良いかもしれないが、技術面でカバーするのが正攻法だろう。
故に、影食みはミリアにやらせてみたい。
魔力量、足りないと思うけど。
「これは日課に組み込んで頑張るしかないか」
『そうしましょう。いつか、完璧に習得出来る日を楽しみにしています』
◇ ◇
そして登園時間になり、いつもの4人で喋っていると、セレスがアリアを連れて俺達の所へ来てくれた。
「あ、あの......すゅみません!」
「おはようアリアさん。どうしたの?」
「その、あの......お、お友達に......なりたくて」
恥ずかしいのか、左目の視線が右往左往と暴れてながら、アリアは右手を俺に差し出してきた。
そこでふとセレスに目線を向けると、『申し訳ございません』と言いたげな表情で俺にお辞儀をした。
これはアレだな。セレスの気遣いだろ。俺がこの学年で浮いていることを知って、友達を増やそうとしてくれているんじゃないか?
優しいお嬢様だな、セレス。
「こちらこそ、よろしく」
「ひゃい!」
俺は差し出された手を握り返し、目に魔力を集中させてアリアの体に流れる魔力を見てみると、俺が塞いだ穴は治っていなかった。
まさか穴の修復もされないとは、傷が治らないのと同じじゃないのか?
となると、少しの間、俺が戻す前の状態に戻して、アリアの体に起きる変化をチェックするか。
「アリア? お〜い、起きてるか〜?」
「は、はい! 起きてます!」
「なら手を離してくれ。そろそろアリス先生が来るぞ」
「す、すみません! それでは戻ります!」
アリアはペコッと頭を下げると、大事そうに右手を撫でながら自分の席に走って行った。
「おかしいですわね。普段のアリアとは全く違いますの。とても緊張してる様子でしたわ」
「怖がられているのかな。『何かすれば殺される!』みたいな?」
「それは有り得ませんの。寮でガイアさんの話をする時、誰も貴方を怖がったりはしませんわ。寧ろ、その強さに憧れていますもの」
「そうなのか。う〜ん......不思議だな」
「不思議ですわねぇ......」
セレスと一緒に首を傾げていると、隣で会話を聞いていたミリアが上機嫌に鼻を鳴らし、俺の肩に体重を預けてきた。
柔らかく当たるミリアの温もりを感じていると、始業の鐘が鳴った。
「それでは、また」
「あぁ。また」
席に戻るセレスを見送りつつ、俺とミリアは机の下で手を繋いだ。
2章の終わりくらいに登場人物紹介を出します。
次回『にゃんにゃん』お楽しみに!
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