第35話 女を泣かせた男
平日が嫌い→平日が大嫌いになりました!
でも何やかんや楽しく生きてます。いぇい。
「ガイア君って凄く強かったんだね!」
「あぁ......」
「ツバキ様より強いって、凄いよ!」
「あぁ......」
「......でも、悲しいあだ名も貰っちゃったね」
「......もうやだ」
最初の授業から1週間が経った。
優しいユーリは俺の心に陽を差そうとしてくれるが、それ以上に俺の学園生活は暗く落ちていた。
やぁ! 僕の名前はガイア・アルスト! 人呼んで『女を泣かせた男』! 厳密言えば、『刀血を泣かせた男』と言われ、友達が増えなかった男さ!!
「ごめんねガイア。皆、言っても聞かなくて」
「僕も忠告するべきだったよ。相手が相手なだけに、普段のノリで花を持たせると思ってたから」
「......やめてくれ。泣いちゃうから」
学園に入る前、ツバキさんと遊んでた時は、どうにかして嫌われたくないと思った俺は、最終的にはツバキさんに花を持たせていた。
だけど先週の授業の時は、つい同じ武器を使っているという公平な状況から、勝利を手放さなかった。
相手が悪かった。あの時、特別講師が他の冒険者なら、ツバキさんより弱い人が相手なら、俺はまだ周りから嫌われなかった。
もし、ツバキさんが刀を使っていれば、俺も意識して戦えたと思う。
「......昼ご飯、1人で食べる」
「大丈夫なの?」
「少し時間をくれ。考える」
◇ ◇
昼休み。校舎の外にある、陽が当たるベンチに座ってパンを食べていると、小さな足音が聞こえた。
「ねぇ、1人なの?」
「......黒猫ちゃんか」
「んにゃっ!? 黒猫じゃないわ! 狐よ!」
でも似てるじゃん。ツバキさんより耳が短いから、本当に猫っぽいんだ。噂では獣人は嫌われやすいそうだけど、こんなに可愛いのにどうして嫌うのかね?
まぁとにかく、今は1人にしておいて欲しい。
「寂しくないの?」
「寂しくはない。友達も2人は居るし、婚約者も居る」
「あっそ。なら、幸せ?」
「どうだろうな。幸せとまでは言わないが、充実はしてるんじゃないかな。3人には、いつも感謝してるし」
「ふ〜ん」
どうすれば周りに溶け込めるんだろう。やはりあの時、ツバキさんを倒さなければよかった。後悔の念で潰れそうだ。
「ちょっと失礼するわね」
ボーッと口にパンを入れていると、黒猫ちゃんが俺の膝に座り、ジッと目を合わせながら首に手を置き、締め付けてきた。
どうして俺は首を絞められているんだろうな。よく分からない。
「はぁ......そんな事して楽しいか? 暗殺者さん」
「ッ!? な、なんで!?」
「君さぁ、あの戦い見て何も学ばなかったのか? 最早暗殺者かどうかも怪しい。なぁ? そこの教師」
俺は黒猫ちゃんの首を左手で掴み、両腕を魔法の水で縛って隣に置くと、校舎の影からこちらを伺っている暗殺者その2に殺気を向けた。
研ぎ澄まされた殺意の塊は魔力を伴って外に放出され、相手からすると空色のナイフが飛んできた気分だろう。
「あ〜あ、気絶しちゃった。弱いね〜? ところで黒猫ちゃん、君の目的は何だ? 言ってみろ」
「い......言えない」
「言えないじゃない。言わないんだろ? ほれ、早く吐かないと、今度は逆に、俺がお前の首を絞めるぞ? あぁ、安心しろ。殺す時は一気に骨を折ってやる」
「ひっ!?」
うざったいな。誰が何の目的で俺にコイツらを仕向けた?
「1つずつ挙げてくか。まず、王家」
「......」
「ワオ、一発ツモか。じゃあ更に絞ろうかな。う〜ん、第1王子カイン・デル・レガリア」
「......ッ!?」
「ハハハハハ! マジか! という事はあのクソガキ、俺がミリアを奪った腹いせに暗殺者を送り込んできたな?」
アミリア・デル・レガリアは第3王女だ。例えどこの馬の骨と結婚しようが、政治的影響力はそこまで無い。これがもし、第1王女なら話は変わったが、第3なら本人の自由にさせるだろう。
それに、俺を殺したところでメリットがあるのか? 本当にただの感情だけで動いてないか?
「はぁ、つまんな。話は変わるけど、君の暗殺目的は何かな? 殺害理由じゃないぞ? 暗殺者を始めた理由について聞かせろ」
「......」
「ほら、言えよ。何が目的で人殺しを始めたんだ? ん?」
声に魔力を乗せると、黒猫ちゃんは失禁して気を失いかけた。
流石に暗殺者とはいえ、相手は女の子なので魔法を使って綺麗にしてやった。尋問なのに相手に優しくていいのだろうか。
まぁいいや。話すまでこのままだ。
「勿体ないよねぇ、君。折角可愛い顔に生まれてきたのに、どうして裏の方に手を染めたのか。それに、運が無い。俺がただのクソガキなら良かったのにな。あ〜あ、可哀想に」
「......うっ、ひぐっ」
「良いねぇ、泣いてどうにかなるなら俺も泣きたいよ。ハブられる学園生活に将来の危機、領主問題に冒険者。はぁ......俺も裏に入ってやろうか。王家を抹殺するくらい、1年もありゃ出来るってのに」
「うぇぇぇぇぇぇん!!!!」
ただの愚痴だ。ここ数日で溜まりに溜まったストレスを言葉にして吐き出し、自我を保とうとしている。
「まぁ、そんな話はどうでもいい。早くお前が暗殺者になった理由を吐け。然もなくば首を折る」
「うっ......ぐすっ......お金が、必要だったの......」
「チッ、金銭目的の殺人とは1番腹が立つ。で? お前が殺した人間は何人だ? それと、どんな奴を殺した?」
怒気を孕ませて問いかけると、ビクビクと震えながら黒猫は答えた。
「な、7人......サスティシェ伯爵と、パルティ公爵、強盗犯を4人と、ラスタ男爵......です」
「強盗犯は分かった。貴族の素性は?」
「どれも、領民に不正な税を課す、悪名高い領主でした......」
「パルティの名前は俺も知っている。どの代だ?」
「1年生のセレスとアリアからすれば、祖父に当たります......」
「把握した。稼いだ金額は?」
「き、金額500枚ぐらいです」
いいねいいね。尋問はこの、芋ずる式に出てくる情報を飲み込むのが堪んない。もっと面白そうな情報をくれよ。
「ふ〜ん、幾ら欲しかったんだ?」
「幾ら、というと?」
「お前は金稼ぎに始めたんだろ? なら幾らが目標金額なんだ?」
「......始めた時は、金額100枚あれば辞めるつもりでした」
あ、やべ。地雷踏んだ。
「私には、7つ上の姉が居ます。今は《幻級》の冒険者で有名な、ツバキです」
おややや? 地雷かと思ったけど、もしかしたら徳川埋蔵金を掘り当てた?
「アヤメ」
「ッ!?」
「当たりだな。お前、暗殺者辞めたいか?」
「それはどういう......」
「そのままの意味だ。人殺しを辞めたいなら、俺が辞めさせてやる。お前が辞めれば、業界の口封じの為に、お前にも暗殺者が送られて来るだろう。だからその護衛、と言ったところか?」
ツバキさんは、暗殺者として活動する妹に負い目を感じていた。2人で里を出たというのに、自分のせいで裏社会に入ったんだと思っている。
俺はツバキさんと遊ぶのは楽しいし、これからも楽しんで欲しいと思う。だから、彼女の心の手助けをしようと考えた。
手始めに、アヤメを暗殺者から学生にしよう。
そして、ツバキさんに元気な顔を見せてあげないと。
「ツバキさんはお前を大切に思っている。だからもう、あんな悲しそうな目をするな」
「......うっ、ぐっ......ほ、本当に?」
「あぁ。それとお前、持ってる暗器を全て出せ。嫌なら脱げ。じゃないと縄は解かない」
「出します。出しますから!」
そうしてアヤメから出てきた暗器は、毒液の瓶が1つと、鋭く長い針が3本、そして短い針が10本だけだった。
「少なっ! お前、本当にこんなので暗殺者やってたのか? おままごとかよ」
「......これでも沢山持ってる方です」
「へぇ。じゃあ技術は? って、直ぐに針を出さなかった辺り、下の下といったところか。全く」
暗殺者なら、俺の首を絞めた瞬間に殺せないことを悟り、直ぐにでも針を刺す判断をするべきだろう。それすらも出来ないことから、殺した7人はスムーズに事が進んだのだろうな。
まさか、こんなにもアヤメとの出会いが早いとは。俺は運が良い。
「それじゃあアヤメ。そこの男を連れてアジトに戻り、脱退すると行ってこい。今すぐだ。早く行け!」
「えっでも学園が......」
「命と学園、どっちを取る気だ?」
「......い、行ってきます」
「あぁ。それとこれ、返す。自衛手段だ」
俺はアヤメから取った暗器を返した。首を絞める程度なら身体強化で簡単に防げるが、針を持ち出されちゃあ少しはダメージを負う。
気休め程度だが、無いよりはマシだろう。
「そ、それでは失礼しますっ!」
「生きて帰ってこいよ」
「はい!」
気絶した男性教師を背負い、アヤメは学園の外に走って行った。
成人男性を運べる程の筋力があるのに、俺の首は締められない。これってもしかして、俺の強化度合いが高すぎるのか?
「大きな力にはそれ相応の責任が伴う、か......はぁ」
そうして、俺の楽しい学園生活は、波乱の学園生活へと姿を変えた。
「まぁ、楽しくなかったけど」
アヤメについては、29話『暖かい朝』にて語られてます。
ツバキさんは銀髪藍眼、アヤメは黒髪赤眼と、対称的になってます。(小さなポイント)
次回『おサボり冒険者、鬼と出会う』お楽しみに!




