第34話 初めての授業・後編
☆プチ色情報3☆
エルフは『精霊人族』と書かれ、先祖の先祖と遡っていくと、原初のエルフは精霊と人のハーフの存在となる。
今は人間の血が濃くなり、昔ほど魔力が強くない。(それでも一般人よりは強い)
もし、転生前にガイアとミリアに子どもが居たら.....現代最強のエルフが生まれていたかもしれませんね。
「それではまず、皆さんには魔法を使ってもらいます。と言っても、詠唱を理解するだけで使用はさせませんけどね!」
マズイマズイマズ〜い! 俺達、まともな魔法の詠唱を勉強していないから、それっぽい言葉にイメージで魔法を作ることしか出来ねぇ!
死ぬ、初日から死んでしまう! ここで浮いたら学生活負け確だぞ!?
「この中で誰か、何でもいいので魔法の詠唱を知っている方は居ませんか?」
「はい!」
「セレスさんですね! どうぞ」
「水よ、我が魔力を糧に顕現せよ。ですわ!」
おぉ。あの金髪縦ロールの優しいお嬢様、同じクラスだったのか。それにあの詠唱、過去に使った記憶がある。
合っていたとは、嬉しいな。
「はい。ということでこの場合、『水よ』『我が魔力を糧に』『顕現せよ』の三節の詠唱で魔法が発動出来ます」
ほぇ〜。そんな事しなくても、イメージして魔力を変形させれば発動出来るがな。
「一節一節の詠唱の合間に、どれだけ魔力を体内に循環出来るかで、魔法の威力は変わります」
嘘つけ。それは魔法に注ぐ魔力量によって変動するだけだろう。大体、詠唱する理由は何なんだ? 何が目的で詠唱なんてものが存在するんだ?
「先生、質問いいですか?」
「はい、ガイア君」
「そもそも詠唱する必要はあるんですか? 詠唱すれば相手に何の魔法を使うかバレますし、詠唱するメリットが分かりません」
「良い質問ですね。先程説明したこの三節の詠唱ですが、熟練の魔法使いであれば一節、もしくは無詠唱で発動出来ます。私の場合は──」
「《火炎》」
アリス先生が右手を出して唱えると、一節の詠唱で手の平から炎が出現した。
「「「「「おぉ〜!」」」」」
「と、このように一節で発動出来るので、バレにくいです。魔法にはそれぞれ、傾向と呼ばれる魔力の体質があります。先生の傾向は『燃焼』ですので、比較的簡単に短縮詠唱が使えます。火だけですけどね!」
面白いな。そういえばミリアの傾向は『自然』だったか。全ての精霊を束ねる精霊女王の魔力を持っているから、森での生活では輝いていたな。
俺は火が生み出せないから、憧れている。
「火、か......」
「ガイア、まだ気にしてるの?」
「多分な。頭を悪くして、微細な魔力を振動させて火を作ってやろうかと思っただけだ」
「もう、大丈夫よ。ガイアが出来ないことは、私がやるから」
「......それもそうだな。ありがとう、ミリア」
「いいのよ。婚約者だもの」
今日のミリアは、やけにくっ付いてくるな。どうしたんだろうか。やはり、会えない時間が増えたからか?
何にせよ、可愛いからオーケーだ。もっとくっ付いてくれ。
──炎よ
......ダメだ。俺の魔力がゆらゆらと動くだけで、熱も光も発生しない。
──光よ
これは出来るんだよな。指先だけ光らせたり、懐中電灯の様に使える。
「はぁ......不甲斐ない」
「ふふっ、私に出来ないことがガイアに出来て、ガイアに出来ないことが私に出来る。私達2人って、相性良いと思うわ」
「全くだ。これからも頼むよ、ミリア」
「えぇ。任せて、ガイア」
俺の肩に頭を預けてくるミリアに、俺も頭を預けようとしたが......大量の視線を感じたので我慢した。
授業中だしな。今は魔法に集中しよう。
そう思っていると、重い鐘の音が学園中に響き渡った。
「それでは、次の授業は剣術の授業ですので、移動となります。今日は初回ということもあり、特別講師の方が来てくださっているので、楽しみにしてくださいね!」
特別講師か。それも剣術となると、俺もワクワクを抑えられない。
俺の本職は対人戦剣術だ。魔法は飽くまでサポートであり、メインは剣を用いた戦闘だ。楽しみだなぁ、どんな人が来るのだろう。
「行きましょ、ガイア。次の休み時間、膝枕をしてあげる」
「どこでするんだ?」
「そこら辺のベンチよ。さぁ、ほら」
「はいよ〜」
俺はミリアに手を引かれ、皆が集まる運動場へとやって来た。
すると運動場は既に1年生の全生徒、約200人が待機しており、先生方が箱に入った大量の剣を運んでいる最中だった。
「皆さ〜ん、こちらの剣を1人1本、持って行ってくださ〜い」
「人も多いし、落ち着いてから取りに行くか」
「そうしましょうか。というより、ガイアは取りに行く必要、ある?」
「まぁ、あの刃が潰れた剣の方がいいだろ。こっちを使えば最悪、斬り殺すかもしれん」
「ガイアの剣技でミスをするとは思えないけど」
「ありがとう。でも万が一、億が一の為だ」
ヨイショしてくれるミリアの頭を撫で、俺は箱の前に人が少なくなったタイミングで剣を取りに行った。
そしてミリアの分も、と思い2本目の剣を取ろうとすると、同じタイミングで取りに来た別の生徒と手が当たってしまった。
「すみません。お先にどうぞ」
「......ありがとう」
あら可愛い。猫に似た狐の耳と尻尾なのに、髪は黒く、目が赤いから蠱惑的な雰囲気を纏っている。夜の街で偶然見付けた黒猫みたいな、妙なドキドキ感と可愛さを持っている。
でもなんか、この人の目は見たことがある気がする。
「はい、ミリア。重くないか?」
「大丈夫よ。でも......ズルしちゃダメ?」
「ダメだ。授業なんだから、本来の肉体で頑張れ」
「むぅ。仕方ないわね」
頬を膨らませるミリアを眺めていると、先生が大きな声で授業開始の合図を出した。
「え〜、今回特別講師としてお越しくださったのは、《幻級》のツバキ様だ。『刀血』の2つ名、お前らも聞いたことがあるだろう」
「「「「「おおおおぉぉぉぉ!!!!」」」」」
え、知らないんですけど。そこそこ仲良くはなったけど、2つ名とか一切聞いたこと無いんだけど。
「よろしく。暇だったからリリィに聞いたら、二つ返事で頼まれた。あんまり厳しくはしないけど、才能がある子は伸ばそうと思う」
ヤベェ、めっちゃ見られてる。ガン見されてるんですけど!? いや、見過ぎでしょ! 周りの人も視線に気付き始めてるって!
「ゴホン。という事で、まずは実際にツバキ様の剣術を見せて頂こうと思う。この中でツバキ様に挑みたい奴は居るか?」
ガタイの良い男の先生が聞いた瞬間、シーンと静まり返る運動場。衣擦れの音すら聞こえないなんて、どれだけ恐れているんだよ。
「居ないね。じゃあ、指名する。ガイア、来て」
「え〜? 何でですか? ぜルキアでもいいじゃないですか」
「ダメ。ぜルキアは下手。でもガイアなら出来る」
「......はぁ。分かりました」
「さり気なく貶された僕、可哀想」
ぜルキアの呟きを耳に入れながら歩き出すと、前の生徒が道を開けてくれた。
その生徒の中に、先程見た黒い狐の子を見付けたが、ツバキさんの方を悲しそうな目で見ている。
「じゃあ早速──」
「待ちんしゃい。自分だけ刀を使うとかズルいですよ」
「待ちん......分かった。おじさん、剣取って」
「お゛じ゛っ......はい、どうぞ」
「ありがと。じゃ、やるよ」
可哀想な先生だ。まだ20代くらいだろうに、髭を剃っていないが故に男らしさが強く見え、おじさん認定されてしまったな。
「先手はどうぞ」
「ん」
ツバキさんは剣を左手に持つと、全力の半分程度の力でその剣を投げてきた。
俺に向かって飛んでくる剣の速度は、一般人なら反応不可。剣士なら投げる瞬間だけ反応可能。熟練の剣士なら、目で見えるかもしれないといったところか。
いやぁ、信頼されてるな。俺じゃなかったらこんな速度で投げないだろ、ツバキさん。
「ほいっ」
「あー」
「返しますよ。ちゃんと振ってください」
「めんごめんご。許してニャン」
「シバくぞ?」
俺は掴み取った剣をツバキさんに投げ渡すと、ふんふんと頷きながら剣を構えた。
隙が無い。普段は刀を扱っているとは思えないほどの構えの練度だ。
「......ふっ!」
速すぎて瞬間移動とも言える速度で距離を詰めてきたツバキさんは、そのままの速度を活かして斬り上げを繰り出してきた。
ガンッ!!!
俺が剣の軌道をズラした音が運動場に響いた。
「速い、上手い、凄い」
「丼ですか。ありがとうございます」
「これはどう?」
剣戟のテンポを遅らせたツバキさんは、一瞬の溜めの後、突きと切り払い、蹴りに斬り上げと、まるでダンスの様な攻撃を仕掛けてきた。
「懐かしい。上手い人はそれに砂を掛けてきたなぁ」
「......なるほど。盲点だった」
「あと蹴りの瞬間、下着見えましたよ」
「いい。戦闘と関係ないもん」
「確かに。盲点でした」
レガリア時代、俺の剣の師匠とも言える魔王幹部の1人と、こんなくだらない話をしながら鍛えたもんだ。本当に懐かしい。
あぁ、ツバキさんと戦えて嬉しく思う。
「では俺も攻撃しましょう。Shall we dance?」
「しゃる、うぃ〜?」
「死にますよ」
俺のターンだ。まず、ツバキさんが剣を持つ左手に突きを入れるフリをして、弾かれる寸前に剣を上に放り投げる。
「えっ」
剣先を見ていたツバキさんは一瞬だけ上に視線をズラした。
この瞬間に俺は姿勢を低くして回り込み、ツバキさんの右手を掴み、両足の隙間に左足を入れる。そして細い首に左腕を回し、気道を絞める。
「......ッ!」
最後に、上から落ちてくる剣の真下にツバキさんをセットすれば──
コツーン!!
狐の耳と耳の間にぶつかった鉄の塊が、ツバキさんの頭を打った。
「はい、俺の勝ち。やっぱりツバキさんは刀じゃないとダメですね。そもそもこの形の剣とは相性が悪い。積み上がった技術を、剣が壊してしまっている」
「うっ、うぅぅ......」
ヤベェ、涙目になってる。どうしよう。これ、俺が悪いよな? 絶対そうだよな? 俺がやっちゃったよな!?
「痛い......たんこぶ出来た」
あぁ、そっちの痛みが涙の原因か。よかった。
「ガイア、勝ってよかったの?」
「え?」
「確かに。友達とはいえ、講師を倒しちゃうのはマズイんじゃ......」
「......ハッ!」
ロボットの様にギリギリと後ろに振り返ると、先生方が全員、口をポカーンと開けて固まっていた。
そして生徒の方も見てみると、こちらも先生方と同じく、口をあんぐりと開けて固まっている。
「いつまでツバキを抱きしめているの?」
「ん? あぁ、すみませんツバキさん」
「いい。ポカポカしたから」
「さいですか」
あ〜あ、俺の学園生活、バットエンドを迎えたな。
プチ色書くの楽しいです( ⌯'-'⌯)
今後の連載作品でも、こういったプチ情報は出していくつもりです。
次回『女泣かせ』お楽しみに!(多分外れます)




