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空色魔力の転生者 ─泡沫の命と魔法の世界─  作者: ゆずあめ
第2章 エデリア王立学園
33/123

第33話 初めての授業・前編

スンッ!




「──まぁ、これくらいかな。後は失敗して学んでくれ」


「分かりました」


「えっ......えぇ?」



 レイさんの寮生活のルール説明は、誰もが想像つくようなものばかりであった。


 夜中に大声を出さない、帰宅が遅くなるなら事前に知らせる、など、まぁ普通に生きてれば出来ることだけだ。


 それと、ご飯は『豪華にしたかったら材料を持ち込め』というのが、少し変わったところか。



「よし、なら俺は夜のトレーニングをしてから寝る。ユーリは?」


「ボクもう、お風呂に入って寝るよ」


「分かった。なら先に寝ててくれ。おやすみ」


「うん、おやすみ」



 ユーリが3階の部屋へ上がったのを確認してから、俺はレイさんと目を合わせた。すると彼は、俺の予想通りの反応をしてくれた。



「抜け出す気かい?」


「まさか。本当にトレーニングするだけですよ。それでは」


「うん。俺はもう寝るから、おやすみ」


「おやすみなさい」



 レイさん、貴方の目線に気付いてないと思ってるのか? 俺が提げている剣を見る目......あれは明確に、対戦相手を見極める目だ。


 俺の持つ、剣に接する時間は誰よりも長い。あの程度の視線、分からない訳がない。




「ん〜、居合の練習すっかね」




 寮を出た俺は、学園の敷地内で一際異様な雰囲気を放つ森に入り、そこら辺に落ちている枝を拾い上げた。


 ──物質強化


 茶色い枝が空色の光を纏うと、俺はその枝を空中に放り投げ、目を閉じた。


 左腰に提げる剣の鞘を掴み、鯉口を切る。



 そして感覚で枝が目の前に落下したのを悟ると......



 ガンッ!!!!



 鈍い音と共に、枝が彼方へと飛んで行った。



「ダメだ。刀じゃないと斬れない」



 今、俺が力を入れた順番は足の裏、膝、腰だ。上半身には力を入れず、脚力による居合斬りをしたんだ。


 本来の結果なら、枝は真っ二つ。俺の練り上げた魔力を纏った枝なら、完璧に斬れば断つことが出来るからな。


 でも、俺は斬れなかった。力を入れる順番、加減は完璧だが、剣が合わなかった。



「刀、どこで打ってもらえるんだろ。今度ツバキさんにお願いするか」



 洋剣と和剣。使用用途が違う以上、使い方も大きく変わる。


 『叩き付ける』洋剣に対し、『断つ』のが和剣。


 俺の今の体に合う剣は、高い技術が必要になる和剣......つまり、刀が要る。



「声に出せ。在学中の目標を」



 森の入口から10分ほど走ったこの場所は、例え叫んだとしても誰も気付かない。故に俺は、口を大きく開けた。




「家と刀を作ってもらうッ!!!!!!! そして!! ミリアと結婚するんだァァァ!!!!!!!!!」




 これでよし。結婚に関しては成人後になるから、在学中は無理かな。でもでも、婚約指輪くらいは渡したいな。


 ......受け取ってもらえるかな。



「弱気なるな俺。俺は出来る! 出来るまでやる!! 非常識こそが己の常識!!! 信念を曲げるな、俺は俺の、信じる道を行けえええい!!!!!!」



 気合注入! 生きるモチベーションが爆上がりだ!



「帰るか。身体能力爆上げ〜」



 全身に湧き出る魔力を行き渡らせると、俺の体は空色に輝いた。この瞬間こそ、俺の全力と言える。



「──ふぅ、8秒か。まぁまぁだな」



 たったの8秒か。それとも8秒()掛かったと言うか。


 木々を駆け抜ける都合上、思ったよりも時間が掛かったが、レガリア時代より速く走れていると思うから、良しとする。


 自分を認めるのもまた、成長に必要なことだ。



「さ、俺も風呂は〜いろっ!」




 寮に入る瞬間、誰かの視線を感じた気がしたので、念の為に扉の前に細い糸状の侵入者警戒用の魔力を出し、俺は寮内に入った。




◆ ◆ ◆




「......気付かれた?」


「まさか。有り得ない」



 エデリア学園の持つ、深い森。その中に2人の男女が居た。



 1人は10歳程度の身長で、サラリと長い黒髪に、猫にも似た狐の耳を持つ女の子。


 もう1人は、その女の子の保護者のように見える、20代くらいの見た目をした、黒い髪の男性。


 2人の持つ赤い眼が捉えていたものは、先程までトレーニングをしていたガイアであった。が、そのガイアに視線を向けられたような気がして、女の子が不審そうに声を漏らした。



「あの速度、何者?」


「知らん。だがアイツを殺すのがお前の任務だ。明日から生徒に扮し、2週間以内にあの男を殺せ。いいな?」


「はい」




 殺意を感じさせない2人の双眸は、闇夜の森へと消えていった。




◆ ◆ ◆




「──ア君、ガイア君! 起きて!」



 寮生活2日目。朝日の入りにくい部屋で寝た俺は、2段ベッドの上の段で眠っていたユーリに肩を揺すられた。



「あと5時間......」


「ダメだよ! 起きないと遅刻しちゃうよ!?」


「ミリア、朝からうるさい。お前も一緒に寝......誰だ?」



 ミリアとは違う声に気付いた瞬間、目が覚めた。


 無意識に体全体に魔力を行き渡らせた俺は、瞬時に脳が働き出し、俺の肩を揺さぶる人物に目を向けた。



「昨日の今日で忘れた? ボクだよ、ユーリだよ」


「......ミリアは?」


「誰のこと? ガイア君の家族?」



 首を傾げて聞いてくるユーリに、俺は照れくさくなりながらも答えた。



「あ、あぁ。ミリアは俺の家族だ。っと、それは置いといて、着替えるわ」


「うん! ボクは先に降りてるから、用意が終わったら直ぐに来てね!」


「あいあい。起こしてくれてありがとう」



 ニコッと笑って部屋を出たユーリを見送り、俺は制服に着替え、剣を提げて部屋を出た。


 すると同じタイミングで出てきたぜルキアと目が合い、初めて学友らしい姿で会ったことに、少しばかり感動してしまった。



「おはようガイア。今日は眠いね」


「おはようぜルキア。いつも眠いな」


「ははは! 僕、今まで学校はつまらないと思ってたけど、今は凄く楽しみだ」


「それは良かった。この時間を楽しまないとな」


「うん、そうだね!」



 そうしてぜルキアと1階に降り、寮母さんが作ってくれた朝食を2人で平らげ、待ってもらっていたユーリに感謝をしてから一緒に寮を出た。


 歩きながら思った。ユーリは少し緊張した様子を見せているので、ここはぜルキアに任せたいと。



「ぜルキア。ユーリに友達作りの何たるかを教えてやってくれ」


「はぇ?」


「フッ、このフレンドマスター・ぜルキア様に任せたまえ、親友。さぁユーリ。僕と共に友達作りの秘訣を学ぼうじゃないか!」


「え、えぇぇぇえ!!!!」



 ぜルキアに手を引かれて行ったユーリの足は、先程までとは違い、震えていなかった。


 ユーリ、すまんな。許してくれ。



「ガイア、おはよう。元気?」



 友達作りの秘訣の話をする2人を眺めながら歩いていると、後ろからトコトコと可愛い足音が聞こえ、俺の側にピタッとくっ付いた。


 これが誰か、言わなくても分かる。



「おはようミリア。今日も可愛いな」


「んにゅ!......か、可愛い?」


「凄く可愛い。やっぱアレだな。会わない時間が増えると、その分想いが大きくなるからさ。この生活を機に、普通の恋人らしい事をするか?」



 今までは何と言うか、距離が近すぎたのだろう。

 少し会わないだけで、俺が元々持っていた想いの木が、グングンと枝葉を伸ばして主張するんだ。


 もう実が成っているのに、種が撒けないのが悲しいな。



「むぅ。あ、そうそう。昨日、女子会なるものをしたわ」


「へぇ。どんな話をしたんだ?」


「ガイアの話。私の記憶にある私の発言は、全てガイアの話だったわ」


「......誰と女子会したかによって、俺の学園生活が左右される気がする。ってか、そんな早くに仲良くなれたのか?」


「仲が良いかは分からないわ。でも、友達にはなれたのかも」


「それは嬉しいな。ミリアの生活が幸せになると、俺も幸せだ」


「もう。そういうガイアはどうだったの?」


「俺か? 俺は──」



 のんびりとした空気の中で話していると、前に居る2人がチラチラと俺の方を見てきた。



「見て、ユーリ。アレがガイアという男の正体だよ」


「す、凄く仲が良さそうな女の子......」


「あの子はミリア。ガイアの恋人、というかお嫁さんかな? 婚約したって言ってたし」


「こ、こここ、婚約?」


「うん。2人の関係はもう......ズブズブさ」


「ズブズブ......!」



「あら、聞き耳を立てるとは卑しいのね。私のガイアのお友達は、悪友なのかしら?」



 おっと? ミリア1番隊長がヌルッと2人の後ろに回り込んだぞっ!? これはマズイ! 2人のこめかみに汗が伝っているゥ!!



「ま、まさか! 聞き耳なんて......ねぇ?」

「そ、そうだよ! ボクはそんな事......ねぇ?」



 仲良いな、コイツら。



「まぁいいわ。行きましょ」



 そっと俺の傍に帰ってきたミリアは、俺の右手を取り、4人で固まるようにして学園へと歩いた。




◇ ◇




「皆さんおはようございます。今日から1年間、Aクラスの担任となったアリスです!」



 俺達4人はAクラスに配属された。


 アルファベットが使われている事に疑問を抱いたが、学園の歴史として過去の勇者が設立に関わっているので、きっとその勇者の入れ知恵だろう。



「おっとりした雰囲気の人だな」


「小さい魔物みたいで可愛いわね」



 隣に座るミリアに小声で話しかけると、ミリアも俺と同じように、小さい、おっとり、ふわふわといった感想が出た。


 先生の身長は150センチも無いくらいで、ふわふわとした茶髪に茶色い目が小動物感を溢れださせている。




「それではまず、皆さんには魔法を使ってもらいます」




「「「......あ」」」

ンスッ!

途中、怪しい雰囲気が漂いましたねぇ。


さてさて、次回は後編です。楽しんでくれると嬉しいです! では!

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