第32話 転生王女は彼を想う
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あ、今回はミリア視点です。
「はぁ......」
「あら、ミリアさん。初日から溜め息なんてついていたら、幸せが逃げて行きますわよ?」
「もう逃げているもの。構わないわ」
入学式の夜。私は相部屋のセレス・パルティとお話をしていると、何度も溜め息をついてしまった。
理由は勿論、ガイアに会えないから。
傍に居て、私の心を温めてくれる彼に会えないのは、私の中で1番の不幸。いや、2番目かもしれない。
1番は......死別した時かも。
「何かありましたの? ワタクシで良ければ、お話をお聞きしますわよ」
「うん......私ね、好きな人が居るの」
「まぁ! どんなお方でして?」
「優しくて、カッコよくて、可愛くて、強くて......私に出来ないことが出来る、尊敬する人」
「それは素晴らしい方ですわね!」
「うん。でも、彼は男子寮に行っちゃったから、会えないの」
「それは仕方ありませんわ。逢瀬をするなら、学園でしょうし」
「......今までは一緒に寝てたのもあって、凄く寂しい」
ベッドに腰をかけ、足をブラブラさせながら呟いていると、セレスは顔を真っ赤にして私を見つめてきた。
「い、いいい、一緒に寝るゥ!?」
「えぇ。だって、婚約者だし。一緒に寝るのも普通でしょ?」
「いえ、いえいえいえいえ! それは普通じゃありませんわ!」
「そうかしら。なら貴女の両親は、別室で寝てるの?」
「......同じ部屋ですわ」
「なら同じよ。夫婦が一緒の部屋で寝るのは、何も不思議じゃないでしょ?」
「確かにそうですが......納得いきませんわね。何故でしょう」
知らない。大体私、ガイアと出会ってからはずっと一緒に寝てるから、そもそも一緒に寝ないことが異常としか思えない。
王女として生きた9年間も、ずっと居心地が悪かった。
それでも何事も無く生きられたのは、やっぱり、ガイアを想っていたから、かな。
ガイアの事を考えると、楽しいと思える。彼が話してくれる言葉、さり気ない気遣い、ふとした時に見せる私への愛......もう、好きで好きで堪らない。
「あら、今のミリアさん、凄くいい笑顔をしてますわ」
「そう? やっぱり、彼に会わないと。寮を抜け出してもいいかしら?」
私がそう言うと、セレスはビシッと背筋を伸びして私に指をさした。
「ダメですわ。そこを我慢出来ずに飛び出してしまっては、貴女が処罰を受けますの。そうなれば、彼とはもう、二度と会えない可能性も出てきますのよ?」
「それは無いわ。5年間くらい、彼なら会いに来てくれるもの」
「そうですか? 貴女が居ない5年間......その彼に、別の好きな人が出来ても、そう思って居られますか?」
イメージする。私の大好きなガイアに、私以外の女が手を繋いで歩く姿を......
「......殺したいわね」
あら、つい殺意が溢れてしまった。魔力が炎のような形で表面に出てしまった。
「な、何ですのその魔力......凄いですわ」
私はこの魔力が嫌い。でも昔、あの森で彼が『好き』って言ってくれてから、私も自分自身へ向ける目が変わった。
味方を変えれば恩人でもあるガイアと別れるのは嫌。ここはセレスの言う通りにしよう。
「.....侵入するのはやめましょう。明日、直接会って話すのを楽しみにするわ」
「それがいいですわ! では、消灯まで女子会といきましょう! 今、人を呼んできますわ!」
そう、二度と会えない訳じゃない。寮生活中に会えないだけで、学園では普通に会えるし、話せる。なんなら、学園帰りにデートすることも出来る。
さて、飛び出したセレスが帰ってくる前に、デートプランを考えなきゃね。私とガイアが楽しめるルートを選ばないと。
それから10分もすると、私とセレスの部屋に6人の新入生が集まった。
「女子会ですわ〜! さぁさぁ皆さん、初めましての方も多いでしょうし、自己紹介からしますわね!」
ガイアも今頃、男子会をしているのかしら。
「まずはワタクシ。セレス・パルティですわ! パルティ公爵家の令嬢ですの!」
「アリア・パルティです。お姉ちゃんとは双子の妹で、魔力は青色で、傾向は水です」
似てるわね。セレスは派手だけど、アリアは地味。だけど、端正な顔立ちや口元の笑みなんか、本当にそっくり。
「自分、ミルっす! 忍の里から来たっす!」
忍.....どことなくツバキに似てるわね。ガイアはツバキを気に入っている面があるから、この人も気に入るのかしら。
「ダリア・ガーネットなの! ガーネット子爵家の次女なの!」
この子、熟れたバナナの様に黄色い髪なのに、瞳は赤紫で綺麗だわ。確か、雷の精霊もこんな眼をしていたかしら。
って、この子、エルフじゃない。十中八九、光の精霊の一族ね。
「アタシはキルゼ。趣味は剣術、特技は剣術。好きなことは剣術さ!」
思考がゴリラね。でも、体が華奢だからレイピアを扱うのかしら。それなら、この子はガイアに会わせない方がいいかも。
もしガイアの剣術を味わったら、絶望しちゃいそうだもの。
「......最後、ミリアさんですわよ?」
ぼ〜っと次の人の挨拶を待っていると、私の番が来てた。
「ミリアよ。近いうちにミリア・アルストになるけど、まだ苗字は無いわ。特技は魔法。それと運動が苦手」
上出来ね。もし隣にガイアが居れば、アルスト家になるなんて、恥ずかしてくて言えなかったわ。もし言ってしまったら、その場で押し倒しそうになるもの。
そうだ。ガイアが誰かに取られないよう、早めに既成事実を作った方がいいかしら?
「アンタ......王女じゃないのか?」
「違うわ。王家から追放処分を受けたから、私はただのミリアよ」
キルゼの言葉に答えると、セレスがうんうんと唸り出した。
「アルスト......どこかで聞いた気が」
「お姉ちゃん、ガイア様じゃない?」
「そうですわ! って──」
「「「「「ガイア“様”?」」」」」
「えうっ......あ......」
おかしいわね。仮にも公爵家の一族なら、男爵家の長男を様付けで呼ぶかしら?
「アリアさん。初日から何かあったんすか?」
「な、何も無いよ? ただ、挨拶をしただけ......」
「声がすっごく震えてるの!」
「これは違っ、うぅ......」
あら、可愛いわね。ただでさえ小さくて可愛らしいアリアが、更に小さくなったわ。まるで小さい頃の安部くんだわ。
「私、彼の婚約者だから、誤解を招く呼び方は辞めてくれるかしら?」
「「「「「婚約者ぁ!?」」」」」
「あら? セレスには言ったと思うのだけど......」
「あ、あ、あの方とは思いませんでしたわ!」
「あの方? 会ったの?」
「会いましたわ! 男子寮へ行くのに迷い、可愛らしい男の子と共に尋ねてきましたの。その時ミリアさんは、お部屋に居ましたから......」
なんてタイミングに来ていたのかしら。もう少し遅ければ、私が出れたかもしれないのに。
というより、可愛らしい男の子って何? 敵?
「そうなのね。どうだった? 彼は」
「カッコイイ、の一言ですわね。扉を開けた時も、その男の子を守るようにしていましたし、顔立ちも良く、優しい方でしたわ!」
「うん、うん、凄くかっこよかった! 目がキラキラしていて、吸い込まれそうになりました!」
......アリア。この子、敵ね。確実にガイアに惚れているわ。
まぁ、この子にガイアは奪えないでしょうし、気になることを聞きましょうか。
「キラキラって、どんな風に?」
「こう、もわ〜っと目が輝いていました!」
「それって......こんな感じかしら」
私は視神経に魔力を行き渡らせた。
「そうです! その輝きでした!」
「......なるほど。ガイアの気持ちが分かったわ」
凄いわね、ガイア。アリアの魔力漏れを瞬時に気付き、今はガイアの魔力で塞がれているわ。
彼女の反応から察するに、魔力漏れにも気付かず、それを留めてもらっていることにも気付いてないわね。
ということは、これは秘密裏に進める必要があるわ。ガイアがアリアに伝えてない以上、彼が何かしたと知ってしまえば、この子は更にガイアに惚れ込むもの。
もしかして、ガイアはそれを見越して?
「アリア。ガイアは貴女に何か言ったかしら?」
「い、いえ! ただ、5秒くらい見つめられただけです」
「そう。ならいいわ」
決めたわ。近いうちに、ガイアと既成事実を作りましょう。これ以上、敵を増やさない為に──!!
水面下で始まるバトル。先手を打ったのはミリア選手。さぁ、次手は誰が打つのか──!?
次回『初めての授業』お楽しみに!




