第31話 おフレンドですわ!
よくってよ!
「え〜っと、寮は〜っと」
入学式が終わると、今日の予定は寮に荷物を置きに行くだけとなった。
現在は、学園が思っていたよりもかなり広大な敷地だったので、絶賛迷子中。
「あれ? 寮どこだ?」
「あれ〜? 寮どこだろう?」
「「......え?」」
地図を片手にウロウロしていると、俺と同じように右往左往している人間と出会った。
髪は優しい青に、どこか儚げな黄金の瞳。一見すると女子に見えるが、歩き方や筋肉の付き方から見て男子なのだろう。
「あの〜、男子寮の場所って......分かります?」
「ごめん、俺も迷子なんだ。寮に行きたいのは同じなんだが......すまない」
力になれず申し訳ない。寧ろ力を貸して欲しい。
そう思いながら頭を下げると、相手も申し訳なさそうに頭を下げた。
「あ! もしかして、新入生代表の人......ですか?」
「あぁ。ガイア・アルストだ」
「ボクはユーリ! よろしくね!」
女子のように小さな手を握ると、ユーリはニコッと笑ってから地図に目を移し、眉間に皺を寄せた。
「ボク、昔から方向音痴でさぁ。地図だけじゃ分からないんだよね」
「そうなのか。俺はそもそも、地図を見たのが生まれて初めてだ」
「え? そうなの? おつかいとか行かなかったの?」
「そんなもん、地図が無くても買えたからな。というかそこら辺の建物に人が居るだろうし、その人に聞かないか?」
「確かに! そうしようか!」
そしてこれからの生活について、少しだけユーリと雑談しながら話していると、3階建て木造建築の寮らしき建物が見えたので、扉の前に来た。
「ユーリ、少し後ろに居ろ」
「え? なんで?」
「いいから。嫌な予感がする」
「わ、分かった」
俺はユーリを守る形に移動すると、コンコン、と扉を2回ノックした。
「は〜い......って、あら? 男子の方が何故ここに?」
「すみません。男子寮の場所が分からず、近くにあったこの建物に来ました。お尋ねしても?」
中から出てきたのは、金髪縦ロールという、見事なまでに『お嬢様』感の溢れる人物だ。俺の貴族センサーがビンビンに反応している。
出来る限り、接触を避けよう。
「あら、貴方は新入生代表の方でしたわね。確か名前は......ガリア?」
「ガイアです」
「そうですわ! ワタクシ、セレス・パルティと申しますの! ここで会ったのも何かの縁。ワタクシ達はもう、おフレンドですわ〜!!」
なんだコイツ。面白いな。お嬢様口調のクセに言葉選びが男子中学生みたいだ。
にしてもこの人、エメラルドの様な綺麗な目をしている。
「お姉ちゃん、玄関で何を......っ!」
セレスの謎テンションに付き合っていると、明るい金髪に深い青目かつ、メカクレ属性付きの女の子が出てきた。
なんか、ギャルゲーのヒロインみたいだ。
「あら、アリア。ご挨拶なさい」
「え、えと......その......妹の、アリア・パルティです」
「ん〜.....うん。初めまして、ガイア・アルストです。こっちはユーリ」
「初めまして!」
「あっ......はい。よろしく、お願い致します」
「アリア? どうしましたの? 凄く緊張していますわね。男性が苦手でして?」
「う、ううん。違う......けど、違くない」
「ハッキリしませんのね。まぁいいですわ。それで、男子寮への道でしたか。それなら、ここを右に真っ直ぐ行き、突き当たりを左に曲がれば着きますわよ!」
「ありがとう。感謝する」
俺達は答えてくれた2人に感謝の言葉を残し、セレスの言う通りに歩いた。
すると案内板を持った人が立っており、男子寮への道を簡単にした地図を配っていた。
「分かりやすいね! セレスさんに感謝しないと」
「もう感謝したけどな。それよりユーリ、お前、気にならなかったか?」
「気になるって......まさか、セレスさんの事が」
「違う。セレスの妹の、アリアだ。あの子、気付いてないかもしれんが、魔力の制御が出来ていない」
「どういうこと?」
「単純だ。体内を循環させる魔力が、どこかで外側に向いている。だから、体からアリアの青い魔力が滲み出ている」
俺はアリアが出てきた瞬間、視神経を強化して彼女を見た。そして分かったのが、魔力の漏れだ。俺と同じような漏れ方をしている。
だがしかし、アリアの魔力漏れと俺の魔力漏れは違う。
俺は自分の許容量を超えて生成される魔力が溢れるのに対し、アリアは生きるのに必要な魔力が外に漏れている。
溢れるか、漏れるか。違いはそこだろう。
「じゃあ、どうするの?」
「どうもしない。ただ気になっただけだ」
「え〜!? ならなんで口にしたの〜!?」
「だから気になっただけだって。アレが原因で体調不良を起こすなら話は別だが、何ともないなら俺は何もしない。それに、貴族と積極的に関わるのは嫌だ」
寮への道も半分を過ぎると、ユーリは首を傾げて聞いてきた。
「あれ? ガイア君も貴族じゃなかったっけ?」
「広く見れば貴族だな。だけど俺は、貴族が嫌いだ。ユーリ、この学園では貴族の身分が働かないが、それでも気を付けろ。バカは溢れているからな」
「バカって......そんなこと言ってもいいの?」
「知らん。ただ、パルティ家は大丈夫そうだ。ユーリが関わる分にはな」
「ガイア君は?」
「もう少し様子を見る。この学校が合わなければ、大人しく退学して冒険者でもやるよ」
「えぇ?......そんなに?」
「当たり前だ。もう、十分に苦しんだんだ。そろそろ幸せになってもいいだろうからな」
ミリアが言っていた、2人でダラダラとのんびりした生活も送りたい。故に、ここが精神を蝕むような場所なら離れるだけだ。
そして数分ほど歩くと、お目当ての男子寮に着いた。
「「こんにちは〜」」
「やぁ、ガイア君とユーリ君。2人を待っていたよ」
ガチャっと扉を開けて入ると、上級生だろうか。爽やかな雰囲気を纏った青年が出迎えてくれた。
「もしかしてボク達、1番最後ですか?」
「そうだよ。一応、この寮でもルールがあるから、部屋に荷物を置いたらここに戻っておいで。説明するよ」
そう言われて1階のリビングの壁を見ると、1つしかない空き部屋に俺とユーリの名前の立て札が掛けられていた。
「ガイア君と同じ部屋だ!」
「......そうだな」
「どうしたの? ボクと一緒は嫌だった?」
「そうじゃないんだが......何でもない。行こう」
見ちゃった。俺達の隣の部屋に住む人が、ぜルキアであることに。
これはマズイぞ。アイツのことだ、先に俺達の部屋に入って待っている可能性もある。そうすればユーリは驚き、ぜルキアへの印象が落ちてしまう......かもしれない。
俺としては数少ない友人であるぜルキアの為に、何とかしてイタズラを阻止せねばならない。
「待て。まだ入るな」
「あ、また?」
俺は部屋の前で魔力を糸状にし、念の為にと侵入させると、ぜルキアの魔力によって断ち切られてしまった。
「......クソ、切られた。まぁいいや」
「入っていいの?」
「あぁ。心臓のストックは残しとけよ」
「あはは、何それ──」
そうユーリが笑いながらドアを開けた瞬間、
「こぉぉんにぃぃいちはぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」
「やっぱりな」
魔法で天井にぶら下がっていたぜルキアが、ユーリの顔の前で驚かしてきた。
「だ、誰ぇぇぇ!!」
「僕はぜルキア・アーレンツ。隣の部屋の魔王さ!」
リビングの青年に勝るとも劣らない爽やかな笑顔を見せたぜルキアに、ユーリは落ち着きを取り戻した。
「もう、ビックリしたぁ。ボクはユーリだよ」
「よろしくね! ガイアは......初めまして?」
「はい。初めまして魔王様。私はガイア「ごめんなさい普通に接してくださいお願いします」......はいはい。イタズラも程々にな」
スタッとスマートに着地したぜルキアは、ユーリの荷物運びを手伝ってくれた。
俺? 俺はそもそも片手で持てる量しか荷物が無いので、誰かの助けを求めるまでまない。
「お待たせガイア君。それじゃあ行こっか」
「あいよ。ぜルキアは?」
「待ってるよ。どうせこの後、遊びに行くんでしょ?」
「よく分かってるな。じゃあ、ちょっと待っててくれ」
そうして自分の部屋へと帰ったぜルキアを横目に、俺達はリビングへと赴いた。
すると先程の青年が手を招き、俺達をソファに座らせた。
「初めまして。俺は5年生のレイだ。君達の事はもう知ってるから、早速本題に入るね」
「「はい」」
レイさんはユーリをチラッと見た後、俺をガン見し、その淡い緑の目で鋭く刺してきた。
「原則、女子寮には立ち入り禁止だ」
「......嘘ッ!.....ですよね?」
「え? ガイア君?」
すまんなユーリ。俺には目的があったんだ。
ちょっとでいい。ちょっとでいいから......ミリアと話したかったんだ。
「本当さ。男子禁制だからこその女子寮。逆に、男子寮も女子禁制さ。不満かい?」
「はい、不満です」
「なら家を買うことだね。王都内に家があれば、そこから通学出来るからね。でも君、男爵領から来るのは非現実的だし、宿を借りるにも、そんな長期的な宿泊は出来ないでしょ?」
「......まぁ」
「なら諦めるんだ。女子と話したければ、学園や手紙でやり取りするといい」
「こっそり入ったらダメなんですか?」
「多分、停学か退学処分になるけど、それでもいいならやればいいんじゃないかな。そこら辺は自己責任で頼むよ」
「勿論です。では、誰にも見付からないように侵入するとしましょう」
「ガ、ガイア君?」
「ユーリ。お前は生きろ。ここで死ぬような存在じゃない」
「え? え?」
俺はユーリの肩に手を置くと、小さく微笑んだ。
「いやぁ、面白い人が来たもんだ。俺と同じ歳なら、俺ももっと、学園生活を楽しめたかもしれないな」
「光栄ですね。まぁ、今のは冗談なので、ちゃんとした本題に入りましょうか」
「そうしよう。ごめんねユーリ君」
「は、はい?」
ダメだ。男の悪ノリにユーリを付き合わせてはいけないな。ぜルキアならノリノリで合わせてくるだろうが、ユーリにそれを求めちゃいけない。
「それじゃあ、ちゃんとしたルールを説明するよ」
キャラが出揃ったら、どこかの後書きに分かりやすくまとめます!
では、久しぶりに次回予告をしておきます。
次回『転生王女は彼を想う』お楽しみに!
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(久しぶりのこの後書きに満足する作者)




