第30話 ロリババアへの恨み
☆プチ色情報2☆
歴代勇者の手記は世界に3つある。
その内ガイアが殺した勇者の手記は最新版、つまりは3番目。でも、レガリア王国にはこの1つしか手記が遺されていない。
「ミリア、起きてるか?」
「えぇ。ところでこの制服、似合ってるかしら?」
宿に戻ると、白い髪と紺の制服が魅せる、この世の美を凝縮したような美少女が目の前に居た。
「──あ、あぁ。ごめん、綺麗すぎて絶句した」
素直な気持ちだ。俺が今までに見てきたミリアの中で、ダントツに可愛いと感じた。
もう俺はダメかもしれない。ミリアが可愛すぎて、俺の方がダメになっちゃう。今すぐ抱きしめたい。
ハッ! 危ない危ない。急に抱きついたらビンタされるかもしれないし、自制心を効かせないと。
「ふふっ!......嬉しいわ。ガイアも制服を着てみて」
「分かった」
目を合わせるのが恥ずかしくなる。それぐらい可愛いミリアに頼まれては、俺も着替えない訳にはいかない。
というかこれから入学式だから、絶対に着るんだけどさ。
「よし、どう──」
着替え終わってミリアの方へ振り向くと、俺の視界が真っ白に染った。もしかして死んだ?
......あ、違うなコレ。ミリアが物凄い勢いで抱きついてきたんだ。ちくしょう可愛いすぎるぜこの生き物。俺まで抱きしめ返してやる。
「......暖かい」
「似合ってたか?」
「最高よ。このままずっと抱きしめ続けたいくらい、魅力的だわ」
「ありがとう。ミリアも可愛いよ」
俺がミリアの目を見て伝えると、ぽっと顔を赤くしながら、ミリアも小さく感謝の言葉を漏らした。
さて、抱き合ってばかりじゃいられない。そろそろ出ないと、入学式に遅刻してしまう。
「行こう。これからは、今の生活を楽しむことに尽力しよう」
「そうね。出来れば、ガイアとダラダラしながら過ごす生活を送りたいわね」
「はははっ、それもこれも、学園を卒業するまでは無理だな。取り敢えず、お互いに頑張ろう」
「えぇ。よろしく、ガイア」
俺の頬に柔らかい感触を与えたミリアは、手を引いて俺を部屋から連れ出した。
そして宿の1階で朝食を済ませた俺達は、学園から伸びる大きな道を歩いて行くと、沢山の馬車が学園へと入って行った。
どうやら貴族の坊っちゃん嬢ちゃんらしい。
「馬車かぁ......荷物の運搬くらいにしか役立たんだろうに」
「仕方ないわ。貴族だもの。品位を見せなければならないの。でも、ガイアも貴族なのよね?」
「正確には貴族の孫。爺ちゃんが父さんに爵位を継承して、そこで初めて貴族の息子として確立すると思う」
「中々特殊な出自だから、その辺りの認識は難しいのね」
そんな会話をしながら歩いていると、遂に学園の敷地内に足を踏み入れた。
「お〜い、ガイア〜!」
「ん? あぁ、ぜルキアか。おはよう」
「うん! おはよう!」
欠伸をしながら歩いていると、誰かと話し終わったぜルキアが、こちらに手を振りながら走って来た。
「2人とも似合ってるね〜! イチャイチャしてそうなカップルって感じだ!」
「「イチャイチャしてない」」
「そう? さり気なく手を繋いでるし、入学早々2人だけの世界を作ってるのかと......」
仕方ないだろ? ミリアの方から手を繋がれたら、俺から離すのは難しいんだよ。
「それじゃあ行こうか! っと思ったけど、僕はちょっと友達作ってくる! 2人は先に行ってて!」
「えぇ? あ、行っちまった」
俺達に伝えるや否や、全力で走って行ったぜルキア。
遠くの方で真っ黒な球体を作っているのは、きっと認識阻害の魔法を使っているのだろう。
ってか、アレ凄く目立つんだな。この前のレストランでの1件、変な尾ひれと共に周囲に伝わってそうだ。
「相変わらず忙しい人ね。疲れないのかしら?」
「アイツはああいう奴さ。元気過ぎるぐらいがちょうどいい」
「ふふっ、それもそうね」
ぜルキアはこうでないと。アイツの暗い姿なんて、もう見たくない。
そうして入学式場へ入ると、中は沢山の生徒で溢れていた。
俺は永遠に走っていたから誰が誰か分からないが、有名らしい貴族の男子や、明るい髪色の女子がキャッキャキャッキャと騒いでる。
入学試験の時から何も学んでいないように見える。
そして20分ほど待っていると、理事長がマイクを手に持って壇上へとやって来た。
『静まれ』
やはりというかなんと言うか、優しい殺気と共に声を響かせてくれた。
『これより、エデリア王立学園の入学式を執り行う』
日本でも、レガリアでも散々やった式を見ていると、朝にツバキさんと色々あったせいか、眠気が襲ってきた。
「ガイア、寝ちゃダメよ」
「分かってる分かってる。目を閉じるだけだ」
「もう。終わったら起こすわ」
「ありがとう」
そして欠伸をひとつ、噛み殺していると──
『新入生代表、ガイア・アルスト』
ん?
『おい、ガイア・アルストは居らぬか?』
「代表だったの?」
「いや知らん。取り敢えず行った方がいいか」
なんだろうか。普通、代表って事前に話を通しておくものじゃないのだろうか。このまま壇上で何かを話せと言われても、何も考えていないのだが......
「おぉ、来たか。ほれ、代表として抱負を語るのじゃ」
雛壇の傍に行くと、予想していた言葉が理事長の口から飛び出た。
「なんで俺が代表なんですか?」
「それは勿論、試験の結果を見てに決まっておる。ぜルキア・アーレンツ、及びガイア・アルストが首席じゃからな」
「え〜......事前説明くらい欲しかったです」
「咄嗟の対応も出来ずして、人の上に立てんぞ。ほれ」
「そもそも人の上に立つ気が無いですけど」
もうヤダこの学園。嫌いになりそう。
仕方ない。マイクを渡された以上、俺の出来る最大限のスピーチをするしかない。
『あ、あ〜。何故か代表と言われたガイア・アルストです。先程の理事長の話は全く聞いてませんでした。皆さんはどうでしょうか? 聞いてましたか? え? 聞いてた? 凄いですねぇ。私は皆さんが話を聞いてる中、眠気と戦ってましたよ』
頭が回らんのだ。何かを考えるにしても、戦闘かサティス、ミリアの事しか思い浮かばない。
『さて、冗談はここまでにして本題を。私達新入生は、学園に入った以上、学園のルールで過ごすことになります。皆さんも知っての通り、学園内では貴族や平民など、身分の差は一時的に無くなり、平等となります』
『俺は貴族だ、道を開けろ。などと馬鹿げた思考を持つ愚か者は、皆仲良く土を舐めると思ってください。例えそれは、王族だろうと同様です。ここはある種、別の国だと思いましょう』
懐かしいな。日本の学校でも、俺の記憶の中では言語の通じる別世界だった。しんどい思いも沢山したが、それ以上に楽しかった。
『学園に来た目的は十人十色、千差万別でしょう。人も違えば考え方も違う。お互いに深く理解しようとしなくていいです。でも、相手の考えを蔑ろにしないようにしましょう。そうすれば、お互いに高め合うことが出来るのでね』
『では、特に喋ることが思い付かなくなったので、以上とします。最後に......理事長、覚えてろよ』
こんなもんだろ。抱負というか、過ごしやすい学園生活のヒントをあげた感じか? これで1人くらい、問題を起こす生徒が減ればいいな。
......うん、俺が問題児だったわ。本末転倒ッ!
「お主、やってくれおったな」
スピーチを終えて席に帰ろうとすると、すれ違った理事長に声をかけられた。
何故だか知らんが体が震えている。まるで産まれたてのユニコーンだ。
「あらあら、そんなに震えて......感動しました?」
「あぁ、感動したとも。ここまで滅茶苦茶なスピーチをしたのはお主が初めて故、妾の心は揺れ動いたぞ」
「それは良かったです。では」
ムスッとした顔で見送られながら、俺は席に戻った。
隣に座るミリアがニコニコとしているのを見るに、あのスピーチは良しとしよう。貴族になる身でありつつも、貴族に注意する人物は少ないだろうからな。
同じような思考の人間に響くのだろう。知らんけど。
「壇上に立つガイア、格好良かったわ」
「......やっちまったな」
ミリアさんは、ただ俺の姿を見て満足しただけのようだ。スピーチなど知らないといった様子だな。
「あのロリババア、マジで許さん」
こうして、俺の明るい学園生活がスタートした。
理事長、ひどいわよ!




