第27話 散らせ火花
プチ色情報1
精霊王女(前世)のミリアにはヘソが無い。精霊は人間の姿をとることがあるが、哺乳類(卵生)ではないためヘソが必要ない。
「ねぇガイア。何度も転生してるって本当?」
「本当だ。日本で生まれた時は日本の記憶しか無かったけど、今はその前の人生も記憶にある」
「それは凄いね。ところで後ろに居る人は誰?」
「後ろ?......うわ」
エデリア王立学園の入学試験が終わり、俺はミリアとゼルキアと共に手軽な料金の飲食店へ来た。
そして先程まで何事も無く楽しく昼食を頂いていたのだが......ゼルキアに言われて振り返ると、銀髪の狐の耳を生やした少女が俺を見つめていた。
「あら、ツバキじゃない」
「うん。少しぶり、ミリア......様?」
「ミリアでいいわよ」
「じゃあ、ミリア。ガイア貰ってもいい?」
「死にたいのならいいわよ?」
「力尽くで奪ってもいいと判断した。さぁ、立って」
何故かツバキさんがミリアと口撃戦をしているが、ここで騒がれても周りの客に迷惑なので黙らせておく。
ここでワンポイント。近くに居る人を黙らせる時、相手が熟練の戦士であった場合、簡単に注意を引くことが出来る。
方法は至ってシンプル。目を閉じ、標的に向けて全神経を集中させて殺意を向ける。すると、ほら──
「ンッ!!!」
「んピッ!」
「ここはご飯を食べる所だ。喧嘩するなら出て行け」
「「はい......」」
巻き添えでミリアも喰らってしまったが、大丈夫だろうか。
それはそうと、2人が静かに席に着いてくれたので、周りの人もツバキさんに反応するぐらいで落ち着いた。よかったよかった。
「うん......あー、初めまして」
「誰?」
「いや、僕の方こそ誰かと聞きたいんだけど......」
「えっ......私のこと、知らない?」
「はい。こんなにも素敵な方なのに申し訳ありません。存じ上げないです」
「そっか......知らないんだ......ガイアと同じ......つらい」
ツバキさんはゼルキアの隣の椅子に座ったのだが、互いに顔も名前も知らないせいで、ゼルキアが困っている。
助け舟を出しても良かったが、面白そうなので放置した。
「ご馳走様でした。2人は追加注文ある?」
「あ、それなら僕、カットフルーツ食べたい」
「私はいらない」
「そうか。なら俺もフルーツを頼もう」
店員さんにカットフルーツを3人前頼むと、精霊樹の森では見なかった、色とりどりの果物が皿に乗って運ばれてきた。
俺は家でフルーツを食べる機会があまり無かったので、今世で初めて、ちゃんとした果物を頂ける。
「あれ? 3人分頼んだのかい?」
「あぁ。ツバキさん、ツバキさ〜ん」
「......つらい......弱い......悲しい」
ツバキさんの前に皿を置いても反応しないので、俺は席を立ち、おもむろにツバキさんの左側に立つと、フォークに刺したカットフルーツを口にぶち込んでやった。
「あむっ!! 美味しい」
「食べてください。それと、話してください。何が目的だったのか」
「分かった。いただきます」
小さくお礼を言うと、ツバキさんはモキュモキュと食べ始めた。
「ガイア? 私に許可なく他人にあ〜んをしたの?」
「ミリア、人の口に食べ物を突っ込むことがあ〜んなのか?」
「......ちが......わない! あれはあ〜んだもの!」
今、一瞬だけ認めたな。
「ミリア。やって欲しいなら素直に言え。俺は応えるから」
「う、うん。じゃあ......やって?」
照れくさそうに顔を背けながら言うミリアに、俺は自分の席に戻ってからフォークにフルーツを刺し、左手で添えながらミリアの前に持ってきた。
「はい、あ〜ん」
「あ〜ん......ん〜、美味しい」
「それは良かった。俺も食べよ......おぉ、桃の味がする」
適当に刺したミカンの様な粒があるフルーツを口に入れると、俺の予想を裏切る、桃の香り高い甘みが口いっぱいに広がった。
そして二口目を食べようとすると、死んだ目のゼルキアと目が合った。
「......死にたい」
「どうした?」
「彼女......いない......つらい......死にたい」
「隣の人と似てるな。ミラーリング効果でも試してんのか?」
「......僕、君が怖い。なんで僕の考えてることが分かるの?」
「当たってたのか」
ミラーリング効果。それは気になる人と同じ仕草をして、相手に共感性を持たせることで、好感を抱かせるテクニック。
俺は過去、レガリア時代のミリアを落とす為に、ミラーリング効果や吊り橋効果、アンダードッグ効果など、様々なテクニックを使ったものだ。
でも、吊り橋効果の時は最悪だった記憶がある。
確か......レガリアで唯一の魔法使いに戦争の最前線へ転移してもらい、文字通り命懸けで戦況を走り抜けたんだっけ。
その後はミリアに大号泣され、腹をナイフで刺されたはずだ。
「ガイア。ミラーリング効果って何?」
「端的に言えば、異性を落とすテクニック。だけどもう俺はミリアに落とされてるから、知る必要もない」
「ふふっ、それならガイアの言う通り、知らなくていいわね。でも、更に好きになってもらえるなら──」
「彼女......ほしい」
やれやれ、ゼルキアには申し訳ないことをしたな。
許せ魔王。いや、元魔王。多分平和になった世界なんだ、ゼルキアなら出来るはずだ。多分、きっと、知らんけど。
「ごちそうさま。ガイア、ガイア」
「ああはいはい。ツバキさんの目的ですね。どうぞ」
俺がフルーツを半分くらい食べ終えると、先程に完食したツバキさんが尻尾を振りながら身を乗り出した。
「えっと、ガイアの匂いがしたから」
「はい?」
「ガイアと遊びたい。だから、来た」
「......冒険者の仕事は?」
「受けてない」
「他の仕事とか、やるべき事は?」
「無い。ひま〜」
「修行とかそういうのは?」
「もうやった。ひま〜」
どうしたものか。
今日はこれから、いつものように3人でワイワイ王都の観光や冒険者として依頼を受けようと思ったのだが、ツバキさんが居ると難しくなる。
仮にもこの人、有名人っていうか、凄い人らしいし、連れ回すのも何か問題になりそうなんだよな。
「あ、ガイアガイア!」
「何ですか?」
「私と戦お? ガイアの実力、知りたい」
「嫌ですよ。敵でもない人と戦うつもりは──」
キンッ!!!
会話中に響く金属音。あまりに早すぎるツバキさんの攻撃に、ミリアとゼルキアは反応出来なかった。
が、しかし、俺は持っていたフォークに魔力を注ぎ、ツバキさんの刀をフォークの爪で刃を弾いた。
「......速すぎる。ホントに子ども?」
「10歳を大人と言うなら、大人ですかね。ああ、でも確か、成人は15歳でしたっけ。なので、俺はまだ子どもですね」
刃を納めたのを確認すると、俺はフルーツをフォークで刺し、口に入れた。
芳醇な梨の香りが鼻腔を抜ける感覚と共に、少々の焦げ臭さも感じ取った。
「ガ、ガイア? 大丈夫?」
「ビックリした。そういうのやるなら、事前に僕達に伝えてよ」
俺を心配して体をペタペタと触ってくるミリアと、咄嗟の判断で魔法を使い、周囲からの視界を遮ってくれたゼルキア。
そして、目の奥に炎を灯すツバキさんと、フルーツを楽しむ俺。
クセが強い4人組が生まれてしまったな。




