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空色魔力の転生者 ─泡沫の命と魔法の世界─  作者: ゆずあめ
第2章 エデリア王立学園
26/123

第26話 異常者トリオと入学試験

2章、開幕ゥ!




「だーかーらぁ、僕はハーレムを作るの! 沢山の女の子を愛したいんだって!」


「それは本当にやめとけ! お前、刺されるぞ!?」


「いいよ、別に。刺されようが何されようが、僕はその人を好きでいるもんね」


「......お前の大事な所を切られても、か?」


「ヒッ! い、いや。流石にそれは......くっ!」



 周囲の静けさが少しずつ無くなり始めた頃、俺は、ゼルキアの『ハーレム宣言』に対して何度も忠告している。


 レガリア王国は一夫一婦制なのもあり、この場でハーレム宣言をする事も、法律的な問題も含めて説教した。


 だけどゼルキアは聞く耳を持たない。頑固というか、信念を貫くというか......うん。



「まぁまぁ、ガイア。例えゼルキアがハーレムを築いた結果、お義父(とう)さんの兄弟みたいに破滅したとしても、私達は無関係でいられるわ」


「確かに。じゃあゼルキア、自由に頑張れ」


「まっ、待って! 破滅ってどういうこと!?」



 ミリアの言葉で自分の心を見つめ直せたのか、ゼルキアは焦燥感を滲ませた顔で食らいついてくる。



 そして俺の口から、貴族入りした経緯の諸々を話そうとした所、待機している会場の明かりが一瞬にして消された。



「ミリア」


「えぇ」


「もう! タイミング悪いなぁ!」



 俺はミリアと背中合わせになり、左手で剣の鞘を持ち、右手で鯉口を切った。


 抜刀切りなら即座に相手を斬れるからな。警戒しよう。



『あ〜、あ〜。皆の者、聞こえるかの〜?』



 会場の一際目立つ壇上に、赤い髪と同色の瞳を持つ小さな女の子が、マイクを手に持ち、幼げな声を会場に響かせた。


 あのマイク、明らかにこの世界の物じゃない。



『ごほん。まずは......ふむ、3人か。そこの黒い髪の男2人と白い髪の女。お主らは冒険者志望、或いは騎士志望かの?』


「違います」


「違うわ」


「違いますよ〜」


『むむっ? そうか。まぁよい。妾がテロリストだとすると、生き残れたのはお主らだけじゃからな。他の者は皆、疾うに死んでおる』



 面白いなぁ、あの人。誰なのかは知らないけど、のじゃロリってだけで何かこう......グッとくるものがある。


 にしても明かりを消した事に反応したからって、ここまで買われるものだろうか。



『おっと、自己紹介を忘れていたの。妾の名はリリィ。冒険者としては《白金級(プラチナ)》であり、この学園の理事長をしておる。よろしくな』



 クセつんよすギッ!! 属性、属性過多なんだよこの人! 見た目と地位からしてゴツイ名前が来ると思ったのに、リリィて! リリィて!!! 名前が可愛らしいにも程がある!!


 ......オーケー、落ち着こう。まずは理事長先生からの有難いお話を聞こうじゃないか。



「おい、《白金級(プラチナ)》って──」

「マジかよバケモンだ......」

「理事長が冒険者だなんて知らなかったぜ......」

「可愛い人だわ!」



 う〜ん、周りが落ち着いてなかった。



『黙れ』



 理事長の鋭い言葉が会場を刺すと、少し温まっていた空気はどこへやら。冷や汗をかく者が大量に発生した。



「すごい殺気ね。私も驚いたわ」


「僕も。熟練の冒険者って、よく分かった」


「え? そこまで鋭い殺気じゃ......ナンデモアリマセン」



 危ない。ここで変なことを言い切ってしまうと、ゼルキアに揚げ足を取られる可能性がある。ここはひとつ、周りと合わせるのが無難だろう。


 俺は石橋を叩いて渡る人間だからな。ハッハッハ!



『それでは、これより試験を始める。内容は魔力量とその色、身体測定に体力測定をする。皆が使える人材とは限らぬ。ここで失格になる覚悟を持って、挑むがよい』



 そして理事長がスカッと不発させて指を鳴らすと、壇上に続々と水晶が置かれた台が運ばれてきた。



「行くか。俺達3人、仲良く異常者認定されよう」


「私はガイアと同じならそれでいいわ」


「嫌だなぁ。悪目立ちするのは......いや、違うか。目立てるってことは、モテるってことか!」


「ハイハイソウデスヨー」



 ブッ飛んだ思考でブッ飛んだことを言うゼルキアだが、顔も性格も良いし、誰かを見ることに長けていることから、単純に色んな人から好かれると思う。


 そんな憧れのような想いを胸に、俺達は真っ先に壇上に上がった。



「やはりお主らが一番か。期待しているぞ」


「「「イレギュラーに期待されても......」」」



 俺達3人は、明確に普通の人間の理から外れている。


 それ故に、期待をされても裏切る結果となるか、はたまた期待を大きく超える結果を残すだけなんだ。


 普通では在れない。そう自覚しているから。



 そうしてそれぞれが水晶の前に立ち、それぞれ係員の言うことに従って右手を乗せると、右に居るゼルキアから順番に、驚愕の声が響いた。



「えぇ! く、黒ですとぉ!?」


「こちらは金色ですよ!!!」


「この方は......水色です」



 右側2人は飛んでない反応をしているのに対し、俺の魔力が水晶に移った瞬間、係員の人が残念そうに報告した。


 腹が立つ。人の魔力の色を間違えるな。



「「空色です」」


「......何が違うので?」



 ダメだ。もうこの人とは話さない。ミリアも腹を立てているようだし、さっさと次に移ろう。



「それでは、次に魔力量の測定です。こちらの中が空洞になっている水晶に右手を置いてください」


「はい」



 右側を見ながら手を置くと、ゼルキアは水晶が真っ黒に染まる程の量で、ミリアは薄い黄金の膜が張ったような水晶へと変貌した。


 それに対し俺は、元々の水晶の色が水色に近かった事もあり、殆ど変色しなかった。



「ガイア、手!」


「ん?......あぁ」


「あ! どうして離したんですか! まだ測定は......え?」



 ミリアの声で水晶から手を離すと、水晶はドクドクと鼓動をするように動き出し、その球体に大きくヒビが入った。


 だが、俺は割れる直前に魔力を自分の手に吸わせた事もあり、ギリギリ割れずに水晶は球体の形を保った。



「危ないですねぇ。割れて怪我でもしたら困ります」


「凄まじい魔力量じゃの。お主、これまでに魔力欠乏の経験は?」


「一度だけですね」


「......そうか。なら、生まれつき多いのか?」


「多分そうですね。俺も詳しくは知らないので」


「ふむ、係員よ。この者は最高評価で通してよい。それと水晶の交換をするのじゃ」


「は、はい!」



 おいおいおい、いいのか? 確かに魔力量はいっぱい......というか、無限に湧き出てくるし、魔力の強さはゼルキア達と張り合うが、いいのか?


 ......いや、魔王と同等なんだし、いいのか。



 ん? 逆に良くないのでは?



「お主。次の部屋へと行くがよい。女も待っておるぞ」


「あぁ、すみません。ありがとうございます」



 理事長に促された俺はミリアが手を振っている方へ歩いた。すると、理事長の小さな声が聞こえた。



「......美味そうな男じゃの」



 俺は背筋が凍る思いで早歩きでその場を後にし、すぐさま次の部屋へと入った。



「身体測定は普通なんだな」


「だね。身長、体重、血中魔力濃度測定。まぁまぁ普通かな」


「ごめん最後の全然普通じゃなかった」



 ゼルキアの説明を聞き、最後の単語が非常に気になったので、順番に測定した後、肝心の血中魔力濃度測定の係員に質問した。



「これはどうやって測定するんですか?」


「はい。1滴の血液をこの魔道具に落としますと、血中に含まれる魔力濃度を数値化し、健康状態が分かります」


「へぇ〜。測って意味があるんですか?」


「はい。これにより、入学前から抱えている病気や体質などの申請が受理されます」


「なるほど。証明の為にやるんですね〜」



 ふんふんと相槌を打ちながら、用意された針を魔力で薄くコーティングし、人差し指の先に指した。


 そして測定器の皿の上に血が落ちると、【測定不可】と診断された。



「あれ〜? おかしいですね。もう一度お願いします」


「はいは〜い」



 プスッ! 【測定不可】



「すみません、もう一度」


「はい」



 ブスッ!! 【測定不可】



「あれれ〜? どうしましょう」


「諦めましょう。測定出来ない体質ということで済ませましょ」


「本人がそう言うなら......はい。では次の部屋へどうぞ」


「ありがとうございました」



 血中魔力濃度が測れない理由なんて、簡単だろう。俺は気分で体内に流れる魔力量を変えているから、だろう。


 例え体から離れた血であっても、俺の魔力の繋がりは維持されている。だから、魔道具が測定する恒常値が取れないんだ。


 それに、気分と言っても呼吸で変わるから、自由に操れる訳じゃない。なので【測定不可】こそが、診断結果と言えるだろう。



 身体測定の部屋を出ると、運動場に出た。


 ここには10人程度の係員がスタンバイしており、いつでも測定出来る環境となっている。



「体力テストか。ミリアは大丈夫か?」


「任せなさい。100メートル走れば倒れるわ」


「体力無さすぎだろ! 大丈夫か?」


「今まで魔力に頼っていたから、だと思うけど、多分大丈夫じゃないかしら?」


「うん、絶対大丈夫じゃないよな......まぁいい。何かあったら直ぐ助ける」


「ふふっ、ありがとう。嬉しいわ」



「2人とも〜! イチャついてないで来てよ〜!」



「「イチャついてない!」」



 もう既に走る準備を整えたゼルキアの元へ駆け付けると、どうやら100メートル走を繰り返すらしい。


 上限は疲れるまで。日本で言う、シャトルランの時間制限が無い代わりに、長くなったようなものか。



「よーい、始めっ!!!」



 身体に流す魔力量を限りなく少なくした俺達は、出来る限り生身の体で走り始めた。



「......あ、無理......」



 宣言通り、ミリアは1本走り切ったところで体力の限界を迎えた。



「ガイア、勝負だ」


「分かった。勝った方が?」


「この後の昼ご飯奢るってことで」


「乗った。お前の持ち金0にしてやる」


「フッ、あまり僕を舐めるなよ? 僕の体力は凄いんだぞ?」




 そんな台詞を残して走り続けた俺達は、気が付けば20分、30分と時間が経ち、隣を見れば新たに走り始めた人がダウンしている様子が伺えた。



「ゼルキア、疲れたか?」


「ぜ〜んぜん! チェスで遊んだ方が疲れるね」


「頭の筋肉が弱いのか」


「おかしいなぁ。脳筋と言われたくないからスルーしようとしたけど、逆の意味で貶されていることに気付いちゃった」


「逃げ道の無い最強の悪口だ。覚えとけ」


「そうするよ」




 そんなこんなで走り続けていると、3時間が経った。



 お互いに息切れひとつせずに走り続ける姿に、試験の全日程を終えた人も俺達の姿を見ていた。



「終了だ! 2人の体力は分かったからもうやめろ!」


「だってさガイア」


「だってよゼルキア」



「「......じゃあ、誰が奢るんだ?」」



「割り勘でしょ。バカなの?」


「「あぁ!」」



 お互いに頭が筋肉で詰まった思考をしていると、回復したミリアからお叱りを受けてしまった。


 待たされたことに頬を膨らますミリアもまた、可愛らしい。



 心の癒しだ。



『以上で試験の全日程を終了とするのじゃ! 皆の者、よく頑張った! 帰って疲れを取るとよい。合格者は2日後、この運動場にて貼り出される故、寝坊するのではないぞ!』




 マイクを手に持った理事長の言葉で、受験生の皆は足を震わせながら、王都の街へと歩いて行った。



 

 そんな中、俺達3人は軽い足取りで飲食店へと向かった。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 3人の絡み合い、面白いしほっとしますね!なんか、久々の再会で一気に吐き出す…ていうよりかは通常運転で、3人の信頼の度合い、仲の良さが伝わってくる気がします!自分もこんな友達欲しいなぁって思…
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