第26話 異常者トリオと入学試験
2章、開幕ゥ!
「だーかーらぁ、僕はハーレムを作るの! 沢山の女の子を愛したいんだって!」
「それは本当にやめとけ! お前、刺されるぞ!?」
「いいよ、別に。刺されようが何されようが、僕はその人を好きでいるもんね」
「......お前の大事な所を切られても、か?」
「ヒッ! い、いや。流石にそれは......くっ!」
周囲の静けさが少しずつ無くなり始めた頃、俺は、ゼルキアの『ハーレム宣言』に対して何度も忠告している。
レガリア王国は一夫一婦制なのもあり、この場でハーレム宣言をする事も、法律的な問題も含めて説教した。
だけどゼルキアは聞く耳を持たない。頑固というか、信念を貫くというか......うん。
「まぁまぁ、ガイア。例えゼルキアがハーレムを築いた結果、お義父さんの兄弟みたいに破滅したとしても、私達は無関係でいられるわ」
「確かに。じゃあゼルキア、自由に頑張れ」
「まっ、待って! 破滅ってどういうこと!?」
ミリアの言葉で自分の心を見つめ直せたのか、ゼルキアは焦燥感を滲ませた顔で食らいついてくる。
そして俺の口から、貴族入りした経緯の諸々を話そうとした所、待機している会場の明かりが一瞬にして消された。
「ミリア」
「えぇ」
「もう! タイミング悪いなぁ!」
俺はミリアと背中合わせになり、左手で剣の鞘を持ち、右手で鯉口を切った。
抜刀切りなら即座に相手を斬れるからな。警戒しよう。
『あ〜、あ〜。皆の者、聞こえるかの〜?』
会場の一際目立つ壇上に、赤い髪と同色の瞳を持つ小さな女の子が、マイクを手に持ち、幼げな声を会場に響かせた。
あのマイク、明らかにこの世界の物じゃない。
『ごほん。まずは......ふむ、3人か。そこの黒い髪の男2人と白い髪の女。お主らは冒険者志望、或いは騎士志望かの?』
「違います」
「違うわ」
「違いますよ〜」
『むむっ? そうか。まぁよい。妾がテロリストだとすると、生き残れたのはお主らだけじゃからな。他の者は皆、疾うに死んでおる』
面白いなぁ、あの人。誰なのかは知らないけど、のじゃロリってだけで何かこう......グッとくるものがある。
にしても明かりを消した事に反応したからって、ここまで買われるものだろうか。
『おっと、自己紹介を忘れていたの。妾の名はリリィ。冒険者としては《白金級》であり、この学園の理事長をしておる。よろしくな』
クセつんよすギッ!! 属性、属性過多なんだよこの人! 見た目と地位からしてゴツイ名前が来ると思ったのに、リリィて! リリィて!!! 名前が可愛らしいにも程がある!!
......オーケー、落ち着こう。まずは理事長先生からの有難いお話を聞こうじゃないか。
「おい、《白金級》って──」
「マジかよバケモンだ......」
「理事長が冒険者だなんて知らなかったぜ......」
「可愛い人だわ!」
う〜ん、周りが落ち着いてなかった。
『黙れ』
理事長の鋭い言葉が会場を刺すと、少し温まっていた空気はどこへやら。冷や汗をかく者が大量に発生した。
「すごい殺気ね。私も驚いたわ」
「僕も。熟練の冒険者って、よく分かった」
「え? そこまで鋭い殺気じゃ......ナンデモアリマセン」
危ない。ここで変なことを言い切ってしまうと、ゼルキアに揚げ足を取られる可能性がある。ここはひとつ、周りと合わせるのが無難だろう。
俺は石橋を叩いて渡る人間だからな。ハッハッハ!
『それでは、これより試験を始める。内容は魔力量とその色、身体測定に体力測定をする。皆が使える人材とは限らぬ。ここで失格になる覚悟を持って、挑むがよい』
そして理事長がスカッと不発させて指を鳴らすと、壇上に続々と水晶が置かれた台が運ばれてきた。
「行くか。俺達3人、仲良く異常者認定されよう」
「私はガイアと同じならそれでいいわ」
「嫌だなぁ。悪目立ちするのは......いや、違うか。目立てるってことは、モテるってことか!」
「ハイハイソウデスヨー」
ブッ飛んだ思考でブッ飛んだことを言うゼルキアだが、顔も性格も良いし、誰かを見ることに長けていることから、単純に色んな人から好かれると思う。
そんな憧れのような想いを胸に、俺達は真っ先に壇上に上がった。
「やはりお主らが一番か。期待しているぞ」
「「「イレギュラーに期待されても......」」」
俺達3人は、明確に普通の人間の理から外れている。
それ故に、期待をされても裏切る結果となるか、はたまた期待を大きく超える結果を残すだけなんだ。
普通では在れない。そう自覚しているから。
そうしてそれぞれが水晶の前に立ち、それぞれ係員の言うことに従って右手を乗せると、右に居るゼルキアから順番に、驚愕の声が響いた。
「えぇ! く、黒ですとぉ!?」
「こちらは金色ですよ!!!」
「この方は......水色です」
右側2人は飛んでない反応をしているのに対し、俺の魔力が水晶に移った瞬間、係員の人が残念そうに報告した。
腹が立つ。人の魔力の色を間違えるな。
「「空色です」」
「......何が違うので?」
ダメだ。もうこの人とは話さない。ミリアも腹を立てているようだし、さっさと次に移ろう。
「それでは、次に魔力量の測定です。こちらの中が空洞になっている水晶に右手を置いてください」
「はい」
右側を見ながら手を置くと、ゼルキアは水晶が真っ黒に染まる程の量で、ミリアは薄い黄金の膜が張ったような水晶へと変貌した。
それに対し俺は、元々の水晶の色が水色に近かった事もあり、殆ど変色しなかった。
「ガイア、手!」
「ん?......あぁ」
「あ! どうして離したんですか! まだ測定は......え?」
ミリアの声で水晶から手を離すと、水晶はドクドクと鼓動をするように動き出し、その球体に大きくヒビが入った。
だが、俺は割れる直前に魔力を自分の手に吸わせた事もあり、ギリギリ割れずに水晶は球体の形を保った。
「危ないですねぇ。割れて怪我でもしたら困ります」
「凄まじい魔力量じゃの。お主、これまでに魔力欠乏の経験は?」
「一度だけですね」
「......そうか。なら、生まれつき多いのか?」
「多分そうですね。俺も詳しくは知らないので」
「ふむ、係員よ。この者は最高評価で通してよい。それと水晶の交換をするのじゃ」
「は、はい!」
おいおいおい、いいのか? 確かに魔力量はいっぱい......というか、無限に湧き出てくるし、魔力の強さはゼルキア達と張り合うが、いいのか?
......いや、魔王と同等なんだし、いいのか。
ん? 逆に良くないのでは?
「お主。次の部屋へと行くがよい。女も待っておるぞ」
「あぁ、すみません。ありがとうございます」
理事長に促された俺はミリアが手を振っている方へ歩いた。すると、理事長の小さな声が聞こえた。
「......美味そうな男じゃの」
俺は背筋が凍る思いで早歩きでその場を後にし、すぐさま次の部屋へと入った。
「身体測定は普通なんだな」
「だね。身長、体重、血中魔力濃度測定。まぁまぁ普通かな」
「ごめん最後の全然普通じゃなかった」
ゼルキアの説明を聞き、最後の単語が非常に気になったので、順番に測定した後、肝心の血中魔力濃度測定の係員に質問した。
「これはどうやって測定するんですか?」
「はい。1滴の血液をこの魔道具に落としますと、血中に含まれる魔力濃度を数値化し、健康状態が分かります」
「へぇ〜。測って意味があるんですか?」
「はい。これにより、入学前から抱えている病気や体質などの申請が受理されます」
「なるほど。証明の為にやるんですね〜」
ふんふんと相槌を打ちながら、用意された針を魔力で薄くコーティングし、人差し指の先に指した。
そして測定器の皿の上に血が落ちると、【測定不可】と診断された。
「あれ〜? おかしいですね。もう一度お願いします」
「はいは〜い」
プスッ! 【測定不可】
「すみません、もう一度」
「はい」
ブスッ!! 【測定不可】
「あれれ〜? どうしましょう」
「諦めましょう。測定出来ない体質ということで済ませましょ」
「本人がそう言うなら......はい。では次の部屋へどうぞ」
「ありがとうございました」
血中魔力濃度が測れない理由なんて、簡単だろう。俺は気分で体内に流れる魔力量を変えているから、だろう。
例え体から離れた血であっても、俺の魔力の繋がりは維持されている。だから、魔道具が測定する恒常値が取れないんだ。
それに、気分と言っても呼吸で変わるから、自由に操れる訳じゃない。なので【測定不可】こそが、診断結果と言えるだろう。
身体測定の部屋を出ると、運動場に出た。
ここには10人程度の係員がスタンバイしており、いつでも測定出来る環境となっている。
「体力テストか。ミリアは大丈夫か?」
「任せなさい。100メートル走れば倒れるわ」
「体力無さすぎだろ! 大丈夫か?」
「今まで魔力に頼っていたから、だと思うけど、多分大丈夫じゃないかしら?」
「うん、絶対大丈夫じゃないよな......まぁいい。何かあったら直ぐ助ける」
「ふふっ、ありがとう。嬉しいわ」
「2人とも〜! イチャついてないで来てよ〜!」
「「イチャついてない!」」
もう既に走る準備を整えたゼルキアの元へ駆け付けると、どうやら100メートル走を繰り返すらしい。
上限は疲れるまで。日本で言う、シャトルランの時間制限が無い代わりに、長くなったようなものか。
「よーい、始めっ!!!」
身体に流す魔力量を限りなく少なくした俺達は、出来る限り生身の体で走り始めた。
「......あ、無理......」
宣言通り、ミリアは1本走り切ったところで体力の限界を迎えた。
「ガイア、勝負だ」
「分かった。勝った方が?」
「この後の昼ご飯奢るってことで」
「乗った。お前の持ち金0にしてやる」
「フッ、あまり僕を舐めるなよ? 僕の体力は凄いんだぞ?」
そんな台詞を残して走り続けた俺達は、気が付けば20分、30分と時間が経ち、隣を見れば新たに走り始めた人がダウンしている様子が伺えた。
「ゼルキア、疲れたか?」
「ぜ〜んぜん! チェスで遊んだ方が疲れるね」
「頭の筋肉が弱いのか」
「おかしいなぁ。脳筋と言われたくないからスルーしようとしたけど、逆の意味で貶されていることに気付いちゃった」
「逃げ道の無い最強の悪口だ。覚えとけ」
「そうするよ」
そんなこんなで走り続けていると、3時間が経った。
お互いに息切れひとつせずに走り続ける姿に、試験の全日程を終えた人も俺達の姿を見ていた。
「終了だ! 2人の体力は分かったからもうやめろ!」
「だってさガイア」
「だってよゼルキア」
「「......じゃあ、誰が奢るんだ?」」
「割り勘でしょ。バカなの?」
「「あぁ!」」
お互いに頭が筋肉で詰まった思考をしていると、回復したミリアからお叱りを受けてしまった。
待たされたことに頬を膨らますミリアもまた、可愛らしい。
心の癒しだ。
『以上で試験の全日程を終了とするのじゃ! 皆の者、よく頑張った! 帰って疲れを取るとよい。合格者は2日後、この運動場にて貼り出される故、寝坊するのではないぞ!』
マイクを手に持った理事長の言葉で、受験生の皆は足を震わせながら、王都の街へと歩いて行った。
そんな中、俺達3人は軽い足取りで飲食店へと向かった。




