第25話 エピローグ
1章、完結ゥ!
そして投稿遅れてすみませぬゥ!
◆ ◆ ◆
ガイアがら異世界『フェリクス』へと飛ばされた直後、ガイアの妹であるイリスは家中を走り回り、実の父である『カオス』を見付けた。
「父様! 大変です! 兄様が!!!」
イリスが必死の形相で事の顛末を説明すると、カオスは酷く哀しそうな顔で、連絡用魔法で通話を始めた。
「フラカン、麻里奈。説明の時だ」
「せ、説明? どういう事ですか?」
「説明するから、イリスは座りなさい。話はそれからだ」
訳も分からないイリスは、緊急事態なのに冷静さを欠いていたと思い、カオスに言われたように椅子に座った。
そして数分程待っていると、母親が目に涙を浮かべながらリビングに入ってきた。と同時に、片足が無く、清潔感のない白い髪をワシャワシャと掻きながら男が入ってきた。
フラカンだ。この男こそ、ガイアが入った世界の創造主だ。
「イリス、まず謝っておく。黙っていてすまなかった」
「ごめんなさい」
「......」
両親が頭を下げたことに意味が分からないイリスは、唯一頭を下げていないフラカンの顔を見るが、目を合わそうとしなかった。
「な、何が? 何故父様と母様は私に謝罪を?」
「フラカン、頼む」
カオスがフラカンにそう言うと、2、3回頭を掻きむしった後、口を開いた。
「......プロジェクト・ガイア。まず、イリスも知っての通り、ガイアは体が弱い。それは理解しているな?」
「は、はい」
「じゃあ、どうしてガイアの体が弱いか、分かるか?」
「どうして?......それは分かりません」
「だろうな。分かったのも昨日の話だし、お前が知っていたらドン引きだ」
ケラケラと笑ってイリスの答えを笑ったフラカンは、一瞬にして表情を固くた。
ピンと張った緊張感が部屋を包むと、フラカンの口から、神として信じられない言葉が出た。
「ガイアの体の弱さは、ここ神界......神々の領域に耐えられないほど、神の因子が弱いからだ。だから、神として生きるのに必要な魔力の制御すら......ガイアにはままならない」
「ぐ、具体的には?」
「体内に取り込む魔力が、日によって少な過ぎたり、多すぎたりする。経験は無いか?」
イリスは全力で記憶の海を漁ると、探せば探すほど、フラカンが言った通りの様子を見せたガイアの姿が思い浮かぶ。
ある日は気持ちが悪いと言ってトイレに籠りっぱなしの日もあったし、またある日......今日のような日は、体内の魔力が少なくなり、魔力欠乏症の症状である、咳や目眩を発症していた。
イリスはガイアの姿を見て、咳き込む日は自分の魔力を多量に含ませた水を飲ませ、回復させていた。
「......あります」
「だろうな。それでもここまで10数年と生きれたのは、奇跡に近い。逆に言えば、もう死ぬ命だった」
「ッ!!」
絶望、或いは憎悪か。普段のイリスを見る者なら、間違いなく恐怖を抱く真っ黒に染まった感情を、イリスは必死に押し殺していた。
まだ助かるかもしれない。自分なら、大好きな兄を助けられるかもしるない。
そんな、ありもしない確率に賭けて。
「そこで俺は......俺達は、ガイアを神界から降ろし、人間として生きてもらおうと考えた」
「まさか、兄様をシミュレーションの中に入れたんですか!?」
「違ぇ。シミュレーションみたいなチャッチィやつじゃなくて、俺が本気で作った世界に落としたんだ。ガイアは俺達と同じ空気を吸えない。だから、ガイアに合う空気を持つ世界に、ガイアを送り込んだんだ」
そう語るフラカンの顔には、どこか悔いのある影が差していた。
「......優秀だった。アイツは、この世界に生きるどんな奴よりも優秀だった。このシミュレーションを娯楽と笑う奴が居ても、ガイア自身を笑う奴は居ないほどに、な」
ガイアは、極めて優秀であった。
人間として神々が作った世界で生きる者として。また、その世界で生きる生物として、神々に多大な影響を与える程に優秀だった。
「兄様は......いつも楽しんで居られました。1つの人生を歩んで得た経験を、いつも私に下さいました」
「アイツもアイツで、イリスの事が大切だったからな。ガイアの生きたログを見ても、アイツは妹と恋人の存在を何よりも大切にしてやがる」
イリスの目の前にパッと出された板には様々な項目のグラフが表示されており、その中でも目を引くのが『大切なもの』の項目だ。
これにはどの人生も、『恋人・妹』の2つがトップに立っており、自分という存在よりも大切な存在だと示している。
「兄様............うぅぅ」
「それじゃあ、俺は帰る。伝えるべき事は伝えたからな」
「帰ってどうする気だ?」
「兄貴には関係ねぇよ。ただ、ガイアの居た地球のリセットをするぐらいか?」
「リセット......ですか?」
「あ〜......技術が発展しすぎたからな」
フラカンの口からポロッと出た言葉に、イリスが食い付いた。
元々フラカンの作る世界というのは、宇宙が存在する。それは人間が未知としている宇宙ではなく、世界を管理する領域としての宇宙だ。
シミュレーション内部に存在する、最凶にして最強。全てを飲み込む未知の天体、『ブラックホール』。これはフラカンが作る世界の、言わば管理サーバーのようなものだ。
惑星が反射する光から情報を得るブラックホールには、地球の情報が常に送られてくる。それをフラカンはリスト化し、先程イリスに見せたのだ。
人類が触れられない存在として在るが故に、それを扱えるのは神だけということになる。
「フラカン様。どうか、どうか兄様に力を授ける事は出来ませんか?」
その場を後にしようとしたフラカンに、イリスは懇願した。
「あぁ? 力? 何で力なんか要るんだ?」
「神界から降ろされたとはいえ、兄様には幸せに暮らして欲しい......そうなると必然、力が要ります。生きる為の、幸せになる為の力が」
イリスは必死だった。自分が今の状況を飲み込めたすら分からないのに、ただガイアへの想いは変わらずにいるから、想いのまま言葉にした。
「バカか。力を持つということは、それ相応の責任が伴う。これはシミュレーションだけじゃねぇ。神であってもだ」
「分かっています......ですがどうか、ご一考ください」
イリスの考えを一蹴したフラカンだが、フラカンとしても内側の気持ちはイリスと同じ。
せめてガイアには、幸せに生きて欲しい。そう思っている。
「......チッ、仕方ねぇ。だが世界のバランスを考えるに、管理役の精霊と全く同じ魔力には出来ねぇ。だから、ガイアが何でもかんでも出来る力ってのは与えられねぇぞ」
「はい......! ありがとうございます!」
「最悪、お前のせいでガイアが死ぬこともあるって、自覚しろよ?」
「はい。でも兄様なら大丈夫です。力の制御と解放に関しては、兄様に勝る存在など居ませんもの」
「謎の自信を持つな、バカが」
そしてイリスを世界の管理室に招き入れたフラカンは、ガイアが前に居た世界である地球と、絶賛サバイバル中のフェリクスの惑星を映し出した。
「あぁ、そろそろ勇者召喚するのか」
「勇者......ですか?」
「そうだ。フェリクスには魔王がいる。魔王は人間の明確な敵として、時代の急進を止める役割を担っている」
「それでは、もし魔王が人間と手を取り合えば、どうなるので?」
「その時はその時だ。ただまぁ、そんなこと、地球から来た人間くらいしか思い付かんぞ?」
「そうですよね......でも、転生という概念があるのでしたら、可能性は0ではなくて?」
「あぁ。後はまぁ、ガイア次第だろ。神界での記憶は全て消してやったが、アイツには日本人の心がある。故に最悪、未知のシナリオになる可能性もある」
そもそもシナリオなんて無いがな、と付け加えるフラカンに対し、イリスは思考の海をダイビングしていた。
「そうだ、勇者ですよ! 勇者として、兄様と友人だった方をフェリクスに招くというのはどうでしょう!」
「......アリっちゃアリだな」
そうして『神託』としてイリスが人間に言葉を授けると、人間はその言葉に感謝を捧げ、勇者召喚の儀式へと取り掛かった。
「お、キタキタ。名前は、え〜っと『友也』?」
「優しそうな方ですね。兄様と出会えるといいのですが......」
「それは神である俺でも分からん。コイツ次第、だな。さぁ、次はガイアに関する力を決めるぞ。案は幾つかある」
「何ですか?」
「1つ、『魔力』。これは言わずもがな、万能の強さだ。
2つ、『身体能力』。俺は勧めないが、肉体の強さだ。
3つ、『権力』。最初で最後の因果律。王家や貴族の血筋に産まれさせる。
イリス。お前が決めろ」
指を3つ折って提案するが、そんなフラカンの優しさはイリスにとって、無用の優しさだった。
そしてイリスは即答する。
「魔力です。一定以上の純度さえあれば、強くなれる......のですよね?」
「あぁ。だが強ければその分、制御が難しい」
「なら魔力で。兄様なら、どんな魔力でも制御出来ます」
ガイアへの絶対的な信頼を見せるイリスに、フラカンは心底呆れ返り、また、そんなイリスと同じ思いを抱く自分も居ると気付いた。
「はぁ......何色だ?」
「空色です。青や水色ではなく、空色で」
「強度は......ルーレットで決めるか。フェリクスで発生する最下級の魔物、ゴブリンと同等の力から上をランダムで決めるぞ」
そう言って様々な色の項目があるルーレットを創り出したフラカンは、イリスの手にダーツの矢を1本、手渡した。
この1投にガイアの全てが懸かっている。そんな言葉が、空気を伝う。
おもむろにルーレットが回されると、イリスは息を飲んで矢を構えた。
「......いきますッ!」
タンッ! と暖かな着弾音と共に減速するルーレットは、数ある項目の中でも1番小さな判定を持つ、『魔王』の魔力で止まった。
「魔王......最強格か」
「やっ、やりました!! やりましたよ兄様!!!」
こうして、魔王と同等の魔力強度を持つ、空色魔力の転生者が誕生したのだった。
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