第24話 邂逅の時
そろそろ1章も終わりです。
「ガイア、ミリアちゃん、忘れ物は無い?」
「私はありません。お義母さん」
「俺は......そもそも持っていく物が殆ど無いな」
アミリア改め、ミリアが俺の家に来て数週間。
家族や親戚の目が飛び出るほどのビッグニュースを持ち帰ったのだが、熱が冷める間もなく、入学試験の日が来てしまった。
「お兄ちゃん、私の入学は2年後なの?」
「そうだぞ。先輩と呼びたまえ、妹よ」
「嫌! お兄ちゃんって呼ぶもん!」
「はいはい」
もう8歳にもなったのに、相も変わらずお兄ちゃんが大好きだな、サティスは。可愛すぎるだろ。
金貨数枚と冒険者カードを入れた袋を持った俺は、サティスに別れを告げるべく、抱きしめてあげた。
「途中で帰らなければ、次に会うのは2年後だ」
「うん......」
「まぁ、その前に入学出来るか分からんがな」
「大丈夫。お兄ちゃんなら出来るもん」
「そっか......ありがとうサティ。大好きだぞ」
今までに無いほど優しく、けれど強く抱きしめ合い、最後にサティスの可愛い熊耳を撫でてから、俺はミリアの横に立った。
「ガイア、行く前にコレ持ってけ」
おや、父さんは見送りには来ないと思っていたが、俺に渡す物を取りに行ってただけらしい。
そして父さんから渡された物は、刀身が真っ白に染まった、鞘に納められた剣だった。
「知り合いの鍛冶師に頼んで作って貰った剣だ。お前が巣立つ時に渡そうと、用意していたんだ」
「これは......良い剣だね。手に馴染む」
重く、冷たく、軽く、熱い。そんな想いを抱かせるような、純白の刃。
これは一生の宝物にしよう。ひと目でそう思った。
「ありがとう、父さん。それじゃあ、行ってきます」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい、お兄ちゃん、ミリアちゃん」
「「行ってらっしゃい」」
振り返ることなく前に進んだ俺達は、王都行きの馬車には乗らず、そのまま歩いて街を出た。
街というより村に近いが、街でいい。きっと、いつかは街になるだろうから。
「さて、走るか!」
「それじゃあ、王都まで競走でもする?」
「しねぇよ。お前に怪我をされても困るからな」
「じゃあ、ゆっくり歩くの?」
コテンと可愛く首を傾げるミリアに悶えそうになったが、俺は何とか立て直し、そっとミリアの膝の裏と肩を抱き上げ、お姫様抱っこした。
「これで走る」
「......コケた時、私も巻き添えよ?」
「う、うるさい! 別にいいだろ!?」
「ふふ、冗談よ。その時は一緒に怪我をすればいいわ」
「怪我させねぇっての」
足、腰、腹筋と下から順番に魔力を流していくと、俺の筋肉は魔力濃度が高まり、普段の数倍から数十倍の力が発揮できるようになった。
そして1歩ずつ踏み出して行くと、次の1歩がより速く出ていき、瞬く間に馬車を追い越す速度に加速した。
まぁ、そもそも馬車って遅いんだけど。
「良い制御ね。もしかして頭まで強化してる?」
「当たり前だ。じゃなきゃ体に脳が追い付かない」
「流石、賢いわね。ご褒美のキスでもいるかしら?」
「積極的だなぁ、ミリア」
「だって、誰かに取られたくないもの。今のうちに唾つけとかないと」
「その言葉を物理的にやる奴は初めて見るぞ」
「じゃあ、いらない?」
「いる。王都に入るまで待って」
小さく微笑むミリアの顔を見ていたいが、それをすれば物凄い勢いで地面とキスをする羽目になるので、我慢だ。
ふと、日本での暮らしを思い出してみるが、ここまで積極的な女性をあまり見たことがないな。やはり、場所も違えば人も違う。この世界での人生、楽しまなきゃ損かもな。
ちゃんと幸せになって、笑顔で死なないと。
「え〜、身分証をお出しください」
「はい。2人分です」
「はい、お通りください」
良かった。ミリアに冒険者になってもらったのは正解だった。服装もそこまで派手じゃないから元アミリア王女と気付く者も居ないし、ラッキーだな。
「早く行きましょ、遅刻するわ」
「あいあい。でもその前に、キスの件はどうなった?」
「ひ、人通りの多い王都でやるの?」
周りに誰も居ない時は積極的なのに、視界に人が入ると酷く消極的になるんだな。まぁ、公衆の面前でイチャつくのもアレだし、辞めておこう。
夢のイチャイチャ生活は学園を卒業してからにしよう。
「今はいい。行こうか」
「えぇ。チャンスはあるはずよ」
「全く、提案者が言うセリフじゃないな」
「うるさいわね。これ以上言わなくていいの。その口塞ぐわよ?」
「口で、か?」
「そうよ」
一瞬の、唇同士が触れるだけのキスだったが、それだけで俺の意識は全てミリアに吸い込まれ、はにかんで俺の手を取って歩き出す姿に、俺の思考はショートした。
ホント、一緒に居れば居るほど魅力に溢れる存在だ。
俺は、そんなミリアへどんどんと魅了されていく。普通の人が水溜まり程度だとすると、ミリアは底なし沼だ。
幾らでも浸かっていたい。そんな、甘い沼だ。
「行きましょ、ガイア」
「あ、うん」
まともな返事が出来なかったが、俺はミリアを手を繋いだまま、試験会場でもある王立学園。『エデリア王立学園』に着いた。
「こんにちは。入学試験を受験する方ですか?」
「はい。私と彼、2人です」
「それではこちらの紙に、お名前を記入してください」
そう言って渡されたペンは、俺の知る羽根ペンではなく、魔物の爪を使ったであろう、爪ペンにインクが付けられていた。
「書かないの?」
「いや、ペンが気になって」
「それは魔物の爪よ。中が空間だらけの柔らかい材質だから、程よくインクを吸うのよ」
「空間だらけ......スポンジみたいな物か。面白いな」
そうして記入が終わると、名前と受験番号が書かれた木の板を持たされ、待合室に案内された。
中には100人を超える人数が、まるで立食パーティーかのようにバラバラに話し合っていたのだか、ミリアの姿を見るや否や、入口に近い者から順に口を閉じた。
「あら、静かになったわね。ガイア、何かしたの?」
「お前が原因だと気付けないとは、頭大丈夫か?」
「質問に答えてくれないなんてツレないわね。私も答えてあげないわよ?」
「酷くね? あ〜あ、折角面白い魔法があるのに、俺も教える気無くなったわ」
「くっ......どんなの?」
「全ての魔法。この世に存在する全ての魔法が面白い」
「はぁぁぁぁぁぁぁ............」
「溜め息デカイな。幸せが逃げていくぞ?」
「構わないわ。ガイアが幸せにしてくれるんでしょ?」
「いきなり常識を語って、どうしたんだ?」
「むぅ。駆け引きで遊ばないでくれるかしら?」
「すまんすまん。許せミリア。悪気しかない」
「酷いわね。サティスが入学したら、ガイアの悪い所を100個伝えるわ」
「良い所は?」
「1万個伝えるわ」
「あら素敵。それじゃあ俺も、サティスにはミリアの良い所を1万個教えてあげよう」
ハッ! しまった! つい2人だけの空間を作ってしまった! これではもし、友達になりたいと言ってきた人が居ても気付けないではないか!!!
そう思って周りを見ると......俺を恐ろしい顔で睨む男達や、異物を見るような目でこちらを見る者など、あまり好印象を持たれていないことが分かった。
うむ。何故だろう。少し、話しすぎたか?
「ぼっちスタートのガイア君、久しぶりだね?」
しんと沈み返った広い待合室に、俺と同じような黒い髪で、貴族服に身を包んだ男の子が俺の前に現れた。
「残念、俺に話しかけたことでお前もぼっち確定だ」
「嫌だなぁ。見てよ、ホラ。僕の友達も一緒に......あれ?」
「お前の後ろに居た3人だが、お前が動く前に離れたぞ」
「そ、そんなバカなッ!!!!!」
「現実を見ろ。それと......久しぶり、そして初めまして。ガイア・アルストだ」
俺は右手を前に出すと、その男の子も右手で掴んで返した。
「久しぶり。ゼルキア・アーレンツだよ。ミリアも久しぶりだね。ガイアと仲良しで何よりだ」
俺は約10年振りに、元魔王である、ゼルキアと再会した。
ようやくスタートラインに立てました。いや〜、長かったです。
これから本格的に学園の話になるので、次回は1章のエピローグをやってから、第2章に入りたいと思います。
楽しんでくれると嬉しいです!




