第23話 どこの馬の骨?
少し更新頻度がまばらになります。
「お待ちしておりました、ガイア様。どうぞこちらへ」
「ありがとうございます」
ツバキさんの案内で王城に来ると、俺の顔を見た使用人の人が数人ほど集まり、門を開けて通してくれた。
「ねぇ。アミリア様とはどうやって知り合ったの?」
「関係ないです」
「アミリア様のどこが好きなの?」
「全部に決まってるでしょう?」
「具体的にどこが?」
「しつこいなぁ。他人のプライベートにズカズカと踏み入るの、辞めてくれません? いい加減腹が立ってきました」
城に入る前も入った後も、ツバキさんはずっと俺に話しかけてくる。これが好意なのか情報収集なのかは知らんが、迷惑極まりない。
「ごめん。ガイアのこと知りたくて、つい」
「情報収集なら他所でやってください。ウザイです」
「違う。ただの興味だよ?」
「じゃあ時と場合を弁えてください。ウザイです」
「ん〜......許してニャン☆」
「殴るぞ?」
「ごめん」
危ない。あと少しでメイドさんの前で手が出るところだったぜ。もしツバキさんと2人っきりなら、俺はもう15回は殴っている自信がある。
《幻級》がどれくらい凄いのか、まだあまり興味が無いから知らないが、他の2人もこんな感じなのだろうか。
だとしたら、相当にクセが強いと考えるか。
「アミリア様。ガイア様がお見えです」
「通して」
ガチャっと扉が開けられると、俺の知ったミリア......の他に、初めて見る男の子が1人と、国王と王妃が椅子に座って待っていた。
「ツバキ、ご苦労さま。ここまでありがとう」
「いえ、こちらこそありがとうございました。また御用があれば、お受け致します」
ツバキさんは部屋に入ること無く、素早くその場から立ち去ってしまった。
「さぁ、ガイア。ここに」
「あ......はい」
ふと思ったのだが、これって御両親への挨拶なんだよな。俺、凄く軽い気持ちで来てしまったが、もっと気を引き締めなければダメなんじゃないか?
ま、いっか!
「紹介するわ。私の婚約者のガイアよ」
「ガイアです。ミ......アミリアの婚約者です」
「あ? お前がアミーの何を知っている!!!!」
うわぁ、多分王子だと思う、金髪の男の子が声を荒らげてきた。
「大体知っていますよ。生活の癖や視線の動かし方とかですね。あ、普段は右利きなのに、水を飲む時だけは左手でコップを持つところなんかは特に好きな癖ですね」
200年も一緒に居て、ミリアの全てに興味を持った俺が、今更知らないことなんて殆ど無いぞ?
「んぐっ......ほ、本当か? アミー」
「えぇ。これは母上しか認知してないと思うけど」
「ふふ、そうね。私としては初めましての人だけど、ここまでアミリアのことを知ってる人は、そう居ないでしょうね」
「ということよ、兄上。これ以上ガイアに何を言っても、兄上が負けるだけだから喋らないで」
「......チッ」
ガラ悪くない? この王子。こんな人が次代の国王とか、レガリア王国も終わるんじゃないか?
「ふむ、ガイアと言ったか」
「はい」
次は国王ですかい。ええぞ、ミリアに関するクイズなら俺は親である貴方にも負ける気はしない。受けて立つ。
「アミリアを、よろしく頼む」
「......へ?」
「「「え?」」」
ちょっと〜、皆困惑しちゃったじゃないですか〜!
まさか、そんな......ねぇ? どこの馬の骨とも分からない人に、自分の娘を任せちゃうなんて......いいんですか?
「アルガス? 貴方、本気で言っているの?」
「あぁ。私はアミリアより、様々な話を聞いた。あまり詳しくは言えないが、私達が婚約者を決めるより、アミリア自信が選んだ人物の方が、アミリアの幸せに繋がるだろうからな」
「父上。失礼な言葉と存じますが......バカですか? 幾らアミーが認めたからって、父上まで認める必要は──」
「それはあの、勇者を殺した者に対しても言えるのか?」
国王こと、アルガス・デル・レガリアが俺の目を見て言うと、王妃と王子は2人揃って俺の顔を凝視した。
というか、国王だけはミリアから話を聞いていたんだな。だからという訳じゃないが、認めてくれたのなら嬉しい。
前世では色々と助けられてばかり居たから、今世では恩返しをしたいんだ。
「ガイアは知らないと思うけど、実は勇者の命は3つあるのよ」
「ふむ......察するに、アイツを殺したのはゼルキアと俺か?」
「察し過ぎよ。でもその通り。あのままガイアに殺されなければ、勇者は150年は生きたとされるから、色々と問題があったのだけれど......」
「あぁ、寿命も3つあるのか。だから、あの時に殺り切れなかったら、今も勇者は生きており、俺達と戦っている可能性があると」
「そうよ。あの場で君が取った、戦うという判断は間違って無かったわ」
「そうか......」
実は、少しだけ後悔していた。
あの場で戦わない判断をしていれば、俺とミリアは死ぬこと無く、幸せに生きることも出来たんじゃないか、と。
頭では分かっていた。友好的に接することが出来れば、『もしかしたら』があったのかもしれないから。
でも、気持ちは違ったんだ。
ゼルキアを殺し、阿部くんを殺した勇者を、俺は許すことが出来なかった。それに、あの2人が居ない生活なんて、あまりにも悲し過ぎる。
それを理解した上で教えてくれたミリアに、感謝したい。
「ま、待って下さい父上。どういうことですか?」
「そのままの意味だ。勇者が残した書物、『2回の死』に書いてある、2回目の死とは......そこの者、空色の魔力を持つ者によって齎されたと書いてある」
「空色の......魔力?」
「ガイア、魔力は出せる? 出せるなら見せてあげて」
「はいよ」
本人確認は大事だもんな。そう思った俺は、両手の平を上に向けて差し出すと、空色の魔力でミニチュアサイズのサティスを作ってみた。
「んなっ!?」
「あら、サティスかしら? 凄く上手ね!」
「なんという精度......これ程の技術は初めて見たわ......」
「王妃様。これならアミリアも出来ます。寧ろ、アミリアの方が、より精巧に、緻密に作れますよ」
「本当に!?」
「余計なことは言わなくていいの」
隣に座るミリアに腕を掴まれたが、その顔は嬉しそうに口角が上がっていた。
「ふふ、仲良しなのね。それで、ガイア君。アミリアと結婚するとなると、政治的な面であなたは沢山の問題を抱えることになるけど、それは理解していますか?」
これにはハッキリ答えるか。ミリアが王女として産まれた以上、避けては通れぬ道だというのは分かっていたからな。
「はい。外交、統治、経済、果ては暗殺と、私とアミリアの前に立つ問題は数多いでしょう。私は今のまま生きれば次々代の男爵ですので、十分に理解しています」
「そうですね。でも、本当に理解している人は『理解している』なんて言えませんよ?」
あ? こちとら公爵の経験が......待て、その公爵の生き方も、善政を敷けた訳でもなければ民も幸せにならなかった、言わば悪徳領主だった気がするぞ。
でも俺は、そこらの悪徳領主とは違った。なんせ、俺も不幸になっていたからな。
上に立つ人間の、私腹も肥やせない程の政治力しか俺はない。
まずいぞ、これ。もしかしたらダメかもしれない。
「あなたの言葉で聞かせてください」
......仕方ない。昔の記憶を抜きにして、今の俺とこれからの俺が出来ることを想像し、答えるとしよう。
「すみません。俺はバカなので、実際にその時にならないと何も考えることが出来ません」
「ガ、ガイア?」
「魔法も、剣術も、体術も、生存術も......今の俺が持つ全ての技術は、普通の人の何倍もの時間をかけて会得したものです」
「ええ、そうでしょうとも。あの魔力構築技術を見れば、計り知れない時間をかけて磨いた技術だと、人目で分かります」
「はい。最初は魔力が何かすらも分からないところを、俺はミリアに教えてもらい、何とかして一分にも満たないものですが、理解しました」
俺は別に、何かの才能がある訳ではない。
天才と呼ばれるような突出した技術もなければ、そこまで頭も良くないし、技術の習得に長い時間を要する。
だけど、何も出来ない訳ではない。
本来は使えないと言っていたミリアの使う精霊の魔法が使えるし、ある程度の魔法は人間である俺用に改編もできる。
俺は誰かに頼り、初めて何かを得ることが可能になる人間なんだ。
「これから出会う問題は、ミリアと立ち向かいます。彼女に頼り、頼られ、苦労しながらも2人で乗り切りたいと思います」
「............そうですか」
深く考え込む王妃、レイア・デル・レガリアに、俺は俺の根底にある、自分らしさを伝えきたったと思っている。
人間、1人では生きられないと言うが、俺は特に酷い例と言えるだろう。でも、それでいいんだ。
俺は孤独じゃないから。1人であっても、孤独じゃない。ミリアが居てくれる。
「いいでしょう。私はアミリアとガイアの結婚を許します」
「母上まで!?」
「カイン。あなたはアミリアのことを大切に思っているから、急に結婚と言われて驚くのも無理はありません。ですが、これも王家に産まれた運命。納得しなさい」
「くッ............はい」
第1王子が認めてくれなくてもいい。大体、ちゃんとした貴族でもない俺を婿に迎えること自体、異例中の異例だろう。
だがしかし、ミリアが伝えた俺達の過去を知る王族にとって、貴族か否かなんて、些事なのかもしれない。
「最後に、アミリア」
「はい」
「此度の婚約、及び結婚で、お前は王族の権威を失う。いいな?」
「勿論です。私はアミリア・デル・レガリアではなく、ミリアですから」
「うむ」
え? えっ、えぇ? もしかして今の一瞬で、ミリア......じゃなくてアミリアの王族としての全てが消えたのか? 嘘だろ?
「あ、でも学園には通ってね。名前とかの処理はしておくから、普通の学生として、5年の時間を使って欲しいわ」
「ありがとうございます、レイア様。本当に......今まで、ありがとうございました」
「ふふっ......いいのよ。我が子の成長だもの」
王妃に抱きしめられているのを見るに、ミリアと王妃は相当仲が良かったのだろう。
こんなのを見せられたら、俺が間違った選択を取った気がしてならない。王族という地位を奪ってしまうとは思わなかったが故に、自責の念が生まれてきた。
絶対に幸せにさせないと、俺はこの人達に殺されそうだ。いや、殺される。絶対に息の根を止められる。
「さて、それじゃあ行きましょうか。ガイア、今日は何処で寝るの?」
「何処って......家だけど」
「......そう言えばここまで走って来てたわね」
「「「は、走って!?」」」
「別に泊まりなら泊まりでいいけど、どうする?」
「なら久しぶりに野宿しましょ」
「「「野宿ぅぅぅ!?!?」」」
「分かった。それでは皆さん、本日はありがとうございました。それと、すみません。ミリアを貰って行きますね」
御三方にとって、さぞ情報量の多い会話だと思うが、俺達は野宿することも厭わないぐらい、自然の環境に晒されてきたんだ。
それに、冒険者になったのだから、野宿くらい普通にするだろうからな。ちょうどいい。
「た、たまには顔を出してね。元気な姿を見たいの」
「はい。式を挙げる時も、必ず呼びます。母上」
「えぇ。約束よ?」
「はい。約束です」
こうして1日の内に婚姻に関する話が終わった時には、外はオレンジ色に染まっていた。
「ん〜〜〜!!! これで自由の身だわ!」
「だからといって、あまりはしたない事はするなよ?」
「しないわよ......ガイアの前でしか」
「うむ、それでよろしい。じゃあ、帰るか」
王城を出て街道を歩き、馬車に乗って王都の出入口である例の門に着くと、ちょうど俺達の番で締め切ることになった。
「身分証を......エ゛ッ」
「すみません、あの紙って往復も行けますか?」
「......」
「お〜い」
運がいいのか悪いのか、入る時に一悶着あった門番さんが相手だったので軽く聞いてみたが、どうやら脳の処理がパンクしているらしい。
入る時も出る時も、隣に居る人物の影響力が凄まじいな。
「......ハッ! お、お通りくださいッ!」
「「ありがとうございます」」
何とか処理し終えた門番さんは、サッと手を出し、確認無しに通してくれた。
「ガイア、改めて......私を貰ってくれる?」
「喜んで。一緒に幸せになろう」
「うん!」
ギュッと手を繋いだ俺達は街道沿いの森へと入り、今世では初めての野宿をミリアと経験した。
凄まじいスピード婚ですね!
これでミリア(アミリア)は平民の地位に着くので、次回からガイア君との生活が始まりま──




