第21話 手紙とアンデッドベアー
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「お、お兄ちゃん......ごめんね」
「いいよ。お兄ちゃんはこれくらいでサティのことを嫌いになったりしないから」
「ホントに?」
「本当だ。だから体、洗っておいで」
「うん!」
朝、暖かい感覚で目が覚めると、我が妹がおねしょをしていた。
この経験は4回目くらいなのだが、特段サティに怒ったりはしていない。というか、怒れないんだ。
だって、俺は毎日魔力を漏らしているから。
制御しているとは言え、それはホースの先を強引に閉じたようなもの。畑の水やりや空いた時間に放出しないと、俺はサティの比にならない量の液体を体から出すことになる。
もしそうなってみろ? 俺のお兄ちゃんとしての地位は奈落の底へと落ちていくぞ。
「あら、ガイア。大丈夫? お母さんも手伝おうか?」
「大丈夫だよ。もう慣れてるから」
井戸の水に魔力を練り込ませて布団を洗い、干していると、朝食を作り終えた母さんが俺の様子を見に来てくれた。
「そう?......サティスも寂しいんだと思うの。許してあげてね」
「元から怒ってないし、許すも何も。寧ろ、こうしてサティスのお世話を出来ることに感謝してるよ」
「ふふっ、ありがとう。良いお兄ちゃんね」
「まぁね。そうだ母さん。手紙を書きたいんだけど、文字を教えてくれない?」
「手紙? 誰に......って、あぁ、アミリア様に?」
「うん。だからさ、文字を教えて」
「いいよ。お父さんの稽古のあとは、お母さんとお勉強ね」
「ありがとう!」
そうして今日は父さんに新たな剣の型を教えて貰い、父さんの連撃を受け流す練習をした後、母さんによる読み書きの勉強をした。
こういった事は早めに教えて貰いたかったが、今からでも遅くはない。俺は遊びに行ったサティスを連れ戻し、共に勉強させた。
「お兄ちゃん、この文字なに〜?」
「それは単語だ。3つの文字の組み合わせだな。この場合『り』『ん』『ご』、つまり、果物のリンゴの名前が書いている」
「なるほど〜。じゃあこれは──」
日本語に似た文体なのは違和感を覚えるが、俺は滞りなく、1つの言語を習得することが出来た。
......半年かけて、だが。
そして文字を完璧に書けるようになった俺は、ミリアに宛てた近況報告や学園での生活を想像して手紙を書き、冒険者ギルドへと持って来た。
「エマさん、お久しぶりです」
「が、ガイアさん!? ご無事で何よりです! お久しぶり......ですね。お元気でしたか?」
「はい。最近は勉強と剣の稽古に時間を使っていて、ギルドに来れずすみませんでした」
「大丈夫ですよ。こうして元気なお顔が見れたので、満足です。背も伸びて、カッコよくなりましたね!」
「あはは、ありがとうございます」
半年ぶりのエマさんとの会話を楽しんだ俺は、王都......それも王女へ宛てた手紙を出したいと言うと、銀貨5枚のお金がかかるとの事なので、金貨1枚を出してお願いした。
この半年でお金についても勉強したんだ。
銅貨1枚が日本で言う100円くらいということ。
市販のパンを買うなら、大体1つか2つセットのパンで銅貨1枚という感じだ。
そして銀貨は、銅貨100枚、つまり1万円相当。
続く金貨は100万円に相当するとのこと。
俺は初日に約3000万円近くの金を稼いだので、正直に言って1年は遊んで暮らせると思う。
あと、大銅貨とか大銀貨とかもあるが、こちらはそれぞれ、銅貨10枚分、銀貨10枚分の価値になる。
「はい、お釣りは大銀貨9枚と銀貨5枚になります」
「ありがとうございます。それじゃあ、森の方に薬草採取をしてきます」
「分かりました! お気を付けて!」
籠を背負った俺はギルドを出て、あのザガンを捕まえた森へと来たのだが......前回と雰囲気が違う。
何かこう、重苦しいオーラを感じる。
「他の冒険者の為にも、倒しに行くか」
何か強大なモンスターが居るなら、俺が討伐なり足止めなりをした方が良いと判断し、俺は身体能力を強化して森の奥へと走った。
「臭いな。強烈な腐敗臭だ」
奥へ進むにつれ、段々と重苦しい雰囲気の正体である、腐敗臭が強くなってきた。
そして5分ほど疾走していると、臭いの犯人の元へ辿り着いた。
「何だ......コイツ」
俺の目の前に、自身の首を両手に持ち、首からは禍々しい魔力を放つシルバーベアーが徘徊していた。
この姿を見た瞬間、俺は猛烈に後悔した。
「あの時に処理していなかったからか......」
半年前、シルバーベアーの首を斬り落としたものの、火葬も埋葬もしなかった俺のせいで、森が腐りかけている。
直ぐにコイツを始末しないと、強力な魔物が産まれるかもしれない。
「ごめんなさい」
──霧散せよ、保護の雨
俺を中心に空色の魔力を多分に含んだ水を撒き散らし、熊の首から流れ出る魔力から保護する水を森にかけた。
──刈り氷、10連
10枚の氷の刃が死体となったシルバーベアーを切り刻むが、恐ろしいことにこの熊さん、バラバラになっても再生するのだ。
「不味いな。俺の手に負えん。ここが精霊樹の森なら、せめてコイツを縛れるんだけどな......クソっ」
出来ないことを言っても仕方ないので、俺は森全体を覆うように魔力を行き渡らせると、全力で冒険者ギルドへ走った。
そしてエマさんに事の顛末......俺がやらかした事も含めて伝えると、直ぐに冒険者を派遣してくれた。
「よっ、ガイア。何かやらかしたんだってな?」
「ガルさん! すみません、あの森で倒したシルバーベアーなんですが、処理をしていなくて......」
「あ〜、アンデッド化したのか。お前、エマから死体に関して何も教わらなかったのか?」
「はい。俺が受けたのは薬草採取の依頼なので、まだ教えるに値しなかったのかと」
「そいつはエマも悪いな。取り敢えず案内しろ。アンデッドベアーなら俺1人で十分だ」
「分かりました」
申し訳ない。ただそんな気持ちでいっぱいになった俺は、ガルさんと同じスピードで森の奥へと案内する......のだが、森の手前でガルさんが足を止めた。
「おいおいおいおい......何だこれは......森が何かに守られてやがる」
「大丈夫です。行きましょう」
「お、おい!」
俺はガルの前に出て走り出し、森の奥に居る大きな異物感を放つ、アンデッドベアーの元に案内した。
「お前、なんちゅう速度で走ってやがる!! 本当にただの子どもか!?」
「異質な子どもです。そんなことより今は......」
「おう。離れて見てろ」
先程と変わらず、ただ徘徊するだけのアンデッドベアーを前に、ガルさんは背中に背負う大きな剣を取り出し、詠唱した。
「払い、清め給え《浄化の闘気》」
ガルさんの剣がオレンジ色の炎を纏うと、その炎は穢れた心を燃やすかのように、アンデッドベアーを両断し、灰に変えた。
「任務完了だ。ガイア、帰るぞ」
「はい......」
「いつまでシケた顔してやがる。ガキは笑え。例え冒険者だろうと、お前は子どもだ。笑うのが仕事だ」
剣を納めたガルさんは、トボトボと歩く俺の頭に手を置いた。
「でも、俺のせいで......」
「だからそれは教えなかったエマも悪いって言ったろ? お前1人の責任じゃねぇ。それによ、誰も被害者が出てねぇんだ。事故を未然に防いだんだから、安心するのが普通だろうが」
「痛てっ!」
ゴチン! とゲンコツを俺の頭に落としたガルさんは、ガシガシと俺の頭を撫でてくれた。
「お前も反省したんだからもういい。これからのお前の糧になったんなら、誰も文句言わねぇよ。前見て歩け」
前を見て歩くガルさんの背中は、俺の今までの人生で見たことがないほど、大きく、頼り甲斐のある背中だった。
俺はいつか、こんな人になれるのだろうか。そんな期待をしてしまうほどに、ガルさんはカッコイイ。
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次回から本格的に学園編に入ろうと思います!




