第20話 お金を稼いだ転生者
「ということで、《純金級》のガルだ。今回は指名手配犯『アンデッドグリッチ』のリーダー、ザガンの捕獲、お手柄だったな」
「あ、はい。ガイアです。好きな食べ物は焼き芋です」
「ブフゥ!!......ア、アリアだ。ギルドマスターを、し、している......フフっ」
そんなこんなでギルドに着いた俺は、アヒル君をギルドの馬小屋に置いてくるなり、速攻でギルドマスターの部屋へと連れて行かれた。
ギルドマスターがとんでもない巨乳のエルフさんのせいで、俺は緊張のあまり変な答えを出してしまった。
「面白い子だ。本当にこの子がザガンを捕らえたのか?」
「はい。正確に言えばあのワイバーンがザガンを戦闘不能にしたので、言ってしまえば自爆ですけどね」
「いや、俺も怪我を治療したので、あのまま放置だったら出血多量で死んでましたからね、あの3人」
「ほう? まぁ、ガイアが捕まえたとして話を進めよう。して、ガイアよ。どこでザガンと出会った? 当時の状況を教えてくれ」
「はい、まず──」
俺は魔法については一切話さず、森で薬草採取をしていた所に現れたシルバーベアーを、何とかして倒した俺が手柄をザガンに譲ろうとしたところ、本性を見抜いたと説明した。
うん、かなり無理があるが、こうするしかない。
「ふむ。して、どうやってシルバーベアーを倒した?」
来たか、この質問。ギルドマスターおのことだし、絶対に来ると思っていたぞ。
「なんか勝手に死にました」
「有り得んな。話せ」
「ザガンが斬りました」
「あの剣には血が付いておらん。話せ」
「もう1人の男が「話せ」......言えません」
「ほう? それは自身の所属するギルドからの命令でも、か? お前のカードを失効、及び再発行不可にも出来るんだぞ?」
「別にいいですよ。ギルドに入ったのは魔物戦って強くなる為ですし。自分の力の全てを話せなんて言う所に所属する意味もありませんしね」
「......強いのか?」
「さぁ? 俺自身はまだまだ弱いと思いますがね」
「お、おい、2人とも!」
目線でバチバチと火花を散らしていると、アリアさんからは緑の魔力が。俺からは空色の魔力が漏れ出ていた。
「フッ、肝が座っておる子よの。どこの子だ?」
「カイン・アルストの息子です」
「ん!? お前さん、さては領主様の孫か!?」
「そうですよ。まぁ、貴族に興味ないんで登録の時には苗字を書きませんでしたが」
ぷいっと顔を背けた俺はテーブルの上に置かれたお茶を啜り、一緒に置かれていたクッキーを齧った。
「......ガルよ。どう思う?」
「どう、とは?」
「貴族の冒険者として、だ」
「分かりません。彼の実力も生で見た訳じゃないですし、その判断を下すのは早計かと」
俺、森の前でガルさんの剣を弾いたけどね。というか16人分弾いたけどね。
レガリアで剣を極めた人間なら、あの程度造作もない。剣の達人が10人集まって、とかならアヒル君が危なかったが、あの程度ならなぁ。
正直、父さんの方が強いよ。
「そうか。取り敢えず、話は終わりにするか」
「あれ? 俺のギルドカードはどうなるんです?」
「薬草採取の依頼3つ分の報酬にしておく。あとはザガン逮捕の報酬金だな。確か、金貨30枚だったか?」
「そうですね。3週間前までは20枚でしたが、上げられましたから」
「ということだ。大金を手にしたからといって、遊びすぎるなよ?」
「子どもに何言ってんですか、ギルドマスター」
「ハッハッハ!!!」
......やべぇ、金貨30枚の価値が分からねぇ。
に、日本円にすると幾らだ? まずそこから勉強しないと。
やっちまったよ。常識の勉強を忘れていた。
「ほれ、金だ。これからも励め、若造」
アリアさんはジャラジャラと鳴る布袋を上投げで投げてきた。今のアクションのお陰で、俺の脳内カテゴリーにアリアさんは危険人物として登録された。
「若造って......アリアさんも若いでしょ」
「......ん? 口説かれたか?」
パッと出た俺の言葉に、アリアさんは頬を染めた。
それを見たガルさんは、酷く呆れた顔で言い放つ。
「バカですか? 子どもの素直な気持ちに邪な思いを抱かないでください」
「分かっとらんなぁ、ガル。女はいつだって『若い』『綺麗』と言われたいものなんだぞ?」
「はいはい。若々しくて綺麗ですよ、ギルドマスター」
「うむ。報酬は0.9倍だな」
「減ってるじゃねぇか!!!!!」
「フフっ、冗談だ」
そう言ってガルさんには数枚のお金が入っているであろう袋を投げ渡し、アリアさんはニヤッと俺の顔を見てきた。
「無駄遣いするなよ?」
「そうですね。これで装備でも買おうかな、と」
「そう言えばお前、武器を持っていなかったな。剣を買うのか?」
「はい。父親に剣術を教えて貰ってるので、剣を買おうと思います」
「剣士専門とは今どき珍しいな......懐かしい。頑張れ」
「はい!」
アリアさんに頭をワシャワシャと撫でられた後、俺は1階へ降り、エマさんと軽く会話してからアヒル君の待つ馬小屋へ来た。
『ガゥ......』
「どうしたんだ? 一緒に帰らないのか?」
『ガウガウ』
一向に馬小屋から出る素振りを見せないアヒル君を心配していると、急に尖った鼻先を俺の胸に押し付けてきた。
まるで普通の動物のように振る舞う姿に俺は笑っていると、意を決した目付きでアヒル君は歩き出した。
......俺とは反対の方向に。
「......自然に帰る気なのか?」
『ガウ』
「そうか......もっと一緒に居られると思ったんだけどな」
アヒル君は自分から俺の魔力供給を断ち切ると、徐々に徐々に、ワイバーンの体が崩れ始めた。
「来世では変な人に捕まるなよ?」
『ガァ!!』
「よし。行ってこい。ワイバーンらしく、空に跳びな」
俺は人通りの少ないタイミングを見計らってアヒル君に指示を出し、その力強い翼脚で助走を付けて駆け出したアヒル君は、空へ飛び立った。
「どうか......元気で」
夕空に散る空色の魔力の欠片は、1頭のワイバーンが作り出した、儚い一生を彩った。
◇ ◇ ◇
「ただいま」
「お兄ちゃんおかえり!」
「おかえりガイア。初めての冒険者はどうだった?」
「楽しかったよ。お金も稼いだから、家に入れるね」
家に帰る前に魔法で体を洗った俺は、サティに臭いと言われること無く椅子に座った。
「おう、おかえりガイア。怪我は無いか?」
「うん。父さん、ありがとうね。あの籠、役に立った」
「それは良かった。明日からも剣の稽古はつけるから、今日疲れたからって寝坊するなよ?」
「しないよ! 学園は寮生活なんでしょ? なら、1人で起きれなきゃダメじゃん!」
「ハッハッハ! まぁな。それを理解しているならいい。頑張れ頑張れ」
優しく頭を撫でてくれる父さんの手を受け入れ、諸々のやることを終わらせた俺はサティスと布団に入った。
もう、あと1年しかサティとは寝れないからな。寂しいよ。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
目を閉じてサティの頭を撫でていると、俺の顔の前までサティが転がってきた。
「何でもないよ。サティは大きくなったら、何になりたい?」
「お兄ちゃんのお嫁さん」
「絶対無理だから諦めな。他は?」
「う〜ん......無い!」
「無いか。まぁ、サティはサティのやりたいことをすればいい。頑張りたいことがあれば、それに向かって突き進むんだぞ?」
「ほぇ? うん!」
幼いサティスには理解が難しいだろうが、俺の妹である限り、この子には重い責任を背負わせることは無いだろう。
というか、あってはならないんだ。ただでさえ周りから何かを言われやすいサティスに、重圧をかけるような事をさせてはならない。そうなったら俺は、全力でサティスを助ける。
俺はミリアの次に、サティスを大事にしているからな。
「うん、良い子だ。お兄ちゃんはサティが大好きだからな」
「サティも! サティもお兄ちゃん、大好き!」
「それじゃ、おやすみ」
「うん! おやすみ」
サティにとって、今の俺の手は暖かいのかな。
1つの命を奪い、1つの命を地に還した。こんな俺の手を、暖かいと言ってくれるだろうか。
そんな思いを胸に、俺は深い眠りについた。




