第2話 新たな世界
「人間シミュレーション、お疲れ様でした」
俺の顔を覗き込む、正に天使とも言える白い髪をしたこの美少女は、俺の妹だ。
「......もしかして事故って死んだ?」
「はい。兄様は横から来るトラックに気付かず、そのまま撥ねられて死にました」
「不覚だ。あの時代の世界の技術、本当に車の音が小さいんだ。だからそれに気付けない高齢者も......ゲホッ!」
「大丈夫ですか!? 今飲み物を持ってきます」
「あぁ、ありがとう。頼むよイリス」
咳き込んだ俺はベッドの上で体を起こし、可愛い妹であるイリスの帰りを待った。
「ははっ......叔父さんの作る世界はどれも楽しかったな」
俺はさっきまで顔に着けていた物......創造世界の人間シミュレーションに必要な、魔法刻印の施された狐の面を手に取った。
これは叔父さんがくれた、俺の宝物だ。
昔から体が弱い俺が楽しんでもらえるようにと、叔父さんである、『創造神フラカン』が作ってくれた物だ。
俺はこの面を使い、叔父さんの......いや、沢山の創造神が創る世界の人間となり、様々な功績を残してきた。
「お待たせしました! どうぞ、兄様」
「ありがとう」
イリスの持ってきてくれたコップの水を飲むと、俺の体は淡い緑の光に包まれ、体が軽くなるのを感じた。
「にしても、兄様がたった17年で死ぬとは思いませんでした。数々の世界で1位を取った兄様が、初見でこの速度で死んじゃうなんて......」
水を全部飲み干した俺は、面に着けられた『地球』の文字が書かれた魔法陣を剥がし、机の上に置いた。
「HSLG......ヒューマンシミュレーションゲームとは、やはり難しいのでしょうか?」
「いやいや、今のは俺が下手なだけだった。ほら、イリスも覚えてるだろ? 叔父さんの最高傑作って言われてる、『レガリア』の世界」
「勿論です! 兄様の『魔王討伐RTA世界1位』『人間の最高年齢世界1位』『人類滅亡RTA世界1位』の記録がある世界ですよね!」
「そうそう。他にも3つくらいあるけどな」
妹よ。人類滅亡RTAに関しては、元1位だった破壊神が、その権能をレガリアに持ち込んだから無効になり、俺が繰り上がったものなんだぞ。
俺としては、破壊神の権能にも勝ちたかったんだ。
だってあの神とのタイム差......0.24秒だったんだぜ?
総試行回数31万5809回の中で、唯一塗り替えられなかった壁なんだ。
繰り上がりが許せないと思うのも、仕方ないだろう?
「じゃあ、ご飯を食べたらまた地球に入るかな。もう昼だろ?」
「はい。太陽神の方に怒られないよう、起こしに来たのが私の役目でしたから」
「ならタイミングが良かった。行こうか」
昼になると『飯を食え!』と怒鳴りに来る、お隣の太陽神が暴れ出す前に、俺はイリスと手を繋いで部屋を出た。
ちなみに今、イリスの手を離すと、イリスは寂しくて泣き出してしまうだろう。
ハッキリ言う。イリスはブラコンだ。お兄ちゃん大好きっ子だ。
「おぉ、イリス、ガイアもおはよう。今から呼びに行こうかと思ってたぞ」
「おはよう父さん」
「おはようございます、父様」
「座れ。今朝はフラカンが来ててな、食べ物とか色々貰ったから、それが昼ご飯だ」
父さんの言葉を聞いた瞬間、俺はビックリした。
何せ、叔父さんは滅多にウチに来ないからだ。叔父さんは生まれつき片足が無く、移動するのが面倒と言って家から出てこないんだ。
そんな叔父さんが外に出るとは......まさか新作発表か?
そう思っていると、リビングの扉がガチャっと開いた。
「ただいま〜。あ、みんな揃ってる〜! 先に食べちゃっていいよ?」
「おかえり母さん。今日も仕事だったの?」
「うん! ジャンジャン稼いできたよ〜」
俺達4人家族は、この神界では珍しい、人間と神の家族だ。
母さんが人間で、父さんが男神。俺は母さんに似て、かなり人間に近い体質なのに対し、妹のイリスはほぼ100パーセント神に近い体だ。
俺の体が弱いのは、ただの運動不足......だと父さんに言われた。だけど母さんは、『殆ど人間だからねぇ』と、悲しそうな目で言ってくれたことがある。
でも俺は、ゲームばかりしているから運動不足だと思う。というより、元々弱い体を更に痛めつけている気がする。
うん、俺ってバカだ。運動しないからこうなるんだぞ。
「そうだ、ガイア。フラカンからのプレゼントだ」
「え、本当に!?」
「あぁ。後でお礼を言っとけよ?」
「うん! 父さんもありがとう!」
俺は父さんからプレゼントの箱を受け取ると、中には『フェリクス』と名前の書かれた、1枚の魔法陣が入っていた。
これが新しい世界の名前なのだろう。
「フェリクス......」
「それはお前の為だけに創られた、特別な世界なんだとよ。感想は言わなくていいと言っていたが、次に会ったら伝えろよ?」
父よ。俺は生粋のゲーマーなんだぞ? 製作者への感謝の気持ちを伝えないなんて、そんな愚かなことはしないぞ。
「勿論。でも今回の魔法陣、少し特殊だよね。ほら、ここの文字、いつもは繋がっている文字なのに今回は繋がっていない」
「......そうなのか? まぁ、こだわりがあるんだろ」
「そりゃあ、叔父さんだもん。楽しみだなぁ」
「ハハッ、楽しめ楽しめ! イリスも楽しいと思ったことをやるんだぞ? そうして楽しみながら、色んな技術を磨くんだ」
「はい!」
そうして母さんの用意が終わり、叔父さんがくれた豪華な......本当に、高級品が多い料理を4人で食べた。
叔父さん、今じゃ神界で大人気の創造神だから、お金があるのかな。こんな豪華な昼ご飯、初めて食べたよ。
「それじゃあイリス。俺は新たな世界へと行ってくる」
「はい! 帰ってきたらフェリクスのこと、沢山教えてくださいね!」
「あぁ。行ってきます」
「行ってらっしゃい!」
俺は狐の面に魔法陣を貼り付けると、ベッドに横になり、意識を面に送った。
すると、普段は少し体が軽くなったのを感じる程度の魔力を消費するのだが、今回は違った。
「なに......こ......れ......」
俺は体内にある、ありとあらゆる力が面に吸われ、意識どころか、体までもが面に取り込まれた。
「うぅ......どこだここ。草原?」
目を覚ますと、俺は全裸の状態で草原に寝そべっていた。
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