第18話 新米冒険者、怒られる
レバニラ
「はい、登録完了です。これでガイアさんは、最下級冒険者の《原石》となります」
「ありがとうございます」
「これは個人的にお聞きしたいことなのですが......よくその年にも関わらず、親御さんが許可を出しましたね」
「あ〜......あはは」
冒険者ギルドにて、俺は諸々の書類を書いてもなっていると、チェックの終わった受付嬢さんが心配そうに聞いてきた。
受付嬢さんは、明るい赤髪に金色の瞳が綺麗な、モテそうな女性の方だ。
「私がガイアさんの親なら、まず許可しませんよ」
俺は別に、お金を稼ぐ為に冒険者になった訳でもないし、憧れの存在がいる訳でもない。それなのに、冒険者を目指そうとしたこと、そしてその許可を出した両親に、受付嬢さんは怒っている雰囲気を出した。
やはり、危険な仕事だからだろう。命を懸けて人の為に魔物と戦う......そんな職業だから。
「あはは......あ、そうだ。お名前教えてもらってもいいですか?」
「......死なないと約束するならいいですよ」
勉強が出来ない俺は文字が読めず、受付嬢さんの胸に付いている名札が分からないのだ。
絵本などで言語の知識は得たが、何分文字が少なすぎて覚えられない。学園入学までには覚えたいところだが、上手くいくかは分からない。
だから、人を頼る。これもまた、生きる上で大事なことだと判断したから。
「約束します。俺には好きな子が居るので、死んだらあの世で殺されるんです」
「あら、そうなんですね! それじゃあ教えましょう。私の名前は──」
「エマ? その書類書いたなら次に......あら、対応中だったのね。ごめんなさい」
受付嬢さんの後ろから来た、また別の受付嬢さんにより、目の前の人の名前が分かってしまった。
「......エマです」
「よろしくお願いします、エマさん。それじゃあ早速、1つ目の依頼を受けたいんですけど......」
「それでは薬草採取をオススメします。武器も持っていないガイアさんに出来るのは、これぐらいですので」
「じゃ、薬草採取で。注意点はありますか?」
「そうですね。ここから南にある森は、極々稀にシルバーベアーが出るので、見かけたら直ぐに逃げてください」
「あ、そういう事じゃなくて、採取する時の注意点です」
「......ちゃんと話は聞かないと、死にますよ?」
「......はい」
3人ぐらいなら刺し殺せそうな眼光で言うエマさんに俺は反論出来ず、30分ほど魔物の説明を受けた後、南にある森へとやって来た。
森の浅い所は俺と同じ、新米冒険者が多いので、比較的安全な採取場所と言われた。
「え〜っと? 緑の葉っぱに白い筋が入った草......これか」
エマさんに教えてもらった薬草を摘み、匂いを嗅いでみると、事前情報通りの甘い匂いがした。
「あとはこれを沢山探すだけだな」
父さんに『持ってけ』と言われて渡された、籠の外側に泥を塗り、乾燥させて焼いた防水の籠に薬草を入れた。
そして、籠の中を空色の魔力で満たした。
「エマさん知識その1。魔力に浸けた薬草は鮮度が長持ち」
薬草は中に含まれる魔力が作用して体に効く。
その効果は怪我だけに留まらず、病気や魔力欠乏症にも役立つそうな。
役立つ...... そうな。
「くだらね。というかさっさと摘んで帰るか」
《原石》の冒険者カードは作れたんだから、あとはチマチマと依頼をこなして父さんに修行をつけてもらい、入学までに強くならなければ。
いや、入学してからも強くなるけど。
──身体能力、強化
「お〜、この森は広いな!」
常人の数十倍の速度で森を駆けて奥へ走っていると、どんどんと人の気配が無くなり、精霊樹の森を連想させる、深い森へと景色を変えた。
昼間なのに辺りは暗く、不気味な雰囲気を漂わせている。
「薬草も大量にあるし、いいな!」
目に魔力を流して光の当たる角度を調節すると、少ない光でも明るく周囲が見渡せ、薬草採取に便利だ。
そして10分ほど草むしりに精を出していると、後ろからガサッと物音がした。
「誰だ?」
『グォォォォォオ!!!!』
大きな草の中から現れたのは、阿部くんのような綺麗な銀毛ではなく、薄汚れた灰色の毛を持つ、熊だった。
「やぁ、熊くん。元気?」
『グルゥゥゥゥ』
「そう唸り声を出さなくてもいいだろ?」
俺はそっと魔法を発動させ、シルバーベアーの動きを待った。
使う魔法は刈り氷。大樹も熊の首も関係なく刈れる、恐ろしい魔法だ。
『グォオオオオオオオ!!!!!!!!』
「来世では、俺と仲良くなれるといいな」
俺に襲いかかってきたシルバーベアーの首は、まるで元からそうだったように、綺麗に外れた。
「薬草採取、続行!」
危険を排除した俺は、薬草採取を続行した。
そして暫くして籠が満杯になると、複数の人間の足音が近付いてきた。
「間違いなくこの辺りに......え?」
シルバーベアーが現れた所と同じ草から出てきた3人の冒険者は、俺の顔と斬り落とされた熊の首を見て、綺麗にフリーズした。
「あの......これは君がやったの?」
「そうですね。採取の邪魔だったので」
「お前、ランクは?」
「ランク?......あぁ、冒険者の。これです」
男2人と女1人のパーティだと思われる冒険者達に、俺は冒険者カードを渡して見せた。
「シルバーベアーの討伐ランク......幾つだっけ」
「《鋼鉄級》だったはず」
「いや、《純銀級》じゃなかったか?」
そう言えばエマさんもランクについて語ってたな。
冒険者ランクはそれぞれ高い順に、
《幻級》・・・世界で3人しか居ない超人。
《白金級》・・・一国の騎士団長クラス。
《純金級》・・・常人の限界
《純銀級》・・・街の有名人となる
《鋼鉄級》・・・努力と才能が線引きされる
《鉄級》・・・死亡率トップ
《原石》・・・誰かと組むのが定石
と、こんな風に言っていた。
シルバーベアーがどのランクなのか知らないが、エマさんには『逃げろ』と言われていたのに戦ったことから、帰ったら怒られる未来が見える。
さて、どう口封じをするか。
「皆さんはどのランクなのですか?」
「俺達か? 俺達は全員《鋼鉄級》だぞ」
「そうなんですね! じゃあ、この熊と戦えたりするんですか?」
「勿論。このランクでも複数人集まれば《純銀級》と同等。というか、シルバーベアーを倒す為にここへ来たんだが......」
「じゃあこの死体、あげます。捌き方も何も知らないので。あと、俺がやったってギルドに報告しないでください。エマさんに怒られるので」
俺はリーダーらしき金髪の青年に熊の首を渡してその場を後にしようとすると、手を掴まれてしまった。
「いや、ちゃんと報告するべきだ」
「ダメです。エマさんに怒られます」
「怒られるのと君の力が評価されないのは別だ」
「うっ......でも」
反論しようとすると、青年は俺とを目を合わすように膝立ちになり、口を開いた。
「幼い君は怒られるのが怖いと感じるだろうが、それは相手が愛を持って接していることに気付いてないからだ。エマさんが君を怒るのは、君を心配してのことだろう?」
愛? 今日出会った人間に愛だと?
「よく考えてみてくれ。嘘をついて『戦ってません』と言うのと、『言いつけを破って戦いました。でも、勝ちました』と報告すること。どっちがエマさんを安心させられる?」
「......正直に言った方、かな」
「だろう? 俺達は君をギルドまで送る。だから、正直に言うんだ。もし怒られるとしても、俺達も一緒に怒られよう。『小さい命を守るのに遅れてごめんなさい』と、反省すべき点もあるからな」
「はい......」
優しい。こんなにも心が暖かい人がこの世に居るんだな。
でも......何か引っかかる。この人の優しさには、どこか浮いたものを感じる。何だ? 何がそうさせる?
「誰だ? お前。殺意が隠せてないぞ」
俺はリーダーの後ろに控えている、縦を持った男に対して告げた。
「は、はぁ? 殺意?」
「白々しいな。そこの女も魔法の詠唱準備に入っただろ。唯一リーダーの男は動いてないが......目が笑ってねぇ」
気味が悪い。俺が純粋な男の子だったらホイホイ着いて行くところだったぜ。
「あ〜あ、バレちゃった。君さぁ、勘が鋭いねぇ?」
「そりゃどうも。で? 殺る?」
「ん〜、別にいいや。死人が何を言おうと聞こえないし」
リーダーの男が指を鳴らすと、森の奥からおぞましい呻き声が聞こえた。
呻き声の主はどんどんと近くなり、ものの数秒で俺達の元へと、森の木を薙ぎ倒しながら現れた。
『ガァァァァァァアア!!!!!!』
「何コレ?」
「アンデッドワイバーン。魔王領からのお土産さ」
「あっそ」
醜い笑顔で腐った肉塊の魔物をけしかけてきた3人は、アンデッドワイバーンの戦闘範囲から逃げるようにして離れていった。
『ガァァァァァァァァァァァァァア!!!!!!!』
「やぁ、ワイバーン君。俺と一緒に、アイツらを倒さないか?」
敵をこちらの陣営に連れ込もうとするの、大好きです。




