表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/123

第17話 にゃんですと?

不定期更新を極めた柑橘類(お休み2日目)



「私の過去? 知りたいの?」


「知りたい。ミリアは俺の過去を知っているけど、俺はミリアの過去を知らないから。教えて欲しい」



 ベッドの縁に座るミリアの横に俺も腰掛け、殆ど変わらない目線で見つめあった。


 暫く考える素振りを見せたミリアだったが、直ぐに口を開き、言葉を紡いだ。



「そうね......私はね、王族だったの。精霊の」


「うん」


「王族として生まれた私は、今代の精霊女王が死んだら、次は私が女王になる番だった。けれど私は、女王になることを辞めて旅に出た」



 お婆ちゃんの言っていた金色の魔力の持ち主を聞いていたので、大体のことは察していた。

 恐らくミリアは精霊女王、または王女であり、その血筋が魔力を美しい金色にしているのだと。



「私、自由になりたかったの。精霊の女王って、各色の魔力を持つ精霊と繋がり、その管理とか成長、衰退のバランスを整える存在だから」


「成長と衰退?」


「そう。魔力はね、精霊の物なの。全ての魔力の源を辿れば、各色、各傾向の精霊に辿り着く」


「へぇ。じゃあ金色の魔力は、全ての魔力を支配するって感じなのか?」


「まぁ、概ねはその通り。魔力の動きを見て、精霊の力関係を一定に保たせるのが女王の仕事だから、支配で合っているわ」



 まるでゲームの環境調整だな。

 ユーザーにとって不利なバグを消し、また、有利に働きすぎる問題も調整する。精霊はこの世界に於いて、魔法の頂点とも言える存在なのだろう。



「でもね、ガイアの魔力には精霊が居ないわ」


「にゃんですと?」


「君、自由なのよ。何でも出来ちゃう。精霊による魔法の制限が無いから、それこそ転生や破滅の魔法ですら作れちゃう」



 この世界をゲームだと考えた時、俺の存在は最悪なバグとしか思えない。これは著しいゲームの破壊行為とみなされ、直ぐに消去されそうだ。



「......俺、消されない?」


「消されないし消せないわよ。ガイアが敵になれば、精霊なんて一瞬で死ぬわ。あと、ゼルキアも。魔王の魔力も精霊の管理下には無いもの」


「ゼルキア、お前もか」



 そう言えば転生の魔法を使う時、空色と金色、黒色の魔力がほぼ同じ力関係を持っていたな。


 アレはそういうことか?



「で、精霊の支配なんかに興味もなく、他の精霊にも出来ない完全な自由を求めた私は、意味も無く、ただ自由を求めて飛んでいた」



 そんな気持ちで逃げ出せる程、ミリアへの思いが弱いのか? 精霊は。

 ......いや、違うか。女王と同じ魔力を持つミリアに対し、敵対することが出来なかったと考えるべきか。


 下手をすれば自分が消されるかもしれないと、ミリアの確保を躊躇ったとすれば、色々と納得がいく。



「そして2万年ほど流浪の精霊として世界をさまよっていると、1日で森が出来る程の魔力を見たの。あれにはビックリしたわ。メキメキと草花が元気になり、中心に居る魔力を守ろうとするんだもの」


「それが......俺?」


「そうよ。君との出会いが、私の未来を変えたわ」



 精霊女王になることへの後悔は無く、綺麗な笑顔で俺を見るミリアは、何度でも俺の心を撃ち抜く。

 俺と出逢えてそこまで思ってくれたとは、感謝の気持ちが溢れてならない。



「君はね、私の全てを変えたわ。精霊が魔力の源という概念も、魔王と対立できる程の力を持つ人間が居ることも、そして......人間である()()と恋が出来ることも。全部初めての経験だったわ」



 嬉しい。ミリアの話を聞いていると、ただただ今の俺が幸せになっているんだと。更なる幸福へと向かっているんだと自覚させられる。


 でも次の瞬間、ミリアは表情を曇らせた。



「それでも私は、死んじゃった。最期の想いをガイアに伝えるしかないと、あの一瞬でそう思ったわ」


「ミリア......俺も同じだった。もう死ぬことを前提にして戦わないと、例え勝ったとしても、幸せな未来は歩めないと思ったよ」


「えぇ。ちゃんと届いていわよ? ガイアの声が」



 俺の体を支える手にミリアが手を触れた瞬間、ドキッと胸が弾む感覚と同時に、あの場でもし転生が出来ていなかった時のことを考え、戦慄する。


 運が良かった......としか言えない。



「ふふっ、怖い顔をしないで、ガイア。君には笑顔で居てくれないと、死んだ私が泣いちゃうわよ?」


「分かってるさ。でも、もしあの魔法が失敗していたら、俺達は今頃......むぐっ」



 ネガティブな思考に走る俺を、ミリアはその唇で止めてくれた。

 花の様な香りが脳をリラックスさせ、とても落ち着いた気分になった。



「今を楽しみましょう? ガイア。この体は80年もすれば朽ちてしまうのだから、今のうちから楽しまないと」


「......それもそうだな。じゃあ、ミリアの過去も知れたし、俺は満足だ」



 優しくミリアの頭を撫でてから、俺はベッドに仰向けに倒れた。



「そうそう、今のガイア、『僕』と『俺』を使う時があるわよね?」


「家族の前では『僕』だな」


「もう『俺』で統一した方がいいんじゃないかしら。その方が、ガイアの両親も、ガイアの成長を感じるんじゃない?」


「じゃあそうする。どうして変えたのか聞かれたら、この話をするとしよう」



 ミリアの宝石の様な目が細くのを見ていると、自然とその色へと目が惹き付けられる。まるで魔法のように、俺の視線を釘付けにしてくれる。


 俺はそ〜っとミリアに顔を近付け、お互いの唇が触れようとした瞬間──



「お2人さん、そろそろパーティが......邪魔してすまんの」



 素早いノック音と共に扉が開けられ、お爺ちゃんが入ってきた。



「い、イヤイヤイヤ爺ちゃん、何もしてないから!」


「え、えぇ。ガイアは私の髪に着いたゴミを取ろうとしただけですから」


「そうじゃったか?......まぁ、今夜はお祝いじゃ。主役がおらんと楽しめんからの。おいで」



 言い訳にしては上手く出来ているが、明らかにそんな雰囲気じゃなかったことを悟った爺ちゃんは、全てを理解して尚、知らないフリをしてくれた。



「う、うん。今行くよ。ほら、ミリア」


「えぇ。行きましょ」



 立ち上がった俺の手を取ったミリアを見た爺ちゃんは、これまた何かを納得したように頷き、食卓へと歩いて行った。


 もう、何でもいいから早く終わってくれ。恥ずかしすぎる!



「皆の衆、主役の登場じゃあ!!!」



 爺ちゃんの大きな声を合図に、俺の誕生日パーティが始まった。


 今日という日は、家族の皆と爺ちゃん達が祝ってくれたこと、そしてミリアと再会出来たことが重なり、忘れられない思い出となった。




「それじゃあ、私達は帰るわね」


「にゃんですと?」


「ここに来た本来の目的は、男爵領で不正が無いかのチェック。それが無いことも分かったし、帰らなきゃ」


「そうか......」




 9歳になった次の日。ミリアから告げられる別れに、俺は堪らない寂しさを抱いた。



「大丈夫。永遠の別れじゃないもの。1年だけよ」


「そう......だよな。それじゃあ、次に会うのは学園か」


「えぇ。それまで、他の女に浮気しちゃダメよ?」


「俺は浮気が出来る男じゃないからな。安心しろ」


「ふふっ、ならそうさせてもらうわ」



 馬車に乗った爺ちゃん達が待っているので、俺は最後にミリアを抱きしめた。

 この9年に感謝を込めて。これからの人生に願いを込めて。そして、ミリアの幸せを願って。



「行ってらっしゃい、ミリア」


「行ってきます、ガイア」



 誰も気付かないほどの一瞬の間に、ミリアが俺の頬にキスをした。

 笑顔でこちらに手を振り続けるミリアを見送り、俺は新たな目標を胸の内に立てた。



「強く......ならないと」



 もう誰にも幸せな生活を壊させない。もう二度と大切な人を奪われたくない。その為にも、俺はもっともっと、それこそ死を恐れない程の経験を積んで、強くなりたい。


 家族には怒られるかもしれないが、俺はやる。



「行っちゃったね、お兄ちゃん」


「あぁ」


「ふふっ、来年の入学が楽しみ?」


「楽しみだけど、やる事があるから」


「何をやるんだ? 勉強か?」


「ううん」



 この世界の、この国の、この領土にもある制度を使う。




「俺、冒険者になって強くなる」


面白かったらブックマーク・評価等よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ