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第16話 誕生日プレゼント



「ガイアよ。ちといいかの?」


「はい。ガルディア様」


「いや、爺ちゃんに敬語は辞めてくれんかの?」


「分かった、爺ちゃん。どうしたの?」


「なに、孫と話したいだけじゃ。そう身を固くするな」


「いや、まだ身は固まってないよ?」


「そういう意味じゃないわい。カッハッハ!」



 サティとミリアが話し合っているのを聞きながら体内の魔力を動かして遊んでいると、俺の爺ちゃん『ガルディア・アルスト』が話しかけてきた。


 ちなみに爺ちゃんの名前はミリアから聞いた。



「お前さんの過去はいい。ワシは今のお前さんと話したくてな」


「うん、勿論。過去は過去だし」


「じゃな。して、お前さん。アルスト家がカインに......お父さんに譲られるのは分かっておるな?」


「分かってるよ。あ......もしかして、その更に次の代が僕って話?」


「そうじゃよ。カインの事じゃ、今のワシが持つ領土について、よく悩んでおるはずだ。だからお前さんは、ちゃんと近くで見て、学べ」



 嫌だなぁ、貴族って。領地運営とか死ぬほどめんどくさいじゃん。俺の記憶にある国王になった時の激務と、公爵になった時の犯罪率の減らし方とか、地獄のような記憶があるからな。


 公爵の時の俺、犯罪者を片っ端から殺してた。怖いよ。



「でも、男爵ならそこまで領土は大きくないんじゃないの?」


「カッハッハ! 痛いとこを突くのぉ。ま、その通りじゃからあまり心配は要らないんじゃが、知っていて損は無いからの」


「そうだね。それなら爺ちゃんから学んだ方が、いっぱい学べる?」



 是非とも楽をしたいから、今のうちに大変な部分を洗い出し、他人に頼る時に伝える具体的な問題を知っておきたい。



「お、来るか? 時たま起きる殺人犯を殺すこともあるが、来るか?」


「こら! ガルディア!」


「冗談じゃよ......冗談じゃないけど」



 何? 爺ちゃん、もしかして昔の俺? 犯罪者を自分の手で殺してるの? シンプルに怖いよ?



「ごめんねガイア。お爺ちゃん、疲れてるのよ」


「ううん、お婆ちゃん。大丈夫だよ」


「そう? 優しいのねぇ! 許してあげて」



 お婆ちゃんの名前は『カトレア・アルスト』


 白というよりグレーな髪色をしているので、きっと地毛がこの色なんだろう。年寄りと言うには肌が若いので、相当に健康状態が良いと見える。


 素晴らしいな。サティスもきっと、お婆ちゃんに似て綺麗なままでいてくれるだろう。



「のぉガイア。お前さん、来年には王立学園に入学するんじゃったよな?」


「うん。お父さんがそう言ってくれて、入ろうかなって思う」


「あ、私も入るわよ。楽しみね」


「ミリアも!?......あ、ごめん。それで何?」



 危ない危ない。驚きと興奮のあまり、身体強化を使って一瞬でミリアの元に行くところだった。よく耐えた、俺。



「お前さん、魔法の理論と剣術は知っておるかの?」


「剣術はお父さんに教えて貰ってるけど、魔法は知らない」


「なら、今のうちに学んでおくと良い。カインは魔法の適性が無いせいで教えられんが、こっちの、お婆ちゃんなら教えられる。ワシとお婆ちゃんからのプレゼントは、魔法の“知識”じゃ」



 おい爺ちゃん。それ、日本の学生に『誕生日プレゼントは参考書よ。賢くなってね』って言ってるようなもんだぞ?

 

 多分8割、いや、9割の学生は怒り狂ることだろう。


 だが不幸中の幸いか、俺が教えて貰えるのは魔法だ。以前にミリアは『人間の魔法理論は知らない』と言っていたし、学ぶのも吝かではない。


 というか、学園に入ったら絶対学ぶか。



「私もそれ、聞いてもいいかしら?」


「サティも〜!」


「大丈夫ですよ。では、こちらへ」


「あら、敬語は要らないわ。私もガイアやサティと同じように接して欲しい」


「ほ、本当に?......じゃあ、いらっしゃい」



 やはりミリアも心配だったか。サティに関してはサティの今後に役立つだろうし、学んでおいて損は無い。


 それに.....こうしてミリアと一緒に何かをやるのは久しぶりだ。途中でチラチラと顔を見ちゃうけど、微笑んでくれるのが癒しだ。



「それじゃあまず、もう既に発表されている入学試験の流れについて説明するわね」


「え? 試験があるの?」


「そうよ。と言っても、何十年も前の話だから、違ってたらごめんね」



 そう言ってから婆ちゃんは、両手を出して目を瞑った。



「大地よ、我が魔力を糧に顕現せよ。《粘土生成(クレイクリエイト)》」


「「え?」」


「凄〜い! なんか出た〜!」



 呪文らしき何かを唱えた婆ちゃんの手の前から、粘土の黒板が作られた。

 家の中で土や粘土を出すとか、お母さんに怒られるよ? 婆ちゃん。


 そう思っていると、右隣に座るミリアが小声で話しかけてきた。



「私、魔法を使う度に何か言わないといけないの?」


「多分な。精霊の魔法が使える俺達がおかしいんだ。きっと」


「ガイアはそうかもしれないけど、私は元精霊よ? 使えて当たり前じゃない」


「今は人間だろうに。とりあえず合わせよう」


「分かったわ」



「そこ、聞いてます? 今私が言ったこと、一言一句間違えずに言いなさい」



「「あっ.....ごめんなさい」」



 話しすぎてしまった。せっかくの事前授業なのに、これは良くないな。



「いいですか? 魔力というのは、専用のアイテムが無いと見れません。魔法を極めた人は独自に取り出せますが、子どもの時はアイテムでしか見れません」


「「はい?」」


「そして、入試の初めに魔力の測定があります。水晶の様なアイテムに手を置くと、魔法の色、そして傾向が分かります」



 待て待て待てぇい!!! 俺とミリア、魔力を取り出せるんだが? というか俺、今も漏れ出ているんだが!?


 俺は生まれてから魔力制御を練習したお陰で、前世のより圧倒的に少ない量にまで漏れを抑えている。が、それでも、魔力は取り出せないとか、そんな事は無い。


 ......待てよ? 俺がサティの耳を魔法で塞いだ時、どうして誰も何も言わなかったんだ? もしかして、分かってて見逃してくれた?


 いや、違うな。ミリアの言葉にビクビクしていて、周りが見えていなかったのか。



「サティの魔力、何色かな〜?」


「何色がいいんだ?」


「ん〜、何色でもいい。でもお兄ちゃんと一緒がいい!」


「そっか〜。ところで婆ちゃんは何色なの?」


「お婆ちゃんは茶色で、傾向は《土》なの。だから、さっきみたいな魔法が得意なのよ」


「へ〜」



 俺の空色は水寄りの傾向だと、ミリアやゼルキアが言っていたし、やっぱり魔力の色が傾向を表すのかな?

 でも、ミリアやゼルキアの魔力の色と傾向の関連性が分からないし、ランダム......という名の素質なのか?



「おば様。金色の魔力というのはありますか?」


「あら、本で読んだのかしら?」


「えっ......はい。そうです」


「そうなの! 金色の魔力はね〜、むか〜し昔に存在した、精霊の女王様が持っていた魔力なの。世界で唯一、《自然》という傾向を持っているとされるわね」


「そう......なのですか。やっぱり」



 おやおや。思わぬところで思わぬ物を引いてしまったな。


 そう言えば俺、ミリアの過去について聞いていなかった。丁度いい機会だし、後で話してくれると信じよう。



「じゃあお婆ちゃん。黒色は?」


「それは魔王の魔力よ。一説には金色の魔力と同等の力を持っている、とする話もあるの」


「おぅふ......そ、そうなんだ」



 速報です。ここで空色の魔力は金色、及び黒色の魔力と同等の力があることが判明しました。繰り返します。空色の魔力は──



「おばあちゃんおばあちゃん、お兄ちゃん、魔法使えるよ?」


「えっ......本当に?」


「うん! サティに見せてくれたよ! お水のやつ!」



 こらサティーーーー!!!!!言っていいことと悪いことがあるだろうがぁぁぁぁぁあ!!!!!!


 ......落ち着け、落ち着くんだガイア。妹に怒ってはいけない。これはそう。過去、サティに魔法見せた俺が悪い。


 な〜に、大丈夫。ここで詠唱すればいいんだろ?



「見せてくれる? はい、コップ」


「う、うん」



 無慈悲なお婆ちゃんは俺の前にコップを置くと、キラキラした目で見てきた。

 隣に居るサティも同じ目をしているが、ミリアはだけは可哀想な人を見る目をしている。


 やめろよその目。泣くぞ?



「み、みじゅよ、我が魔力を糧に顕現しぇよ。《水生成(ウォータークリエイト)》」



 と、言うと同時に......



 ──水よ



 誰にも聞こえないぐらいの小声でイメージを固めると、コップにチョロチョロと水が注がれた。



「凄い凄い! お兄ちゃん凄い!!」


「本当に凄いわ! 魔法の才能があるわよ!」


「す、すご〜い」


「ありがとう......うん」



 机の下で俺の手を優しく握ってくれたミリアに、俺はまた恋に落ちてしまった。

 可愛いすぎるぜこの子。お嫁にください。



「お兄ちゃん、顔真っ赤〜!」


「き、気にするなサティ」


「いいえ。もしかしたら魔力を使い過ぎたのかもしれないわ。休みなさい」


「大丈夫だよお婆ちゃん。平気だから」


「ダメよ。魔法使いはね、魔力を使い過ぎると死んじゃうこともあるの。だからしっかり休みなさい」


「......はい」



 優しく諭す婆ちゃんの言葉に、俺は逆らえなかった。


 呆れた顔をしている今のミリアは何を思ってるんだろうか。

 俺は『湧き水の様に湧いてくるんだが? これ、消費しきれるのか?』と思っている。


 だって、魔力が切れた......いや、切れそうだと思ったのは勇者戦の時だけだ。あればっかりは俺の全てを使って戦ったからな。


 ミリアを守る為なら、魔力が尽きても良かったのに、俺は......俺は......



「大丈夫よ、ガイア。心配しないで」


「ミリア......うん」



 優しく微笑んでくれるミリアに手を引かれ、俺はサティスと共有している自分の部屋に連れて来てもらった。


 そして日本の時に比べると質が悪いが、森での生活で使ったベッドよりは格段に寝心地の良いベッドに寝転がると、ミリアがベッドに座った。


 ......あの時を思い出して、少し恥ずかしくなる。



「ふふっ、ガイアを襲う絶好の機会ね」


「それだけはやったらダメだ。確実に殺される」


「そうね。だから今は、これだけ......」



 ミリアは俺の方へ体を倒すと、唇を重ねた。



「いや、コレも十分危ないけどな?」


「今だけよ。心配しないで」


「心配だ。絶対にどこかでやらかす未来が見える」


「あら、ゼルキアがそう言ったのかしら?」


「あぁ。俺の中のゼルキアがそう言ってる」


「嘘つきのゼルキアね。全く......」



 楽しそうに、されど忌々しそうにゼルキアのことを考えるミリアもまた、再会を楽しみにしている。

 さて、そろそろあの質問をするとしよう。前世で語ってくれなかったことを、今世では語って欲しい。


 俺はもっと、ミリアのことを知りたい。




「なぁ。ミリアの過去を、教えてくれないか?」

すみません、次回の更新はかなり遅れます。

細かい理由はTwitterや活動報告の方に書きますが、端的に言えば『ネタの吸収をしたい』ということです。


お待たせすることになりますが、これからも楽しんでくださると嬉しいです。

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