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第15話 再会は突然に



「ガイア、明日の誕生日なんだが、急遽爺ちゃんが来ることになった。一応貴族だから、礼儀とか作法とか、その辺を教えてやる」



 いつもの打ち合い稽古の終わりに、父さんは少し疲れた顔でそう言った。


 きっと、父さんも貴族社会が肌に合わなかったのだろう。あの疲れた目は、レガリアの優秀な貴族と同じ目だ。



「お兄ちゃん、“れいぎ”ってなに?

「マナーのことだよ。例えば、僕達はお父さんやお母さんに向かって『お前』なんて言わないでしょ?」


「うん。怒られるよ? そんなこと言ったら」


「そう。これはお父さん達に対する、礼儀が足りないからだ。自分以外の人と話す時に使う、言っていいことと悪いことを勉強するんだ」



 最近、妹が色々な単語を俺に聞いてくるのが可愛い。

 ちょこちょこと後ろに着いてきては、『これな〜に?』と言ってくる姿に俺はもう......メロメロだ。


 あぁミリア。早く君に逢いたいよ。愛を捧げるミリアに、好きを捧げるサティの話をしたい。



「お兄ちゃん物知り〜!」


「それはな、お兄ちゃんも勉強したから知っているんだぞ。サティも俺みたいになりたかったら、いっぱい勉強していっぱい遊んで、いっぱい寝ることだ」


「うん!」



 すみませんサティスさん。俺、全然勉強してないっす。どれもこれもそれもあれも、31万回以上の人生が見せてくれた、地獄のような知識から引っ張り出しているんだ。


 でも、そんな俺でも苦手なことはある。


 それは政治と団体行動だ。この2つだけは、どの記憶でも失敗している。



「さぁ、お父さんの片付けが終わるまで、お兄ちゃんがある程度教えてあげよう。サティもお勉強だ」


「うん! お兄ちゃん教えて!」



 可愛い。来年にはこんな妹と離れ離れになると考えると、胸が痛いよ。


 そんな思いも束の間、俺達は目上の人に対する言葉遣いや行動のマナー、果ては貴族の常識についてなんかも教えてもらった。


 俺が興味を持ったのは、貴族の常識だ。


 この世界の貴族はなんと、奴隷を持っていることが多いそうだ。そんな奴隷に対する話し方など、様々なことを教えてもらった。


 奴隷という言葉を聞いた瞬間、俺の脳裏にはボロ雑巾の様に扱われる命の姿が浮かんだが、この世界の奴隷はただの犯罪者か身寄りのない人。


 

 例え犯罪者であっても、奴隷の人は不当な扱いを受けることはないし、そんなことをしようものならその人が厳罰に処される。そんな、優しい世界だ。


 そして翌日。


 俺達の住む小さな家の前を、大きな馬車がゴトゴトを音を鳴らなしてやって来た。



「やぁ、カイン。その子がワシの孫か?」


「そうだぞ親父。ガイアだ」



 馬車から降りてきた人物は3人。

 父さんより背が低い、白髪の優しい目をしたお爺さんと、グレーの髪を纏めたお婆さん。


 そして、藍色の煌びやかなドレスに身を包んだ、絹のような白い髪に深紅の目を持つ、美少女だ。



「ミ......リア?」


「え? ア、アミリア様!?」



 俺は爺ちゃんに挨拶をする前に呟くと、ボーッとしていた少女と目が合った。

 そして俺の顔を確認した瞬間、少女は涙を流してこちらに走ってきた。



「ガイア......ガイアなの!? ガイアよね!?」


「そうだよミリア。逢いたかった」


「私もよ! もう、どれだけ待ったと思ってるの!」



 ミリアの反応に驚く3人を余所に、俺とミリアはギューっと抱きしめ合った。

 9年ぶりの感覚だ。この匂いにこの感触。間違いなくミリアだ。



「ガ、ガイア!? どういう事だ!?」


「ワシも驚いたなぁ......まさか第3王女とそんな関係とは」


「ふふふっ、若いわねぇ」


「親父! そもそもどうしてアミリア様がここに居るんだよ!?」


「うるさいのぉ、カイン。話すからまずは家に入れろ」



 後ろで聞こえる3人の会話を聞きながらも、俺はミリアと抱き合い、涙を流していた。



「よかった......109年ぶり、なのかな」


「そう言えばそうね。もう、女の子を待たせるなんていけない男ね」


「仕方ないだろ? 赤ちゃんに生まれ変わったんだからさ。確認の為に聞くが、ミリアはどうだったんだ?」


「私も赤ちゃん。ずっと暇で暇で、ガイアのことを考えるか勉強するかだったわ」


「そっか......」



 ウチには簡単な絵本ぐらいしか無いので、これといった勉強は出来ないが、王族なら最高の先生も居るだろうからな。少し羨ましい。


 そう思っていると、ミリアは俺の頬を両手で挟んだ。



「本当はやっちゃいけないけど......」



 そんな言葉を残して、ミリアは俺の唇を奪った。

 これはマズいぞ。もし誰かに見られてしまえば、とんでもなく大きな問題になる。



「お兄......ちゃん?」



 ヤバい。ヤバいぞこれは。よりによってサティにこの現場を目撃されてしまった!!!

 ミリアも頬がピクピクとしているし、お互いに命の危機を感じるピンチだ!!!!!



「あ、あら。可愛い子ね。ガイアの妹? それとも阿部くん?」


「妹のサティスだよ。可愛い耳はたまたまだってさ」


「そうなの? てっきり阿部くんの転生者かと思ったわ」


「どうだろうな......サティ、おいで。習った挨拶をするんだ」



 よし、いいぞ。まるで何事も無かったかのように話すスルースキル。200年もの付き合いがあれば、息を合わせるのも容易だ。



「え、えと、サティス・アルストと申します」


「私はアミリア・デル・レガリアよ。ガイアの妻なの」


「妻って......何? お母さん?」


「そう。私はガイアと子ど「待て待て待て待て!」......ふふっ、イタズラが過ぎたかしら」



 急にぶっ込んでくるやん! 流石にこれは予想していなかった! 久しぶりの再会で、ミリアもテンションが上がったのかな? そうだよな?



「とりあえず家に入ろう。サティ、ドアを開けて」


「うん」


「可愛いわね。阿部くんみたい」


「言うな」



 小さな体で頑張る姿は、確かに阿部くんの影が見える気がするが、阿部くんは転生していない。


 ......欲を言うなら、一緒に生まれ変わりたかった。

 俺があの森で初めて出会った動物であり、俺達の人生を支えてくれた相棒でもある、阿部くんと。


 阿部くん。今頃何してるかな。美味しい果実でも食べてるのかな。

 

 どうか、幸せに。



「ただいま」


「おぉガイア! やはり父さんの勘ちガッ......」


「ガイア......嘘......でしょ......?」



 ミリアと手を繋いで帰って来ると、両親は『あぁマズい。やってしまった』と、悲壮感を漂わせながら聞いてきた。


 俺はミリアの手をクイッと上に上げると、そっと手を離した。



「こんにちは。アミリア・デル・レガリアと申します」


「はっ。カイン・アルストと申します。アミリア様に置かれましては、ご健勝そうで何よりです」


「レイア・アルストと申します。その、ガイアとの関係性をお聞きしたいのですが、宜しいでしょうか?」



 ガチガチに硬い敬語の挨拶だと思ったが、そう言えばアミリアは王女だったな。俺はミリアとして一緒に過ごした時間が長いせいで、つい軽く絡んでしまった。


 後で2人に怒られそうだな、俺。



「そうですね......運命の人、ですかね」


「プフッ!......あ痛っ! ごめんなさい」



 まさかの言葉に吹き出してしまうと、ミリアが俺の足を踏んずけた。それもグリグリと。


 お前の足はドリルか?



「失礼ながらお聞きしますが、真剣にお答えください。いつ、どこで、ガイアと知り合ったのですか? ガイアはまだ、王都には行っておりません。アミリア様とお話することも、ましてや恋仲になるなどとは信じられません」


「......ガイア。言った方がいいんじゃないかしら」


「え? まぁ、ミリアだけなら別に?」


「「「「ミリア!?」」」」


「それもそうね。でもガイアも1個前は話しなさい」


「本気で言ってるのか? 正気を疑うんだけど」


「そうしないと信じて貰えないけど、それでいいの? 結婚の約束、果たせないわよ?」


「「「「結婚!?!?」」」」


「なら言う。でも俺達、まだ9歳ぐらいだしなぁ」


「大丈夫よ。貴族はそれぐらいで婚約者を決める人も多いから」


「そうなのか。面白いなぁ。俺の知らない貴族だ」



 驚愕する4人。困惑する妹。孤立する2人。


 この異様な空間を作ってしまった原因の1人である俺は、今更ながら体裁を取り繕うようにアミリアを椅子に座らせた。



「これから話すことは口外禁止です」


「サティスは?」


「耳を塞がせて」


「了解」



 アミリアの言葉に冷静さを取り戻し、同時に何を言われるのかハラハラした様子の4人を前に、俺はサティスの耳に魔法の保護膜を使った。



「お兄ちゃん?」


「大丈夫だよ」


「え? なんて?」



 音が聞こえないことで不安になったサティを膝の上に乗せると、笑顔で俺に抱きついてきた。

 それを横目で見ていたミリアは不機嫌そうに頬を膨らませてから、スっと鋭い目付きで4人に言い放った。



「私とガイアは、前世からの恋人でした。何年も何十年も、永い時を共に過ごすと思っていたところ、2人揃って死に、約9年前に転生しました」



「失礼、ワシから宜しいかな?」


「どうぞ」


「前世とは、果たして何年前なのですかな? 分かるようでしたら知りたいのです」


「109年前のはずですが、詳しくはまだ分かりません。あの時、ガイアが使った魔法が合っているなら、109年前に私達は死にました」


「「「「109年......」」」」


「人と接してなかったから年が分からなかったもんで、もしかしたらもっと先かもしれないし、前かもしれないな」


「うん。でも同じタイミングってことは、あの魔法も成功しているわ」



 転生の魔法。あれは果たして、存在していい魔法なのだろうか。今の俺が大量の魔力とミリア、ゼルキアの魔力を合わせたとしても、もう一度使えるか......分からない。


 これは家族に育てられた倫理観のお陰だろうか。


 今世では、ちゃんと老衰で死に、俺という人間に終わりを迎えさせた方が良い気がする。



「前世は魔法使いだったの? ガイア」


「違うよ。僕はただ、森で暮らしているだけの男の子だったよ。言葉も今と違って、喋れなかったし」


「じゃあ、アミリア様とはどうやって喋ってたんだ?」


「ミリアは精霊だったから、そもそも言葉という概念が無かった。伝えるがままに伝え、聞くがままに聞いてた......よね?」


「そうね。特段、君の声は聞きやすかったけど」


「だそうです」



 嬉しい事を言ってくれる。でもそれって、俺の空色の魔力が原因なんじゃないか? 森が出来るほどの魔力なんだし、精霊に聞こえやすくても違和感は無いだろう。



「お兄ちゃん、怖いよぉ」


「ミリア、そろそろ終わりで」


「えぇ。詳しい話は夜にしましょう。とりあえず今は、レガリア王国第3王女のアミリア・デル・レガリアが遊びに来た、ということでよろしくお願いします」



 色々と聞きたいことがある顔をしながらも、4人は頷いてくれた。これはきっと、相手が王女だからではなく、この人達の心が優しいからだろう。


 そうして俺はサティに使った魔法を解き、涙目で顔をグリグリと擦り付けるサティを抱きしめてあげた。



「それじゃあ、これから何をしましょうか」


「土器でも作るか? 2人で作ってドキドキ! なんて......」



 あ、スベった。もう終わりだわ、俺。



「お兄ちゃん、何言ってるの?」


「ヴッ......」


「トドメ、刺されたわね」



 ガックリと脱力した俺は、今日が自分の誕生日であることを思い出した。

早い再開でしたね!



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