第13話 妹が可愛いって話
「ママ〜、お花にお水あげた〜!」
「あら、偉いわねガイア。ママ、助かるわぁ」
「ううん! ママ、赤ちゃんいるもん!」
「ふふっ、ありがとうガイア。きっと、可愛い妹よ」
「うん! たのしみ!」
2歳になったある日、母さんの妊娠が発覚した。
どうやらもう魔法で性別やら健康状態やらが分かるようで、元気な妹が産まれるとのこと。
いや〜、俺、妹なんて居たことが無いから、楽しみでならないぜ。
ということで俺は、妹と母さんを、そして母さんを想う父さんを想い、家族の為に小さなことを手伝っている。
例えば花の水やり。こちらは木製のジョウロに井戸水を汲んで入れるのだが、俺はズルをして魔法の水を使っている。
次に、部屋の掃除。これは母さんが趣味でやる編み物をしてる最中、お腹の大きな母さんには難しい、小さな糸くずを拾ってあげている。
これらは母さんが凄く喜ぶので、積極的に行っている。
「パパ!」
「お〜ガイア! 今日も来たのか?」
「うん! おイモさんに水やりする!」
「助かるなぁ。それじゃあ父さんと一緒にやるか!」
次に、父さんの稼ぎの種である、農場の手伝い。
これは小さいうちに筋肉を付けようと思って始めたのだが、あまりやりすぎると筋肉が骨の成長を阻害しそうなので、鍛えすぎない程度に手伝っている。
そこで考えたのが、これまた水やりだ。
そこそこ大きな畑に植えられたイモに水をあげるだけの簡単な作業。
ここでも俺はズルをして魔法の水を使っているが、まだバレていない。
でも、そろそろ見付かるはずなんだ。
だって俺が水をあげた植物って、どれも元気に育つんだ。
芋はまるっと大きく、美味しく育ち、花は全力でアピールをするように美しく咲く。そんな急激な変化に、あの2人が気付かない訳が無い。
「ガイア。今日はつまみ食いしちゃダメだぞ」
「う、うん! しないよ!」
「ホントか〜? もしつまみ食いしたら、父さんがガイアを、剣士に育てちゃうぞ〜?」
む? それは寧ろ、ご褒美なのでは!?
「え、剣士!? なりたい!」
「どうしてだ? 今どき剣士なんて、人気無いぞ?」
「だって剣だよ!? 勇者も持ってた!」
「あ〜、あの絵本の影響か。なるほど」
すまん父よ、実は勇者なんてどうでもいい。
別に勇者が嫌いって訳でもないが、好きでもない。
何かと因縁のある存在だが、今はもう終わった話。俺が剣士になりたいのは、俺の知るレガリアは剣の国だったから、というのが理由だ。
俺はあの世界で、剣だけを使って軍のトップになったことがある。本来賢く、強く在らねばならない存在が、ただの剣の力のみで成り上がったんだ。
まぁ、当然っちゃ当然だが、頭の悪い俺は兵士を上手く動かせず、翌年の戦争で死んだがな。
難しいんだよ、大人数を動かすってのは。ホントに。
「勇者なぁ......父さん、勇者が嫌いなんだよ」
「どうして?」
「この国の一夫一妻制度......って言っても分からないか。パパとママが1人ずつの家族を作ったのが、勇者だから」
おい勇者。テメェ素晴らしいことをしでかしてくれたな!! 俺はハーレムが大っ嫌いなんだよ! 1人の女も愛せない奴が、2人3人と相手を増やすことがよぉ!!!
お前はよくやった。よく一夫一妻制度を......ん? つまりはなんだ? あの時には既に、勇者は結婚していたのか?
「パパ。勇者って、どんな女の人と結婚したの?」
「もう結婚を知っているのか! それで勇者はなぁ......確か赤い髪の女と結婚したはずだ」
「赤い......髪?」
「そうだぞ〜。炎みたいな赤、だったはずだ」
待て、おかしい。あの戦いで赤い髪の人間なんて居なかったぞ?
......いや、勇者パーティに居なかったってだけか。
でもその時には既に、この国で一夫一妻制度を敷いたってことか? ゼルキアの討伐に行く前から、そんな権力を持っていたのか?
何か引っかかる。過去の文献などは無いのだろうか。
「よ〜し、水やりは終わりだな! ちゃんと手を洗って帰るんだぞ〜」
「うん! ママのお手伝いする!」
「あぁ。ママを助けてやってくれ」
◇ ◇ ◇
そんな感じで両親に愛を注がれ、愛を送り続けた俺に、1人の妹が誕生した。
名前はサティス。愛称はサティだ。
サティは綺麗な銀色の髪に、母さん似の青い目をしている。まだ魔力の色は分からないが、そんなのどうでもいいくらい可愛いことが特徴だ。
あと、1つだけ、サティは他の子と違った部分がある。
それは、熊の耳が生えている。
理由はもう分かっていて、父さんが昔に戦ったディザスターベアーの血が父さんの傷口に入り、僅かながら混じった事が原因だそうだ。
それがたまたま、サティで発現したらしい。
極めて珍しいことだと、周囲で話題になったのだが......そのせいでサティは、近所の子からイジメられている。
「お兄ちゃん、サティの耳、変なのかな......」
「変じゃないぞ。可愛くて立派な耳じゃないか」
「でも皆、変だって言うの」
俺、6歳。サティス、3歳。
自分が黒い髪に空色の目をした、前世と変わらない......強いて言うならイケメンになったことを知った俺は、今日もサティを迎えに行った。
サティはよく、外で遊ぶ子だ。木に登ったり、かけっこをしたり、体を動かすのが大好きな女の子だ。
それ故に近所の男の子ともよく遊ぶのだが......やはりサティの見た目は忌避されるらしく、毎度困った顔で俺と帰る。
全く、この子のどこが変なんだか。どこからどう見ても、超絶美少女じゃないか!
「お兄ちゃんは、サティ耳、好き?」
「あぁ、大好きだよ。人の言葉をよく聞ける、良い耳をしている。それに、モフモフしている」
俺はサティの右耳を触ってあげると、ピクピクと反応しながら可愛く脱力した。
「えへへ〜、サティもお兄ちゃん、好き〜!」
「サティは可愛い。これは全人類が認めるべきことだ」
ギューッと抱きつくサティを抱っこしてやると、意外にも重くて倒れそうになったが、筋肉に魔力を通して補強してやった。
そろそろ俺も、鍛え始めようか。
「ただいま。パパ、ママ」
「ただいま〜!」
「おう、おかえり。ガイア、サティ」
「おかえり。手、洗ってらっしゃい」
「「うん!」」
いや〜、幸せですなぁ、楽しいですなぁ。
毎日毎日食って遊んで寝て食って遊んで寝て......そしてその合間に魔力を操作して練習して、もう毎日が楽しくて仕方がない。
でもどうだろう。今日の父さん達、何か暗い雰囲気を纏っていたな。心配だ。
「サティ、ガイア。座ってちょうだい」
「「は〜い」」
母さんに言われて仲良く椅子に座ると、父さんと母さんは頷き合い、決意を固めて口を開いた。
「実はな、父さん......」
何だろうか。浮気でもしたのだろうか。
以前に一夫一妻制度を作った勇者が嫌いと言っていたし、浮気でもしてそれがバレ、大問題になったのだろうか。
「実はな、貴族になったんだ」
「ほぇ?」
「......本当に?」
「あぁ。まだ領地は貰えないが、貴族として席を置かせて貰えることになってな。2人はこれから、貴族達のパーティに招待されるかもしれない」
「パーティ!?」
「貴族の......パーティ......」
俺の脳裏に浮かぶのは、他者を蹴落とし合い、僻み合い、恨み合う地獄のような立食パーティーの光景だ。
嫌だ......もうアレはトラウマだ。想像もしたくない。
「ど、どうしてパパは貴族になれたの?」
「実は父さんの家系は元々貴族だったんだ。その三男として産まれたから、爵位も受け継ぐに値しないと思って家出したんだが......兄2人がやらかしてな」
「何をしたの?」
「女遊びが酷すぎた。一度に10人や20人を相手にするものだから、今の一夫一妻制度のレガリア王国では嫌われてな。追放された」
アホめ。これだからハーレムを築こうとする奴は。
そう言えばゼルキアもハーレムを築きたいと言っていたな。次会ったら忠告してあげよう。
「だからね、パパは仕方なく爵位を継承して、次代の男爵になることが決まったの」
「じゃ、じゃあ、苗字が出来るの?」
「そうだな。これからは『アルスト』の苗字が付くぞ」
アリストか。俺だったら、『ガイア・アルスト』。サティは『サティス・アルスト』......サティスだけカッコイイなぁオイ。
「サティス・アルスト......?」
「そうだよ。サティはそう名前を言わなきゃいけなくなるんだ」
「お兄ちゃんも、アルスト?」
「うん。ガイア・アルスト。そう言うの」
「カッコイイ!!」
ダメだ。我が妹が天使のように可愛い。
このオーラに当てられていると、変な自信が湧いてきてしまう。これはマズい。
タダでさえサティが気味悪がられるというのに、俺がサティにベタベタしすぎていると、これまた変に言われてしまう。
「えへへ〜、お兄ちゃんカッコイイ〜!」
もうシスコンでいいわ、俺。
サティが6歳くらいになるまでは、俺が面倒を見てあげよう。それからは少しずつ距離置き、立派なクマっ子レディとして頑張ってもらおう。
完璧だ。これであと3年はサティの耳をモフれる。
ん? 妹に手を出すのはヤバいって? だいじょぶだいじょぶ。耳にしか手を出してないから。それもモフるだけだから。
サティも気にしてないし、暫くモフモフ生活だ。
そうして次の日も、俺とサティは遊びと手伝いをして過ごした。




