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第120話 身軽な狐に


 俺達の結婚パーティから一週間が経ち、森での生活も穏やかになってきた頃。俺はこの一週間、悩みに悩んでいた事へ手を伸びした。


 ソファに座り、ラフラの味わいながら仲良く談笑している三人に向けて伝える。



「ちょっと街に行ってくる」


「デート? なら私も行くわ」


「残念ながらデートじゃない。暗殺者ギルドとやらにアヤメを襲わないようお話しするだけだ」


「だ、ダメ! 幾らガイアさんでも、あの人達──」



 アヤメが言い切る前にエメリアが手で口を塞いだ。

 流石と言うか何というか、理解され過ぎているのも考えものか。



「安心せい。お主が街に戻った際の安全を確保するだけじゃ。それに、ガイアが負けると思っておるなら、寧ろ失礼に値するぞ? あまり人外を舐めないことじゃ」


「あの〜、俺はまだ人外じゃ......ない......こともない?」



 まぁおかしいわな。体から魔力が溢れ出る人間は俺以外に居ないし、その魔力を用いて常軌を逸した身体強化を使う人間も居ない。


 ぐるりと俺の首に腕を回したミリアは、羽の様にふわふわしながら巻き付き、細い腕で俺の体を抱きしめた。



「行ってらっしゃい。帰ってきたら、のんびりしましょう? 久しぶりに二人で空でも見たいわ」


「分かった。ただ、このタイミングで言われると死亡フラグになるから気を付けてな。行ってきます」



 ミリアと口付けを交わし、家を出た。

 日向ぼっこをしている安倍くんをひとモフりすると、セナも影から飛び出してじゃれ合い始めた。


 ある程度満足したので安倍くんにラフラの実を分けてから街に向かう。



『ご主人様〜、お散歩〜?』


「そうだぞ。お前、最近食べてばっかりだからな。運動しないとデブ犬になると思ったんだ」


『んなっ!? そ、そんなぁ......太った?』



 乙女の如く落ち込みながら脱力するセナ。

 冗談......のつもりで言った訳じゃないが、最近は中々影から出て来ないからな。ちょっとぐらいモフらせろ。

 


「嘘だよ。それよりこっち来い。早く」



 森を抜けて草原に出て少し走り、王都と領地を結ぶ街道に出ると、俺はセナをギュッと抱きかかえた。

 尻尾をブンブン振って喜ぶセナに顔を埋め、この世界でも最高級のモフモフを体験したら頭に乗せる。



『ご主人様! もっと、もっと!』


「......王都に着くまでな」


『やった〜!』



 安倍くんのハリのあるモフモフも良いが、セナのような純度100パーセントのモフモフも良い。そして更に言うなら、アヤメのしっとりとした静寂を感じるモフモフも堪らないし、ミリアやエメリアの人間らしさが豊富なモフモフも大好きだ。


 ミリア達に限って言えば、モフモフすると途中からラブラブに変わるが。



「──よし、着いたな。さっさと話し合いに行こう」


『どこで〜?』


「無論、我が親友ゼルキアより聞き出した、暗殺者ギルド一覧表にある仲介屋の冒険者が居る所だ」



 冒険者は世のため人のために命を捧げる頭の狂った者が居れば、世も人も自分のためにあるべきと考える頭の狂った者も居る。

 今回は後者の冒険者が居る、小さな武器屋の裏路地に来た。


 狭く、暗い空間の奥に、目元以外を隠した筋骨隆々の男が地べたに座っていた。



「......子どもは路地に入るな。危ないぞ」


「忠告感謝しますが、残念ながら子どもじゃないのでね。それより黒犬のアジトを教えてくださいな。少し()()()()がしたくて」



 男の前にジャラジャラと金貨を袋から落とすと、訝しげな目で俺を見た後、後ろにある木製の箱から一枚の革を取り出した。



「一枚でいい。それと条件がある」


「“教える”とは言ってませんね。まずは貴方から話し合いが必要ですか?」



 軽く全身から魔力を出してやると、男は直ぐに両手で俺を制した。



「......分かった、教える。代金も金貨一枚だ。これでいいか?」


「えぇ、それで構いません。続きをどうぞ」


「コイツに書いてある場所だ。それと条件だが、自主的に殺すな」


「つまり正当防衛による死は問わない、と」



 なるほどなぁ。そういうことかぁ。

 正当防衛が許される、つまり『何故か相手から攻撃される』状況にあれば、反撃しても問題無い訳だ。


 しかし、やるにしても調査が要る。


 黒犬が罪も無い人物を襲うギルドならば容赦しないが、そうでないのなら話は別だ。入念に調べ上げてから行動しないとな。



「どうも。それでは、黒犬の末端さん」



 俺は男から革に描かれた地図を受け取ると、金貨と共に言葉を残した。そして男が何かを発する前に路地裏を出て街に入る。



『ご主人様〜、アイツ、悪い人〜?』


「ではないな。悪い人の集団に所属する、悪い事に耐えられない人だろう。俺と最初に目を合わせた時も忠告してたし、きっと本心では人を思う心は生きているはずだ」



 頭の上で立ち上がったセナに答え、地図を開く。

 そして歩みを進めた瞬間に脱力したセナは、再度だらりと力を抜いた。

 全く、グータラしているワンコだこと。

 まぁ、可愛いから許そうじゃないか。




 そう思いながら歩く、俺だった。




「お、あったあった。ここがアジトみたいだな」


『なんか嫌な感じ〜』


「良い事をしてる雰囲気ではないな」



 地図に描かれていた黒い犬のマーク地点に行くと、王都でも一際静かな住宅街にある、普通の一軒家に着いた。

 しかし、放つ雰囲気は生活感を感じさせず、ドス黒い感情が渦巻くような重い空気だ。



「という訳でセナ、行ってこい」


『え!? セナが?』


「影に潜れるお前なら、安全に中を調査出来る。俺はもう気付かれてるだろうし、頼んだぞ。会話の内容は逐一影から教えてくれ」


『え〜? んも〜、ご褒美いっぱいだよ〜?』


「分かった。頑張ってこい」



 褒美のお肉はどこで買おうかと考えながらセナを見送る。薄く伸びた影に小さな狼の耳が生えているのはご愛嬌だな。


 そして報告を聞きながら待機すること30分。

 遂にアヤメに関する情報が聞き出せた。



『おい、あの黒い狐はどうなった?』


『あぇ〜? 黒い狐ぇ?......あ〜、まだ帰ってないんだよな〜』


『どうして尾行していないんだ?』


『そいつぁ知らん。俺ぁ放任主義だ。下が何しようが、失敗しなければそれでいいんだよぉ』



 酒でも飲んでいるのだろうか。返事をした男の語尾の上がり方や、自分さえ良ければいいという思考が丸見えだ。


 それにしてもセナ、演技が上手いな。可愛い声の癖して、相手の特徴が伝わるように発声している。



「セナ、もう少しだけ頼む。ご褒美追加だ」


『ホントに!? 分かった〜! 頑張るね!』



 尻尾を振って、可愛いヤツめ。

 後は無罪の人間の暗殺をしている言質を取れれば、話し合いをしに行ける。そうすれば俺の周りに居る人は幸せになれる......はずだ。



 そしてセナに張り込みを頼んでから5時間。



 俺がおやつ代わりにと、大量に購入した串焼きを頬張った瞬間、その報告は来た。



『そういや貴族のガキが出した女は殺ったのか?』


『あぁ、農家の娘か。当たり前だろ。細かくして農場に撒いてやったぞ。あのガキも娘も可哀想だよなぁ? 娘は婚約を断ったから殺されて、ガキはその娘が埋められた物を食うんだからよォ!』


『ハッハッハ! 滑稽だなぁ! これだから貴族ってのは面白ぇんだ! あと1週間は笑えるぜ!』



 ようやく吐いてくれたか。待ちくたびれたぞ。

 昼間っから酒を飲んでいるお陰ですぐに出る情報だと思っていたが、まさかここまで時間がかかるとは。


 とにかく、これで突入......もといお邪魔する準備が整った。


 影からセナを呼び出し、最初のご褒美であるスーパー撫で撫でタイムを実行した。

 そして一頻りモフり終わると、扉の前で足を上げた。



「おっ邪魔っしま〜っす!」



 バゴンッ! 


 轟音と共に蹴破った。

 出入り口周辺に木片が飛び散り、続いて踏み込んだ衝撃で粉々になる。

 音を聞き付けてギルドの人間が駆け付けるが、俺を見た瞬間に緊張感を解いた。


 あ〜あ、バカな奴。



「お前、ここがどこだか分かってんのか?」


「勿論です。無罪の人間を殺して金を稼ぐゴミの集団でしょう? それとも、暗殺なんて国の内部だけで十分だと理解出来ないバカの集まりですかね? あぁ失礼。貴方に向けて言ったのではありません。()()()に向けて言ったのです」



 刹那、服に隠したナイフを投げる男だったが、俺は防ぎもしなければ避けもしない。この程度のナイフであれば、毒が塗られていようと効かないからな。


 俺の腕に刺さる直前に魔力で包んでやれば、サクッと綺麗に刃が肉を貫く。



「攻撃......されちゃったねぇ? 反撃しよっかな〜」



 なんて言いながら、既に俺の剣は男の右脚を真っ二つに切り分けている。恐ろしいことにこの剣、人間程度なら斬った感触すらない。


 ゼルキアはなんて物を贈ってくれたのだろう。

 感謝してもしきれないじゃないか。



「ぐぁぁぁぁぁぁあ!!!!」


「早く来いよ、犬っころ共。キャンキャン吠えてないで暗器を構えろ」



 そうそう、冷や汗を流しながら逆手にナイフを持つその感情! 怖いよなぁ? 子ども相手に自称プロの暗殺者が手も足も出ないってのは。


 話し合い? 男は剣で語り合える。

 言葉による話し合いと違う点はただ1つ。



「俺は聞く耳を持っていない。悪いが俺の手の届く範囲内じゃないと、助けることも出来ないんでな」



 そうして、たった十数分で暗殺者ギルド『黒犬』が壊滅した。ギルドメンバーは全員が再起不能レベルの怪我を負い、生きていくのが精一杯と言ったところだろう。


 ......償いにしては、甘すぎたかな。

 一抹の甘さを捨てた俺は、傷口だけを塞いで森に帰った。

何やらなろうの後書きにテンプレが設定出来るようになったみたいですね。役に立つ機能を実装してくださる運営様には感謝です。(はぁと)


さて、あと2話で最終回です。頑張るぞ〜!

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