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第113話 野郎二人旅

新しいゲーム.....時間溶けりゅ.........


 妖精の発見から更に一週間。遂に家が完成した。

 木材と蔦しか使っていないのにも関わらず、本来有り得ない耐荷重になっているのは魔法のお陰だ。


 そうして三人(と安倍くん)で暮らす場所が出来た俺達は、次の目標である結婚パーティー......には準備せず、せっせこ木を集めている。



「インテリアの存在を完全に忘れていたな」


「ベッドはあるのだけれど、他はね。食器も作らないとだし、その食器を置く棚も必要なのよね」



 ミリアと話しながら切り出し作業をしていると、エメリアが俺達の鎖を壊す発言をした。



「もう街で買った方が早いのに、何故お主らは手作りにこだわるのじゃ......」


「「......あっ」」


「うわぁ、街の存在を忘れていた奴の反応じゃ。この世界に自分達しか居ないと、本気で思い込んでいた奴の反応じゃ〜」



 盲点だった。この世界に来てから、はや三百余年。

 街に出たのは最近の事だが、重要視していない俺の頭からは完全に抜け落ちていた。


 隣で同じように顔を覆うミリアも、きっと同じだ。



「恥ずかしいわね。ちょっと抱きしめてくれない?」


「仰せのままに」


「コラ〜! す〜ぐイチャつきおって! 余も混ぜんかぁぁ!!!!」



 そんなこんなでいつもと変わらない日常を送っていると、コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。



「名を名乗れ」


「ゼルキアちゃんですっ☆ きゃぴっ」


「.....................」


「ごめん」



 コイツも変わらねぇな。イカれてやがるぜ。

 新築の我が家にゼルキアを招き入れると、部屋やリビング予定の空間を見た後に、静かに『家具買おうよ』と呟いていた。


 そして引越し祝いの如く、ある物を受け取った。


 三人それぞれ違う箱に入っているが、俺の物は分かりやすい。縦に1メートル程長いからな。



「まずガイアから。それはドラゴンの牙で作られた剣だ。丈夫で鋭く、手入れも簡単な凄い剣だね。その市場価格、なんと金貨2千枚!!」



 箱を開けてまず目に入るのは、乳白色の剣だ。

 圧倒的な存在感を放つ刀身に、持ってきたゼルキアでさえも目が惹かれている。



「へぇ〜。ありがとう。有難く使わせてもらう」


「反応薄くない? 2千枚だよ? 小さな国なら買えちゃう値段だよ? 僕が払えた事とか興味無い?」


「お前なら牙を持参して鍛冶屋に依頼。鍛冶屋も初めて扱うから勉強してくれたんだろ?」


「............はい」



 そんな、主人に置いてかれた犬みたいな顔をするな。

 反応が薄いのは心当たりという名の正夢を見たからであって、そこまで深く考えられない俺が悪かった。



「感謝してるよ。色々と問題もあっただろうに......ありがとう」


「まぁね。でも結構苦労したんだ。力が思うように出ないから、1時間くらい殴り合いしてたよ。その点、君の拳が羨ましい」


「こちとら軍事利用されない為にも国とは距離置いてるからなぁ。それより二人へのプレゼントは?」



 俺の言葉で思い出したように二人が箱を開けると、ミリアの箱には謎の瓶が一つ、エメリアの方はタオルや石鹸など、お風呂関係の物が大量に入っていた。


 あの箱、影食みの様な空間拡張効果があるのか?

 明らかにエメリアの持っている箱より大きな物が入っていたぞ。



「ミリアの瓶はまぁ......こっそりガイアに盛れば分かるよ。エメリアに渡したのはお風呂セットだね。普段水浴びだけの生活じゃ物足りなくなると思って」



 ちょっと待て。俺に何を盛らせようとしてるんだ?



「ありがとう。大切に使わせてもらうわね」


「感謝するのじゃ。寮では風呂が当たり前になっとるからの。配慮痛み入る」


「いいのいいの! 子どもが出来たら必要になる物だし、ね?」


「ね? じゃねーよ! お前俺に何盛る気なんだ!」



 怖い。毒薬ではないだろうが、怪しすぎる。

 わざわざゼルキアがミリアに贈る物で、俺に対して使うもの? もしかして......夜関係か?



「まぁまぁ。それよりガイア、僕と冒険しに行かないか? ちょっと遠くまで」



 話の切り替えが早い奴だな。

 俺は二人に眉を上げて伺うと、頷いて応えた。



「遠くって、どこまで?」


「ティモー帝国さ。火山が多いあの国なら、金属や宝石類がよく採れる。この二つがあれば......もう分かるね?」


「......なるほど」


「そういうこ「全く分からん」......えぇぇ!?」



 金属と宝石。換金するぐらいしか分からんぞ。



「指輪だよ指輪! 婚約指輪! 二人に必要だろ?」


「「「あ〜」」」


「なんだコイツら......」



 忘れていた、というより思い出せなかったな。

 確かに結婚パーティーを開く予定をしていたのに、指輪が無くては締まらない。

 


「それじゃあ行きますか。新しい剣の斬れ味も試したいしな。ミリア、エミィ。留守番頼んだ」


「行ってらっしゃい。楽しんできてね」


「女を引っ掛けたらダメじゃからな?」


「両手に花を持っているのに、どうやって持つんだよ」



 二人を同時に抱きしめ、キスをしてから新居を出た。

 エメリアに乗せてもらって森を出ても良かったが、せっかくの野郎二人旅ということもあり、徒歩で冒険だ。






 森を出たら街道を無視して東に一直線。

 身体強化を使える俺達が走れば、馬車より速く、そして自由に移動出来る。


 そして6時間も走っていると、湿度の高い森に入った。

 もう日も沈みかけており、キャンプをしようという判断になった。



「後どれくらいだ?」


「ん〜......朝から出れば、昼前には着くかな」


「結構近いんだな。日帰り旅行にも行けそうだ」


「......僕達が異様、いや、異常に速いってことに気付いてない顔をしてる......!」



 素直な感想を述べれば、カマキリの尻からハリガネムシが出てくる姿を目撃したような顔をされた。

 俺達が速いことを前提に行動しているのだから、日帰り旅行にもと思ったのに、ゼルキアってばまだ一般人の物差しを持っているらしい。


 俺? 俺は勇者に殺されてから物差しは捨てたぞ。



「あぁ、そうだ。気になってたんだが、どうして俺は勇者と戦った時に記憶を取り戻したんだろうな」


「そんなことも言ってたね。走馬燈みたいに思い出したんじゃない?」


「そう......だよなぁ。フッと思い出したからなぁ」



 俺の感覚では、走馬灯と言うよりただ『思い出した』に近いんだ。例え勇者との戦闘を交えなくても、いつか思い出す記憶だと。


 記憶が後ろから追ってきた......違うな。

 もっと昔から俺に向けて投石器で打ち上げられた記憶が、たまたまあのタイミングでぶつかった。そう例えた方がしっくりくる。



 パチパチと火の粉が散る焚き火を眺めて思案した。



「そろそろ寝ようか。僕の魔法で警戒してるから、見張りの必要は無いよ」


「それは有難い。流石っすゼルキアさん」


「いや〜、それ程でも〜!」



 わざとらしく頭を搔くゼルキアに小さく笑った俺は、影から旧ベッドを取り出した。今のベッドになる前の、草を敷いた木材の床とも言えるブツだ。



「え? ズルくない? 何その四次元ポケット」


「魔族の王が魔物の技術を知らないとはこれ如何に」


「いやそんなの知らないって! どうやったの!?」


「えぇ? ......ったく、これはなぁ」




 そうして数時間、休み無しに影食みを教え込んだ。

 気が付いた頃には月が真上から光を反射し、ゼルキアは息も絶え絶えといった様子で寝転がっていた。


 最初はキツい。何だってそうだ。

 初めから上手くいく奴なんて後から抜かされるんだ。

 ずっとずっと、地道に経験を積み、悶え苦しみながら積み上げ続けたその先に結果が出る。



「毎日やるんだ。腕がもげても内蔵が落ちても絶対に辞めない。そうして鍛錬を積んだ結果がこの影食みだ」


「ハァ、ハァ......どれだけ、練習した?」


「一年半。寝ている時も無意識に練習した」



 俺には才能と呼べる物が無い。

 天才のように最初から上手く出来ることも無いし、向いていない者程下手な訳でも無い。


 平均。真ん中。器用貧乏。


 マイナスじゃないからこそ、俺は積み上げるだけでプラスになった。0を1に変えられたのなら、後は死に物狂いで1を10に、100へと積み上げるだけ。


 記憶の中に居る俺もそうだ。

 遡れば遡る程、弱く、脆く、拙い。

 それでも何年、何十年、何百何千と時を重ねた結果、俺は魔王を一秒にも満たない速度で倒していた。


 たった一瞬の為に莫大な時間を捧げる。

 結果と過程を秤にかけなかったから、俺は成した。



「今の俺に適した技術なんだ。自分で出来るラインを用意するんだぞ。んじゃ、おやすみ」



 焚き火に枝をぶち込んだ俺は、ペシャンコになった草に体を預けた。




◇ ◇ ◇




 明朝。夏の終わり、ひと握りの蒸し暑さに数滴の汗を流して走った俺達は、特に何も起きずに帝国へと入った。


 夢で見た帝国より何倍も赤く、美しく見える街並みに目を輝かせていると、ゼルキアがオススメ観光スポットを順に案内してくれた。



「──それでここが、国内最大にして最高級の温泉宿。部屋の浴室にも温泉が引かれているから、どの部屋をとっても一定のクオリティを保っているよ」


「でも、お高いんでしょう?」


「そこが今ならなんと! たった銀貨三枚で一泊出来るのです! お得ですよー?」



 ナニィ!? 銀貨三枚だとォ!?!?



「単純に高いな。日本円にして3万円か」


「食事もマッサージもタオルも付いてくるよ?」


「それなら安いな。王国とは物価も違うし」


「うんうん。それにね、僕の言う『高級』は、別に高いからそう呼んだんじゃないよ? この宿が一番品質の高い宿だからそう呼んだんだ」



 大きな赤い旅館を見上げながら話しいると、玄関からガラガラガラ! と大きな音を立てて扉が開けられた。

 轟音の張本人である女将さんが出て来ると、ゼルキアと俺の顔を注視した。


 煌めく黄金の髪を短く纏め上げ、帝国のイメージカラーでもある赤の瞳を輝かせた二十代であろう女性は、ひとしきり俺達を見た後にゼルキアの手を取った。



「今お話されていたのは貴方ですか?」


「はい。親友にこの宿をオススメしたくて」


「......っ! ありがとうございます! 貴方のお声は私の耳にも聞こえておりました! サービスに対する値段ではなく、その品質を評価して下さった言葉!! 一言一句聞き逃しませんでした!」


「は、はぁ」



 わー、ゼルキアが女に抱きつかれてるー。

 婚約者さーん。ここでーす。望んでハーレムを作ろうとして失敗した男はここですよー。



「是非! 是非是非! 今日はウチに泊まって行きませんか!? お連れ様!」



 やべ、標的が俺に移った。動かれる前に仕留めねば。



「ここまで熱弁されて断る男でもないので、有難く。鉱山に行く予定でしたし、きっと今日は疲れて帰ってきます。ですので、温泉、楽しみにしてますね」


「はい! 帝国最高級のサービスでおもてなししますね!」



 そう言ってお姉さんは戻ると、ゼルキアはポケーっと突っ立っていた。



「凄い......良い匂い......」


「ハーレムは諦めてなかったのか?」


「全然? これっぽっちも諦めていませんケド!? 王女殿下には許可取ってるし? 相手さえ良ければ超ウェルカムtoハーレムですが!?」



 うわぁ。現状で妻が二人居る俺からしてもドン引きするぞ。ここまで欲望に満ちた人間の目って汚いんだな。

 俺も何かの拍子にこんな目にならないよう、気を付けよう。



 そう固く胸に近い、俺達はチェックインを済ませた。


次回! 『寝起きドッキリLv.99』お楽しみに!

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