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第112話 精霊樹、蔓延る

保存のし忘れで消えた時が、1番“生”を実感するゥ!


「暑い......暑い暑い、暑い! 俺、夏が嫌いだ!」



 大量に並べられた木材の上で、俺は叫んだ。

 一寸の隙間も無く敷き詰めた木材には、防腐・防水・強化の魔法がかけられており、ささくれも無いこの床は裸で寝ても痛くない。


 ただ一つ......太陽光を除いて。



「魔法をケチるから暑いのよ。ほら、休むわよ」


「俺、決めたんだ......この木材全てに口調の魔法をかけるって」


「バカなこと言わないの。私が過ごしやすいように管理するから、全部一人でやろうと考えはやめて」



 ミリアに引き摺られながら怒られた。

 どうしても自分がやらなければいけないと思い込むのは俺の悪い癖だ。分かっている。


 まだ心の奥では甘えることに抵抗があるんだろうな。

 自分を客観視すればするほど、破滅に向かって走っている気がする。



「水浴びしてきなさい。ご飯は私が作るから、今はちゃんと休むこと。いい?」


「は〜い。あ、毒はもうやめてくれよ?」


「......トラウマ、抉られた」


「ごめんごめん! 冗談が過ぎた。すみません」


「ふふっ、いいのよ。私も学んだから」



 あの時は驚いたなぁ。森の実りでパッチテストを怠ることが死に繋がるのだと、俺もミリアも学べたから良かったが。


 今では薬草も群生しているし、毒を食らっても大丈夫なんだけどな。



「むぅ。気付いたら夫婦喧嘩をして、いつの間にか仲直りしてイチャつきおって......余も混ぜろ」



 お、エメリアと安倍くんが来た。

 安倍くんはいつもと同じのんびりとした表情で、エメリアは出遅れ感満載と言ったところか。



「ふふん♪ 貴女は常に一歩引いているから出遅れるのよ? 軽口でも叩けるようになれば、自然と楽しく近付けるわ」


「そう言うけどさ、昔のミリアは毒舌だったけどな。今はかなりマイルドになっているが」


「だって私の癖で貴方と喧嘩して、エメリアが本妻だと言われたら堪らないもの。一番を維持する為に私は変わったわ」


「そうか? 何があっても俺の中ではミリアが一番だけどな」



 糸を大量に吐き出す虫から頂いた布で体を擦っていると、頬を紅潮させたミリアの微笑みとマネキンの如く死んだ顔のエメリアが視界に入った。


 無意識とはいえ、エメリアには悪いことをしたな。



「エミィ、おいで。一緒に水浴びす──」


「......! とうっ!」



 言い切る前に俺の元へ飛び込んで来た。

 幾ら体が強いからと怪我をされるのは嫌なので、お姫様抱っこの構えで受け止めた。



「飛び込むな。危ないだろ?」


「ガイアなら受け止めてくれるじゃろ?」


「当たり前だろ。それより......脱げ。中心の深い所まで泳ぐぞ」



 遊ぶ気満々の俺はエメリアをそっと降ろすと、準備運動を始めた。

 すると『脱げ』という言葉に僅かな反応を示したエメリアが、すぐに俺と同じ、全力で遊ぶ子どもの目に変わった。



「......なるほどな。教わった泳ぎを見せろということか」


「それじゃあ私は料理してるから、気を付けるのよ」



「「は〜い!」」



 最早お母さんポジションに立っていると言っても過言ではないミリアに返事をし、俺たちは泉の中心へ向かって泳いだ。


 リヴァイアサンと戦う前に俺が教えた泳ぎは、学園でも練習したのか、かなり綺麗になっていた。




◇ ◇ ◇




 家造りから一週間が経つと、枠組みと床が完成し、後は壁張りと天井作り、そして家全体を強化する魔法をかけるだけ、という具合に進行した。


 朝から働き詰めだった俺達三人は、ヒンヤリとした床に寝そべっている。



「ハロハロ〜、三人とも元気か〜い?」


「......ゼルキアか。見ての通り重労働でヘトヘトだ」


「う〜ん、死屍累々☆ ちょっと話があるんだけどさ、時間いいかな?」


「はいはい。安倍く〜ん、二人が寝たらベッドまで運んどいて〜」



 安倍くんはプニプニの肉球を振って応えると、俺は小屋から椅子と机を持って外に置いた。

 いつもの青空会議だ。



「で? 妙に綺麗な服を着た、これからデートの予定でも入ってるかのようなゼルキア先輩の要件は?」


「当たってるけどその言い方やめて! 何か恥ずかしくなるからさぁ!」



 おかしいなぁ。感じたままを言ったんだが。



「はぁ。それでね、王都で『水色の彗星』の噂が物凄い勢いで広まってる事は知ってる? 知らないよね」


「まぁ知らんな」


「単刀直入に聞くけど、君が当人かい?」


「そうだ」


「......ッスよねぇ」



 アレだな。ツバキさんを追いかけた時に、空中を蹴って移動した時に見えたんだろうな。



「君が魔力の残滓を出すって、何があったんだ?」


「ツバキさんがココ(精霊樹の森)に攻めて来てたから、追いかけたんだ。当時王城に居た俺は、国王との謁見を抜け出して庭から飛んだ。以上」


「オーマイガー。アーユークレイジーボーイ?」


「イェス。アイムクレイジーボーイ」



 仕方が無かった。どうでもいい街でのイベントより、精霊樹の森を俺は優先するのだから。

 ここは俺の家だ。俺の魔力で育った木と、愛する人達と暮らす癒しの空間だ。誰にも邪魔させない。



「う〜ん......あんまり暴れすぎないでね。新しい宗教が生まれそうだからさ」


「彗星教......的な?」


「そう。僕やミリア達にとっては『あぁ、ガイアがやったんだな』って思うけど、一般人は神の御業と勘違いする。そうして新たな宗教が生まれると......」


「要らない争いを生む、と」



 タイミングの問題もあったが、いずれは起きた事だ。

 やはり街に行く頻度は極限まで減らして、出来る限り近付かないようにしよう。


 例え国王に呼ばれたとしても、行かないつもりだ。



「ここって半ば独立してるからねぇ。どの国のどんな冒険者でも、エルダートレントで埋め尽くされた森を攻略するのは不可能だよ。僕でさえ怖いもん」


「安心しろ、移動するつもりは無い」


「それは何より。じゃあ僕は行くね。これからデートだから」


「行ってらっしゃい。俺が出来なかった分、楽しんでくれ」


「勿論。今度は君達にも楽しんでもらえるよう、僕を一枚噛ませてね」



 そう言い残し、ゼルキアは飛び去った。

 まさか噂の確認の為だけに来るとは、中々フットワークが軽い男だ。これなら式にも来てくれそうだな。



「しまった、暇そうな鳥を送るの忘れてた」


『おうさまー! ぼく、いくよー!』



 肝心な伝達手段を渡しそびれていると、俺の声を聞いて一羽の赤い鳥が俺の肩に止まり、その後ゼルキアを追って飛んだ。



「頼む! たっぷり世話してもらえよー!」


『うん!』



 助かった。大事なことが頭から抜ける癖、何とかしないとなぁ。

 いつも俺の隣にはミリアとエメリアが居る。

 二人が俺の抜けた所をカバーしてくれる為、甘え過ぎていたな。


 ......でも、これでいい。二人に甘えられる幸せを噛み締めて生きるのが俺だ。



「さ、働くか! ......ん?」



 家具を仕舞い、木材置き場に向かっていると妙な異変を感じた。


 風が吹いているが、木が揺れない。

 木が揺れているのに、風が吹いていない。


 一つ一つ整理して考えていくと、目の前に緑色の風が吹き荒れた。




「お初にお目にかかります、主様。わたくし、妖精はアルラウネの者で御座います」




 な、何か出たー!!!!

 しかもアルラウネって、森の番人とか、その森の主みたいな存在だと思うんですけど!?

 取り敢えずコミュニケーションを取ろう。


 よし、落ち着け。落ち着け〜。



「こんにちは。今日は天気が良いですね」


「はい! 主様にピッタリの青空が広がっています!」



 ンー? 敵対勢力じゃない、と捉えるか。



「今日はどのような要件でいらしたんですか?」


「そんな、やめてください! わたくしは主様の魔力から生まれた存在です。主様に敬語を使われるような者では御座いません!」


「そ、そうですか......」



 身に覚えの無い存在だ。妖精とか全く知らないぞ。

 ただ集中して見れば分かるのが、俺の魔力が8割、ミリアの魔力が2割ほど存在している。


 過去にゼルキアが俺の魔力を摂りすぎて魔力が混ざったと言っていたが、このアルラウネの魔力は違う気がする。


 だって、混ざるにしては綺麗なんだ。

 外部からの摂取で混ざった魔力は、本来の魔力を汚すように2つ目の色が混じると思うが、アルラウネは綺麗に『2つの魔力が存在している』んだ。



「ちょっと待ってて」


「はい。いつまでもお待ちします」




 俺は小屋に帰り、仮眠しているミリアの頬を撫でた。

 アルラウネを待たせてるが、乱暴に起こすのは嫌だからな。優しく、そっとだ。



「ミリア、起きてくれ。ミリア」


「......うん。どうしたの?」


「子ども産んだか?」


「はい?」



 端折ってしまった。これにはミリアさんも驚いている。いや、俺も驚いてる。説明下手にも程があるってもんだ。



「今、アルラウネとかいう妖精が来てるんだが、ソイツの魔力が俺とミリアの魔力しか持ってないんだよ」


「あぁ、そういうことね。私がガイアの魔力を弄って遊んでいた時に生まれたんでしょうね。まさか本当に出来るとは思ってなかったけど」



 やはりミリアが関係していたか。

 だって俺に身に覚えが無さすぎるからな。

 急に『あなたから生まれました!』と言われても訳が分からない。



「......もしかしたら、他にも妖精が居るかもしれないわね。私、かなり貴方の魔力で遊んでたから」


「妖精の蔓延る森か......でも、どうして今更?」


「ガイアの覚醒がきっかけなんじゃないかしら。妖精は精霊の下位種族。自己の魔力が不活性化している状態なら、魔物で言う冬眠に入るわ」


「で、俺が起きた事で冬が明けた、と」



 うん、と頷いたミリアが頭を撫でてくれた。



「でも私との子ども、とも言えるわよ?」


「......最初の言葉は冗談だ」


「ふふっ。生活が落ち着いたら、きっと産まれるわよ」



 少し先の話だ。今は存在を捉える程度で、まだ近付かない。目の前にある、やるべき事を終わらせてから攻め込もう。



「そうだな。それじゃあ戻って話してくる。他にも妖精が居たら、楽しく生きるように言っておく」


「えぇ。それと、あまり根を詰めないでね? 幾ら貴方でも、継続的な過労は心配だわ」


「分かったよ。気を付ける」




 ミリアに口付けを交わした俺は、アルラウネの元へ戻った。

 妖精の存在が明らかになった今日、精霊樹の森の危険度が上がるのかどうかが心配だ。


 もし、領土や実りを求めて攻め込まれたりしたら......いや、考えるのはやめよう。今まで通り、平和な森を維持するんだ。

エルデ○リング買いました。NPCに喧嘩売るのは辞めましょう(15敗)。


次回、ゼルキア君と遊びます。

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