第111話 狐の嫁入り
ワクチン接種と多忙で更新できてませんでした。
が、余裕を確保したので再開です。
「ふぅ、何とか間に合って良かった。安倍くんも無事だし、怪我人はゼロ。これでマルっと大団円!」
「な訳無いでしょ。その女が森に入ろうとしたのは事実。しかも、エメリアの正体までバレているのにタダで返せないわ」
「......ぉん」
折角良い感じに終わったのに!
後はツバキさんを帰すだけだったのに!
ミリアよ、ツバキさんをどうするつもりなのだ?
取ってモフろうってことか? それなら大歓迎だ。
それにエメリアの正体が分かったところで、公表するメリットが無いだろう。
国王は既に俺が単独でドラゴンを倒せることを知っているし、そんな俺の第二夫人だと分かれば何も言えないはずだ。
ただ、エメリアが平和に学園生活を送れないのは嫌だな。口封じ程度に何かを頂いていくか?
「私......誰にも言わない」
「どうかしら? 貴女の強さから察するに、《幻級》でしょう? そうなれば国を跨いで情報を流して、戦争を起こさせることも出来るわ。口先の言葉で信用を得ることは出来ないわよ」
「......じゃあ、どうすればいい? 私を殺す?」
最後の言葉に殺意を乗せて、ツバキさんは抵抗した。
しかしミリアは全く動じず、首を横に振った。
そっと握られた俺の手から、判断は任せると言いたいのだろう。
もしや......面倒臭くなったのか?
「別に俺はどっちでもいいさ。ただエミィの事をバラさないなら、それで......って、ミリア?」
ふとミリアが俺の髪の毛に触れると、1本の髪が指に乗せられていた。柔らかく白銀に輝くその髪は、ツバキさんの物だろう。
「ねぇガイア、この女に何されたの? ねぇ」
「抱きつかれたから抱き締め返した」
「へぇ......私のガイアに、許可無く抱きついた、と」
やっべ、素直に答えたのはマズかったか。
ミリアのツバキさんに対する印象が大変なことになっている。先程までが10とするならば、今はマイナス50ぐらいまで下がってるんじゃないか?
ツバキさんのチャンスを俺が潰してしまったな。
「待て待て、ツバキさんに抱きつかれた事よりも俺が抱き締め返した方が悪くないか?」
「いいえ。ガイアはその女を知っているから全力で戻って来たのでしょう? だとすれば抱き締め返す可能性は十二分にあるわ。でもね、最初にきっかけを作ったその女が悪いわ。私はガイアを善人だと信じ切っているから、その限りでは無いけど」
そこぶっちゃけるんすね。心酔していると。
でも......そうか。エメリアもミリアと同じように俺を想っているなら、ツバキさんではなく俺が悪いと決定することが出来なくなる。
公平な立場からの意見が欲しいが......分からぬ。
「取り敢えずこの場では、ツバキさんはここで起きた事、見た事を誰にも言わず帰る。それでいいな?」
「......ガイアがそう言うなら。納得いかないけど」
「余もそれで構わん」
「ツバキさんは?」
「誰にも言わない。でも、時々遊びに来たい」
「「ダメ!!! / ダメじゃ!!」」
怖っ。二人の気迫で大人でも殺せそうだ。
「時々ならいいですよ。相談があったり、森で遊びたかったらご自由に」
「本当? ありがとう」
にへら〜、と笑うツバキさんがとても可愛い。
耳がピクピクと動いており、非常にモフりたい衝動に駆られる。
「「......むぅ」」
「二人はいつでも俺と遊べるだろ? 昼夜問わずに」
「......余も遂に......! むふふ」
エメリアさん、俺が言ったのは夜の森で遊ぶ事です。
あなたの想像するナニかでは、決して御座いません。
夜の森は夜行性の動物や虫が多く見られるから、普段触れ合わない子達と遊べるんだ。
それなのにエメリアは、全く。
「さて、話を変えるがドラゴンは売れたのか?」
「売れたけど、金貨が......何枚だったかしら」
「150枚じゃ。一人なら一生遊んで暮らせるぞ」
「じゃあ50枚ずつで分けるか。どうせ森に帰ってくるから、外で遊ぶ用の金として持っておこう」
普段は森での生活で満足してるから、正直に言って金は要らない。だけど、街でデートするなら必要な金だ。
今の俺の価値観で言えば、この金貨はゲームセンターのメダルゲームに使うあのメダルと同価値だ。
社会で生きる人に言うと怒られそうな考えだな。
そして新たにぶっ飛んだ考えの人がこの場に居た。
「街で遊ぶなら、私が払うよ?」
「え? ツバキさんが?」
「うん。ガイアがそっちの二人と遊ぶ時は、そのお金で。私と遊ぶ時は、私が出す。私、お金要らないから」
ダメだ、ツバキさんも金銭感覚が死んでいた。
この場でマトモなのは......エメリア!
「冒険者は強ければ金が入るからのぅ。ツバキ程にもなれば、国を作れるぐらいには稼いでるじゃろ」
「ガイアが頼めば、豪邸くらい買ってくれそうよね」
「うん、買うよ。欲しい?」
「待て待て待て〜い!! 別に森から出る気もありませんし、要りません。また街に行くことがあったら連絡するので、その時に遊びましょう」
そうして森で暇そうにしている鳥にミリアが魔法をかけ、伝書鳩モドキをツバキさんにプレゼントした。
この鳥にかけられた魔法は俺かミリアが呼びかけることで、鳥が遠くに居ても声が届くというものだ。
肩に乗った青い鳥が妙に似合うツバキさんは、最後に俺の頭を撫でてから王都へと向かった。
「......疲れた。暫くは森から出ないようにしよう」
「デートは中止かしらね......残念」
「余はガイアと居れるのなら構わぬぞ」
森を歩きながら話すが、頭の中は忙しい。
ツバキさんの事や国王との謁見の事、それに冒険者やらデートやら......何から考え直せば良いのか分からない。
すると1滴、額に水が落ちてきた。
「晴れてるのに雨が降ってきたわ」
「狐の嫁入りだな」
俺がそう呟くと、二人が表情の抜けた顔で振り向く。
「「......は?」」
「いやいや、こうした天気雨の事を狐の嫁入りって言うんだよ! 俺の発した言葉に他意は無い! 断じて!」
「どうかしらね? ガイア、結構あの子を気に入ってるでしょ?」
「ミリアも余も居るというのに、まだ満足せぬか?」
「えぇ......? これ、俺が悪いの?」
いやぁん、ガイア君モテモテで困っちゃう!
ん? 違うな。これ、俺がトンデモ浮気野郎って言われてるのか。
「オーケーお二人さん、俺の言葉選びが悪かった。認めよう。だけど本当に他意は無いんだ。分かってくれるか?」
「「分かんなーい」」
ほう。そう来ますか。中々やりますね。
いいでしょう、私も本気を出す時が来たようです。
まずは身体強化をかけ、一瞬でミリアを抱きしめた。
可憐な顔が見れないのは残念だが、そっと左耳にかかっている髪を流し、耳に吐息がかけるように囁く。
「君のような悪い子ちゃんには、本当の嫁入りを教えてあげよう。俺の愛する人はミリアだけだと、体の芯から知りたいんだろう?」
「は、はいぃ......」
ミリア、陥落。
続いてエメリアだ。ミリア同様身体強化で急接近するが、ここでひと味変える。
エメリアには真正面から目線を合わせると、普段はあまり直視しないせいで恥ずかしくなり、彼女の目が泳ぐ。
辺りが何とも言えない気恥しい空気で満ちたところで、優しく唇を奪う。今日の俺はプレイボーイだ。
「学園では学ばないコト、教えてやるよ」
「はぅぅ!」
ナンダコレ。耳元で適当なことを言えばいいのか?
ハッハッハ! 甘い世界だなぁオイ! アッハッハ!
......はぁ、言葉選びにはあれ程気を付けようと心に決めたのに、またやってしまうとはなぁ。
俺は学ばない男だ。
さて、雨が上がったことだし、帰るか。
「明日から新居造るぞ。夏の間に完成させて、秋からヌクヌクと人間らしく生きる。手伝ってくれ」
「任せて。それと木造かしら?」
「あぁ、流石に石は運ぶのが面倒だからな。エミィは材料収集を、ミリアは製材加工を頼む」
「了解じゃ。安倍くんも借りるが大丈夫かの?」
「......問題無い。次は俺一人でやるからな」
昔の出来事を思い出すように呟くと、勘付いたミリアがギュッと手を取った。
何も言われなくても分かる。あの日の出来事を。
俺はもう、清算した。
勇者を殺し、安倍くんや皆を生き返らせたのだから。
これ以上は望まないさ。
「家が出来たら、結婚パーティーでもするか」
「ゼルキアやあの女狐も呼びましょ」
「良いな! 余も学友を呼びたいのじゃ!」
「よし、じゃあ新居の建築と結婚パーティーが暫しの目標ってことで。帰るぞ!」
「「お〜!!」」
そうして、精霊樹の森の小さな開拓が始まった。
新作ゲームって2日でプレイ時間25時間とか行くのでヤバいですよね。あのドキドキとワクワクを与え続けられる感覚って、一種の麻薬なんじゃないかと思うんですけど皆さんはその辺りd(ry
次回『精霊樹、蔓延る』お楽しみに!




