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第110話 (空を)走れガイア

次回予告? アイツならゴミ箱で寝てるよ。


「そなたがドラゴンの討伐者か」


「はい」


「何故、依頼を受けずに討伐したのだ?」


「受けなかったのではありません。受けられなかったのです。私は今日、冒険者登録をしたばかりの身です故、ドラゴンの素材を売り、私の嫁とのデート代にと討伐しました」



 何度経験しても緊張する、謁見の圧力。

 張り詰めた空気に肌が敏感になる。



「国王の前だぞ!? 何を腑抜けたことを!」



 誰? どこかの貴族だろうけど、口を挟むなよ。

 ツルッ禿げだし、服は気持ち悪いくらいに豪華だし、歳も40代後半ってところか?


 うるさい奴だ。



「本当の目的があるのなら申せ」


「本当に嫁とのデート資金調達で御座います。この場で嘘をつくメリットが無いと、そう考えることも出来ない愚かな野次馬に耳を傾けず、本人である私の声を聞いて下さい」



 棘が鋭すぎたか、隣でギルマスが小言を言ってくる。

 正直、自分の意思も伝えられないなら、今回の謁見に意味は無い。


 はぁ......早く終わらせて帰りたい。



「話を戻す。ドラゴン討伐を達成したことは確認した。だが報酬が出せない状況である以上、そなたには褒美を与えねばならん。端的に言う。何が欲しい?」



 ぶっこむねぇ、この王様。豪快すぎやしないか?

 ......それにしても、欲しい物か。

 ドラゴンで稼げた以上、何も要らないんだよな。


 あ、そうだ!



「では、精霊樹の森に誰も入らないようにしてください。あの場所は俺達の家です」


「......精霊樹の森、だと?」


「はい。もし誰かがあの森に入って、俺の家族を殺そうものなら............この国を滅ぼします。確認ですが、俺はドラゴンを一撃で殺せます」



 覚悟は示さないとな。元々危険区域に指定されてることだし、早々入るようなバカは居ないと思うが。

 もしもの時を考えると、力をチラつかせないとな。


 ......でも待てよ? やり過ぎたな。

 滅ぼすとか言っちゃダメだろ。

 ヤバいミスった! これじゃあ超危険人物として扱われる!!



「すみません、冗談です。ガイア君ジョークです」



 誤魔化すように笑ったが、場の空気は凍っていた。

 声は聞こえないが、周りの貴族も一歩引いて、俺から離れたい気持ちを溢れさせながら見ているな。


 そして肝心な国王はと言うと、物凄く申し訳無さそうな顔をしている。



「......すまない、本日一名に精霊樹の森に入ることに許可を出した」


「......は? マジで? 誰に?」


「ツバキという、この国を代表する冒険者だ」



 終わった。人生終わったわ。クソゲーだろもう。

 なんで今日に限って、あのツバキさんなんだよ。

 

 ふざけんなよ。



「帰ります。もし家族であるディザスターベアーが死んでいたら、その時は覚悟してください。俺は誰であろうと、敵と見なせば殺すので」


「お、おい、待て!」



 ギルドマスターの制止を振り切り、謁見の間を出た。

 マナー違反どころの行動じゃないのは分かってる。

 分かってるけど、行かなきゃならない。


 王城を走り、庭に出た俺は脚に魔力を集中させる。

 手入れの行き届いた芝を傷つけないために、これから起きる爆発に備えて風の床を一面に敷いた。


 そして脚の魔力を一気に放出し、俺は飛んだ。


 一瞬で王城二つ分はあろう高さに出た俺は、夢でもやった空気の壁を蹴り、精霊樹の森へと全力で進む。

 風を切る音で鼓膜が破れそうだ。

 それでも俺は行かなければならない。



 例え自分がどんなに傷つこうと、家族を守る為に。




◆ツバキside◆




 国王から精霊樹の森に入る許可が降りた。

 前々から準備を進めていた私は、すぐに王都を出た。

 地図を何度も確認して覚えたその場所は、予想より少し早く到着した。



「ここが、精霊樹の森......?」



 少し離れて見ると、手前の草原との違いが分かる。

 外周の木が生えている地面だけ、異様に青い。

 まるで栄養分が潤沢だと喜んでいるように草木が色とりどりに輝いて見えて、森の中で育った私にはひと目でこの場所が『良い土地』だと感じた。


 でも──



「......エルダートレント。もしかして全部?」



 つい言葉が漏れるぐらいに、恐ろしい森。

 私なら、二体くらいのエルダートレントでも捌けると思う。でもこの森全体のトレントと戦うとなれば、まず死ぬ。


 流石は特定危険区域。世界で最も危険な場所と言われるだけある。



「火は......ダメ。水も無理。根っこを斬らないと」



 どうしよう。ずっとここに来たかったはずなのに、今は何故か、『来るタイミングを間違えた』気がする。

 今日ではない。そんな気がして体が動かない。


 でも、私は行かないと。

 震える手でしっかりと刀を握った私は、体内を流れる魔力に勢いをつけ、進む。



 その時だった。



「ッ!?」



 後ろから、とてつもない強さの何かが近付いてる。

 今までに戦ったことが無い、恐ろしい存在。

 気配があまりにも強いからか、トレントもその擬態を辞めてまで動いている。


 伝えなきゃ。危ない何かが居るって、誰かに伝えなきゃ。



 振り返った瞬間、目に入ったのは青い流れ星だった。



「なに......あれ」



 流れ星じゃない。あれは......人?


 それは、音よりも早く私の前に堕ちた。

 本能的に危険と判断して距離を取ったのは正解だった。

 あの人間が堕ちてきた場所は、まるでドラゴンが空から落ちてきたかのような、巨大な穴を作っていたから。



「トレント......死んだ奴は?」



 聞こえる。土煙の中から、男の子の声が。



「......そうか。流石のツバキさんと言えど、ウチの子達には攻めあぐねてくれたか」



 私の、名前? どうして? どうして私がここに来るって知ってるの? ここに来ることはギルドとリリィ、あとは国王の近くにしか居ないはず。


 私の記憶が正しければ、ギルドにこんな気配を持った人は居なかった。



「良かった。うん、ありがとう。それより君達に怪我は無いか? あるなら今すぐ治すが......あ、俺のせいで? ごめん。マジでごめん。ホンマにすんません」



 土煙が晴れ、ようやく姿を見れたと思ったら、そこには男の子がトレントに頭を下げていた。

 そして同時に、私の胸が高鳴った。

 ずっとあやふやに精霊樹の森を指していた心のコンパスが、行く先を見付けたように彼を指したから。


 刀を鞘に納め、ちゃんと視線を送る。

 そこに敵意は一切無く、捜していた人を見付けたという、色々な感情で溢れそうな視線を。



 きっと、彼なら気付いてくれる。



「......やっぱりツバキさんだ。可愛いな〜」



 優しく微笑みながら発せられた言葉に、思わず顔が熱くなる。

 顔も、声も、名前も知らなかったのに、不思議。

 まるで私に足りなかったものが帰ってきたような、温かみのある安心感が心を揺さぶる。



「えっと、初めまして。ガイアです。この森の──」



 彼が言い終わる前に、私は彼を抱きしめた。


 分からない。どうして抱きついたのか分からない。

 でもこうしないとダメな気がして、体が勝手に動いた。

 初対面の相手に抱きつくなんておかしいと頭では分かっているのに、過去に抱きしめたことがあると心が囁く。


 本当なら気持ち悪いと思うかもしれない感覚だけど、不思議と私には心地良かった。



 彼は、訳も聞かずに抱き締め返してくれた。

 ううん、多分知ってる。私が忘れてるんだと思う。

 夢の世界みたいにあやふやな記憶だけど、確かに私は彼を知っている。


 ただ、思い出せないだけで。



「ご、ごめん。私、なんか、変で」


「本当に変ですよ。でも、もう少しこうしていましょう。俺も変ですから、同じ気持ちです」


「ふふっ」



 私......今、笑った? 声が漏れた気がする。



 何年ぶりだろう。心から笑ったのは。

 妹が抜け殻みたいになってから、私は笑わなくなった。


 私には妹が居る。王都の学園に通う、普通の子だったけど、ある日を境に突如として姿が変わった。

 目から光が失われ、全てにおいて気力が喪失した。

 きっと学園生活に疲れたのだと思って休むように言ったけど、妹は『大丈夫』の一点張りで休まなかった。


 きっと誰かが自分を助けてくれる。

 そう信じたように何かを待つ声で、妹は生きている。



 大切な家族の役に立てない私は、笑えなくなった。

 大金を得ても、名を讃えられても、私が笑うことは妹の元気を奪うような気がしたから。



「ツバキさん、そろそろ離れましょう。危ないです」


「危ない?」


「はい。本当に危ないです。命が」



 彼がそう言った瞬間、私の心臓がキュッと締まる。

 この感覚は......ドラゴンの威圧感?

 いや、それ以上の──


 強烈な存在感の方へ顔を上げると、居た。

 本物のドラゴンが、こちらに向かって飛行している。



「あぁ、大丈夫ですよ。あの子はお嫁さんなので、まずツバキさんには攻撃しません。ただ......上に乗ってる人には気を付けてくださいね」



 何を言われているのか分からず、刀に手をかけた。

 するとドラゴンは一瞬で姿を消し、気付いたら目の前に二人の少女が立っていた。



 私は......夢を見ているの?

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