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第109話 資金調達のすゝめ

突如途切れる毎日更新。

そして見つかる必着2週間前の書類。


──I'm Dead──



『グオオオォォォォォォォォ!!!!!!』



 鉱山の山頂に、一頭のドラゴンが住み着いていた。

 赤黒い鱗に身を包み、口から零れる炎は青く、大きな翼脚には鋭い爪が生えている。


 赤龍。弱いドラゴンだ。



「正確に言えば、強くないドラゴンか」



 夢の中のダンジョンで俺が死にかけた白龍は、強さで言えば上から2番目。1番はやはり、エメリアを含む黒龍だな。


 正直に言って、白龍と黒龍以外は弱い。

 あの2種が異様に強いのもあるが、全ドラゴンと戦闘経験があれば、赤龍は下から数えた方が早い部類なのだ。



「ごめんよ、金の為に死んでくれ」



 素材を傷つける訳には行かないので、ドラゴンと目を合わせた俺は一瞬で胸元まで駆け寄り、魔力で衝撃を増幅させたパンチを食らわせた。


 重く響く鈍い音に、ドラゴンは叫ぶことなく血を吐き出した。


 そして2発目の打撃が入ると、完全に絶命した。



「いただきます」



 ドラゴンの死体を限界まで押し広げた影に仕舞い、俺は下山した。



「まだギルドを出て10分くらいか。戦闘よりも行き帰りの方が長いんだよな」



 RPGでもよくあるあの現象だな。

 マップのロードや武器選択、バフにかかる時間が、実際の戦闘時間よりも長いアレ。



「魔力傾向を理解した今、もっと速く走れるはずだ」



 俺の空色の魔力に宿る、『増幅』と『改変』の傾向。

 きちんと理解すれば、誰よりも強くなれるズルっこい能力だ。


 ......ズルっこいと言えば、ミリアの傾向だけどな。

 何だよ『自然』と『支配』って。最強かよ。

 夜の時間も支配されるし、今度こそはミリアを倒したいな。



「身体強化、何か不完全な気がするんだよな」



 強化し過ぎると魔力が漏れ出るこの技術は、不完全な魔法だと感じる。

 ミリアに教えてもらったとは言え、このやり方が最高のかと言われればノーと答えられるからな。


 漏れる魔力を更に強化に回せれば、もっと強くなる。

 走りながら改良を加えて行こう。



「循環効率は最高だ。筋肉に作用する魔力量の調整も完璧。なのに、どこかから魔力が漏れ出る。どこだ?」



 まずは栓をしないと。力に変換出来ずとも、溢れ出る穴を塞がないと話にならない。



「......見付けた、関節か。お前をカバーする魔力量の変動が大きいせいで、余った魔力がオーラみたいに出てるんだな」



 走るペースを変えずに、使う魔力量を完全に自力で制御すると、俺から出ていた空色の魔力が消えた。

 それと同時に、関節は筋肉を動かす接続具、という概念として考えることで、更に素早く脚を動かすことに成功した。


 研究開始から2分で結果が出た。



「うっひょー! き〜もち〜〜〜!!!」



 パズルを完成させたような達成感に包まれながら走ると、帰りは5分で王都の門に着いた。




◇ ◇ ◇




「ただいまー」


「おかえり、ガイア」



 酒場に帰ってくると、ミリアが熱いキスで迎えてくれた。

 何の躊躇いも無く行われた行為にミリアが口を挟むと思ったが、こちらを見るだけで無言だった。



「ま、まだ15分程度しか経っておらぬが......」


「身体強化の改良に成功してな。行きは10分、帰りは5分で終わったんだ。それよりも......エミィもしないのか?」



 ポカーンと口を開けるエメリアを抱き締めれば、すぐに意識を取り戻した。



「す、する! ん〜〜!」



 ミリア程では無いが、それなりに甘いキスだった。

 そして気付いちゃった。今、ギルド内のほぼ全ての人間が俺達を見ていることに。



「それで、収穫はどうだったの?」


「心臓以外傷をつけずに殺したよ。赤龍だった」


「なんじゃ、雑魚ではないか。期待外れじゃの」


「赤なら私でもやれそうね。でも、傷はつけちゃうわ」


「拳2発でK.O.でした」


「「おぉ〜」」



 魔力制御、頑張ったもん。

 拳の威力ではなく、衝撃だけを増幅させるのはとても難しいんだ。だって、目に見えない力の制御なんて、やろうと思っても出来ないからな。


 でも長年に渡る魔力制御のお陰で、衝撃並と魔力の波を合わせることで可視化し、好きなタイミングで強化出来るようになったんだ。


 魔力も使い方次第では化けると、改めて知ったな。



「そのドラゴンはメスだったのか?」


「分からん。どうやって区別するんだ?」


「そ、それは、その......性器を見れば分かるじゃろ......」



 あら〜、顔を真っ赤にして可愛いわね〜。

 でも残念だったな。ドラゴンの股間は一切見ていないので、取り出さないと分からないんだ。



「見てないから分からんな」


「では角が生えていたか? 生えていたならオスじゃ」


「生えてなかったな。というか普通、最初にそっちを聞けよ」


「仕方ないわよ。エメリアは変態だもの」


「そうなのか?」


「へ、変態ではない! お主らが毎晩毎晩うるさいから、余もちょっと......おかしくなっただけで」


「なるほど変態だな。間違えた、大変だな」


「ガ〜イ〜ア〜!!」



 ポカポカと胸を殴られながら、リンゴジュースを一口含んだ。

 爽やかなリンゴの香りがスーっと鼻を抜け、優しい甘みが口内に幸せを齎す。



「ま、あの依頼は近いうちに無くなるさ。どっかの誰かが依頼を受けずに済ましたモンだから、依頼主は報酬を出す必要も無くなったしな。ウィン・ウィンだ」


「国王のお財布事情も考えるなんて、優しいわね」


「あの盗賊のような人間が生まれない為に、報酬分の金を上手く使って欲しいところだ。さて、買取に出したいんだが、どこか広い場所は無いか?」


「それならギルドの裏に訓練場がある。受付嬢に言えば貸してくれるはずじゃ」


「エメリアさん。手配を」


「はいはい。全く、人使いの荒い旦那様じゃの」



 有能なお嫁さんが悪いと思うがな。

 口には出したくないが、本当に助かっている。

 もし言ってしまえば、調子に乗って『打倒ミリア!』とか掲げられそうだし、黙っておかないと。


 家族内で争いはさせません。



 ギルドカウンターの横にある通路を抜けると、かなり広い訓練場に出た。どうやら初心者向けの講習などをやる為に広く作られたようだ。


 今も、学園生っぽい冒険者が10人が、1人の男から話を聞いている。



「邪魔にならないよう、端っこで出すのよ」


「任せろ......そいっ!」



 地面に手を付き、影を限界まで広げてから持ち上げると、まるで生きているかのような姿で死んだドラゴンが現れた。



「きゃぁぁぁぁぁあ!!!!!!」


「ド、ドラゴンだぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「逃げろぉぉぉぉぉ!!!!!!」



「「あー......」」



 やっちまったな。



「コラー! ちゃんと許可を取ってから出さんか!」


「すんません......忘れてました」


「全く。ミリアもどうして気付かないのじゃ!」


「人間の感覚なんて知らないもの。ドラゴンに怯える方が悪いわ」


「確かに、それもそうじゃな」


「エメリアさん?」


「おほん。失礼」



 今、完全に呑まれてたな。ドラゴン視点になってた。

 受付嬢さんも頼みの綱が切れたような目をしていたし、可哀想だ。



「いや〜、凄いですね〜! 本当にドラゴンです!」


「採れたて新鮮ですよ。血でも飲みます?」


「いいんですか!?」



 目を輝かせる受付嬢さんに、ミリアがぴしゃりと言い放った。



「ダメよ、ガイア。相当強い体じゃないと、魔力の多量摂取で死ぬわ。私やガイアなら大丈夫だけど、その子は無理ね」


「ですって。ごめんなさい」


「残念です......」



 ミリアがとても頼りになる。ひょっとして俺、この世界で生きる上での知識が相当欠如している......のか?

 自分で学ばないとと思うが、ミリアやエメリアに任せたい気持ちもある。


 でも、行き過ぎた信頼は迷惑になるしな......う〜ん。



「解体しないのか? 余は準備出来ておるが」


「あ、そうでした! ドラゴンの解体は初めて見るので、勉強させてください!」


「私は細かい作業をやるから、エメリアはガイアに指示を出しなさい。防腐魔法も私がかけるから、丁寧にやるのよ」


「うむ! 感謝するのじゃ!」



 馬車馬宣言をされたが、何も言い返せねぇ!

 さてさて、重労働は俺の仕事だ。新たな身体強化も使って、手早く終わらせますかな。


 っと、ここで大勢の人間が訓練場に入って来た。



「ドラゴンが出たと聞いたのだが......死体か?」


「あ、ギルドマスター! そうなんです! こちらのガイアさんが討伐したので、これから解体するんですよ!」



 エメリアから渡された鎌を手に指示を待っていると、後方からギルドマスターと呼ばれたスキンヘッドの男が俺の肩を掴んだ。



「ちょっと話を聞いていいか?」


「ダメです。これから解体するので、無闇に近付くと危険ですよ? 離れていてください」



 特に話すことも無いので断ると、ギルドマスターの視線はエメリアに移った。



「......エメリア、コイツは知り合いか?」


「余の旦那じゃ。イケメンじゃろ?」


「旦那? お前、結婚してたのか!? ってそうじゃねぇ。どうして話そうとしないんだ?」


「決まっておる。話すことが無いからじゃ。お主はガイアに何を聞くつもりなんじゃ? 討伐方法か? 強さの理由か? どちらも答えたところでお互いに利益が無い」


「いや、国王に報告しなきゃならねぇから情報が欲しいんだよ。素性も分からない人物に助けられては、ギルドとしても困るんだ」



 わお、真っ当な意見だ。アホみたいな事を考えてる俺とは正反対だな。この人はなるべくしてギルドマスターになったんだろう。


 でも、国王かぁ......


 チラッとミリアを見ると、首を傾げた。可愛い。



「エミィ、もう大丈夫だ。ギルマス、詳細は後で話すので今は解体に集中してもいいですか? このままでは混乱を招くだけですし、早急に片付けましょう」


「勿論だ。人員なら出せるが......」


「不要じゃ。逆に素材を傷つけられてはたまったものではない」



 ちくせう、馬車馬コースは変わらなかったか。

 こうなれば全力の身体強化を使って素早く終わらせないと、滞在時間が無駄に増えてしまう。



「エメリア先生。チャチャッと俺を動かしてください」


「うむ。ではまず、肛門から尻尾の鱗を剥がすぞ。刃の先端を入れたら、尻尾の内側にグルりと切れ込みを入れるのじゃ」


「は〜い」



 指示通りにエメリアの鎌を入れていくと、スルスルと皮を裂き、簡単に鱗を剥がせた。



「楽しいな、これ」



 この鎌の斬れ味の恐ろしさもあるが、エメリアが教えてくれた通りにやると豆腐を切るかのように解体出来るんだ。

 カワハギの皮を一気にベリッと剥ぐような気持ち良さがクセになる。


 それから2時間ほど、三人で解体を進めていると、最後の仕上げとなる皮に付いた肉を落とす作業に入った。



「この作業をすると、皮は高く売れる。冒険者だけでなく、素材の買取を出す時の常識じゃ」


「へぇ、知らなかった。仕上げが一番大変だな」



 防具用に加工しやすい大きさに切った皮を広げ、肉を削ぎやすいナイフを当てる角度を調整する。

 刃を立て過ぎれば皮が傷つき、刃を寝かせると肉が削げない。この微調整が非常に難しい。


 一枚目から躓いていると、ミリアが横から俺の手を包み込んだ。



「ふふっ、任せなさい。細かい作業は私の得意分野よ。特に、手先の器用さに限っては自信があるわ。ガイアも知っているでしょう?」


「......ま、まぁ」


「さっきはガイアが主役を務めたから、次は私。それでいいかしら?」



 頷いて返すと微笑んで代わってくれた。

 綺麗な顔だな。そう思ってサラサラの髪を撫でてやると、頬にキスをして返すミリア。


 一長一短、得意分野が異なる俺達だからこそ、支え合えることもある。それが今は、この上なく嬉しい。



「こやつら......!」


「悔しそうね。でも、貴女にも貴女の強みがあるわ。私と比べて下を見るより、前を見ている方が魅力的よ?」



 歯を食いしばるエメリアだったが、ミリアの言葉でハッと顔を上げた。

 キラリと光る目は驚きに満ちていて......否、驚き過ぎて恐怖に染まっている。



「な、何故ミリアが余にアドバイスを......!?」


「一応ではあるけど、貴女も私の家族なの。家族内で争い事なんて私は嫌よ。それにガイアを想う気持ちは一緒なんだから、せめて彼に悪く見られない方法を教えるのは当然でしょ?」


「そういうことじゃったか......驚いた」



 これには俺も驚いた。

 ミリアの頭の片隅にエメリアが居るのは分かっていたが、俺の予想以上に考えてくれていたんだな。

 にしても、『悪く見られない方法』か。


 決して『良く見られる方法』ではない辺り、0を1に変えてやるが、1を2へは進むことに手助けはしないという、ミリアの固い意思が見られる。


 それでも優しいことに変わりは無い。

 あぁ......やっぱりミリアが大好きだ。



「終わったわ。私の魔法なら肉を操作出来るから、全ての皮から取り除いておいたけど、問題無いわよね?」


「ありがとう。問題無いから安心してくれ」


「そう? なら良かったわ。後は換金するだけね」



 いつの間に終わらせたんだと言いたいが、周囲に散らばる黄金の糸を見るに、傾向の力を最大限に引き出したのだろう。


 解体の作業に全力を出すことになるとは、今朝には思いもしなかったな。




「解体が終わったのなら話、してくれるよな?」




 なんだコイツ! ヌルッと背後から話しかけるな!



「......分かりましたよ。それじゃあエミィは換金を。ミリアは手続きの仕方を見ておいてくれ」


「分かったのじゃ」



 背後からギルドマスターに両方の肩を掴まれた俺は、大きな溜息をついてから買取を二人に任せた。

 そして教師に叱られる子どものようにギルドマスターの後ろを着いて行くと、行き着いた先は馬車だった。



「あ、あの......どちらに?」


「ンなもん決まってるだろう。王城だ」


「えええぇぇぇぇ........................?」





 どうやら、金を稼ぐだけでは済まないらしい。

ドラゴンのエキスパート、エメリアさん。

そんなエメリアさんもまた、ドラゴンなのであった。


次回! 『貴族の集い』お楽しみに!

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