第106話 決戦! 森のヌシ!
毎日投稿が楽しんじゃない。
楽しいから毎日投稿しているんだ!!!
朝、鳥の囀りで目が覚めた。これが朝チュンか。
「おはよう。今日は何して遊ぶの?」
「おはよ。今日は......魔法の鍛錬と筋トレかな。流石に森の外の魔物相手に、今の体は不安だ」
「ガイアなら落ちている木の枝でさえ業物に出来るものね。武器に似合う体を作らないと」
ただでさえ一日サボれば三日分は落ちるのに、100年もサボっていたんだ。一から鍛え直さないといけない。
という訳で、夏休みに入ったエメリアを連れて、俺は森の中でも一段と高低差の激しい区画へとやって来た。
今回、ミリアはお休みだ。『やっぱりまだ眠いから寝るわ』と言って二度寝してる。
全く......お願いされたから激しくしたのに。
憎めない奴だ。本当に。
「一つ、聞いてもよいかの?」
準備運動としてストレッチをしていると、鏡の様に俺と同じ動きをしながらエメリア話しかけてきたが、どうも暗い顔をしているな。
「何だ?」
「余は......本当のエメリアなのか? 聞けば余はガイアの夢の世界から来たという。余がガイアと過ごした2年足らずの旅は、本物の記憶なのか?」
言い難いことをサラッと聞いてきたな。
「俺の妹を名乗る女神イリスが言うには、エミィは俺の夢から出て来た存在ということだ。ただそこに偽物も本物も無い。俺の前に居る以上、お前はエメリアだ」
そもそも、夢から覚めた俺でさえまだ感覚があやふやなんだぞ? 幸せな生活を送っている今の方が、夢のようだ。
俺はエメリアが好きだし、大切な存在だと思う。
だから偽物なんて考えない。
そして答えを聞いたエメリアは、ホッと胸を撫で下ろした。
「......そう言ってくれると信じておったぞ。実はな、学園で人間の程度を知らなかった時に、生徒より『アイツは異世界から来たんじゃないか?』と言われてな。あながち間違いでない故、反応に困ったのじゃ」
「異世界から来たのは俺とゼルキアだけどな」
「うむ。しかし、これでハッキリと余はエメリアであると、異世界からの来訪者でも何でもなく、ただのエメリアと名乗れる」
「考え過ぎたんだな。そもそも俺とエミィが出会った時に、異世界なんて関係無しに話しかけただろ? その時と同じ答えで良かったんだよ」
「......確かにそうじゃな。落ち着きが無かった余には、そこまで思考が至らなかった」
普段は冷静沈着なのに、俺の身に何かあるとすぐに焦るのはエメリアの短所だな。でも、治して欲しくない部分でもある。
俺を心配して焦っているのだから、何も思われないと感じられる反応をされると、俺が不安になる。
「まぁ、これからは大丈夫だ。学園で嫌なことがあったり、分からないところがあれば俺やミリアに聞くといい。お前は一人じゃない。いいな?」
家族になったのだから、気軽に相談して欲しい。
疑問を質問に変えると答えてくれる人が居るのだから、有効活用しない手は無いだろ?
「うむ! 頼りにしてるぞ? 旦那様」
「はいよ、第二夫人様」
「その呼び方はやめるのじゃ!」
「じゃあ旦那様呼びもダメだ。今まで通り、名前でな」
「......仕方あるまい」
そうしてストレッチを終えた俺は、森での日課であった、身体強化を使わないフリーランニングと魔法制御の鍛錬を同時進行させた。
フリーランニングは少し不格好になるが、魔法制御に関しては夢の時と腕が落ちていないので、かなり高水準な状態で始められた。
「はぁ......すぅ、開花」
「花が咲いたぞ! 凄いのじゃ!」
「次......ここ! 発芽!」
「芽生えた! 自然の神秘じゃ!」
木の枝から枝へ飛び移りながら、成長不良を起こしている植物を見つけ出し、手助けしてやる。
この鍛錬、簡単そうに見えるが実際はハゲるほど難しいのだ。
まず、常時魔力を展開し、自身の周囲にある全ての植物の状態を処理しなければならない。これは発育不足の植物を発見する為に、膨大な量の情報が入ってくる。
そして次に成長の魔法をかけるのだが、これが一番難しい。
成長の魔法は魔力を根に流して強引に成長させるのだが、注ぐ魔力量を寸分でも間違えた瞬間、俺の強過ぎる魔力では植物が死ぬんだ。
だからその植物の個体ごとに合う、絶妙な量で魔力を注がねばならない。その微調整が大変と言うには生ぬるい。
グラム単位で言えば、0.0001グラムでも多く注いだ瞬間、対象は召される。
「これ、余に「無理だ。今はな」......そうか」
「そもそもこの魔法は精霊魔法だ。『改変』の傾向を持つ俺だから出来ることで、ドラゴンのエミィには出来ない......と、思う」
やってみれば分かるだろうが、不安要素が大きい。
何せ、この森は俺の魔力で育っているんだ。他人の魔力を受け付けるかどうか、第一の疑問が湧く。
次に、受け付けたとしても成長するか、第二の疑問が顔を出す。
最後に、魔物化する危険性がある。
魔物は、魔物同士の繁殖にプラスして元の動植物に過剰な魔力供給が行われることで魔物化し、増える。
エメリアの魔力は最強格の質を誇る。
もし魔物化すれば、並の人間では太刀打ち出来ない強さの相手になる可能性がある。
そうなれば......殺すしかなくなる。
「試してみてもよいかの? 一度だけじゃ」
「いいぞ。責任は俺が取る」
「責任......んむふ」
「バカ言ってねぇで早くやりな。先に行くぞ?」
「ま、待つのじゃ! 今やるところで──」
そう言って先程俺が発芽させた植物にエメリアが魔力を注いだ瞬間、双葉の間から凄まじい勢いで黒い炎が立ち上がった。
「......エメリアさん?」
「......急かすから悪いのじゃ。余、間違えた!」
「はぁ、全く。っていうかいつまで燃えてんだ?」
「おかしいの。もう注いでおらんが......あ」
「あっ」
ボウッ! と一際大きく炎を吹き出すと同時に、双葉の植物はメキメキモリモリバキバキと成長し、あっという間に見上げる程の大きさになった。
これが本当の『成長』なら良いのだが、現実はそう上手く行かないようだ。
『グオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!』
精霊樹の森を、かつてないほどの轟音が包み込んだ。
近くに居た鳥は一瞬で気絶し、中にはショックで死んでいる者も居る。
たまに遊びに来ていた狼や狐の類も気を失い、無防備な状態になってしまった。
たった一瞬でこの凄惨な状況を作り上げたのが、あの小さな芽だとは思えないな。
「バケモノサイズのトレントが生まれたんだが?」
「......責任、取ってよねっ!」
「ぶっ飛ばすぞ? それより離れてろ。アレはお前でも危ねぇ」
「う、うむ......すまぬ」
ふざけたエメリアを背後に立たせ、俺はトレントに魔力のパスを繋げようとした。が、エメリアの魔力を糧に成長したせいか、俺の魔力でも繋げられない程強い抵抗力を持っている。
「厄介だな。刀は......無いし、魔法でやるか」
「やれるのか?」
「当たり前だ。俺を舐めんな」
指を鳴らし、一瞬で刈り氷こと、高速振動する氷の刃を100枚生成した俺は、トレントの根に向けて一気に放った。
『グォォォォ!!!!!』
チェーンソーなんて比にならない伐採力を持つ氷でも、トレントに少し傷をつけるだけで終わった。
しかもその傷は、俺の魔力を吸って修復された。
「ふむ......詰んだか?」
「めでたくこの森のヌシとなったな」
「森の主は俺のはずなんだがなぁ......仕方ない。攻撃される前にぶち殺して差し上げるぞ」
俺は索敵や警戒に使っていた全ての魔力を戻し、俺の右手に向けて一点に集中させた。
魔力湖からも半分程度徴収しながら集まっていく魔力は、ゴゴゴゴゴと軽い地震を引き起こしている。
「な、何じゃこの魔力は......!」
『グオオオオオオオォォォォ!!!!』
その力にトレントがこちらに大木となった枝を振り下ろそうとするが、その前に全てが終わった。
「来い、想いの剣」
それは、空色の小さな剣だった。
鍔の中心に黄金の光が灯り、全ての視線を奪うような美しい剣。
軽く、優しく。そっと前に出されたそれは、魔法で傷をつけることが限界だったトレントの表皮を、まるで熱した包丁でバターを切るかの如くするりと貫き、直後に爆発とも言える量の魔力が解き放たれた。
「美しい......」
背後から聞こえる声に、俺は静かに頷いた。
本当に美しい。空色の魔力と黄金の魔力が織り成す光の爆発は、見る者を魅了する幻想的な光景を作り上げていた。
気付けばトレントは跡形もなく消えている。
そして、右手に握っていた剣も。
「はい、終わり。そう簡単に主の座は渡さねぇよ」
「......今のは?」
「ミリアへの愛情を、俺の魔力と混ぜて剣にする魔法」
「何じゃそれは......愛情を剣にする魔法などあるのか?」
「さぁ? 無いんじゃないか? どの世界でも出来たのは俺一人だけだからな。これ、魔王を一撃で倒せるから愛用してたんだよな〜」
今の世界ではなく、レガリア帝国での話だ。
ステータスやスキルがあった世界だったが、あの魔法で作った剣はステータスが存在しない物だった。
攻撃力は愛情の深さに依存する。
それだけは本能的に理解していた。
だから俺は、ミリアと過ごす幸せな日々の裏で、あの剣の威力を試したりしていた。
だが、全て結果は変わらなかった。
どんな相手でも、触れた瞬間に死が確定する、恐ろしい攻撃力を持っていた。
それを知ってからというもの、俺は更にミリアが好きになった。だって、二人の愛情は誰にも負けない強さだと知ったから。
だから、よりお互いを大切にして、危ない時はあの剣で乗り切ろうと、二人で約束したんだ。
「......あの時は間に合わなかった」
「あの時とはなんじゃ?」
おっと、つい口が滑った。
「何でもない。エミィは帰ってミリアを起こしてくれ。昼ご飯にしよう」
「ガイアはどうするのじゃ?」
「俺は動物たちを起こしてくる。あと、死んだ子を埋める。だから先に行ってくれ」
「......分かったのじゃ」
「お前は悪くねぇよ。心配すんな」
落ち込むミリアを抱きしめてやると、幾分か顔が明るくなった。
植物に魔力を流す許可を出したのは俺だし、責任は俺が取ると言ったんだ。害を被った動物たちの対応をするのも、俺の仕事だ。
「ごめん。君たちの家族を殺したのは俺だ」
『ちがうよ〜? くろいとれんとだよ〜?』
「アレを生み出したのが俺だからだ。本当にすまない」
森全体の動物に魔力を繋げ、謝罪した。
皆優しいから『違う』『悪くない』と言ってくれるが、本心では反対の感情を抱いているだろう。
俺は眠る前から、動物たちへ『家族は大切にしろ』と何度も言ったのに、その本人が家族を殺したのだから。
恨まれて当然だ。
『......ちがう。みんな、こころから、ガイア、すき』
「安倍くん?」
『ガイア、あやまってた。きこえてた』
鳥たちを埋葬していると、後ろから安倍くんが擦り寄ってきた。
抱える程もある大きな頭で、一生懸命に俺を慰めようと顔を擦り付けてくる。
「次はミスしない。この森は、俺とミリアで管理する」
失った命に告げた俺は、小屋への帰路についた。
道中、安倍くんに乗ってモフモフを堪能していると、唐突に安倍くんが口を開いた。
『エメリア、ちょうせい、へた』
「下手じゃないさ。上手くないだけだ」
『それ、へた、ちがうの?』
「......ストレート過ぎるんだよ、安倍くんは」
今はまだ出来ないだけで、練習すれば出来るだろう。
精霊魔法の仕組みは他の魔法、魔術と違うから、きちんと理解すればエメリアでも使えるはずだ。
イメージを魔力で練り上げ、現実に透過させる。
精霊魔法の習得には、具現化させる一般の魔法の習得に比べて、恐ろしい年月がかかる。だけどエメリアならドラゴンの寿命があるので、その点はクリア出来る。
後はエメリアの向上心次第だな。
「今日は安倍くんと寝る」
『やった〜』
「そういえば安倍くん、女の子だったよな」
喜ぶ安倍くんの背中を撫でていたら、思い出した。
『うん。メス』
「......安倍くんちゃんになるのかな」
『あべくんちゃん?』
「やっぱり何でもない。安倍くんは安倍くんだ」
バカな俺の考えはスルーしてもらい、午前の鍛錬を終えた。
魔力湖の魔力を半分も使ったし、今夜はちゃんと寝よう。ミリアも体の負担が心配だし、寝てもらわないと。
午後は何をして過ごそうか。武器でも作るか?
ワクワクが止まらない森の生活も良いが、そろそろ街にも行きたくなってきた。デートの準備を進めようか。
「学園は......やめておこう。やるなら冒険者だな」
森への愛情も深いですね。
次回! 『狐の剣士』お楽しみに!




