第105話 経過報告と事後報告
毎日更新た〜のし〜!!!!
泉で体を清めた後、二人で適当な森の実りを頂いて小屋に帰ると、安倍くんをモフるゼルキアともう一人、どこか落ち着かない様子の少女が立っていた。
長く、艶のある漆黒の髪を下ろした、ミリアと同じくらいの身長。考えなくても分かる。俺の大切な存在だ。
「よう。いらっしゃい、エミィ」
「......っ! ガイア!」
良かった。俺の知るエメリアだった。
声を掛けた瞬間に飛び込んで来る辺り、相当寂しい思いをさせたに違いない。
「体調は大丈夫か? 病に罹ったりしておらぬな?」
「この肉体で病気になる方が難しいぞ」
「じゃが......まぁよい。無事で何よりじゃ」
まるで自分の匂いを擦り付ける犬のように俺の体に頬を擦り付けたエメリアだが、隣に居る人物の顔を見た瞬間、一気に俺から距離を取った。
予想はしていたが、ミリアさんが激おこだ。
「人の男に勝手に触れるな」
「は、はい......申し訳ないのじゃ......」
「次は無い。せいぜい我慢することね」
こ、怖ぇぇぇぇ!!!
普段からクールな印象が強いミリアだが、怒ると絶対零度のオーラを出すんだな。体が動かなかったぞ!
絶対にミリアは怒らせちゃダメだ。
そう、心に誓おう。来世でも、その次でも。
「で? 二人はどうしてここに来たんだ?」
俺は安倍くんと一体化しつつあるゼルキアに聞くと、すぐに安倍くんから離れて話してくれた。
「経過報告だよ。僕とエメリアが学園......えっと、西にある王国の学園に通ってるのは知ってる?」
「一応知ってる。国の名前も聞いていいか?」
「レガリア王国だよ。ちなみにこの森は王国の領地内にあるけど、外周の木の防衛システムが強すぎて、特定危険区域に指定されてる」
「......やっぱりな」
その辺は夢と変わらなかったか。
他にも聞きたいことは山ほどあるが、まずはゼルキアの話を聞かないとな。
「それで報告だけど、特に無いね。相変わらず僕は学園で人気出し、エメリアは強過ぎて浮いてる。日常って感じ?」
「余、余は浮いているのか!?」
「え? 気付いてないの?」
よく見たらゼルキアは制服のままだな。
エメリアはゴスロリっぽい黒のドレスを着ているが。
それにしても、やっぱりエメリアは浮いてしまうか。
明らかにオーバースペックな肉体だし、なんならドラゴンの力をそのまま纏めたような姿だからな。
国に軍事利用されてないだけマシか?
「でもここなら浮いてないわよ? 精霊女王の娘に元魔王、そして私の夫である最強の人間。良かったわね?」
「うっ......そう、じゃな」
「ミリア、もう少し優しくしてやれないか?」
何だかエメリアが可哀想で仕方がない。
圧倒的な地位から虐げるような真似を、ミリアにはして欲しくない。
「その子は約束を破っているの。『私に無断でガイアに触れない』と言ったのに、さっきの行いは許されないわ」
「それ、俺が決めることなんじゃ......」
「ダ・メ・よ! いい? ガイアは強いの。例え筋肉が落ちていたとしても、貴方の魔力傾向と身体強化の相性は最強なの。強さは人を惹きつける魅力になるわ。そうなると、私からガイアを横取りしようとする不埒な輩が増えるのよ」
「それもそうだな。強い人間ってのは、必然的に目立つからな。でもエメリアにはもう少しだけ手加減出来ないか?」
「出来ないわ。完全に私と夫婦になった以上、まだ第2夫人として正式に決まってないそのドラゴンに手加減する義理は無いもの」
ダメだ。俺のことに関して、ミリア以上に強い奴が居ねぇ! 100年以上も眠ってたんだし、ミリアは俺以上にガイアという人間を知っているはずだ。
何とかエメリアにも優しく接してもらおうと思ったが、ミリアもミリアで俺を愛してる故の行動なんだ。
否定も出来ないし、肯定も出来ない。
無力な自分に腹が立つ。
「お〜お〜、修羅場って怖いね〜」
「全くだ。俺がもう少し弱ければ、こんなことにはならなかったのにな」
「そうかな? 僕は君が強過ぎるとは思わないけどね。君は力に対して心が弱い。ミリアが居なければ、その力すらも未発掘のままだった。だから、本来の君はもっと無力な存在だったと思うよ?」
その通りだ。
今の俺は、ミリアが居なければ何も出来ない。
でもミリアも俺が居なければ、今のような生活も送れていないだろう。
共依存ではなく、共存、共生。
共に支え合って生きていくのに、俺はミリアが必要なんだ。
それに......大切な家族だ。離れたくない。
「そうそう、貴女は経験したこと無いでしょうけど、私は昨夜、ガイアと寝たわ。勿論、性的な意味で」
「なっ! 余は......無いが、共に極西大陸を渡ったぞ!」
「それが私の座を奪う決定打になるとでも? 残念。私は200年もガイアと共に過ごした上に、134年も傍に居続けたわ。それに対し、貴女はどうかしら? ほら、言ってみなさいよ。ガイアを想った日々を」
「......に、2年も無い」
「知ってた? 恋って冷めるのに3年程度らしいの。貴女のガイアを想う気持ちは、確かに愛かもしれない。でもね、愛し続けられるかどうか、貴女には分からないの。私は女神にも言われたけれど、ずっとガイアと居たわよ。何百年も、何千年も。私の彼を想う気持ちは揺るがない。いい? 貴女がガイアと共に生きたいと言うのなら、せめて一生を捧げる覚悟を見せない」
おっとっとっと? ミリアの愛が爆発してるな。
このまま放置していたら、きっと俺の好きな所を言い合うと思うが、エメリアはともかくミリアは絶対に昨日の話を持ち出すので、ここいらで止めておこうか。
......嬉しいんだけどな。
「ミリア。こっちおいで。落ち着くんだ」
「わ、私は別に──」
「傍に居てくれないと落ち着かないんだよ」
エメリアと舌戦を繰り広げるミリアを後ろから抱きしめる 、俺は安倍くんベッドに体重を預けた。
腕の中にいる彼女の胸に手を当てると、明らかに鼓動が早くなっていた。
「はい、深呼吸して。吸って〜、吐いて〜」
「すぅ〜、はぁ〜」
「はい吸って〜、吸って〜、吸って〜、吸って〜?」
「すぅぅぅぅ〜〜〜!!!」
「もう1回吸って〜?」
「死ぬわよ!!!!!!」
可愛く怒るミリアを抱きしめてあげると、今度は緩やかに呼吸をしていた。
先程のような焦りは無く、リラックスしている。
「大丈夫だよ。エメリアが第二夫人になっても、俺はミリアが一番だ。これはエメリアも分かっているはずだ」
「うむ。元よりガイアはミリアを一番と何度も言っておったからの。余が何かをした所で、その座を奪うことなど敵わんのじゃ」
エメリアは言い切った。そして俺も頷いた。
俺の中の優先順位は、何があってもミリアが一番だ。
ハッキリ言って、俺は狂ったようにミリアを愛している。もしも大規模な戦争があっても、世界が滅ぶようなことがあっても、ミリアとの時間を一番大切にする。
だから、焦らなくていいんだ。
「でも......私は、ガイアに私だけを愛して欲しい」
「あぁ。ミリアだけを愛するつもりだが」
「え? でも第二夫人になっても、って──」
「別に、第二夫人になったからって、愛するなんて一言も言ってないぞ? 好きになったりはするかもしれんが、愛を誓うとは言っていない。大切な存在として扱うが、特別な存在とは認めない。二人とも、初めから認識が違うぞ」
不誠実だろう。酷いだろう。醜いだろう。
嫌いになるなら今のうちだ。表面上の愛はくれてやってもいいが、心からの愛はミリアだけのものだ。
もし、それでもとエメリアが言うなら、今言った扱いにはなるが帰るべき場所になってあげたい。
さぁ、どうだ? 俺のことを嫌いになったか?
「余はそれでもガイアと共に居たい。お主と過ごした日々は、余にとっては大切な宝物じゃ。じゃから、頼む......」
土下座された。土の上に正座し、頭を下げられた。
流石の俺もここまでされるとは思っていなくて、少し動揺してしまった。
「うわ〜、悪い絵面。熊の玉座に座った魔王とその妃が、女の子を土下座させてる画だよ、これ」
「元魔王さん? うるさいですよ」
「ごめんごめん。で? 認めるの?」
俺は認めてもいい。だがミリアが認めるかだ。
俺たちは二人でひとつ。例え俺が良くても、ミリアがダメと判断したら俺も飲む。お互いに支え合うとは、そうやって認め合うことだと思っているから。
「はぁ......なら約束して。これは破った場合、首を切って死んでもらうわ」
「勿論じゃ。して、内容は?」
「ガイアだけを愛すること。もし他の男に目移りでもしたら、貴女がガイアに不義を成したとして、この世から去ってもらうわ」
「無論じゃ。では勝手に触れるなという約束は......?」
「終わりでいいわよ。但し、子どもは作っちゃダメよ。まずは私が先だもの」
「勿論。余はお零れだけでも十分じゃからの」
お零れって言うなよ。っていうかエメリアとは作らないぞ? さっきも言ったが、愛の対象はミリアだけなんだ。
例えミリアに頼まれたとしても、俺はエメリアと一線を超えることは無い。
俺の中心に立つ芯に、そう刻まれているからな。
儚く笑うエメリアが、少し不憫に思えるな。
「さて、話し合いもこれで終わりかな?」
「そうね。今日のところは帰るの?」
「どうしよっかな〜。一応実家に帰省という扱いでこの夏休みに学園を出たし、一旦帰ろうかな。ドラ子はどうする?」
「ドラ子と呼ぶな! 余は......ここに居ても良いか?」
ミリアが俺を見るので頷くと、OKサインを出した。
するとパッと花が咲いたように笑顔になるエメリア。
今日は記念日として、パーティにした方がいいのかな。
「晩ご飯、少し豪勢にしましょうか」
「俺も同じ事を考えてた。手伝うよ」
奇遇だなんて言わない。以心伝心と言いたいから。
そうしてエメリアは、ゼルキアを乗せて帰るついでに寮に連絡をするとのことで、夜までミリアと二人っきりの時間になった。
木の実に魚、野菜とお肉。
街でパンも買ってくるとエメリアが言っていたし、本当に今日の夕食は豪勢な食事になる。
「ねぇ、ガイア。私達もいつか、街に出る?」
下ごしらえをしながら、ミリアが聞いてきた。
「そうだなぁ。デートもしたいし、近いうちに行こうか。でも、住みたくない」
「どうして?」
「ミリアと一緒に精霊樹の森で静かに暮らすのが、俺にとって一番の幸せだからだ。だから、その......他の奴に邪魔されたくない」
少し恥ずかしくなりながらも言い切ると、魔法で手を洗ったミリアが後ろから抱きついてきた。
「ふふっ」
「なんだその笑いは」
「愛を感じていただけよ。私も街に住もうとは思えなかったから、嬉しかったの」
「ミリア......」
「ガイア......」
俺の前に立ち、徐々に服を脱がすミリア。
エメリアが帰ってくる前に、一足先に頂こう。
そんな想いが重なり合い、最後の1枚を脱がそうとした瞬間──!
「ただいま帰ったのじ......」
帰ってきてしまった。最悪のタイミングで。
「はぁ......やっぱり第二夫人は要らないんじゃない?」
「ひ、酷いのじゃ! 大体、外でおっぱじめるお主らが......!」
まぁ、仕方ないよね。この森は家みたいなものだし、エメリアとゼルキア以外は基本的に入ることすら出来ない領域だからな。
暗闇でも分かる程に、エメリアの顔が赤い。
何万年と生きたドラゴンだというのに、初心な少女という面は変わらないんだな。
「仕方ないわね。デザートは食事の後ね」
「オードブルにはなれなかったか」
「大丈夫よ。私にとってはメインディッシュだから」
「そしてスペシャリテでもあると」
「勿論。ふふふっ!」
そうして冗談を言いながら、エメリアちゃん第二夫人おめでとうの会が静かに開かれた。
終始顔が真っ赤だった主役は、食事が終わったタイミングで目を回して気を失ってしまった。
「もう、この子は勝手にガイアと出来ると思い込んで、勝手に恥ずかしくなって勝手に気絶しちゃうなんてね」
「可愛いじゃないか。安倍くん、見てあげてくれないか?」
『わか、った』
エメリアをモフっと背中に乗せると、安倍くんは昨夜と同じように、森へと歩いて行った。
「今夜は激しくして?」
「昨日とは真逆だな」
「いいの。焦っていた分、疲れちゃったから。ガイアの愛で塗り替えて欲しいの」
「分かった。体調が悪くなったらすぐ言うんだぞ?」
「うん。だから......来て?」
こうして、精霊樹の森の夜は流れていくのだった。
エッ!
次回! 『決戦! 森のヌシ!』お楽しみに!
そういえば投稿時バレンt(ry




